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第7話

朋美さんもまた、視線を下に落として恥ずかしそうに微笑んでいた。


「鈴木…さん?あの…」


僕はお互いの沈黙を打ち破って切り出した。


「あの…どうして…どうしてそれを聞いて来たんでしょうか?僕は…あの…凄く恥ずかしいです…」


朋美さんが僕にカミングアウトさせたんだから、何か言ってくれないと凄く気まずいよ~…きっと朋美さんは、僕の気持ちに気づいていたからそんな質問してきたんでしょう?なのに…どうして黙って何も言ってくれないんですか?そのとき朋美さんが


「ごめん、あの…凄く嬉しくて…」


凄く小さな声で朋美さんがそう言った。


「鈴木さん…もしかして…僕の気持ちを…」


僕は知りたかった。朋美さんが僕のこの淡い恋心に気づいていたのか…もし気付いていたとしたら、いったいいつから?


「鈴木さん?」


何も言わない朋美さんが何を考えているのか気持ちがわからず再び朋美さんの顔を覗き込んで


「実は僕…」


そう言いかけたとき朋美さんが僕の言葉を遮って


「和ちゃん…ありがとう…凄く嬉しい…まさか、和ちゃんの親とほとんど変わらないおばさんに…そんな嬉しい言葉をかけてくれて…」


そう言ってまた黙りこんでしまった。結局朋美さんは僕のことをどうみてるんですか?自分だけ僕の気持ちを言わせて…朋美さんの気持ちは教えてくれないんですか?やっぱり僕は男としてはってことでしょうか?そんなのズルいですよ…僕は気持ちを伝えたのに…どうしていいかわからず、僕は


「あの…明日は絶対出勤してくださいね!鈴木さんに会えるのを楽しみにしてますから!」


僕はクルっと振り返り、玄関のドアノブに手をかけて外に出る。


「鈴木さん…あの…お休みなさい…」


そう言って小さく手を振りゆっくりドアを締める。朋美さんも最後まで何も言ってはくれず、小さく手を振って微笑みながら見送ってくれるだけだった…ドアを閉たその瞬間、僕は物凄い後悔をしたことに気づく。それは…番号を聞くのを忘れていたことだ!そうだ!またとないビッグチャンスだったのに…もし、ここで番号を聞いておけば、これからプライベートで何かと接点を掴みやすいのに…もう一度チャイムを鳴らして聞こうか…でも、結局は朋美さんの気持ちは聞けずじまい…気まずいまま出てきたのに、もっと気まずい空気になってしまうだろうか…優柔不断な自分に嫌気がさすが、なかなか勇気が出ない。これまでの人生で彼女など一度も居なくて、恋愛経験0の僕には女心などまるっきりわからない。僕は諦めてそのまま帰ってしまった。朋美もまた、和也のカミングアウトを受けたのに、何も気持ちを言えず番号交換すら出来なかったことに後悔していた。実は朋美は、実際体調は万全ではなかったのもあったが、この日も休むことによって和也の気持ちを探るつもりだったのだ。もし、何も言わずに休めば、和也はまた心配して来てくれるかもしれない…もしそうなら、二人きりになるきっかけが作れて今日のこのシチュエーションが生まれる。そんな考えがあったのだ。そして、和也のカミングアウトを受けたとき、自分の気持ちを和也に打ち明けようと考えていた。が、しかし…土壇場になっていろんなことが朋美の頭の中をよぎり、ついにそのチャンスを潰してしまったのだ。親子ほどの歳の差…そのハードルは朋美にとってあまりにも大きな壁だったのだ。朋美は、もうけっこう前から和也の自分に対する視線に気付いていた。しかし、和也の真意まではわからない。そして、朋美も知らず知らず和也をただの可愛い若い子という認識から、望んではいけない願望へと変わっていた。


そんなこととはつゆ知らず僕は


「何で朋美さんは僕の気持ちを言わせるだけ言わせて何もいってくれなかったんだろう…」


帰りの車の中で一人ぼやいていた。でも、もし朋美さんと番号交換出来たとして…やっぱり朋美さんは僕のことを恋愛対象とは見れないって言われたら、それこそ蛇の生殺し状態で余計に辛くなるかも…それに、例え恋愛対象と言われたとして、実際この歳の差で付き合えたとしたら?話は合うんだろうか?世界観は全く違うんだろうか?人生経験も恋愛経験も乏しい僕には、この歳の差の淡い恋心の終着点はどこに行き着くのか全く想像も付かない。ああなんだろうか、こうなんだろうかと、僕は勝手に思いを巡らし一人悩んでいた。しかし人間というのはいくら歳をとっても本質は変わるわけではない。人生経験などから、考え方や価値観は少しずつ変わることはあっても、持って生まれた性格は決して変わらない。歳を重ねた朋美からすれば、いくつになっても自分が若い頃と変わらない感覚でいる。しかし、まだ若い和也にとっては朋美は遠い存在のような感覚なのだ。完全に負い目を感じるのは朋美であり、和也からすれば手の届かないような距離感…それが二人の障害として歯車を狂わせている。

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