6:料理無双
初投稿です
人間って、怒ると思考が変になるんだね。
僕は人生で初めてブチ切れながら、召喚した屋台の前に立った。
「なんだ!? 屋台が出てきたぞ!?」
「あのガキのギフトか!?」
「構うことはねえッ、やっちまえ!」
――ギフト『異世界料理人』の強化能力は、“調理場”にいないと発揮されない。
つまりその場から動けない上、敵の攻撃で吹き飛ばされたら終わりというわけだ。
「「「死ねやクソガキィィィ!」」」
襲いかかってくる黒服集団。
一斉に敵が迫る中、僕は弱点を無視できる戦い方を思い付いた――!
移動式の屋台には引き手がある。そこを力強く掴みッ、
「お前たちがッ、くたばれぇえええええッ!」
僕は屋台を振り上げると、黒服たちを薙ぎ払った――!
「見たかッ、これが僕の見つけた料理スタイルだッ!」
調理場そのものを武器にすることで、その場から離れてしまう事態を無くしたわけだ。
それに拳で戦うよりも、デカい屋台を振り回したほうがずっと強い!
「喰らえオラァァァァァァ!!!」
「「「ぎゃあああああ!? 調理場に殺されるぅぅぅぅッ!?!?」」」
屋台をガンガン叩き付けるたびに数多の敵が宙を舞う。
そして反撃も通さない。大盾よりもずっと大きな屋台をかざせば、複数人による攻撃も簡単にガードできた。
「料理してやるッ! 料理してやるッ!」
「ひぃッ、化け物だァ!?」
敵はみるみる倒れていった。
僕の強化能力には発動条件があるものの、そこらの『身体強化』ギフト持ちより強化度合いはずっと高い。
そうして発揮された筋力に、大剣よりも重くてリーチのある屋台の力を組み合わせればこの通りだ。
「……どうだ父上。アンタは僕に“調理場でしか使えない強化能力などゴミだ”と言ったが、工夫すればちゃんと戦うことが出来るんだよ。料理は工夫なんだよォ……!」
「ォッ、お前たち何をしてるんですッ! もうそいつには近づかず、遠距離攻撃で嬲り殺しなさい!」
女王のマオが指示を飛ばす。
接近戦を挑んでいた者は即座に退き、弓を手にした者や魔術の光を手に宿した者らが周囲を取り囲んだ。
「ギフト発動『命中率強化』ッ! オレの弓は必中だあ!」
「ギフト発動『属性魔術』ッ! 炎弾よ、我らが敵を討て!」
一斉に放たれる遠距離攻撃。
黒服たちや女王の顔に笑みが浮かんだ。“これなら防げまい。防いでも死ぬまで攻撃してやる”とでも考えてるのだろう。だが甘いぜ。
「魔術発動、『コントロール・サンダーボール』!」
攻撃に飲み込まれる直前、僕も魔術を発動させる。
レベルアップしたことで調理場にいる限り使えるようになったものだ。
複数の電気の玉を生み出し、その軌道“など”を自由に操れるらしい。
――だけど、電気の玉をぶつけるだけじゃちょっと威力に欠けるよね? だから。
「サンダーボール、電磁力上昇ッ!」
軌道よりも先に性質自体を操作する。
その瞬間、手にしていた屋台の棚からナイフやフォークが飛び出した――!
食器などと一緒に屋台に備え付けられていたものだ。それらは電気玉に引き寄せられて一体化することで、空飛ぶ食器の群れとなった。
そして、
「切り裂け」
鎧袖一触。
飛来してきた数多の攻撃は、食器の群れに食い尽くされて無力化された……!
「見たか、これが僕の料理テクだ……!」
「なっ、な……!?」
もはや絶句するだけとなった敵たち。もう完全に勝負はついていた。
多くの黒服たちがへたれ込む中、僕は食器の群れを浮遊させながら、屋台を片手に女王に近づく。
「おい、女王様」
「っ!?」
彼女の肩がビクッと震える。
僕も男だ、女性を怖がらせるのは忍びない。だけど料理人として、ちゃんと言っておかなきゃね。
「僕はヤクご飯なんて作らない。料理人はヒトを幸せにする職業なんだ。誰かを傷つけてなるものか」
「さ、さっきまで思いっきり傷つけてたような……」
「ア゛ァ゛ッ!?」
「ひぃ!?」
思わず恫喝するような声が出てしまった。ビックリした女王様が腰を抜かして尻餅をつく。
これは失敬、こほんこほん。チンピラさんたちと過ごしてたせいでちょっと口が悪くなってたかもだ。
僕は大きく咳払いすると、マオ・シンランへと問いかける。
「とにかくここは僕の勝利だ。それは認めてくれるよね?」
「っ……はい……!」
苦々しく頷くマオ。よかったよ、これ以上抵抗されると流石に死人を出しちゃうからね。
「じゃあ質問するよ。――もしも『黒龍殿』がたった一人の相手に負けたって噂が広まったら、お前たちはどうなると思う?」
「そ、それはッ!?」
マオや黒服たちの顔色が青ざめた。
そう。そんなことになったら彼らの面目は丸潰れだ。街の悪党たちに舐められ、“落ち目のところを攻めてみるか”と集団で襲われて全てを奪い尽くされるだろう。この街の連中はそういう奴らだからね。
――だから。
「提案があるんだ、女王様。今日あったことを広めない代わりに、一つだけ言うことを聞いてほしい」
「なんですって……?」
訝しむ彼女に僕は続ける。
「別に変なことは言わないよ。たださ、今回みたいに別の組織が僕を狙おうとしてきた時、助けてほしいんだ」
それだけが僕の願いだった。
今回の一件でそれなりに戦えるようにはなったけど、別に無敵になったわけじゃないからね。
毒を盛られたり寝込みを襲われたりしたらひとたまりもないだろう。
そういうわけで、いざという時に助けてくれる存在が欲しいんだよ。
「僕の願いはそれだけだ。受け入れてくれるかな?」
「えっ……それだけって、えぇ……?」
へたれ込んだままのマオ様が首を捻る。
願いの内容が理解できないというより、“そんな願いだけでいいの?”って感じだ。
「あの……ルシア、様。本当にそれだけでいいのですか? てっきり、お金を要求してくるものかと……」
「いやいや、それは駄目でしょマオ様。……だってお金を奪っちゃったら、帝国に復讐する夢が遠退いちゃうでしょ?」
「えっ!?」
マオ様を含めたみんなが一斉に驚いた。
そんなにビックリすることだったかな……?
「そそっ、それはたしかにお金は大事ですよ!? ヤクを流行らせただけでは国は潰せません。そこから兵士を掻き集めて、武器を与えて攻め込ませることでようやく勝利できるんです。それゆえ、大金を奪われたらすごく困ることになってましたよっ! ぶっちゃけ!」
「でしょ? だからお金には手を付けないよ」
「っていやいやいや!? ルシア様って帝国民ですよね!? 復讐するのを、止めるべきでは……」
「止めないよ」
言葉と共に、僕はマオ様に手を差し伸べた。
いつまでも女性に無様な格好をさせておけないからね。
「ねぇマオ様。僕が料理に生き甲斐を見出したように、マオ様たちは復讐のためにずっと頑張って来たんだよね?」
「それは……だけど……」
「すごく、大変だったんじゃないかな? こんな暗黒街で身を立てるまで、きっとたくさんの苦労があったはずだ」
いきなり襲われたからよくわかるよ。この街は弱者を許さない。
戦争に負けてボロボロの状態で流れ着いた一団なんて格好の獲物だ。色んな魔の手が彼らを襲ったことだろう。
だけどマオ様たちは頑張った。多くの悪意を命懸けで跳ね除け、ここまでやってきたんだ。
「だから僕は否定しないよ。亡くした故郷や家族のために、全力で復讐すればいいさ」
「っ、ルシア様……!」
差し伸べた手をようやく彼女は握ってくれた。
一族の復讐を担うにはあまりにも細い女性の手だ。それを引っ張り、彼女を起こす。
「よっと。……たしか帝国とシンランの戦争って、帝国が一方的に攻めてきたんだよね? なら正当性はそっちにあるよ。帝国が潰されても自業自得だ」
「あはは……言いますねぇ、ルシアさん。帝国を守る武家の子としてどうなんです?」
「別に。だって僕は捨てられた身だしね。それに……マオ様もさっきこう言ってたよね?
――もしも国が潰れたら、クソ親父や兄貴たちの面子も丸潰れになるんだろう……?」
悪意を込めて、クスッと笑う。
その瞬間、なぜかマオ様や部下の人たちが妙な吐息を漏らした。
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