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32.サマーデイズ~立花 結城①~



「それじゃ、行ってくるね母さん」

「はーい、あまり遅くなるんじゃないわよー」


 母親にそう告げると、僕――立花(たちばな) 結城(ゆうき)は家を出る。

 向かう先は商店街のある大通り――地元で催される夏祭りの会場である。


 例によってレイちゃんからの提案で、僕とフユキくん、それに白瀬さんのいつもの4人で夏祭りに遊びに行くことになったのだ。

『ユリちゃんと一緒に浴衣で行くから楽しみにしててね』なんて彼女の言葉を思い出し、僕は浮かれるような心地で商店街へと向かう。


「――おっ、早いなユウキ」


 待ち合わせ場所である商店街入口で、手持ち無沙汰にスマホを弄っていた僕の前に、フユキくんが一番乗りで現れた。


「やあ、フユキくん。レイちゃん達を待たせちゃ悪いしね」

「それもそうか。レイも白瀬も目立つ見た目してるからな。変なのに絡まれてトラブル起こしても面白くねえか」

「そういうこと。夏休み最後の思い出にケチを付けたくないしね」


 そんなことを話しながら、男二人で待ちぼうけをする。

 この商店街の夏祭りは、大通りを貸し切った地元でも大きめなイベントということもあり、遊びに来ているウチの中学校の生徒達もチラホラと見かける。


「あっ、来島くんに立花くんだ」

「やあ、こんばんは」

「よお、俺達以外にも遊びに来てるウチの生徒は結構見てるぜ」


 中にはこうして僕達に声をかけてくる子もいる。

 クラスメイトである浴衣姿の女子グループに軽く挨拶すると、彼女達は一緒に遊ばないかと僕達を誘ってくる。


「わりぃ、俺らも待ち合わせ中なんだわ」

「うん、誘ってくれたのにごめんね?」


 僕達の言葉に、彼女たちは冗談っぽく落胆してみせた。


「あーあ、フラレちゃった」

「まあ、気が向いたら声かけてよ。私達もしばらく遊んでるからさ」


 そう言うと、彼女たちは軽く手を振って去っていく。

 内心、しつこく誘われなくて良かったと安堵していると、隣でフユキくんがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、僕を肘で小突く。


「逆ナンとはモテモテだな?ユウキ?」

「あれはフユキくん目当てでしょ?僕は精々、面白い愛玩動物(ペット)ぐらいにしか見られてないよ」




「――謙遜すること無いでしょ?ユウくんも、フユキくんに負けないぐらい、結構女子人気有るのよ?」


 背後から聞こえた声に、僕とフユキくんが振り返る。

 そこには朝顔模様の浴衣を着込んだレイちゃんと、金魚柄の浴衣を着た白瀬さんが立っていた。


「お待たせ、二人とも」

「遅くなってごめんね。(ユリ)が着付けに手間取っちゃって……」

「胸がおっきいと浴衣はピシッと着るのが難しいからねー」

「レ、レイちゃんっ!恥ずかしいから、そういうの言わないでっ」


 仲良くじゃれ合っている二人を前に、僕はこっそり練習していた言葉を告げる。


「う、うん。ふ、二人とも、浴衣すごく似合ってるよ」

「わお、大根役者」

「うぐっ」


 レイちゃんの一刀両断に、僕は結構ショックを受けていると、白瀬さんがフォローしてくれた。


「レ、レイちゃん。立花くん頑張ってるんだから、もう少しオブラートに……」

「あはは、ごめんごめん。褒めてくれて嬉しいよ!ありがとう、ユウくん」

「う、うん」


 浴衣姿のレイちゃんに見とれつつも、僕はだらしない顔をしないように気を引き締める。


「――それにしても、私達はこんなに気合入れてきたのに、男子諸君は普段着かー」

「別に男は何着てたって、どうでもよくね?」

(レイコ)としては折角の夏祭りなんだから、男子には甚平とか着てほしかったなー。フユキくんとか似合いそうだし」

「へえへえ、まあ来年まで覚えてたら考えとくよ」


 フユキくんとレイちゃんが軽口混じりに、そんなやり取りを交わす。


 ……なんだか、この間のプールの一件以来、二人の距離が少し近くなったような気がするのは、僕の気の所為だろうか。


「立花くん?どうしたの?」

「――あ、ううん。何でも無いよ、白瀬さん」


 つい不安そうな顔をしてしまっていた僕に、白瀬さんが声をかける。僕は慌てて平静を装って、彼女に問題ないことを告げた。



 ――大丈夫。考えすぎだ。

 だって、フユキくんは僕がレイちゃんを好きなことを知っている。

 小学生の頃に、レイちゃんに対して分不相応な恋心を抱いてしまっていた僕を、フユキくんは励まして応援してくれたじゃないか。


『大丈夫だって。ユウキはすげえいい奴だし、レイだってユウキの良い所をいっぱい知ってるじゃん』

『でも、僕はフユキくんみたいにカッコよくないし……』

『お前が思ってるよりも、レイはずっとお前のことを大事に想ってるって。元気出せよ!』


 レイちゃんが誰かに告白される度に、落ち込んでいた意気地なしの僕を、フユキくんはいつも励ましてくれたじゃないか。そんな彼を疑うなんて、恩知らずにも程がある。

 僕は罪悪感に頭を軽く振るう。粘着質な疑念は頭から中々離れてくれないが、それでも気持ちを切り替える程度の余裕は出来た。


「それじゃあ行こっか!ほら、ユウくん。はぐれたら大変だから手を繋ごう?」

「レ、レイちゃん……そろそろ子ども扱いは止めてよ……」


 僕はいつまでも君にお世話をされる子供じゃない。

 君の隣に立てる"男"として僕を見て欲しいんだ。


 そんな想いが祭りの喧騒に溶けていった。



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