オータイムの愛のある生活
オータイムの一生です。
10/31に修正しました。
ちょっと、私が考えたよりオーイタムの批判が大きいので、文章をたさせていただきました。
3408文字から5126文字にまで増えてしまいました。
これで受ける印象が変わればいいなと思います。
オータイムが結婚したのは十八歳になって直ぐのことだった。
一つ年下の、勝ち気な顔をしているのに、性格はとても気弱で、自己主張を何もしない女だった。
結婚翌月には月のものが来ず、妊娠していた。
オータイムはそれはそれは喜んだ。
一人目は女の子、二人目は男の子、三人目も男の子、四人目は女の子が生まれた。
一人目の女の子が結婚して直ぐのころ、何も自己主張しなかった妻は、突然倒れてそのまま帰らぬ人となった。
最後まで心の交流は持てなかったなと、オータイムは思った。
妻は子供達には惜しみない愛情を与えていたと思っていたが、実情は違ったようで、葬式で子供達は涙もなく淡々と時が流れていくだけのものだった。
オータイムも妻に愛されていたという実感はなかった。
子供達も同様に感じていたのかもしれない。
長男のシューティンが結婚したいと言って連れてきた女の子との結婚式で、その友人だという女の子にオータイムは一目見るなり、恋に落ちた。
その女の子はマーベラスと言う名で、マーベラスが笑うと、オータイムはドキドキと胸が高鳴った。
子供達には、恥ずかしいから止めてくれと言われたが、ときめいてしまった心を押さえることはオータイムにはできなかった。
恥ずかしながらと口説きに口説いて、オータイムは結婚の了承を得ることに成功した。
マーベラスの父親よりもオータイムのほうが一つ年上だった。
オータイムは、子供達に初恋なんだと説得して、渋々ながらも受け入れてもらえた。
全員の結婚の了承を得たオータイムは、一日も待てず、入籍だけ済ませて、マーベラスを自分のものにした。
ウエディングドレスを仕立てていたが、マーベラスが妊娠するほうが早く、オータイムは孫より年下の息子を腕に抱くことになった。
孫を右手に、息子を左手に抱いてオータイムは幸せの絶頂にいた。
オータイムは子煩悩で、執務室に子供を寝かせて世話をしていた。
長男のシューティンに家督を譲って、自分は子供達と一緒に居ることを望むようになった。
前妻との子供達とは仕事が忙しく、あまり持てなかった交流を持てなくて、子供の頃のことをあまりしならないことが心残りだったからだった。
今度こそは子供と深く関わって、育てたいと思った。
その反面、まだ年若いマーベラスは、屋敷でじっとしているよりか、お茶会やガーデーンパーティに忙しく、子供を顧みない母親だった。
オータイムはマーベラスに子供の世話をメイド任せにせず育てて欲しいと思っていたが、まだ若く、遊びたい盛りなのだからと許容していた。
子供が可愛くて仕方なかったオータイムは、既に成人している前妻の子供達とも深く関わるようにしていた。
成人した子供達を抱きしめ、導き、意見を聞いた。
それはオータイムにとって、とても有意義な時間だった。
前妻の子供達全員が結婚してしまうと、オータイムは寂しくなり、マーベラスへ救いを求めた。
長男のシューティン夫妻だけが同居で、オータイムはシューティンに家督を譲りたいと伝えた。
シューティンはまだ自信がないし、早いと言って、断ったが、オータイムが亡くなってから跡を継いだのでは、困ることも多いよ。と説得されて、手助けすることを約束して、オータイムは身を引いた。
孫と我が子が兄弟のように仲良くしているのを見るのがオータイムの楽しみだった。
庭で駆け回る子供達を見て、それはとても幸福な光景だと思った。
時折里帰りしてくる亡き妻との子供達も、孫を連れてよく遊びに来てくれるようになった。
その日はクタクタになるまで子供達と駆け回って遊んだ。
子供達と遊びすぎて、子供達と一緒に床に転がってお昼寝することも多々あった。
そんな頃、マーベラスは社交に気を取られていて、自分の夫が歳上だということに改めて気が付き、オータイムに興味を持てなくなっていた。
マーベラスに相談もなく引退してしまったことにも腹を立てていた。
けれど、体を求められると拒否することもできず、諾々とオータイムを受け入れていた。
そんな時、マーベラスは四度目の妊娠をしてしまう。
オータイムに、今回が最後の妊娠にしたいと伝えると、オータイムは悲しくて仕方なかった。
理由を聞くと、妊娠中は社交ができなくなるからだとマーベラスは答えた。
生活に困るわけではないのだから、今回が最後と言わず、子供を生んで欲しいと頼んだが、マーベラスはオータイムが子供の成人を見られるかどうか解らないではないかと、拒否した。
マーベラスのその言葉はオータイムを酷く傷つけた。
その日から夫婦の寝室が使われることはなくなった。
すっかりしぼんでしまったオータイムに、マーベラスより若い女の子とふとしたことで知り合い、オータイムは傷ついた心の内をその女の子、リリアンに聞いてもらっていた。
リリアンの気持ちは判らなかったけれど、オータイムはリリアンに慰めてもらって、少し立ち直った。
そのリリアンもまた、妊娠してしまい、オータイムは愛妾として本邸へと迎え入れた。
マーベラスは激怒したけれど、オータイムを酷く傷つけた自覚はあったし、離婚を口にされ実家に帰ることになると今のように、自由に社交ができなくなるので、オータイムに直接文句は言えなかった。
リリアンが来た当初、マーベラスは小さな嫌がらせをリリアンにして憂さを晴らしていた。
それは小さな嫌がらせだったけれど、妊娠中のリリアンには酷い嫌がらせだった。
足を引っ掛けたり、押しやったりした。口だけの謝罪はするので、リリアンも許すしかなかった。
オータイムはそれに気づいて、リリアンから目を離さないように気をつけた。
オータイムがいつもリリアンの側に居ることで、マーベラスは尚一層、腹を立てていた。
リリアンはオータイムに守られていることにとても感謝した。
リリアンはオータイムの側で見守られて、一人目の子供を生んだ。
この時代、出産に男は立ち入らせないものだったが、オータイムはリリアンの出産に立ち会った。
こんなに苦しむのかと妻達に感謝しなければならないと気がついた。
オータイムはマーベラスにも子供を生んでくれて感謝していると伝えたが、ただそれだけで、歩み寄りはしなかった。
マーベラスはマーベラスの望み通り、四人目以降妊娠することはなかった。
リリアンは二人目を生んだ。
マーベラスは愕然とした。
オータイムの愛が自分にないことに気がついたから。
あれだけ愛されていたはずなのに、子どもを作りたくないと言っただけで、全ての愛情を失うとは思わなかったのだ。
マーベラスは夫婦の寝室へとオータイムを誘ったが、オータイムは間違って子供が出来たら申し訳ないからと言って断った。
そんな時、リリアンは三人目の子供を生んだ。
どの子もオータイムは可愛がった。
リリアンに感謝していたオータイムはリリアンが生んだ子にオータイムが与えられる愛情を全て注ぎ込んだ。
年が行ってから出来る子供は本当に目に入れても痛くないほどに可愛かった。
シューティン達の子供と孫はやはり違った。
孫はただ可愛がるだけでいいが、我が子にはしつけをしなければならない。
外に出たときに恥をかかないよう育てるのは親の役目だとオータイムは考えていた。
孫も我が子も横並びになって家庭教師の授業を受けている姿を見るのもオータイムは楽しかった。
家庭教師にとってはやりにくくて仕方なかっただろう。
マーベラスは相手にされていないこともあって、簡単に気分を害するようになっていた。
私が生んだ子供にも同じように持てるものを与えてくれと迫ったが、オータイムは子供を差別したことはなかった。
ただ、リリアンとリリアンの子供達に感謝しているだけだった。
勿論、マーベラスが生んだ子供達も勿論可愛かった。
しかし、あれ程可愛がっていたのに、マーベラスの子供達はリリアンの子供達に近づいてはいけないと言われたのか、こちらを遠巻きにするばかりで、寄ってこなくなってしまった。
寂しそうにしている子供達を見てオータイムは胸が痛かった。
家庭教師もマーベラスが選んだ者が呼ばれて、教育が与えられているようだった。
マーベラスはリリアンを追い出そうと画策するが、オータイムが側から離れなかったため、どれも成功しなかった。
ある日、リリアンの二番目の子供が階段の上で一人で遊んでいたのをマーベラスは見て、思わず心に悪魔が囁いてしまったのかもしれない。
マーベラスはリリアンの子供を階上から突き落としてしまった。
運良く、コロコロと転がり落ちた子供は大した怪我もしなかったが、運悪く、マーベラスが子供を突き落とすところを、シューティンの妻が見ていて、オータイムに伝えた。
マーベラスはその日の内に追い出されてしまった。
そして、マーベラスは子供とも引き離された。
マーベラスの実家はあまり裕福ではなく、子供の養育費が欲しかったマーベラスは、子供を返してと裁判を起こしたが、子供を階上から突き落としたことが問題になり、子供との接触禁止が下された。
そして離婚もマーベラスに非があると受理された。
オータイムはマーベラスが居なくなると、マーベラスの子供達もリリアンが生んだ子供と同じように愛した。
リリアンはオータイムの思考が手に取るように解っていたのか、うまく立ち回っていた。
けれど、オータイムはリリアンのことは妻の地位には置かなかった。
後に、リリアンが望まなかったのだと、シューティンがリリアンから聞いた。
リリアンは、オータイムの愛を疑ったことは一度もなかったと言った。
マーベラスのときのような燃えるような愛ではなかったけれど、二人には確かに愛があるのだと思った。
オータイムが床につく日が多くなり、リリアンは甲斐甲斐しくオータイムの世話をした。
リリアンは五人の子供を生んで、一番下の子が成人すると、オータイムは永遠の眠りについた。
オータイムの最後の言葉は、子供達全員が成人になるまで、逝ったりしない。だった。
オータイムはマーベラスに言われた言葉をずっと引きずっていたのだとシューティンは思った。
オータイムは有言実行した。
愛されて育った子供達はオータイムの死を悲しみ、成人した姿を見てもらえて誇らしい気持ちでいっぱいだった。
リリアンはオータイムが亡くなって一ヶ月で子供達を残して家を出ていった。
その潔さにシューティン夫妻は感嘆の声を上げ、贅沢さえしなければ暮らしていけるだけのお金を持たせた。
マーベラスはオータイムが亡くなったのだからと言って我が子達に庇護を求めたが、子供達は母親であるマーベラスを相手にしなかった。
マーベラスが生んだ一番下の子に、あなたは私の兄弟に殺人未遂を行った自覚が足りない。と言われ、マーベラスはちょっとした、過ちを起こしてしまっただけだと子供達に縋りついた。
子供達は冷めた目で、マーベラスを見下ろし、私達の前に顔を見せないでくれと言って、追い払った。
子供達にはオータイムが伝を使って結婚相手を決めていた。
オータイムの喪が明けてから子供達は次々と結婚していった。
どの子も幸せな顔をして、自分の妻、夫を大切にした。
オータイムは自分が望むままに生きて幸せだったろう。
オータイムの周りで、幸せになれなかったのはマーベラスだけだったのではないだろうか?
一番目の妻は、何も言わず亡くなってしまったので幸せだったのか、不幸だったのかは解らない。
けれどシューティンは思う。
何の感情も見せていなかった母はオータイムを見つめるときだけは、口元がわずかに上がっていたと。
母は子供の私達に愛を与えない人だったけれど、夫のことだけは愛していたのだろうと。
シューティンは考える。
ハンサムではなかった父が、何故三人もの女性を夢中にさせたのか。
子供を愛していた。
マーベラスはカネに目がくらんだのかもしれないが、それでも始めは愛されていた。
マーベラスが子供を味方にしようと、引き離したりしなければ、マーベラスの子供達もずっと愛を与えられていたはずだったのだ。
マーベラスの子供達はそれを知ったから、父が死んだ後も浅ましい母を受け入れられないのだろう。
シューティンは考える。
私にとって父は・・・。
良い父親だったと。
子供の頃は背中しか見ていなかったけれど、自分が父の立場になった時、シューティンの子供は私の背中しか見ていないのかもしれない。
父はもしかしたら妻達の誰よりも子供達のことの方を愛していたと思う。
だから子どもを生まないと言った、マーベラスに無関心になってしまったのではないかと。
しつけに関しては厳しい人だった。
だが、仕事以外の時は一緒に遊んでくれて、私達を見ていつもニコニコしていた。
兄弟は皆、父に愛されていたと言う。
父にはもっと長く生きていて次々と生まれてくる孫達を可愛がって欲しかったと。
日が暮れるのが早くなってきましたね。