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澄子と徳密は夕暮れの境内を静かに歩き、時折鳥のさえずりや葉が風に揺れる音が響く中、穏やかなひとときを過ごしていた。


徳密が澄子に向かって礼儀正しく頭を下げると、澄子も穏やかに微笑みながら答えた。


徳密:『澄子さん、今日はありがとうございました。私は住み込みですので、お見送りはここまでにさせていただきます。それでは、また明日』


澄子:『ありがとうございます。また明日』


徳密は境内の小道を歩き始めた。

澄子はその背中が見えなくなるまでじっと見送りながら、夕日の中で輝くスーパースターの銅像に目を向けた。

その銅像が夕日に照らされて、まるで自分に微笑んでいるかのように感じられた。

澄子の胸はほんのり温かさで満たされたが、同時に空腹感が襲ってきた。


お腹の鳴る音に気づかれないようにしながら、澄子は境内を出る道を急いだ。

空腹が限界に達し、体が悲鳴を上げているのを感じながらも、歩みを速めてお寺の門に向かった。

手が震え、心臓が高鳴るのを抑えようと必死に深呼吸しながら歩き続けた。


お寺の門がいつもより遠く感じ、夕日の輝きがいつもより眩しく感じた。

やがて視界がぼやけ、歩くたびにふらつく自分を必死に支えながら、公園へと向かった。

心の中で冷静さを保とうと努めながらも、実際には限界が近いことを自覚していた。


公園に到着し、ほっと一息ついた澄子はベンチに座り、住職の桂之助からもらった和菓子を取り出した。

包みを開けると、美しく彩られた一つの和菓子が現れ、澄子はその芸術的な細工に感心した。

しかし、手が震える中、口に運ぶ前に周囲に気づく。


近くの木陰には、疲れ果てた様子のホームレスの男性が座っており、空腹と疲労の色が浮かんでいた。

澄子の心は揺れたが、すぐに決心を固めた。

和菓子を持って男性に近づくと、彼の目が澄子に向けられ、驚きと感謝の入り混じった表情が浮かんだ。


澄子:『どうぞ、これを召し上がってください』


男性は最初は驚きながらも、澄子の優しい言葉に心を打たれ、感謝の意を込めて受け取った。


男性:『どうもありがとう』


澄子は笑顔を浮かべながら頷き、微笑んだ。


澄子:『どうぞ』


男性が和菓子を受け取る姿を見て、澄子は自分の心が少し軽くなった気がした。

公園のベンチに戻り、空になった手を見つめながら、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

そして、心の中でスーパースター大饅頭を頬張る自分を思い描きながら、満たされる感覚を感じ取っていた。


しかし、水筒に水を入れに行こうと立ち上がろうとした瞬間、身体に異変が起きた。

公園の景色がぼやけて見え、次第に視界が真っ暗になった。


澄子:『…………………………』


澄子が公園のベンチで意識を失った瞬間、周囲は静寂に包まれていた。

夕暮れの柔らかな光が、徐々に闇に変わっていく中、澄子の身体は冷たくなり、地面に横たわっていた。

辛い空腹地獄から抜け出したかのように澄子の表情が柔らかくなっていったのであった。

申し訳ございませんが、しばらくの間、絵を描くことができませんでした。

想像だけでは澄子さんのお気持ちに寄り添うことが難しく、俺のように日々安定した二食をいただく贅沢な生活を送る者には、理解できない部分が多々ございました。

そのため、一度、人生の安定を全て捨て去り、どん底に落ちることで澄子さんに近づこうと考えました。


まず、持っていたすべてのお金を大日如来像の修復や近隣の神社・お寺に全額寄付し、貯金をゼロにいたしました。

その後、澄子さんと同じ期間、絶食しながら重労働の仕事に従事しました。

しかし、その結果、空腹の極限に達し、絵を描く力が失われてしまいました。


なお、この行為を行うにあたっては、看護師の方から絶食に入る前の食事管理から絶食期間中の体調管理、絶食を終えて食事を再開する時のアドバイスを受けながら慎重に実践いたしましたが、それでも非常に厳しいものでした。

周囲の方々に迷惑をかける可能性がある上、非常に危険な行為であったことを痛感しております。


このような行動に影響を受ける場合には、必ずご先祖様や守護神に相談し、自己責任のもとで行っていただくようお願い申し上げます。


【小説の裏話】

澄子さんが『笑うのをやめなさい』と感情的に怒ったシーンは空腹でピキピキイライラを止めるのが、あのシーンがやっとの思いだったのです。

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