かわいらしい人形劇の舞台裏で勃発するヤンキー闘争~オレのウサギちゃん舐めてんじゃねえぞ、コラッ~
メインは後半になります。
前半のちょっと違和感を感じる部分は生温かい目でスルーしてくださると幸いですm(__)m
ある日のことでした。
クマさんが森の中を歩いていると、地面にぽっかりと大きな穴が開いていました。
「おや? これはなんの穴だクマ?」
クマさんは興味津々で穴を覗き込みました。
けれども穴の中は真っ暗で何も見えません。
「おーい、誰かいるクマー?」
声をかけても返事はありません。
クマさんはさらに身を乗り出して穴を覗き込みました。
すると。
「あっ! クマ!」
ずるっと滑って穴の中に落ちてしまいました。
「あーれークマー!」
コロコロと転がりながら穴の中に落ちていくクマさん。
やがてドシーンと尻もちをつきました。
「あいたたクマー。痛いクマー」
辺りを見渡すと、どうやらこの穴はモグラくんが掘った穴のようでした。
けれどもモグラくんはどこにもいません。
どこか遠くへ行ってしまってるみたいです。
仕方なくクマさんは穴から這い出ようと上を見上げました。
「わわわわー! クマ!」
クマさんは驚きました。
なんと穴の入り口ははるか頭上にあるではありませんか。
どう考えても自力では上がれそうにありません。
「どどど、どうしようクマー」
クマさんはなんとか登ってみようと試みましたが、ズルズルと滑ってしまい、まったく這い上がることができませんでした。
「おーい、誰か助けてクマー」
仕方なく穴の中から大きな声で助けを呼ぶクマさん。
けれども穴の中から叫ぶクマさんの声は誰にも届いていないようでした。
「これはクマったクマった」
ちょうどそこへ、ピョンピョコ遊びをしているウサギちゃんが通りかかりました。
「ピョンピョコ、ピョンピョコ楽しいニャン♪ 今日は絶好のピョンピョコ日和だニャン♪」
ひとりでピョンピョン飛び跳ねて遊んでいるウサギちゃんの長い耳に、クマさんの助けを呼ぶ声が聞こえてきました。
「おーい、誰かいないクマー。助けてくれクマー」
「ん? 誰かの声がするニャン?」
ウサギちゃんは辺りを見渡すと、地面にぽっかりと開いた穴を見つけてピョンピョン近づきました。
「どうかしたのかニャン? 誰かいるのかニャン?」
「あ、その声はウサギちゃんクマ? 助けて欲しいクマ!」
「その声はクマさんニャン? どうしたんだニャン?」
「実はモグラくんの作った穴に落ちてしまったんだクマー」
「ええ!? それは大変だニャン!」
まさに一大事です。
「すぐに助けるニャン!」
ウサギちゃんはクマさんを引っ張り上げようと、ロープのようなものを探しました。
けれども、そんなものは見当たりません。
「どうしよう、ロープがないニャン」
「木の棒でもいいクマー。頑張って這い上がるクマー」
クマさんの言葉に、ウサギちゃんは「そうだニャン!」といいことを思い付きました。
「クマさん! 僕の耳をつかんで這い上がってくるニャン!」
そう言って穴の中に耳を垂らすウサギちゃん。
そうです、自分の長い耳をロープ代わりにしようと思ったのです。
けれどもモグラくんの作った穴はウサギちゃんの耳よりも深いものでした。
「全然届かないクマー」
「うーん、これは困ったニャン」
ちょうどそこへ今度は子豚ちゃんがやってきました。
「ホップ・ステップ・子豚ップ。尻尾ふりふりダンスは楽しいメェー」
ダンスが大好きな子豚ちゃんはいつも尻尾をフリフリしながらダンスを踊っています。
今日も楽しそうに森の中でステップを踏んでました。
「あ、子豚ちゃん!」
ウサギちゃんが声をかけると、子豚ちゃんは尻尾ふりふりダンスをやめてウサギちゃんを見ました。
「あらあら、ウサギちゃん。こんにちは。こんなところでどうしたメェー?」
そんな子豚ちゃんにウサギちゃんが言います。
「実はこの穴にクマさんが落っこちちゃったんだニャン!」
子豚ちゃんはステップを踏みながら「ええ!? それは大変だメェー!」と叫びました。
「僕の耳を穴の中に垂らしたんだけど、全然届かニャくて……」
「それじゃあ私の尻尾を垂らしてみるメェー」
そう言って今度は子豚ちゃんが尻尾を垂らします。
けれども子豚ちゃんの尻尾でもクマさんのところまでは届きませんでした。
「全然届かないクマー」
「どうしましょう。私の尻尾でも届かないメェー」
ウサギちゃんの耳でも届かない。
子豚ちゃんの尻尾でも届かない。
そこでウサギちゃんは思いつきました。
「そうだ! 僕が子豚ちゃんの尻尾をつかんで穴の中に入って耳を垂らしてみるのはどうかニャン?」
「それはいい考えだメェー!」
さっそくウサギちゃんは子豚ちゃんの尻尾をつかんでスルスルと穴の中に入っていきました。
「それクマさん。僕の耳をつかむニャン!」
子豚ちゃんの尻尾にウサギちゃんの耳が加わると、穴の中のクマさんにようやく届きました。
「届いたクマ! ウサギちゃんの耳、つかんだクマ!」
「よーし、一気に持ち上げるニャン!」
「よいしょ! よいしょ!」
軽快な掛け声とともに、ウサギちゃんと子豚ちゃんがクマさんを引っ張り上げます。
クマさんはウサギちゃんの耳をつかみながらスルスルと穴の中から出てきました。
「やったニャン! 救出成功だニャン!」
「よかったメェー!」
「ううう、二人ともありがとうクマ。本当に助かったクマ」
「困った時はお互い様だニャン!」
その後、クマさんはモグラくんにむやみに穴を掘らないで欲しいとお願いし、モグラくんも「うん、わかった。ごめんね」と謝りました。
クマさんにとっては大変な思いをした出来事でしたが、これ以降ウサギちゃんと子豚ちゃんとはより一層仲良くなったということです。
めでたしめでたし
────────────────────
それは、学園祭の出し物である人形劇『ウサギちゃんと子豚ちゃんのクマさん救出大作戦』が終わった直後に起きた。
「おい青井。てめえ、ウサギちゃん役のくせになんで語尾にニャンなんてつけてんだ、コラ。ウサギちゃんはピョンだろうが、コラ」
そう言ってキレているのは、クマさん役の赤井くん。
リーゼント頭のヤンキーで、地元では有名なワルである。
「赤井。てめえこそ、クマさん役だからってなんでもかんでもクマに変換してんじゃねえぞ、コラ。『これはクマったクマった』なんて、いまどき小学生のガキすら使わねえぞ、コラ」
そう言って逆ギレしてるのはウサギちゃん役の青井くん。
金髪ピアスのヤンキーで、関東を束ねる暴走族・鷲尾連合の2代目ヘッドと言われている。
そんな最恐最悪ヤンキーコンビと恐れられている二人が、人形劇の演技をめぐってガチバトルに突入しようとしていた。
「んだと、青井! てめえ、オレの渾身のクマさん語にケチ付ける気か、コラッ!」
「赤井! てめえこそオレのウサギちゃん舐めてんじゃねえぞ、コラッ!」
「第一、耳で引っ張り上げるってなんだコラッ! オレのクマさんがそんなもんで出て来られるわけねえだろうがコラッ!」
「オレのウサギちゃんは耳を鍛えてるから鉄よりもかてえんだよッ! それよりもモグラくんの作った穴に落っこちるって、どんだけ間抜けなんだ、てめぇッ!」
「モグラくんの穴が思った以上にでかかったんだからしょうがねえだろうがコラッ! 文句があんなら台本に言えやコラッ! それともオレのクマさんにケンカ売ってんのか、ああッ!?」
「先にケンカ売ってきたのはてめぇのほうだろうがコラッ!」
「やるか!?」
「上等だ!」
その時、二人の頭をメガホンでパッコーンと叩いたのは赤井くんと青井くんのボスでもあり、このクラスの学級委員長兼番長の桃井さん(赤髪のスケバン)だった。
「あんたら、ケンカならよそでやりな! 今日は午後からもう一公演あるんだよ! 舞台を壊す気かい!」
「け、けど姐さん……」
「こいつがいきなり絡んで来るから……」
こいつと指を指された赤井くんは「はあ!?」と声をあげた。
「何言ってんだコラッ! てめえのウサギちゃんがツッコみたくなるような演技をしてるからだろうがコラッ!」
「んだとコラッ! オレのウサギちゃんを馬鹿にすんじゃねえぞコラッ! てめえのクマさんのほうが棒読みすぎて笑えんだよッ!」
「はあああぁッ!? オレのクマさんが棒読みだって!? てめえの耳は飾りかコラッ! オレのクマさんは可愛さ100点満点だったろうがコラッ!」
「う っ さ い ん だ よ !!」
桃井さんの強烈アッパーが二人に炸裂した。
「「ぺぶしっ!」」
「どっちもどっちだよ! あんたらの演技なんか、あたいの子豚ちゃんに比べたら下の下の下だよ!」
床に突っ伏しながら赤井くんと青井くんは「へ?」と顔を見合わせた。
そしてお互いにヒソヒソとささやき合う。
「……な、なあ。姐さんの子豚ちゃんって」
「……ホップ・ステップ・子豚ップって、いきなりだせえフレーズ使ってたやつだよな?」
「……めちゃめちゃビビったぜ。台本にねえセリフをいきなり言ってきたからよぉ」
「……ダサすぎて笑いをこらえるのに必死だったよな」
「……オレぁ、心ん中で大爆笑よ。それによ、姐さんの子豚ちゃん、語尾に『メェメェ』つけてなかったか?」
「……つけてたつけてた。あれって本番中にはツッコめなかったけどよぉ、完全にヒツジだよな?」
「……だよな? お前、教えてやれよ。子豚ちゃんは『ブゥブゥ』だろってよ」
「……やだよ、殺されたくねえもん。お前、教えてやれよ」
「……オレだって嫌だよ。死にたくねえし」
「なにごちゃごちゃ言ってんだい!」
「「ひいい! なんにも言ってませーん!」」
ちなみに彼らは子どもたちの前ではデレデレに甘くなるため、「人形劇ヤンキー」と密かに大人気らしい。
おしまい
お読みいただきありがとうございました。