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114.白瀬由利は守れない

「大丈夫? 白瀬さん」

「た、立花くん……う、うん。私は大丈夫」


 立花くんは捻り上げていた男の腕を振り払うように解放すると、男は痛みに呻きながらこちらから距離を取った。


「いってぇ……! な、なんだてめぇは! 横からしゃしゃり出て来やがって!」

「そりゃこっちの台詞だっての。なに人のツレに手を出してんだよ」

「フユキくん! 神田くん!」


 立花くんに続いてやって来た来島くんと神田くんが、私とレイちゃんを守るように男達の前へと立ち塞がる。

 すると、レイちゃんの言葉を聞いた男達の一人が、神田くんの姿を見て顔を引きつらせた。


「神田……? ま、まさか、あいつ御影の神田か!?」

「み、御影の神田!? ちょっかい出そうとしたワル達が、軒並み謎の襲撃を受けて廃人になるって噂のあの神田だって!?」

「う、噂じゃねえよ。俺のダチが実際に、それで人が変わったみたいに大人しくなっちまったんだ……!」


 神田くんを見て慄く男達の姿に、来島くんが怪訝な表情で神田くんを見つめた。


「……光一、お前また何かやったのか?」

「い、いや、心当たりねえって。マジで。……確かにお前達とツルむようになってから、ああいう連中が急に関わってこなくなったのは事実だけど、俺は何もしてねぇよ」


 レイちゃんを見て突然怯えだしたリーダー格の男と、神田くんを見てざわめきだした周囲の男達という奇妙な状況に、お互いが膠着状態へと陥る。

 そこへ間延びしたような呑気な声が私達の耳へ届いた。


「おまわりさーん。こっちですこっちー。かわいい女の子たちが怖い人に絡まれてまーす」

「げっ……! 警察か!」

「チッ! や、やってらんねえよ! さっさと逃げるぞ!」

「ほら、早く行こうぜマーくん!」

「お、おう……」


 及び腰だった男達はちょうどいい切っ掛けを与えられて、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 しかし、マーくんと呼ばれているリーダー格の男だけは動きが鈍い。

 まるで猛獣を前にして、相手を刺激しないように後ずさるような……そんな緩慢な動きだった。

 そして、彼の視線は私の腕の中に居るレイちゃんへと注がれている。



「――何を見ている。()ね」

「ひぃっ!?」


 次の瞬間、緊張状態に耐えきれなくなったかのように、男は転げるように逃げ出した。

 彼に向けてレイちゃんの唇が、声を発さずに動いた気がしたのだが……


「ユリちゃん。守ってくれてありがとう」

「う、ううん。そんなこと……」


 ふにゃりと安心したように微笑む彼女の顔を見て、私の小さな違和感は掻き消える。なんてことはない気の所為だったのだろう。

 気が抜けて座り込みそうになってしまった私の肩を、背後から伸びてきた両腕が支える。

 その感触に振り返ると、そこには青い瞳でこちらを覗き込む新城さんの姿があった。


「やっ、レイコもユリも災難だったね」

「あっ、新城さん。そっか、さっきの警察を呼んでいた声は新城さんだったんだね」

「まあ警察云々はハッタリだったんだけどね。上手くいって良かったよ」


 そんなことを言いながら笑う新城さんに、私とレイちゃんは顔を見合わせて苦笑してしまう。


「しっかし、音虎はちょいちょいこういうトラブルに巻き込まれるよな。そういうフェロモンでも出してんのか?」

「神田くん酷い! 私だって別に好き好んで巻き込まれてる訳じゃないのにっ!」


 神田くんの言葉にレイちゃんが憤慨していると、立花くんが割って入り二人の間を取り持つ。


「まあまあ。とにかく、二人に何も無くて良かったよ」

「うん、ユウくんも助けてくれてありがとう。すっごくカッコよかったよ!」

「あはは、惚れ直してくれたかな?」

「うんっ! 私もユウくんに負けてられないなぁ……決めた! 今日は私もユウくんを惚れ直させるからっ!」

「そういうのって宣言するものなのかな」


 ……そんな仲睦まじい様子の二人を見て、私の心に暗い炎が灯る。

 私だって、レイちゃんを守ろうとしたのに。


 ……いや、結局は私も立花くんに助けられたのだ。

 自分の好きな子の恋人に、守られてしまったのだ。

 その事実に、屈辱と恥と情けなさと……女の身体という、どうにも出来ない現実に対する怒りが込み上げる。


 私が男の子だったら、さっきのトラブルだってもっと上手く解決出来たのかな。

 レイちゃんと、友達ではない違う関係を築くことも出来たのかな。


「――白瀬さん?」

「………………えっ? た、立花くん?」

「ああ、ごめん。何だかボーっとしてたから……あんな事の後だし、どこかで少し休もうか?」


 裏表なく私を心配している様子の彼に、私は理不尽な敵意を抱いてしまった事を恥じた。

 立花くんはすごく良い人だ。レイちゃんの恋人が彼で良かったじゃないか。


「ううん、平気だよ。ホッとしたら気が抜けちゃっただけだから」


 そうだ。

 私みたいな根暗で卑しい人間なんかじゃなくて、彼がレイちゃんの恋人で……私は本当に、良かったと……


「あっ! ユリちゃん、そろそろ電車の時間だよ!」

「えっ……あ、うん。そ、そうだね」


 レイちゃんが私の手を引いて前を歩き出す。

 その白くて柔らかい手の感触に、醜い感情を抱いてしまう自分が本当に惨めで……


「……レイちゃん」

「ん、どうしたのユリちゃん?」

「わ、私……私ね、レイちゃんと遊びに行けて嬉しい。一緒の時間を過ごせるのが、本当に嬉しい」

「えぇ~? もう、急にどうしたの?」

「レイちゃんは、その……私と一緒に居て、楽しい?」


 試すような、縋るような言葉。

 私のそんな曖昧な問いかけに、彼女は天使のように無垢な笑顔を浮かべて答えてくれた。


「うん! ユリちゃんと一緒に居るとすごく、すっご~~く……



 愉 し い よ ? 」


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