12:出会いの性転換キック
ほのぼの料理ファンタジー書きました、初投稿です。
「安いよ安いよーっ!」
「そこの嬢ちゃんたち寄ってきな!」
「向かいの店よかサービスするぜ~!」
市場は活気に溢れていた。数多くの店が軒を連ね、それぞれの店主さんが声を張り上げて客引きしている。
悪の都といえど朝市はちゃんとしてるんだね。
お客さんたちの顔が人を殺してそうな以外は普通の市場って感じだ。
「それじゃあステラ、さっそく買い物していこうか。
でもここは『悪徳都市ベリアル』だからね。僕から離れたりしたら駄目だよ?」
「あっ、あらあらっ。ルシアってば、あたしのことを守る気満々みたいな!?」
「当たり前だろ。僕は男なんだから、君のことは全力で守るよ」
「はう〜っ!?♡」
謎の鳴き声をあげるステラを引っ張り、僕はさっそく市場巡りを開始した。
◆ ◇ ◆
「店主さん、このニンジンください! あとこっちのタマネギもね!」
食べ物の鮮度を見抜く瞳『料理人の魔眼』はすごく役に立った。
なにせ最高の商品だけを選び放題なんだからね。買い物が楽しくて仕方ない。
「あい毎度。……って、こりゃぁイイ品ばかりを選んだなぁ。買い物上手だねぇキミ! オレのニンジンも品定めしてくれない!?」
「あははっ、ご冗談を〜!」
店主さん(“腐りかけ”と表示された)と談笑しながら商品を受け取る。
よし、野菜はあらかたオッケーかな。
僕は紙袋で両手をいっぱいにしながら、相棒のほうを振り向いた。
「ステラ、そっちはお肉買えた?」
向かいの肉屋さんでは、ショーケースを前にステラが唸っていた。
ん、どうしたんだろ? 魔眼があれば悩む必要もないと思うんだけど……。
「何かあったの?」
「あー……ちょっといいかしら、ルシア?」
こちらに戻ってくるステラ。
彼女は背をかがめると、耳元でヒソヒソと話し始めた。
「お店の近くじゃ言いにくいんだけどね、なんかどのお肉も傷んでるのよねぇ……!」
「えぇえ……?」
それはかなり問題なのでは……?
いわゆる地雷店舗ってやつかな。どんなルートで仕入れたらそんなことになるのか知らないけど、そこで買うのはやめたほうがいいね。
「別のお店で買うことにしようか。肉屋はあそこだけじゃないだろうしね」
「そうね。ルシアのギフトの力がなかったら変なのを買っちゃってたわ」
質の悪いお店もあるんだね――と、小さな声でそんな会話をしていた時だ。
移動しようとする僕たちに、「オイ待てやッ!」と声をかけてくる者がいた。
「オメェら、聞いてたゾ! そこの店の肉を……俺が仕入れた肉を悪く言いやがったなァ!?」
雑踏の中から金髪の男が飛び出してきた。
歳は僕より少し上くらいか。だけど身長はグッと高かった。くやしい。
「俺様の名はユージン・ウェスカ! 五大悪組織が一つ、『猟犬兵団』の次期トップだぜぇ!」
ハイテンションに名乗るユージンという男。
このちょっと馬鹿っぽい奴が五大悪組織の次期トップだって? なんか信じられないんだけど……。
「で、だ。俺様は【狩猟神アルテミス】から加護を受けててなぁ。聴覚強化のギフト『狩人の耳』を貰ってんだよ。そいつでさっきの会話を聞かせてもらったぜぇ……!」
グイグイと近づいてくる金髪の男。彼は「舐めた事言いやがってメスガキども」と僕らを睨みつけてきた。
「この店にはなぁ、俺が狩ってきた獲物の肉を下ろしてんだよ。そいつの質が悪いだと?」
詰め寄ってきた彼を前に、隣のステラが青い顔をした。
そういえば彼女がやってきたから三日間は僕が側にいたからね。悪い輩に絡まれるの初めてか。
僕は街に入って三秒で絡まれたよ……。
「適当なこと言いやがって。店の売り上げが落ちたら俺様の評価も落ちんだからな!? オラッ、謝れよ! 地面に頭をこすり付けろやッ!」
彼の恫喝する声に、市場を歩く者たちが一斉に視線を向けてきた。
無論、僕らを助けようなんて人はいない。なにせここは悪の都だ。僕とステラが無様な姿を晒す様を期待しているように見える。
――だけど悪いね。頭を下げる気なんて一切ないよ。
「謝らない。むしろ悪いのはお前のほうだろうが」
「なッ、なんだとぉ!?」
真正面から言い返してやる。
ステラが「ちょっとっ!?」と腕を引くが、引き下がるものか。今回ばかりは相手の言い分が勝手すぎるんだよ。
「適当に食材を貶すものか。お前に地獄耳のギフトがあるように、僕らもギフトの力で食材の良し悪しが判るんだよ。コイツを見てみろ」
持っていた紙袋を突き出す。
そこには、あちこちの店から集めてきた鮮度抜群の野菜たちが。
素人目にもその艶やかさはわかるだろう、男の表情が大きく歪んだ。
「そして僕らは、店の評判を落とさないよう小声で話していた。その内容を勝手に拾って大声で喚いたのはお前だ。
質の悪い肉を仕入れたのがお前なら、それを言い広めたのもまたお前。全部お前が悪いんじゃないか」
「テメェエエエッ!?」
ついに金髪野郎が激昂する。拳を振り上げて殴ろうとしてくるが、そうなることは想定済みだ。
すでに僕は右足を軽く下げていて――ッ、
「喰らえオラァッ!」
相手の股間を思いっきり蹴り上げた!
「うぎゃあああああー---っ!?」
絶叫を上げながら転がりまわる金髪野郎。
苦悶の表情を浮かべる彼を前に、野次馬連中も青い顔で股間を押さえた。
「よーし決まった! 素の身体能力でもやる気があればやれるもんだ」
屋台を召喚してもよかったけど、アレを振り回すと市場が滅茶苦茶になっちゃうからね。
宿屋の店主さんから『キミには才能がある』と言われて玉責めキックを教えられててよかったよ。何の才能だよ。
「さぁステラ、今のうちに逃げるよ!」
「う、うんっ!」
相棒の手を引いてその場を離れる。
後ろから「待ちやがれ~……ッ!」と恨めしそうな声が響くが無視だ。
今度来たら全力で料理してやるよ。
「ビックリした、ステラ? 落ち着かないならどこかで休む?」
「う、うーん……アイツに絡まれたことより、アナタが平然とやり返しにいったことにビックリなんだけど……! もしかしてルシアって、修羅場慣れしてたりする……?」
修羅場慣れ? いやいや、そんなのしてないよ。僕ビビリだし。
「いやぁ、ただ百人の黒服たちに囲まれた時よりは怖くないなぁーって思ってただけだよ」
「百人ッ!? えッ、どんな経験してきたのルシア!?」
――こうして僕らは変な男を撃退したあと、お肉を買って帰っていったのだった。
ここまでありがとうございました!
やっぱ暴力だわ
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