15:マオ様「乳首あまそう♡」 逃げろルシアくん!
はじめまして、馬路まんじです
襲撃事件の後のこと。
夜の屋台前にて、『黒龍殿』のマオ様と『猟犬兵団』のユーカーン団長は緊急会談を行なっていた。
議題は、僕を襲った金髪野郎・ユージンのことをどうするかについてだ。
「ではお宅の息子さんは首吊り刑ということで♡」
「いや頼むから命だけは助けてやってくれよッッッ!」
……笑顔で死を願うマオ様と、必死で頭を下げるユーカーン団長。
どうやらマオ様は既に『どう罰するか』ではなく『どう殺すか』の段階に思考が入っているらしい。こわいよぉ……。
ちなみに当のユージンくんは、殺意満々な女王様とそれをどうにか宥めようとするお父さんの間ですごい気まずそうに正座している。
ちなみにステラは、なぜかマオ様にめちゃくちゃ睨まれて隅の方で固まってます。なんでなの?
「は〜わかりませんかユーカーンさん? ルシアはシンラン王国の魂の料理『ラーメン』の唯一の作り手なんですよ? そんな子を害そうとしたとか国辱ですよ、国辱。もしも息子さんを殺さないなら『黒龍殿』は全面戦争を仕掛けますからね? 『猟犬兵団』の頭蓋骨でラーメン食べてやりますからね?」
「ちょっ、待ってくれよ! 全面戦争なんてしたらアンタも困るんじゃないのか!? お互いに仲間が少ないモノ同士よそうや……!」
ん、お互いに仲間が少ないモノ同士……?
ラーメンのために人を殺そうとしてるマオ様に、団長さんが気になることを言った。
「あの〜、仲間が少ないってどういうことです? 『黒龍殿』も『猟犬兵団』も、悪の都の五大悪組織って呼ばれてるんですよね? それが少人数って……?」
素直に訊ねてみることにする。
正座していたユージンが“よく話を逸らしてくれた!”って顔をした。いやお前のためじゃないからね?
「ンフフ、ルシアは街に来てから日が浅いんでしたね。ではマオお姉さんが五大悪について手取り腰取り教えましょう♡」
「腰は取らなくていいですよ……」
ラーメンを振る舞って以降、マオ様からの好感度がブチ切れてるのを感じる。いやまぁこんな綺麗なお姉さんが僕みたいなチンチクリンに惚れるわけないから、弟的な意味で可愛がってくれてるだけだろうけどね。
「財力に戦闘力に影響力。それらが突出した五つの組織こそ、この街では五大悪と呼ばれています。
たとえ部下の数が少なかろうが、要はすごく稼いでて強いところが偉いんですよ」
「ふむふむ」
たしかに、数だけ揃えたところでみんな弱くて貧乏だったら駄目駄目だしね。
マオ様は僕のお尻に手を伸ばしながら話を続ける。
「それにここは悪徳都市。住民がみんな悪党な場所ですから。考えなしに人を雇っても、待っているのは裏切りか内部分裂だけですよ。
――ゆえに私とユーカーンは、祖国の者だけを仲間にすることにしてるんですよ」
「祖国の者、だけを?」
またまた気になる話が出た。
マオ様の『黒龍殿』の事情は知ってる。
元々、帝国に復讐するためにシンラン王国の生き残りたちと興した組織だそうだ。そりゃ帝国民なんて雇わないだろう。
でもユーカーン団長さんのほうも同じなわけ?
「団長さん、どういうこと? 団長さんもインペリアル帝国に滅ぼされた国の人なわけ? マオ様みたいに実は国家転覆狙ってたり?」
そう訊ねると、ユーカーン団長は「ンな大それたこと考えてねーよ」と苦笑した。
「俺ンところの『猟犬兵団』は普通に平和な組織だよ。この大陸の先住民同士で集まった結果、なんやかんやで出来上がっちまったんだよ」
「先住民……」
――歴史の授業で聞いたことがある。
インペリアル帝国は割と新興の国だ。二百年ほど前に、遠くの大陸の移民たちが興したという。
そして国を作る際に、この地の部族の人たちと激突して勝利したんだとか。
歴史の先生はそれを誇らしげに語ってたっけ。
「まぁ歴史の敗残者の集まりってわけよ。
十数年前までは大陸の端っことかで暮らしてたんだがよ、そのうち帝国から『土地開発に邪魔だ』と追い回されはじめてな。ンでこの悪徳都市に逃げ込んで、現在に至るってわけヨ」
軽そうに言う団長さん。だけど話の内容は普通に重かった。
きっと(僕のお尻をナデナデしている)マオ様に負けず劣らず、色々な苦労をしてきたはずだ。
「まッ、今はなかなか良い生活をさせてもらってるがな。
ウチの『猟犬兵団』は魔物狩りをシノギにしてんだよ。街に魔物が入ってこないよう狩りまわったり、あとは魔物の肉を市場に卸したりしてよ」
「なるほど」
治安維持に食肉の流通。どちらもすごく大事な仕事だ。
たとえ悪党の街だろうが、そのありがたさは変わりないよね。
「偉いんだねえユーカーン団長。五大悪っていうから、みんな悪いことして稼いでると思ったよ。マオ様みたいにヤク売ったり」
「ははは、ヤクなぁ。……一応ウチでも扱ってたりするぜ、先住民伝統の製法のヤツ」
「って悪さしてんのかい……」
なんだかんだでヤることやってんだねこの人。クソみたいな民族工芸品やめなよ……。
「まぁここ数年のヤク業界は『黒龍殿』製一色だからよ、そのうち完全撤退することにすらァ。……競合すると女王様が怖いからな」
「ウフフ、わかってますねぇユーカーンさん♡」
マオ様の笑みがすごく怖い。なんやかんやで仲良くなった人だけど、笑顔の裏で大量の薬物中毒者を出してるヤバい人なんだよねぇ……。
「さてルシア。残りの五大悪である『蠢蟲教会』などについても話したいところですが……」
ちらりと視線を落とすマオ様。
細目から覗く紫の瞳が、正座するユージンのことを射抜いた。彼の身体がビクリと震える。
「ひぃッ!? ど、どうか命だけはご勘弁をォォォォ!」
「……口先ではこう言ってる彼ですが、心の中ではまったく反省してないかもですよ? こんな男をアナタは許すと?」
相変わらず容赦ない女王様だが、どうやら僕のことを心配して言ってくれているようだ。
たしかに今回のことを恨みに思って、また襲撃してくる可能性はあるしね。
でも、僕は彼を許すことにした。
「いいよマオ様、今回は見逃してあげよう。
……自分のためにお父さんが必死で頭を下げてるのを見たんだ。これで懲りないわけがないって信じることにするよ」
この金髪野郎は幸せ者だ。
僕の父上なんて、子供を助けるために頭を下げるどころか平気で捨ててきた男だからね。
それに比べたら羨ましい限りだよ。
「……わかりました。ルシアが許すなら許しましょう」
ユージンを睨むのをやめるマオ様。ついでに僕の尻を撫でるのもやめてくれた(と思ったら手がお尻から胸に移った。やめてほしい)。
「ですが、次は絶対にありませんからね? 私のルシアを傷つけたら処刑です! 親子ともども覚えておくように!」
「「はい……!」」
――こうして襲撃事件は完全に幕を閉じた。
最後にユージンは「すまなかった」と頭を下げ、父親と共に去っていく。
そんな彼を見送りながら、僕はマオ様に抱きかかえられてどこかに攫われていくのだった。
ってどこ連れてくの!?
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
『お知らせ』
・スケジュールの関係で、しばし休載しなければいけません……!(´;ω;`)
また機会がありましたら、どうか楽しんでいってください!