表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

4

放課後、レンはいつもの二人に少女を加えた4人で帰宅する事が増えた。


5年生という割には少し体格がいいリョータと、気が弱いけど優しいアキ。そして、ポニーテールが似合う幼馴染の少女・ユキ。


「一回ウチに帰ったらさ、公園で遊ばねぇ?この前バット買ってもらってさー野球しよーぜ!」


リョータが意気揚々に言った。その隣を歩いていたアキがいいよ、と言う。


「オレも行くよ。ユキは?来る?」


「当ったり前じゃん!行くに決まってる~!」


そのとき、リョータとアキが少し怪訝そうに顔を見合わせた。


「なぁ、レンあのさ、お前……」


「リョータ!」


アキがリョータの声を遮る。


「ぼ、僕たち、こっちだよ。じゃあ、またあとでね、レン。」


リョータの手を掴み、交差点を左に渡っていく。


「あ、おぉ、また公園でなー!」


戸惑うようにリョータは別れを告げた。


「リョータ、何を言いかけたんだろうね?」


「最近、あの二人おかしい気がするんだよな……。なにがって言われてもわかんねぇけど。ちょっとよそよそしいっていうか、なんか隠してるのかな……」


ユキは、ふぅん、と興味なさげな相槌を打った。


先ほど話題に出た、交差点の角に位置する公園に差し掛かる。滑り台などの複合遊具と、砂場、ブランコ、そして少しのグラウンド。周りは緑に囲まれ、ベンチがいくつか置かれているそばに、小さい花壇がある。


「じゃ、レンまたあとでね!」


「おう、またな!」


そう言って、ユキと別れた。

公園の角を曲がって、ユキと正反対の道を行く。2つ目の角をさらに曲がると、ふいに声をかけられた。


「鴻上レンくん?」


振り向くと、金髪で背の高いスーツを着た男が立っていた。


すぐさまランドセルにつけている防犯ブザーを手に取り、ピンを外した。途端にビーッビーッとけたたましい音が鳴り響く。


「わー!!!ちょ!待って待って!けーさつ!こう見えても警察官なの!!!」


今にも防犯ブザーを遠くに投げようと投球体制を取っているレンに対し、慌てて胸ポケットから警察手帳を出して見せた。


「西願さんの言う通り、首から下げておけば良かった……」


手帳を掲げたまま、がっくりと項垂れている明星を尻目にブザーを投げるのを止める。


「ヤクザのしゃてーじゃないのか…」


と、怪訝そうな顔つきのままピンを元に戻した。防犯ブザーの音が止むが、防犯ブザーは握りしめたままだ。


「あぁ、舎弟ね、よく言われるよ……」


 はぁ、と大きな溜息が出る。

 明星は改めてレンを観察した。資料や自宅に飾ってあった写真と変わらない。至って普通の小学生男児。髪は短く、身長も体格も平均値。


「じゃあ、組織犯罪対策課の刑事さん?」


明星の細く長い目が、少し縦に開いた。


「詳しいね、すごい。けど、違うよ」


「そうなんだ、残念だなぁ……。暇か?ってコーヒー飲む課長とかいないの?」


「残念だけど居ないんだよー」


「そっかぁ……。母さんがドラマの再放送見てるんだけどね。刑事さんは見た事ある?面白いよ?」


少し笑って大ファンだよ、と言うと少し緊張が解けたようだった。


「組対の人じゃないなら大変だね、苦労してるでしょ」


 子供に気を遣われるとは……。内心ではがっくりと肩を落としていた。しかし、尚更、なぜこの子が魅入られているのか理解ができなかった。聡明な子ほど、現実がよく見えているものなのだ。

 気を取り直して、本題に入った。


「俺は明星叶夢。とある事件を追ってるんだ。」


相棒と一緒にね、と付け加えると彼の目が輝いた。期待に添えたようでなにより、掴みは良いだろう、と胸を撫で下ろす。


「鴻上レンくんで、間違いない?」


そう聞くと、力強く頷いた。


「さっき、公園の前で別れた子は?」


「ユキだよ。保育園の時から一緒なんだ。クラスは違うけど。女子だけど野球とかサッカーが上手でね、最近は毎日一緒に遊んでる。」


「最近、なにか変わった事あった?」


なんでもいいんだけど、と言うとうーん…と考え込んだ。


「友達が、最近おかしいんだよね。ユキとは別の子。同じクラスのリョータとアキ。なんかオレに隠してるみたいっていうか…」


最適な言葉を探しているようだった。自分の知っている言葉を総動員で探って、やっと出てきた言葉だった。


「やっぱなんて言えばいいかわかんないや。でも、そんな感じ。ごめんなさい。事件とか全然関係ないよね。オレの悩みって感じだ。でも、もういい?家に帰ったら公園行かなきゃいけないんだ。遊ぶ約束してるから」


「おぅ、話聞かせてくれてありがとな」


「明星さんもがんばってね~右京さんによろしく!」


と、元気よく走って去っていった。


……俺の相棒は君らより少し年上くらいにしか見えない女性だよ、なんて言ったらガッカリするのかな……。

そう思うと、少し気が重くなった。が、いやいやと、首を振り気を取り直す。

西願へ報告せねばいけない。これで確信が持てた。


彼は、虚者に魅入られている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ