表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

7

「やっぱレンおかしいって!」


リョータが叫んだ。


「居ないやつのことなんか追っかけらんねぇじゃん!何が、ユキがまだ捕まってない、だよ!ユキって守屋のことだろ?ユーレイでも見えてんの?ちげぇよな?」


「リョータ、やめなよ。レンは、だって、まだ」


今にも殴りかかりそうなリョータをアキが必死に抑えている。

レンも必死に震える拳を抑えている。一触即発といった雰囲気。


そんな殺伐とした雰囲気にも関わらず、ユキは遊具の上で文字通り高みの見物と決め込んでいる。


「ユーレイってなんだよ!ユキは生きてるだろ!」


その言葉を聞いて、リョータは振り上げていた拳を力なく落とした。


キーンコーンカーンコーンと間延びした、5時を知らせるチャイムが遠くで鳴る。


「ショックだったのはわかるけどよ、そこまで忘れちまうわけ……?」


俺、帰るわ。リョータは呆然とした様子で公園を後にする。


レンはポカンと口を開けたまま、その姿を見送った。意味が分からない、と言うようにアキに目線を戻した。


ぱちりと目が合う。アキの体が少し強張った。


「……僕も帰らなきゃ」


作り笑いを浮かべると、そそくさと歩き出す。


すると、公園の出口前で足を止め、振り返った。


「僕たち、レンを心配してるんだ!それだけは忘れないでね!」


そう大声で言うと、ぐるっと出口へ向きなおり、走って帰ってしまった。



──────


「オレたちも帰ろうぜ、ユキ」


二人が完全に見えなくなった事を確認し、ユキを見上げる。彼女は依然、遊具の上で楽しそうにレンを眺めていた。


ふと妙な違和感を覚えた。彼女は、こんなふうに笑うっけ?


その違和感を拭い去るように、話題を変える。


「リョータったら、バット忘れて帰ってやんの。あいつんち遠いし、明日でいっかな。電話しとけばいいよね」


リョータの忘れたバットを手に取る。プラスチックでとても軽い。


ユキは相変わらずそこから降りてこようとせず、ニヤニヤと笑っている。


「ねぇ、レン。何も思い出さない?一か月前のこの時間」


「ユキ……?」


「あの日、私になんて言ったか、覚えてる?」


夕闇に紛れて、ユキの周りに黒い渦のような、煙のようなものが纏わりついている。やっぱり、何かがおかしい。


「ねぇ、思い出してよ?その後、何が起こったかもさ」


ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべたまま、ユキだと思っていた何かが話しを続ける。


「そうだ、ユキは、あの日」


あの日、些細な事で喧嘩したんだ。なんでだっけ。リョータに、そうだ、リョータにからかわれたんだ。付き合ってるんだろーって。それで、オレは……、オレは……なんて言ったんだっけ?


「オレは、こいつなんかって言って。ただの幼馴染で、付き合うとかありえねぇって……それで……」


「こんな女、嫌いだって言ったよね?」


ユキの身体を割って、何かが出てきた。身長は2mをゆうに超えて、遊具の高さを超えてしまった。そして化け物のような何かが近づいてくる。


そこで我に返った。


「ユキに……ユキに何をした!!」


「いやだなぁ、私がユキじゃん」


黒い渦から、ふふふ、と鈴が転がるような笑い声が聞こえる。


「それに、私は何もしてないよ」


レンは、リョータが忘れていったプラスチックのバットを固く握った。


「ねぇ、レン。仲直りしよう。握手、そうだ握手がいいよね」


そう言うと、黒い渦がグーっと伸びる。


「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


バットを振りかざし、ブンッと風を切る音がした。ドンッという衝突音と共に、感触が伝わった。奴に当たった。その衝撃でバットは砕け散る。


「なにをするの、レン?」


傷を受けた様子もなく、ユキの声をした渦が言った。渦は徐々に人型へと形を変えていく。


「なんで……」


絶対に当たったのに。レンはその場に崩れ落ちる。


「バットで殴るなんて、ひどいよ」


悲痛な声がする。聞きなれた、幼馴染の少女の声。それが、禍々しい黒い渦を纏った人型のなにかから発せられている。


「化け物のくせに……。ユキの声で喋るな!!!」


涙が滲む。汗が噴き出す。

違う、ユキは生きてる。心のうちからそんな声がする。

耳鳴りがする、息がうまくできない。


「アナタの大好きなユキちゃんはもういないから、私が代わりになってあげたんじゃない。でもね、そろそろおなか一杯だから、メインディッシュを頂こうと思って」


黒い渦はまるで少女のような身振りで喋り、うふふ、と笑い声をあげる。

しかし、人型の黒い渦に、口はない。


「それに、ほら。もう黄昏時だから」


口はないのに、ニタァと、殊更気持ち悪い笑みを浮かべたように見えた。太陽はいつの間にか沈んでしまったようで、周りはもう、薄暗い。


だって、さっきまで一緒に遊んでたのに。おかしいじゃないか。 昨日だって、その前だって、一緒に。……あぁ、違う。それは、ユキじゃない。だって、ユキは、あの日。


これは、オレへの罰だ。明日謝ろうと思ったのに、ユキは居なくなった。明日でいいやって、思っちゃったんだ。


「フフッ。おいしく頂いてあげるわ」


化け物はレンに向けてその腕を伸ばす。ようやく、顔の部分に口が現れ次第に大きく開かれた。


 ユキ、ごめん。

レンは、静かに目を瞑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ