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6

「鴻上は、本当に、何かの犯罪に巻き込まれているんでしょうか」


教室を出て、玄関への道すがら担任は口を開いた。


時刻はまだ5時だというのに、もう誰の気配もない。


「すみません、まだ捜査中ですので……」


苦々しくそう言うと、担任はそうですよね、と力なく笑った。


その時、西願の足が止まった。目線はまっすぐとある教室に向いている。


5年4組の教室の端、一つの机に小さな花瓶が置かれ、花が生けられていた。


「あれは、誰か亡くなったんですか?」


顔も目線も、花から動くことはない。


「あぁ、夏休み中に事故で。他クラスなのでフルネームまでは把握してないんですけど…守屋という女子児童です。職員室に行けば、詳しくわかると思いますが」


「いえ、結構です。すみません、急用ができましたので、これで失礼します」


西願はそう言うと走り出した。

廊下は走らない、という力強い文字だけのポスターが目の隅に入った。


走りながら電話をかける。3コールすると相手は出た。


「あさみちゃん?至急調べてほしい事があるんだけど、いい?…鴻上レンの同級生に夏休み中に事故で……そう!それ!……明星にも送っといて!」


通話が終わると同時にメールが届いた。死亡事故の被害者、守屋についての資料だ。


──────


集合場所である学校に戻る道すがら、あさみから資料が届いた。


ちょうど、クラスメートのリョータとアキ、両名に話を聞いたあとだった。


それに目を落としながら歩いていると、前方100m先の交差点で、スピードを落とす事なく、もの凄い勢いで進入してくる赤い車が見えた。スバルのBRZ。西願の愛車だ。


キキ―ッとかん高い急ブレーキ音と共に俺の真横に車が止まる。


「資料は車に乗ってから見て頂戴。とりあえず自宅に向かうわ」


ハイ!と元気よく返事をし、 慌てて西願の車に乗り込むと、シートベルトをかける。と同時に資料を開く。


「まだ読めてないから、事故の概要だけでも読み上げてちょうだい」


「うっす。事故は8月14日18時頃、居眠り運転による信号無視の車に撥ねられ即死。場所は被害者宅付近の公園近くの交差点」」


アクセルが踏まれると、重力を感じる。


「今日でちょうど1か月……。急がないと出るわね」


「法定速度内でお願いします…!!」


普段は冷静沈着、むしろ冷徹に感じる彼女だが、ひとたび愛車に乗ればスピード狂と化す。むしろ、スピードを出したいからこその車なのだろう。


このスポーツ車の速度が上がっても乗りこなす程度の運転技術はある。あることにはある。なんせゴールド免許保持者だ。ただ、スピードが出ると、資料を読んでなくとも確実に酔う程度には、運転が荒い。


酔いませんように、と祈ると再び資料に目を戻す。被害者の名前をみて、悟った。

これだ。これをきっかけに、魅入られたのだ。


「被害者は、守屋もりや 美幸みゆき、11歳」


「そう。彼女が《ユキ》なのね……」


「あ、この事故現場付近の公園!そういえばそこで友達と遊ぶ約束した、って言ってました」


「じゃあ公園行くわよ!!」


そう言うや否や急カーブで右折。もしかしたらこの人、ドラフトも出来るかもしれない……と思いつつ、今日も生きて帰れますように、と祈った。



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