154.書籍版8月1日発売
次回更新から最終章が始まると言ったな。あれは嘘だ。
「……"悪魔"の力が衰えている?」
とある超高層ビルの一室。
円卓を囲むように5人の人間……否、人造人間たちが顔を突き合わせていた。
彼らは叡合會の残党を実質的に率いている首脳陣である。
「ええ、悪霊の首領である"神"とやらが消滅した影響でしょう。彼女の異能は確実に力を落としています。遠くないうちに彼女は普通の人間と変わらぬ少女になるでしょう」
「それは朗報だな。よくやったぞラムダ。奴とのパイプ役、ご苦労だった」
ラムダの報告に、現叡合會の事実上のトップである"ガンマ"と呼称される初老の男が満足そうに頷く。
「あの正体不明な悪霊どもが消え、我らを抑えつけていた憎き悪魔も力を失うという。これで叡合會の再興を妨げるものは居なくなったというわけだ」
「まずは悪魔の排除だな。これまで散々我らを虚仮にしてくれたのだ。しっかりと礼をせねばなるまい?」
幹部たちの言葉に、ラムダは僅かに眉をひそめて口を挟む。
「……彼女と我々は休戦協定を結んでいたと思いますが?」
「何を馬鹿なことを。協定というものはお互いに対等な立場だからこそ成り立つものだ。力を持たぬ弱者に何を配慮する必要がある?」
「……そうですか」
「しかし、衰えているとはいえ我らが大首領を屠った強者には変わりあるまい。まずは奴が寵愛しているという人間どもを人質に取って……」
「ならばラムダに悪魔の注意を引き付けさせて……」
展望が見えたことで気が緩んだのか、その場に集った人造人間達は各々に謀略を巡らせようとする。
その弛緩した空気の中で、ラムダが軽く手を叩いて周囲からの視線を集めた。
「この良き日に際して、皆様に紹介したい方がいるのですが……よろしいですか?」
「紹介?」
ラムダの言葉に、ガンマが訝しげな表情を浮かべる。
「ええ、今日まで私を支えてくださった協力者の方です。是非とも皆様にご挨拶がしたいと……」
「ふむ、ラムダの協力者か。いいだろう、役に立つ人間なのだろうな?」
「それはもちろん……私の未来に欠かせないお方ですよ」
ラムダの言葉に、ガンマは顎を動かして"協力者"とやらの入室を促す。
その仕草にラムダは小さく頷くと、部屋の扉を開けて待機していた人間を室内へ招き入れた。
入ってきた人間は女だった。
年齢は恐らく30代前後。身長は190cmの長身である。
肩の辺りで切りそろえた銀髪のショートヘアに染めた痕跡はなく、地毛だと思われる。日本人では無いのだろう。
(……誰だ? ラムダの周囲には隠密に監視を付けていたが……こんな女は見たことが無いぞ?)
ガンマが内心で現れた女の素性に疑問を覚えていると、彼女は部屋の中央まで歩いてから、室内の人造人間たちを見渡して一言。
「頭を垂れて蹲え。平伏せよ」
「「「ッ!?」」」
電子で構成された思考回路にすら干渉する圧倒的な強者の威圧感。
居合わせた人造人間たちは、女の隣に立つラムダを除いて、その場で反射的に跪いた。
本来は人間を擬態するための機能でしかなかった疑似汗腺が、謎の誤作動を起こして作り物の冷や汗が溢れ出す。
恐怖から視線を床に貼り付けながらも、ガンマは息も絶え絶えに呟いた。
「ね、音虎玲子……!?」
そう、私である。
ゴキゴキと肉と骨が蠢く悍ましい音を響かせると、私の身長が縮み、肌が瑞々しさを取り戻す。肩にかかる程度だった銀髪は黒髪に変わり腰まで伸びていく。
あっという間にいつものパーフェクト光属性ヒロイン玲子ちゃんの出来上がりである。讃えろ……!
「に、人間じゃない……!?」
「ラ、ラムダぁ! 貴様、裏切ったのか!」
私というサプライズゲストを前にして、ぽんこつどもがピーチクパーチク騒ぎ出した。
「……誰が喋って良いと言った?」
「……っ!」
みんなが静かにしてくれた。
さて、今回私がぽんこつどものサークルスペースにお邪魔した理由はただ一つである。
私はぽんこつ達の後頭部に向かって口を開いた。
「書籍版は8月1日発売だ」
「……は?」
書籍化が決まった途端にウェブ版の連載が止まる作品を見るたびに、私は常々思っていた。
本を出すからウェブ版はもう用済みということなのか……と。
でもな、曲りなりにもamazonの検索結果ページの末席を汚す身になって初めて分かったんだ。
これ忙しくてマジで手が回らねェ……ってな。
いや、私の場合はスケジュール管理ミスって、村娘の書籍化作業とほぼ同時進行になったのも要因の一つなのだが、とにかく忙しかったのだ。
むしろ話をぶつ切りにせず、一応はサトリちゃん編を終わらせて、キリの良いところで一旦更新を止めた私を褒めて欲しいぐらいである。
正直ナメていたよ。本になるっていうことを。
ウェブ版そのまんま載っけられないことぐらい、154話も書いてれば分かるだろう。誰だこんな話を考えた奴は。もっと社会に配慮したクリーンでサステナブルな話を書け。
……すまない、言い過ぎたな。
しかし、もう一つ現状報告をしておくと、本文を修正したからといって、無味無臭な作品にしたつもりは無いということだ。ちゃんと作品としての"芯"は守り抜いたつもりである。表現の自由を踏みにじろうとする理不尽な社会を、私は決して許さない。多様性を尊重しろ。私を差別するな。
そして最後にもう一度言っておく……書籍版は8月1日発売だ……
ふぅ、スッキリした。私は言いたいことを全部言ってスッキリした。
「……だというのに、お前たちときたらなんだ。私がこんなに忙しく働いているというのに、人のささやかなラブコメを邪魔するのがそんなに楽しいのか? 私はお前たちと関わる気は無いと繰り返し言っているだろう? 挙句の果てには、ユウくん達にまでちょっかいを出そうと言うじゃないか。私は悲しい……何故、お前たちはそこまで私を軽んじているのか……」
(そんなことを俺達に言われても……)
私の切実な言葉に対して、ぽんこつの一人が俯いたまま内心で毒づいた。
「"そんなことを俺達に言われても"……何だ? 言ってみろ」
私の言葉に、ぽんこつくんが肩をビクッと震わせる。
(し、思考が読まれている!? ま、まずい……!)
「何がまずい? 言ってみろ」
どりゅりゅっと私の片腕がAKIRAの鉄雄みたいになって、ぽんこつくんに巻き付いた。
「ば、馬鹿な! 力は衰えている筈じゃないのか!?」
衰えているさ。本当なら世界を支配出来る存在を取り込んでいるんだぞ?
この程度の手品しか出来ないなんて、ナーフも良いところである。オマケに残った力もどんどん弱くなっているときた。今の私はBLEACHの愛染戦が終わった後の一護みたいなもんである。
私のかよわい触手に身体をメキメキと締め付けられながら、ぽんこつくんが命乞いをしてきた。
「お、お許しください玲子様! どうかお慈悲を! 申し訳ありま……ギャッ!」
私はぽんこつくんを圧殺してスクラップにすると、残りの幹部連中に向き直る。触手を向けられたガンマくんが小さく悲鳴を零した。
「ひぃっ!?」
「もはや私の隣に残す人造人間はラムダくんだけで良いと思っている。叡合會は解体する」
***
「最期に何か言い残すことはあるか?」
ぽんこつどもを一体ずつ処分し、最後に残った個体に私が問いかけた。すると、ラスイチのぽんこつは何やらうっとりした様子で私を見つめている。
「私は幸せ者です。貴方様直々に手を下していただけるなんて……」
「ほう。おかしなことを言う。お前は私が憎くないのか?」
「他の方はどうか知りませんが機械とは本来、人に使われてこそだと私は考えます。ましてや、この身を消費するのが自分よりも優れた存在ならば言う事はありません」
「ふむ」
私はぽんこつのうっとりフェイスをスパッと切り落とした。
「ガッ、ア!」
顔面を削ぎ落とされて、内部フレームをむき出しにしたぽんこつに、私は上機嫌に微笑みかける。
「気に入った。私の役に立つことを許そう。その顔は作り直しておけ。そうだな……もっと年若い顔にしておけ。学生と言っても問題がない顔にな」
「うふ、うふふふ……仰せのままに……」
新しい友だちが増えたぞ。やったぁ。
こうして叡合會を解体した私は、後始末をラムダくんに任せてその場を後にした。
この世に悪の栄えた試しなし。やっぱり最後は正義が勝つんだよなぁ。世の中よく出来ているものである。
そして最後に言っておくことがある。
……この話、微妙にサイト規約に引っかかるんじゃね?
営利目的な宣伝というのは大なり小なりグレーゾーンに引っかかるものである。そもそもサイト規約に引っかからなくても、今こうして本文を読んでいる方々から反感を買って炎上すれば、この話をサイレント削除することも已む無しであろう。
つーことは、どうせ問題になるならば擦りまくってから無かったことにした方がお得という訳だな。ならば最後にもう一度だけ言っておこう。
書籍版は8月1日発売だ……
ウェブ版もちゃんとオチまで考えているので、エタらせるつもりは全くありません!
私を信じてください(Believe me)。
この物語を完結させることをここに保証します(保証OK)。
まあこの話が消えたら、あとがきも消えますが些細なことですね。