第2話 踊るdie捜査線
朝飯前というかお昼時といった感じで海賊たちをぱぱっと片付けたあたしは、さらに西の港町行きの辻馬車を探してふよふよと歩いた。
リベルスカは都市と言えど小さな島国のようなもので、外周を港町と商業地帯が覆い、中部は草原と居住区、聖堂や墓地などが点在している。地図屋の受け売りだけど。
街の門をふよっと飛び越えると馬車の停留所らしき看板が見える。おっ、思ったより早く見つけたぞと気持ち早足で駆け寄った。他の馬車は出払っているらしく、停まっているのは一台だけだ。都会仕様の全面鉄で覆われた馬車じゃなくて、主に商人や農家が荷物を運搬するための座り心地より荷台のスペースを優先された馬車。都会の馬車がタクシーならこれはヒッチハイクで捕まえたジャガイモ盛り盛りの軽トラみたいな。御者らしきおじさんが荷台を整理している。
御者さんはあたしをみるとぎょっとして目を見開いたものの、隣町まで乗せてもらえることになった。
ゴーストは長らく昇天できないでいると正気を失い、あたたかい血を求めて人を襲うようになるので警戒されるのは当然だ。確かに死んでからやけにあたたかいものが恋しい気がする。でも耐えられないほど寒くはないし、闇属性魔法を殆ど習得しているあたしなら自分のコントロールくらいはおちゃのこさいさいなのだ。影の収納といいゴーストになってからの身の振り方といい、チートと言うほどではないけれどかなり便利に暮らしていると思う。
丁度良く屋根のある場所を探して、出来るだけ日陰に入るようにして荷台の淵に腰かけた。かっぽかっぽというお馬さんの足音をぼーっと聞きながら目の前に広がる風景を眺める。夏場の港町は活気に溢れていたが、少し内陸へ逸れればのどかな草原が続いている。流通の為に道はレンガで整備されていて、すぐ脇には運河が流れている。お日様が緑を輝かしく照らしていて、とても平和だ。あー、体があったら絶対あたし寝てる。さて、そろそろ本でも読むか……と影に手を突っ込んだところで、おじさんが口を開いた。
「嬢ちゃん、そんな若さで死んじまうたあ難儀だなあ。事故かなんかかい?」
「そ~なんですよ。フリント大陸に旅行に行っていたんですけど、運悪く落石があって。故郷に帰ろうとしても、やっぱりこの姿だとちょっと敬遠されてしまうみたいで」
「俺にも嬢ちゃんくらいの娘がいてな。ちょっと色々考えちまったよ」
なるほど、何も言わずにあたしを乗せてくれたのはそういうわけか。ずいぶん気のいい人だ。馬車が葬式みたいな空気になりそうだったので、あたしはとびきり明るい声で答える。
「でも、おじさんみたいないい人に乗せてもらえたので、最後に両親に顔を見せられそうでよかったです」
「……そうかい、早く顔見せてやんな」
背後からズビッと鼻を啜る音がきこえる。あたしの話は今夜あたり酒の肴にされるんだろうなと思いつつ、うーん、と心の中で唸った。自分が騙している側といえ、おじさんが良い人過ぎて心配だ。この世界では一部を除いて人間の命は結構軽いものである。魔物や夜盗なんかに狙われたらひとたまりも無いだろう。あたしはこれくらいなら許されるだろうと馬車に魔法をかける。これで中級くらいのモンスターなら寄り付かない。人間相手はまあ頑張ってください。
死んだ人間が生きている人を助けるのは、なんとなく自分の中でいいことのようには思えない。
かといって恩義ないしは罪悪感を覚えた相手に報いる気持ちがないほど、ひとでなしではない。ひとでないけれど。やんわりと周囲と自分の間に一線を引いてしまうのは昔からの癖だけれど、この感覚に、自分の中で明確なルールをまだ決められていない。さっきだって、アルラに助けてもらっていなかったら、海賊たちを自分から捕まえようとはしなかったと思う。多分。
助けたいものは助ける、ってすごくいいことだけれど、それを際限なくやれるほどあたしはもう心が若くない。あたしが本当の意味で女子高生だったのは遠い昔の話なのだ。それに、生者が死人に頼り切りになるのもよくない。死んでいるからこそもう死なないあたしは、ある意味での不死身だ。死なないものに守られ続ける安心感の中で生きることは、人間にとって停滞だと思う。
それに、死後も意識があって誰にでも見えて会話が交わせるのは、長い目で見たら人間が生きている意味が無くなってしまうような気がする。それは人間の記憶や人格をAIだとかロボットだとかに移し替えるSFみたいな、そんな感じ。あたしはそれがなんとなく不健康な気がしている。それは、あたしが人間の心だとか魂だとかに価値を感じているからなんだろうけど、逆に言うと人間と他の生き物の差ってそこなんじゃないかと思う。
そんなことをぼんやり考えながら買ったばかりの本を開く。夏の日差しは眩しく紙を透かし、頁の繊維が透けて反対側の文字が見えた。読みづらいけどこれも旅の醍醐味だ。荷台の奥に座り直す。かっぽかっぽと一定のリズムで響く音がやさしくて心地いい。あの、あれ、近くで太鼓とか楽器が鳴ってるとおなかのそこに響くみたいなそんなかんじのやつ。あたしは気分がよくなって、お行儀悪く足をぶらぶらさせて読書に耽った。こっちの魔法体系はやっぱり神話が元になっていない分あたしが知っているものと大分違う。いやあ本当に魔法面白い。魔法最高。
この世界で身一つで生きていくしかなかったあたしにとって、観劇や音楽会にお金を使っている余裕は無かった。最期まで観たら普通に3時間はかかるし。言っちゃ悪いが展開も読めまくり既視感ありまくりの王道ばかりだった。それが悪いことじゃあないけど、そのためだけに使うお金と時間が無かった。その点魔法は知るほどに新しい発見があって、何より武器にも防具にもお金にもなる。
あいつを殺すためだけに闇属性の魔法をとことん極めようとしたけど、他の属性の魔法を本格的に学んでもいいかもしれない。
指先に小さな火を灯したり水の玉を出したりして遊んでいると、馬車の速度が緩んでいることに気が付く。やがて馬車はゆるりと停まった。
「どうしました?」
「うおっ!」
にゅっと荷台に頭を突っ込んで上半身だけを御者台に出す。これは効率的なショートカットだ。脅かしたいとかそういうわけでは決してなく。ほんとだよ?
「いや、リベルスカ自警団の方々が早馬に乗ってるもんだから道開けないといけなくてなあ」
「はあ」
早馬ということは急ぎの用事ということだ。早馬と道が被った時、貴族が乗っていない限りは道を譲るのがマナーらしく、まあ救急車みたいなもんである。
すぽんと荷台の壁を抜けて後ろを振り返ると、確かに帯剣した強そうな人たちが馬に乗って駆けて来ている。なるほど、あの障泥に縫い付けられた刺繍が自警団の紋章なんだな。船を象っていてあの街らしい。おそらく日差しから身を守るためだろう。麻で編んだフード付きのローブを頭から被っている。砂漠か?と思ったけど、麦わら帽子じゃ飛んでっちゃうもんね。
全部で5人くらいいるけど、さっきの事件で怪我人でも出たのだろうか。或いは捕まえた海賊の中に大物がいたか。あたしを討伐しに来たのかとも思ったけど、多分アルラがいい感じに収めてくれているだろう。
興味を失くしたあたしは再び荷台に戻り、ごろんとお行儀悪く横になり――――
「そこの馬車、失礼」
「えっ!?」
―――勢いよく飛び起きた。
「おじさんなんか悪いことしたの?」
「嬢ちゃんこそ悪さしたわけじゃねえべな!?」
「してないよ!多分!」
ぎゃいのぎゃいの言っているうちに自警団の人達はあっという間に馬車に追いつき、御者のおじさんはひっと縮こまった。善人だが小心者らしい。よかった、小心者は長生きするよ。あたしは指先に少しだけ魔力を纏わせて、もしものときに備える。それからいかにも余裕そうに脚を組んで、相手が先に馬を降りるのを待った。この世界ではペコペコしたら負けなのだ。
先頭のリーダーらしい男が馬を降りて、後列も続くように馬を降りてあたしの方へ迷わず近づいてくる。目的はやっぱりおじさんじゃなくてあたしらしい。
その中に、周囲より明らかに背の小さい人間がいて目を引かれる。あれ、どう見ても子供じゃん。驚きは微塵も顔に出さないで、余裕ですよーってニコニコしながら自分の両ひざに肘をついて待っていると、誰よりも先に子供がフードに手を掛けた。一体どんな奴が―――あれ、アルラだ。
「アルラ?」
「シグレ!ごめん、あの後、どうしても自警団でお礼がしたいって話になって、団長と父さんたちとで追いかけてきたんだ」
「まじで?」
「ああ、あなたがシグレ殿か。アルラから話を聞いてね。恩人に報いないわけにはいかないと探していたのですよ。私はリベルスカ自警団団長のフーガという者です」
フーガと名乗った団長らしき人も続いてフードを取って挨拶してくれた。金髪というよりは柔らかなクリーム色の毛が日光に煌めいている。つり目がちだけど表情が柔らかくてそんなにきつい印象はない。なんていうか港町の自警団っぽくない所作と言葉遣いだ。どっちかというと騎士って感じ。
でも、わざわざお礼を言う為だけにこんな人数で来るわけない。対してアルラはわざわざあたしを追いかけてきたからかちょっと気まずそうにしてる。なるほど?アルラだけは含みなくあたしにお礼をしようとしてるわけだ。じゃあきっぱり断るのはかわいそうだからやめておこう。あたしはにっこり笑って、やんわり断ることにした。
「帰郷する道中ですのでお気になさらず。故郷で両親が待っていますので」
「え?余生を楽しむって言ってたろ」
おい!余計な事を言うな!御者さんもえ?みたいな顔してるじゃん!
頭の中でアルラの胸倉を掴みながら、そんなことも言ったかもね~とお茶を濁しまくる。フーガさんはアルラの発言については言及することなく続ける。
「ではご両親にお土産を用意しますよ。行きつけの酒場に、良い酒があるんです」
「うちの親お酒飲まないんですよ~」
「ふむ。では食料はどうでしょう。リベルスカの食事は絶品ですよ」
「うちの親食事取らないんですよ」
大嘘である。修行僧か?
あたしの両親は酒カスパチカスヤニカスの役満フルハウスだったし、そもそもこの世界であたしが親と再会することは叶わない。後ろでアルラの「嘘つけ!」という声が聞こえるけど無視無視。
全く引き下がってくれないので食事もとらず暖も取らず服も着ない悲しきクリーチャー会話の中で爆誕してしまった。これがモンスターペアレントってやつか。傍で聞いてた他の団員さんも"団長がフラれるなんて珍しいこともあるもんだ"って笑っちゃってるし。たまりかねたのかアルラがあたしの手を取ろうとする。けれどその手はするりと通り抜けて、あたしのふとももあたりをひっかいた。アルラは眉をしかめて口を開く。
「シグレ、そんなに急ぎなの?」
「だってまたリベルスカに戻るんでしょ?馬車代もったいないんだもん」
これは事実だ。馬車の行き先はリベルスカの反対側で、決して近くはない。おそらくリベルスカ自警団の管轄外の土地だ。この人たちが街を離れるわけにいかないだろうから、もしあたしが何かしらの歓待を受けるならリベルスカに戻らなくてはならない。御者のおじさんもお金をもらいはぐれるんじゃないかって顔してるし。
「ああ、それくらいならこちらで持ちますよ」
「だって」
そう言ってフーガさんは金貨を布で包み御者に渡した。どう考えても多過ぎだけど、ここまでされて騒ぎ立てたら目立ちたくなくて去った意味が無くなる。おじさんの金貨もとりあげられちゃうかもしれないし。仕方ない。
「民謡や叙事詩に興味があるので、それらに詳しい人を紹介してくれるのであれば」
フーガさんの表情がぱっと明るくなる。一安心といったようなかんじ。やっぱりなんか企んでるな?まあ、面倒ごとに関わらないといけないなら自分から飛び込んだ方が美味しい思いも出来るというものだ。
どこに行けばいいのか聞くと、自警団が懇意にしている酒場で宴を開くから、それに参加してほしいとのことだった。アルラを残して、先に自警団の面々は宴の準備をしに早馬で帰っていく。一応打ち解けやすいようにと気を回してくれたのだろう。かぽかぽと荷台に揺られながら、のんびりと空を眺める。気が付けば夕方だ。
アルラの乗ってきた馬は馬車に繋いで、あたしとアルラを運んでくれている。名前はユシカというらしい。確か、聖樹の葉のことをユシカっていうんだっけ。御者さんがこりゃあ賢い馬だとこぼしたのを聞いて、上機嫌そうにしている。そうだ、道中はアルラをからかって時間を潰そう。
「アルラ、アルラ」
「ん?」
「面白い話して」
「ハードル高……」
「道中つまんないと帰っちゃうかもよ?あ、でも面白すぎたら昇天しちゃうかも」
「本当にハードル高いな!あとあんまりそういうこと言うなよ!」
「そういうこと?」
「その、自分の死で冗談言うの。おまえは平気かもしれないけど、よくない、と思う……から」
ええ?ブラックジョークはあたしの十八番なのに。と返すとアルラはまごつきながら膝を抱えた。言葉尻がすぼんでいるのは、それがキミの主観からくる主張だということをわかっているからだよね。あたしが平気な事を、キミが平気じゃないから。だから止めさせたいけど、正当性のある、止める理由がないから。
本当に不器用でいい子だ。でもあたしは悪い子だから突然神妙な顔をされるともっとからかいたくなってしまう。
「アルラって今いくつ?」
「なに?14だけど」
「ッカー!若いっていいな!」
「そういうシグレは?」
「18だよ。享年だけど」
「おまえなあ……」
「年上におまえなんて言っちゃいけないんだよ?立派に街を守るんでしょ~?」
「う……いつか追い越すし」
「うんうん、その意気だよ。アルラがうーんと長生きして、あたしよりずっと大人になったら言うこと聞いたげるよ」
「そのときおまえいるのかよ」
「わかんね!昇天も悪霊化もせずにその辺漂うのがどんだけ難しいと思ってんじゃい」
「ふうん……そもそも、なんですぐ昇天しようと思わなかったんだ?故郷に帰るっていうのは本当なのか」
「どれが本当だと思う?」
返答に困ることは、質問に質問で返すのがあたしの悪癖だった。キミは訝し気に口を結んで、不機嫌そうにあたしを見る。じゃあ、これだけは教えてあげよっかな。
「はじめに言った通り、知りたいからだよ」
「……知りたいから?」
「あたしの知ってる宗教の殆どでは、幽霊は存在しないことになってるんだよ。神霊とか精霊、妖精は別ね。国ごとに言葉のニュアンスが変わるけど、死者の霊魂が残留したものという意味での幽霊。ゴースト、アンデッド、しかばねの同胞」
「リベラ教では、死んだら審判が下って、善人は神様のいる永遠の国で暮らすっていうのは知ってるよね。それから東の方で信じられている宗教では、霊魂不説って言って、死んだら輪廻転生、生まれ変わって別の存在になるという考えで、亡霊だとか幽霊だとか呼ばれる存在は認めてなかったの」
「あたしが知っている中で、宗教として幽霊の存在を肯定しているのは、あたしの故郷で信じられていたものくらいしかない」
「……だから故郷に帰りたいのか?」
「どうだろうか?でもひとつ確かなのは、この世界には神様が間違いなく実在していて、この世界の殆どで権威を振るうリベラ教に幽霊の概念は無い。でもモンスターとして出現するゴーストのことをこの世界の人間は認知している」
「じゃあ、あたしはなんだろな?」
「それを知りたい。じゃないとあたしは眠れない。」
つい興奮して話し過ぎてしまった。でも、全部本当のこと。折角死んだのだから、死んでいないとできないことをやってみたい。日本にいた時のあたしが苦しい時に、寄り添ってくれたのはフィクションだった。くそったれな現実から逃げるにはお菓子も化粧品も力不足で、つまりは頭の中に天国を作るしかなかったのだ。そしてそれを、実際に試して検証できる機会がやってきたら、手を伸ばすのは当然のことだ。
「……難しい話はよくわからない」
「わかって欲しくて言ったわけじゃないから。わかるときが来るならあたしと話が合うかもね」
「おまえっていつもそうなの?」
「あー、またおまえってゆった!」
そうこうしているうちに、昼間ぶりの街の門が見えてきた。門番が二人ほど立っている。昼間は一人だったのに、と飛び越えた門の外壁を見上げる。空はすっかり夜を迎え入れていて、ちらちらと星が見える。この世界にも宇宙があるんだなあ。
「シグレ、昼間に傘出したみたいにローブとか作れる?」
アルラが目で門番を指した。ああ、夜間は門の警備が強化されるのか。付き添いがいるとはいえモンスターを街に入れてくれるわけがないってことね。おっけー、そういうことなら任せとけ。ちょっと疲れるけど幻術の魔法を指先から纏わせるようにかけていく。水分を失った皮膚はハリと艶を取り戻して、額もふっくらと質量を持っていることだろう。開いた瞳孔もきちんと生前のものにもどして、青白かった頬は花が咲いたように血色をよくする。仕上げに半透明だった脚もしっかり健康的な透明度に戻して完了だ。実際に身体を作ったわけじゃないから触れると透けるけど、門をパスするくらいなら問題ないだろう。
「ど?」
「……それができるなら昼間からそうしろよ」
「すごく疲れるし、触れる訳じゃないからね!」
「うおっ」
そう言って右の拳を相手の腹にめがけて突っ込む。当然透けるのでアルラはお腹を冷やして終わった。
***
「ヒュー!シグレちゃんもう一回魔法見せてー!」
「おっしゃ!任せとけ!」
「すげえ~!」
あれだけ宴会への参加を渋ったくせに、いざ酒場へやってくるとあたしはそれはそれはもうその場に馴染んでいた。
ここはラインズの酒場といって、自警団の人達が懇意にしている酒場らしい。2階が居住スペースになっていて、家を持たない漁師の寮のようなものの役目を担っているそうだ。あたしが皆を助けたって話が伝わっていたようで、特に疎まれることも無く席に着くことが出来た。
民謡や叙事詩に詳しい人、ということでフーガさんが吟遊詩人を呼んでくれている。おかげで面白い話や興味深い話を沢山聞くことが出来たし、音楽のおかげで漁師や自警団の人達は大いに盛り上がっている。あたしはこういう場はわりと好きなほうなので、手のひらから影で出来た蝶や鳥を生み出して店内を飛び回らせた。ワアっと歓声が上がって、盛り上がりは最高潮になる。さあ、話すなら今かな。
「それで?本当はあたしをどうしたいんですか」
あたしはフーガさんの目の前の席にどっかりと座って脚を組む。周囲はおしゃべりとお酒と歌に夢中で、団長の前に陣取ったしかばねに全く気付いていない。
「ああ、全てお見通しですか」
「全てじゃないけど。お礼だけじゃないだろうな~とは思いましたよ」
「いやはや、返す言葉もない。恩人であるシグレ殿に更に頼み事をしようというのですから」
「それは、わざわざ呼びつけてまでしないといけないことで、あたしにしかできない頼み事?」
「ええ、手練れの魔法使いだと伺っております。」
「ふうん」
どんなお願い事をされるのかな。暗殺とかじゃなきゃいいけど。
やけに神妙な顔でフーガさんは口を開いく。
「少しの間、リベルスカを海賊から守ってはいただけませんか?」