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「鴻上レンくんですか。いい子ですよ、成績もいいし。少し理屈っぽい所があるので、生徒同士だと合わない子もいるみたいですけど、浮いているわけでもありません。休み時間も仲のいいメンバーで、時々僕も誘われてサッカーやってますし、活発な子です」
西願は鴻上レンの担任から話を聞くべく、学校へと向かっていた。
案内されたのは、鴻上レンの学ぶ5年2組の教室。教室の後ろには、夏休みの宿題だったという絵が飾られている。鴻上レンは、自分含む4人で野球をしている絵を描いたようだった。メンバーには、ポニーテールの少女と思われる人物が描かれている。
担任は30代前半の男性。真新しい指輪が左手薬指で光っている。スーツにジャージを羽織っており、体育系である事が伺える。熱心な人、というのが学校側の評価で、生徒にも慕われているようだ。
「最近、彼になにか変わった事はありますか?なんでもいいんです、些細な事でも」
そう言うと、担任は少し考え込んだ。
「そうですね……。夏休み前と比べると、なんというか……少し明るくなったように感じますね。前が暗かった、というわけじゃないんですけど」
担任の眉が寄り、唇が真一文字に結ばれた。絞り出すように、それから、と続けた。
「休み時間に独り言というか、誰かがいるように振舞うようになりました。」
これだ。西願の姿勢が少し前のめりになる。
「いつごろか、わかりますか?」
「いやー、流石にそこまでは」
なぜこの話題に食いつくのかわからない、という戸惑いが見えた。すみません、と軽く頭を下げる。
「いえ、こちらこそすみません。……その誰かの名前ってわかりますか?」
「えーっと、なんだったかな……。はっきりと聞いたわけではないのですが、たしか……ユキ、と」
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公園の入り口に3人の人影が見えた。レンは、とっさに自分が最後だと悟る。
「ごめん!遅くなった!」
そういうと3人は同時にこちらを見た。中でもリョータはもの凄く不満だと顔で物語っていた。彼は何も言わずに、再び視線を一つの看板に戻す。
いつの間にか、公園に球技禁止の看板が新しく立ったらしい。
「んだよ!せっかくバット持ってきたのに!」
「仕方ないじゃん、リョータがホームラン打って、小さい子に当たりそうだったんだもん」
少女がそう言って肩を竦めた。レンは短く
「ユキ」
と諫める。
「この間はサッカーだめって言われたしね…」
「あれはアキくんがノーコンだからじゃん!花壇荒らしてくれちゃってさ」
尚もユキがブーブーと文句を垂れる。
見かねたレンが、どうする?と声をかけた。
「仕方ない、高オニしようぜ!遊具誰も使ってないし!」
リョータが名案とばかりに声を出す。
他のメンバーも賛同したのか円になり、最初はグー!と元気な声が、広い公園に響いた。
まだ4時を少し回った所だというのに、彼ら以外に人はいない。