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放課後、レンはいつもの二人に少女を加えた4人で帰宅する事が増えた。
5年生という割には少し体格がいいリョータと、気が弱いけど優しいアキ。そして、ポニーテールが似合う幼馴染の少女・ユキ。
「一回ウチに帰ったらさ、公園で遊ばねぇ?この前バット買ってもらってさー野球しよーぜ!」
リョータが意気揚々に言った。その隣を歩いていたアキがいいよ、と言う。
「オレも行くよ。ユキは?来る?」
「当ったり前じゃん!行くに決まってる~!」
そのとき、リョータとアキが少し怪訝そうに顔を見合わせた。
「なぁ、レンあのさ、お前……」
「リョータ!」
アキがリョータの声を遮る。
「ぼ、僕たち、こっちだよ。じゃあ、またあとでね、レン。」
リョータの手を掴み、交差点を左に渡っていく。
「あ、おぉ、また公園でなー!」
戸惑うようにリョータは別れを告げた。
「リョータ、何を言いかけたんだろうね?」
「最近、あの二人おかしい気がするんだよな……。なにがって言われてもわかんねぇけど。ちょっとよそよそしいっていうか、なんか隠してるのかな……」
ユキは、ふぅん、と興味なさげな相槌を打った。
先ほど話題に出た、交差点の角に位置する公園に差し掛かる。滑り台などの複合遊具と、砂場、ブランコ、そして少しのグラウンド。周りは緑に囲まれ、ベンチがいくつか置かれているそばに、小さい花壇がある。
「じゃ、レンまたあとでね!」
「おう、またな!」
そう言って、ユキと別れた。
公園の角を曲がって、ユキと正反対の道を行く。2つ目の角をさらに曲がると、ふいに声をかけられた。
「鴻上レンくん?」
振り向くと、金髪で背の高いスーツを着た男が立っていた。
すぐさまランドセルにつけている防犯ブザーを手に取り、ピンを外した。途端にビーッビーッとけたたましい音が鳴り響く。
「わー!!!ちょ!待って待って!けーさつ!こう見えても警察官なの!!!」
今にも防犯ブザーを遠くに投げようと投球体制を取っているレンに対し、慌てて胸ポケットから警察手帳を出して見せた。
「西願さんの言う通り、首から下げておけば良かった……」
手帳を掲げたまま、がっくりと項垂れている明星を尻目にブザーを投げるのを止める。
「ヤクザのしゃてーじゃないのか…」
と、怪訝そうな顔つきのままピンを元に戻した。防犯ブザーの音が止むが、防犯ブザーは握りしめたままだ。
「あぁ、舎弟ね、よく言われるよ……」
はぁ、と大きな溜息が出る。
明星は改めてレンを観察した。資料や自宅に飾ってあった写真と変わらない。至って普通の小学生男児。髪は短く、身長も体格も平均値。
「じゃあ、組織犯罪対策課の刑事さん?」
明星の細く長い目が、少し縦に開いた。
「詳しいね、すごい。けど、違うよ」
「そうなんだ、残念だなぁ……。暇か?ってコーヒー飲む課長とかいないの?」
「残念だけど居ないんだよー」
「そっかぁ……。母さんがドラマの再放送見てるんだけどね。刑事さんは見た事ある?面白いよ?」
少し笑って大ファンだよ、と言うと少し緊張が解けたようだった。
「組対の人じゃないなら大変だね、苦労してるでしょ」
子供に気を遣われるとは……。内心ではがっくりと肩を落としていた。しかし、尚更、なぜこの子が魅入られているのか理解ができなかった。聡明な子ほど、現実がよく見えているものなのだ。
気を取り直して、本題に入った。
「俺は明星叶夢。とある事件を追ってるんだ。」
相棒と一緒にね、と付け加えると彼の目が輝いた。期待に添えたようでなにより、掴みは良いだろう、と胸を撫で下ろす。
「鴻上レンくんで、間違いない?」
そう聞くと、力強く頷いた。
「さっき、公園の前で別れた子は?」
「ユキだよ。保育園の時から一緒なんだ。クラスは違うけど。女子だけど野球とかサッカーが上手でね、最近は毎日一緒に遊んでる。」
「最近、なにか変わった事あった?」
なんでもいいんだけど、と言うとうーん…と考え込んだ。
「友達が、最近おかしいんだよね。ユキとは別の子。同じクラスのリョータとアキ。なんかオレに隠してるみたいっていうか…」
最適な言葉を探しているようだった。自分の知っている言葉を総動員で探って、やっと出てきた言葉だった。
「やっぱなんて言えばいいかわかんないや。でも、そんな感じ。ごめんなさい。事件とか全然関係ないよね。オレの悩みって感じだ。でも、もういい?家に帰ったら公園行かなきゃいけないんだ。遊ぶ約束してるから」
「おぅ、話聞かせてくれてありがとな」
「明星さんもがんばってね~右京さんによろしく!」
と、元気よく走って去っていった。
……俺の相棒は君らより少し年上くらいにしか見えない女性だよ、なんて言ったらガッカリするのかな……。
そう思うと、少し気が重くなった。が、いやいやと、首を振り気を取り直す。
西願へ報告せねばいけない。これで確信が持てた。
彼は、虚者に魅入られている。