13:サンダー牛肉!!!!!
初投稿です
買い物を終えた後のこと。僕は屋台の台所で迷っていた。
「うーん……野菜もお肉も買ってきたけど、どう料理しようかなぁ……」
前に並べた食材の山をジ〜ッと見る。
この世界の野菜は異世界のモノとほぼ同じだ。
環境が似てたからそうなったのか……あるいは僕みたいに異世界の食材を呼び出せる人がいて、その人が種でも撒いたのかもしれない。シンラン王国を興した人も、ギフト『異世界料理人』を持ってた疑惑があるしね。
おかげで、野菜のほうは問題なく異世界料理に使えるわけだけど……。
「お肉のほうは色々工夫しなきゃだよなぁ。なにせこの世界じゃ、豚肉や牛肉の代わりに『魔物肉』が食べられてるんだから……」
大昔に突如として現れた危険生物『魔物』。
一般的な動物よりも遥かに強くて凶悪な存在であり、ヤツらによって野生動物や無力な家畜たちはあっという間に滅ぼされ、一時期は人類さえも絶滅の危機に陥ったそうだ。
そんな経緯があり、もはやこの世界には人里の中で生きていける小鳥程度しか動物は存在しなかった。
んで、代わりに食べれそうな魔物の肉を口にしてるってわけだね。
「ん〜。『豚鬼』の肉は限りなく豚肉味だし、『牛鬼』も牛肉味なんだけど、本物の味に比べると硬いし臭みが強すぎるんだよねぇ……」
本物なんて食べたことないけど、違いはわかる。
なにせギフトの力で“異世界料理の知識”をインストールされてるからね。異世界の食材の味や風味も感覚的に得ているんだよ。
おかげで、本物と比べて魔物肉がどれだけ食べづらいか嫌というほど理解できた。
「さてどうするか……。魔物肉の下処理方法といえば、とにかく大麦酒でじっくり煮るのが一般的かな。そうすれば柔らかくなるし臭みも飛ぶし。……でも、それでも完全には食べやすくならないんだよねえ……」
魔物ってやつは死んでも厄介だ。
アルコールの力だけじゃ、まだまだ硬さは残るし臭みも野性味も抜けきらない。
それで仕方なく、細かく刻んで大量の塩を振ることでどうにか食べれるようにしてきたわけだね。
この世界での肉の食べ方はそんな感じだ。
「うん……それだけじゃ駄目だね。それじゃ、本当に美味しいお肉にはならない」
開店時間が迫る中、僕は決意する。
この街のみんなに最高のお肉を食べさせてあげようと。
「シンナーで歯が駄目になった人でも食べれて、ヤクよりも満足感のある肉料理。ソレをみんなに振る舞ってやる!」
僕にとって料理は誇りだ。ルシア・スカイアークという男に出来る唯一の特技だ。
だったら常に、最高に美味しい一品を目指し続けないとね。
「覚悟しろよ、魔物肉。意地でもお前を美味しくしてやるからなぁ……!」
◆ ◇ ◆
そして、
『うッ、うんめぇぇぇぇぇぇーーーッ!』
チンピラさんたちの口から絶賛の声が上がった!
「何だこりゃッ、めちゃくちゃ柔らかくて美味いぞ!?」
「こんな肉食ったことねぇよ!」
「口ん中で溶けちまうよ〜!」
みんな本当に美味しそうだ。
その光景に、僕は新メニューの成功を確信した。
「さぁさぁどんどん召し上がれ! これがウチの新メニュー、『牛鬼のシャリアピンステーキ』だよ!」
ジュウジュウと焼けた肉厚ステーキを差し出していく。
それを見たとき、誰もが『こんな分厚い肉が噛み切れるのか?』と不安げな表情をしたものだ。
だけどナイフを突き立てた瞬間、沈みこむような柔らかさにみんな驚いた。さらに、
「柔らかいだけじゃねえ! 肉の中からすんげーイイ匂いが溢れ出してくるぞっ!?」
「魔物肉の臭みが一切ない……! どうなってんだよコレ!」
香ばしくてジューシーな匂いが屋台一帯を包み込む。
この世界の誰もが『肉料理=臭みがあるもの』と思ってただけに、お客さんたちのビックリ具合は計り知れなかった。
普段はラーメンを食べてる人たちも、興味本位でステーキを注文していく。
「――わはははッ! こりゃァすげぇな!」
と、そこで。ステーキを頬張った一人のお客さんが哄笑を上げた。
今まで見た事ない人だ。フードを被ってるから顔は見えないけど、筋肉まみれのすごく大きな身体付きをしている。こんなお客さんなら一度来たら忘れないよ。
「とろけるくらい柔らかい上に臭みの処理も完璧だ! こりゃ大麦酒で煮ただけじゃないだろ!?」
興味津々な様子の筋肉さん。彼の問いに僕は頷く。
「うん。アルコールで煮てアク取りしたあと、大量の玉ねぎに漬けたんだよ」
「ほうっ、玉ねぎに!?」
そう。寸胴の中に玉ねぎを敷き詰め、そこにお肉を置いた後でさらに玉ねぎを入れて埋め尽くしたんだ。
異世界料理知識によると、玉ねぎに含まれるプロテアーゼという酵素が肉の筋膜を分解してくれるそうだからね。そうして作られたステーキをシャリアピンっていうんだ。
「玉ねぎは肉を柔らかくするだけじゃなく、臭み取りの効果もあるからね。それにハチミツも同様の効果があるから、それもちょこっと加えたんだよ」
「ほっほぉ……! そりゃスゲぇことを聞いたぜ。玉ねぎとハチミツにそんな力があるのかよっ!」
「うん! さらにそこに醤油っていう酸味と塩っ気の強い調味料を入れることで、臭みを完全に処理したんだ!」
香ばしい匂いの正体は醤油だ。
すごい調味料だよねーアレ。何にかけても美味しいもん!
そうやって魔物肉に極上の味わいを沁み込ませていったわけだね。
「なるほどォ、『ショーユ』かぁ。たしか東の国にあるっつー大豆由来の調味料だったな。ちょっと頑張って仕入れてみるか……ショーユショーユ……」
メモ帳を取り出してチョコチョコ書き込む筋肉さん。
あ、ラーメンだけじゃなく醤油もこの世界にあるんだね。あとそんな知識があるあたり、筋肉さんはかなり料理について詳しいようだ。
他のお客さんたちはみんな食べる専門だったからね。
「それでお肉を取り出した後は、下処理に使った玉ねぎとハチミツと醤油に水を入れて火にかけ、特製ソースを作ったわけだね。お口にあったかな?」
「おうよ、刻み玉ねぎたっぷりで肉との相性抜群だぜ!」
それはよかった。僕は料理知識を持ってるだけで経験自体は浅いからね。料理に詳しいっぽい筋肉さんのお墨付きがもらえて何よりだよ。
「教えてくれてありがとなぁ店主さんよ。……でもよかったのかァ?」
そこで、彼はわざとらしく悪そうな笑みを浮かべた。
「もしかしたら俺も料理人で、メニューをパクっちまうかもだぜぇ? ショーユがなくともワインと塩で味付けできそうだしなぁ~?」
ああ……どうやらこの人、“簡単に料理方法をひけらかしていいのか?”って心配してくれてるみたいだ。
見た目は野蛮人なのに紳士さんだね。
「うん、別にいいよ。魔物肉の下処理方法に関しては、むしろ広まってくれって思ってるんだ」
「なんだと?」
首を捻る彼に僕は続ける。
「美味しいお肉は食欲をそそるからね。それで誰もがもっと食事にこだわってくれるようになったら、料理店の需要が上がるじゃん? 料理人自体の地位も良くなるかもだしね」
この世界において、料理人は使用人の一種に過ぎない。
父上が馬鹿にしていたように、敬意を払うべき存在じゃないんだよね。そこに正直腹が立っていた。
いつかはそんな不遇な扱いも跳ね除けてやるさ。
「なるほどねェ、意外と抜け目ない店主様だ」
「そりゃどうも。あとね、魔物肉の焼き方も教えておくよ。これを広めたら退役になった魔術兵さんたちが喜ぶかもね」
「何?」
眉を上げる筋肉さんを前に、僕は鉄板の上に何枚かのお肉を敷いた。
そして、
「術式発動、“コントロール・サンダーボール”!」
お肉に対して雷撃魔術を発動させる。電圧を一万ボルト以上に設定し、筋繊維の間を数秒間焼き焦がしていく。
これが魔物肉を美味しく食べるための最後の工夫だ。
「名付けるなら電撃焼きかな? 火だけじゃなく電気の力で素早く焼くことで、お肉は保水性を保ったままタンパク質が分解されて柔らかくなり、さらには旨味成分のイノシン酸がグッと増えるんだ」
異世界料理知識の中でも最新のモノだね。
あちらでは専用の機械が必要になるんだけど、こっちには便利な魔術があるんだ。
だったら使わない手はないよ。
「ぶっ、ははははは! 料理に雷撃魔術って、面白すぎだろアンタよぉ!」
再び大笑いする筋肉さん。そりゃ食いっぱぐれた魔術師が喜ぶわと、彼は笑い続けるのだった。
ここまでありがとうございました!
ようやく料理小説になった気がします!
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