147.生まれついての悪
こ、この対応は正解だったのか……?
ユウくんとの初エッチ失敗から帰宅した後、私は自室のベッドで己の判断を振り返っていた。
こんにちは、音虎 玲子です。
ハッキリ言おう。今回の一件は完全に私の想定外である。
まさかメシに媚薬を盛ったというのに、土壇場でユウくんが萎えるとは……完全に計画が狂った。
正直な話、やろうと思えばユウくんの中折れを解消する手段なんていくらでも有ったのだが、今の私はウブなキュートガール。前世知識で手練手管を弄してユウくんを猿にするような真似は流石に出来なかった。
これまでちょっと耳年増程度の清楚キャラで通してきたのに、ここで本性の一部を晒すような真似をしては、それこそ今後の計画が色々と破綻してしまう。
……確かに。確かに今回のパターンもNTRの導入としては、非常に美味しいことは否定出来ない。初エッチ失敗からの寝取られなんて、王道も王道である。ある意味、今回の一件はユウくんが私の想像以上のNTR適正を発揮した結果とすら言えるだろう。そんなところも好き❤
だから、これはもう完全に私の個人的な嗜好なのだが、私はユウくんとセックスしてから寝取られたいのだ。
ユウくんの初めてを、一生忘れられない最高の体験にしてあげたい……
そして、それを上から糞でべったりと汚してやりたい。
ユウくんに一生残る恐怖と衝撃を与えてあげたいんだよぅー。
それこそ私が寝取られた後に、ショックで彼が不能になるようなキッツイやつをナ。
まあ、これはあくまで私個人の意見だ。セックス前の寝取られを否定する気など毛頭ない。現に私は前世で、初エッチ目前の初々しいカップルを散々寝取ってきたからな。
私は多様性を尊重出来る女。どんなNTRも受け入れて共存しよう。メガテンで言うならニュートラル属性といった所か。
ユウくんよ。女とは奪われるものなのだ。
女を奪われてしまったならば、今度は君が別の男から違う女を奪うんだ。
復讐は何も生まないってよく言うし、奪われた女を取り返しても、自分だけが割りを食ったという事実は変わらないからな。
それならば、他の幸せそうにしている奴を不幸にしなければ、バランスが取れない。みんな不幸になれば、相対的に自分の不幸が薄くなるだろう? そういうことだ。私はユウくんに心の中で忠告した。
まあ~、ごちゃごちゃと理屈を並べ立てたが、結局のところ私は本質が善人なのだ。
だから、ここまで私の趣味嗜好に付き合わせてしまったユウくんには、何かしらのご褒美を与えてあげたいと思うのは、至極真っ当な人情というものだろう。
セックスの一つも無しに、ユウくんを切り捨てるような惨い真似は私にはとても出来ない。前世では恋人を取られた間抜けからの逆恨みや、刃傷沙汰も日常茶飯事だった私だが、実は心優しい人間なんだよな。飼っているペットに餌をやらないような、非道な人間だと思われているのなら心外である。私は日常の些細な喪失にも心を痛めてしまう繊細な人間なのだ。
……確かに、鵺も魔男も好きだよ。カグラバチも盛り上がってるし、再開したハンタだって面白いよ。でもさ……
やっぱり呪術が載ってないと寂しいよ。芥見先生……
最終回から2ヶ月弱が経過して、ようやく私は呪術ロスと向き合った。
本当ならリアタイでくっちゃべりたかったが、書籍化作業でそれどころでは無かったのだ。だから今日ぐらいは呪術語りしても許してくれるよな……
許してくれなかったので、私は異空間に拉致された。
寝そべっていたベッドに突然ブラックホールみたいな穴が開いて、私は暗闇の中を落下していった。
まーたバトルパートかよ。
もうマンネリ化してるだろ。何度目だよっつーね。
タグを見ろタグを。ラブコメタグが付いてるだろうが。バトルタグが付いている小説みたいな展開を止めろ。私の空気を読め。私は暗闇の中を落ちながら愚痴った。
落下を始めてから数分程度が経過してからだろうか。不意に落ちていく感覚が無くなり、周囲の景色が瞬きの内に一変する。
「ここは……駅前の広場か?」
気がつけば、私は自宅の最寄り駅の駅前に立っていた。
……周囲には人っ子一人居ないし、時間帯もおかしい。もうとっくのとうに日が暮れている時間の筈なのに、頭上には太陽が輝いていた。
こんな真似が出来るのは、悪霊どもの幹部である四聖とやらだけだろう。これまで出てきた奴はみんな固有結界持ちだったからな。今回もそのケースだろう。
名前通りに構成メンバーが四匹ならば、最後の一匹がノコノコとやって来たということか……
まあ~いいさ。最後の一匹も私のポケモンに加えてやろう。四匹揃って私の胃袋改めメゾン・ド・レイコに入居するといい。カブトムシくんに雑魚悪霊くん達も待っているぞ。
既に同格の悪霊くんを三匹降しているのだ。ちゃっちゃと片付けて帰らせてもらうとしよう。ドラクエも出たし……
そんな事を考えながら、私は眼球をビキらせて索敵を始めようとしたのだが……
「やっ、レイコ」
背後から声が掛かる。十中八九、最後の四聖だ。
のんきにお喋りをする気は無い。ドラクエが私を待っているのだ。振り向きざまに、先制攻撃をお見舞いしようとして……私の手が止まった。
「……は?」
我ながら間抜けな声が漏れる。
そこに居たのは、端正な顔立ちをした優男だった。
一般的な感性で言えば、美男子と称することに相違ないルックスの持ち主である。
おそらく大抵の人間は彼に声を掛けられれば、老若男女問わず好意的に接することだろう。そう思わせる不思議なカリスマが彼には有った。
……しかし、私には分かる。
自分以外の全てを見下している傲慢さ。
他人の不幸が大好きで、自ら陥れた人間の末路に腹を抱えて笑う歪んだ人間性。
その癖、自分のことが大好きで、全てを己に都合の良い方に解釈する異常な自己愛。
一目見ただけで分かる。
こいつは絶対に相容れない邪悪だ。
存在するだけで周囲を不幸にする最低最悪の人間だ。
「……君、仮にも自分の見た目に対して、よくもまあそこまでスラスラと悪口が出てくるね……」
目の前の優男――前世の私の姿をした男が苦笑いを浮かべた。
「四聖筆頭、奉牢兌丹だ。少しお茶でもしようか?」