3:悪の都にソース臭
初めて料理するので初投稿です!!!
「――でヘヘへへへへッ! ルシアさんってば人が悪いっすよぉ! お強いんなら最初に言ってくださいよォ~!」
キンピラを料理……する前にチンピラどもを料理してから小一時間後。
目を覚ました彼らは逆襲してくるわけでもなく、僕に媚びへつらってきた。
入れ墨や傷跡まみれな連中が肩や足をモミモミしてくる。気持ちいいけどこわいよぉ……!
「でひひひひ。ココじゃぁ強いヤツが正義っすからねぇ。少なくともあっしらは、もうアンタにゃ手を出す真似はしませんわ」
「そうなの……? てっきり『よくもメンツを潰してくれたなぁ!』とか言って、また集団で襲ってくるかと」
「アァ~。そりゃまぁ、仲間を殺されたとかだったら、そのまま抗争に突入っすねぇ」
ただ、と。チンピラの一人は僕を見ながら言った。
「……ルシアさん。アンタは俺らに情けをかけて、ボコすだけで済ませてくれたでしょう? そんなお人に復讐するほうが無粋ってもんだ。それこそメンツがなくなっちまう」
頭を下げてくるチンピラさんたち。「今回は自分らが悪かった、すんません」と改めて謝罪してくれた。
「おぉ……『悪徳都市ベリアル』の人たちって、意外といい人たちなんだね……!」
自分の非を認めて謝る。これが出来る人は、僕のいた貴族社会にはほとんどいなかった。
そのてん彼らはカラっとしてるなぁ。男らしいというか、通すべき流儀を持ってるっていうか。
なんだか僕、この街で暮らせそうな気がしてきたよ。
「ちなみにチンピラさんたち。もしも僕があのまま拉致られてたら、実はなんやかんやで情けを掛けてくれた予定だったり? 『子供に手を出すなんてメンツに悪いッ、裏口から逃がしてやる!』みたいな!」
「はぇ? いやそん時は普通にヤク漬けにして身体売らせまくって、最後は内臓バラ売りしてましたけど?」
って前言撤回!!!
こいつらやっぱり全然いい人じゃないよッ! この街やっぱり嫌いだぁ!
「はぁぁ……こんな人たちだけど、今日からご近所さんだもんねぇ。どうにかやっていかないと……」
ほかに道がないんだから仕方ない。
僕は気を取り直すと、今度こそ料理人として生きていくことを決めた。
「さぁみんな、並んで並んで! ルシアの『異世界メシ屋』、今日から開店だよっ!」
◆ ◇ ◆
流し台で手を洗い、早速調理に取り掛かる。
「――調味料、召喚っと!」
詠唱すると、台所の上にいくつもの異世界調味料が現れた。
うーん。塩や砂糖は知ってるけど、『醤油』や『マヨネーズ』や『ソース』っていうのは初めて見るなぁ。
あ、油もあるね。これって調味料に入るんだ。
「ルシアさん、なに出してるんだ……?」
「どういうギフトなんだ、アレ?」
「料理関係のギフトって言ってたが……」
遠巻きにこちらを見ているチンピラさんたち。
彼らのためにも、今日は手早く出来る料理を作ろう。
「ギフトのレベルが1の時は、調味料しか出せなかった。だけどあの人たちをぶっ飛ばしたおかげで、実はレベルが上がったんだよねぇ~」
そう。実は彼らを撃退したあと、目の前に、
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・強盗を撃退!(経験値大アップ行動!)
・ギフトのレベルが上がりました!
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という表示が現れた。
レベルアップの恩恵はギフトによってまちまちだ。
たとえば『身体強化』のギフトなら単純に強化倍率が上がったり、『属性魔術』のギフトなら使える魔術の種類が増えたりとか。
――それらの例に比べて、僕のギフトのレベルアップ恩恵はかなり自由だ。
「使える能力の一つを強化できるというもの。つまり、呼び出せる屋台をもっと豪華にしたり、厨房に立ってる時の身体能力の激増度をさらに上げたりできるってわけだね」
ちょっぴり悩んだ結果、僕は『異世界調味料の召喚が可能』って能力を強化することにした。
するとさらに“以下の内から、召喚できる素材を増やせます”という項目が現れた。その中で僕が選んだのは……!
「召喚、『インスタントシリーズ・蒸し麺』!」
呼び声に応え、薄い袋に入った黄色い麺が現れた。
これが僕の新しい能力だ。茹でるだけで食べれるようになる『冷凍うどん』や、ちょっと焼くだけで食べれる『蒸し麺』が召喚できるようになったのだ。
「よし。他に具材もお金もないし、今日は『焼きそば』を振る舞うことにしよう!」
能力の一つ『異世界料理知識のインストール』のおかげで、作り方は頭に浮かぶ。
ソースとマヨネーズだけで味付けたシンプルな料理だ。しかも麺だけとかちょっと悲しいね。
それでもこの世界には味付けなんて塩くらいしかないため、塩漬け料理に比べたらよっぽど美味しく感じられるだろう。
「作って売って、儲けるぞぉ~!」
気合いを入れつつ、僕は鉄板に火を付けた――!
◆ ◇ ◆
――その日、悪の都は香ばしいソースの匂いに包まれた。
ジュウジュウと麺の焼ける音が響く。その美味そうな音と匂いだけで、もう悪党たちの口の中は涎でいっぱいだ。
我先にと出来上がった焼きそばを受け取っていき、フォークでズルズルと口に運ぶ。
「ウメッ、うんめェ! なんじゃこりゃぁあああ!?」
「甘じょっぱくてコクのある、今まで味わったことねぇ味だぁ!」
「ルシアさんッ、早くおかわりくださいよぉ! いくらでも出しますんで!」
狂ったように麺を飲み込む悪党たち。
まるで薬物中毒になったように、食べては食べては「おかわり! おかわり!」と次を求める。
「はいはい、ちょっと待ってねー! ……ふぅ、鉄板の近くにいるとあっつくなっちゃうね……」
そんな彼らの向かう先には、純白のコック衣装を纏った黒髪の少女――にしか見えない、小柄な少年が。
「料理衣装出してみたけど、足とか袖とかなんで出まくってるわけ……?」
彼の名はルシアという。
最初、悪党たちは“どう見ても雑魚だ”と決めつけ襲い掛かった。
――ごくまれにある事なのだ。貴族の中にはギフト第一主義者が多く、家にそぐわないギフトを授かった者が悪徳都市に捨てられてくる。
悪人たちにとってはありがたいことだ。彼らもここで必死に生きるしかない者たちなため、可哀想などと言ってられない。人間性を殺し、これまで何人も捕らえてきた。
ああ、今回もそうなると思ったが――しかし。
「はい次の人っ! たくさん食べてねー!」
悪人たちは情けを掛けられた上で倒され、さらにはどういうわけか美味しすぎる料理を食べさせられていた。
しかも代金は銅貨三枚。おやつが買える程度の値段だ。この美味さなら、もっと取ってもいいだろうに……。
「値上げ? あぁ、それはまた考えさせてもらうよ。
でも今日はオープン初日だからね! 僕の店のことを、みんなに大好きになって帰ってもらいたいんだっ!」
汗を拭いながら屈託なく笑うルシア。
ずっと闇の世界で生きてきた者たちにとって、その笑顔は眩しすぎた。
(……ルシアさん。アンタはまだ、この街の本当に悪い連中を知らないから笑ってられるんだ。特に『五大悪』の連中は、この麵よりも百倍真っ黒だ)
美味すぎる料理にハマりながらも、だからこそ危ないと悪人たちは考える。
こんなモノを作れる人材を、金に目ざとい連中が放っておくわけがない。いずれ、自分たちのようなチンピラとは比べものにならない極悪人どもに狙われるだろう。
(だけど……)
黒に染まった麺の上に、真っ白な調味料――マヨネーズをかけながら、悪党たちはこうも思う。
(もしかしたら……ルシアさん。アンタなら、極悪人どもの心さえも変えられちまうかもしれねぇなぁ)
彼ならばあるいは、と思いながら。
悪の都の住民たちは焼きそばの味に酔い痴れるのだった。
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