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誕生秘話

 さて。まずは大前提から始めよう。

 汎銀河交易連盟に所属する各惑星及び、星を代表する知性体。大部分を占める炭素生命体であれ、なかなかお目にかかれない珪素(けいそ)生命体であれ、その発生にはいくつかの条件があった。地熱や電離放射線といったエネルギー源。水やそれに類する流体資源など。数え上げればきりがないが、その中の一つに周期的環境というものがある。

 (ごく)短期的なもので言えば惑星の自転による昼夜。衛星による海面潮汐。長期的なもので言えば公転運動による日照時間の変化から寒冷期と温暖期といった気候変動まで。文明は初期から、必ず暦が作られているし、これが惑星外にまで進出した文明なら言うまでもない。いきなり宇宙空間に飛ばされたあげく、そのまま漂流生活を続けているクミルーク人のような例外を除けば、どこの星でも毎年カレンダーが発行され、現地の人間は商取引やデート、原稿の〆切りや借金の返済日を記して一喜一憂している。

 要するに、各惑星ごとの新年を祝う催し事は銀河ではありふれたものであり、大晦日と呼ぼうがニューイヤーイブと呼ぼうが、公転周期到達近似値と呼ぼうが年末の忙しさは変わらない。

 次は経済の話に移る。

 惑星モルクスは辺境の、言ってしまえばド田舎の星だ。

 連盟加入は現地暦でちょうど99年前。主要産業は農業、というか農作物しか売るものがない。他星からの食習慣も熱心に取り入れ、在来種、外来種問わず品種改良に努めてきたモルクス食品の品質はそう悪いものではない。しかし、いかんせん経営戦略やブランド発信力が弱かった。これがボードアのように鎖星してほぼ内需で完結しているような星ならいざしらず、「良い物さえ作れば売れる」と明後日の方向へひた走ってきたモルクスは順調に貿易赤字を垂れ流し、わずかな資源も農作物と一緒に買いたたかれ、若者は故郷を見限って銀河中央に職を求めている。

 ここに至って、ようやく重すぎる腰を上げたモルクス星府は、打開策として連盟加入100周年記念を利用した新年食事会を企画した。駐在している各惑星外交官へ手当たり次第に声をかけ、大使、大臣、著名人に来賓出席を求め、大手星間企業の重役にも招待状を送っている。食事会のキモはなけなしの予算を使い、銀河の反対側で店を構える有名シェフに依頼作成してもらった、モルクス食品尽くしの特別レシピ。ビシュラン3つ星のネームバリューにただ乗りして、モルクス食品の品質と魅力を広く認知させようというわけである。

 と、ここまではいい。

 まずかったのはレシピの受け取り方法であった。

 確かに超光速圧縮暗号通信はべらぼうに高い。しかし辺境星系のローカルな食品限定レシピなど、誰が欲しがるというのか。一般通信を使えば済む話なのに、セレモニーの一面もあるとして、モルクス側が指定したのは物理メディアで記録のち、厳重な暗号封印処理(シール・パッケージ)を施しての機密指定配送だった。さらにまずかったのは、検索トップに踊りでた「安全・迅速・丁寧」を(うた)う業者に依頼したことだろう。この手の検索で最初に引っかかるのは、広告費に予算を振り切った勘違い企業か、サギ集団かに決まっている。

 もっとも、そいつらだって非合法なアルバイトばかりに精を出しているわけではない。運が良ければ、嘘のように長い追加経費の請求リストと引き換えに、モノは確保できたかもしれない。しかし「星の命運を担う機密情報なので、くれぐれも確実に」と念を押されては、これはもう何かの前フリかと疑ってしまう。銀河ネットのバラエティ番組でもここまでは露骨ではない。「押すなよ! 絶対押すなよ!」というやつである。


 早い話、レシピは悪徳業者によって持ち逃げされてしまった。




 それを聞いたとき、カイサは頼んだことのない出前先のチラシを見比べて、昼は何を食べようか迷っていた。もう何年も昔のことのように思える、昼時のモルクス星府星間外交部催事課。

 連盟保安機構だって、たまには仕事をする。

 持ち逃げ発覚と、まれに見るスピード逮捕。同時に届いた二つの知らせは、なんとも言えない微妙な空気を課内にもたらした。喜べばいいのか狼狽すればいいのか。落ちる夢から覚めたような動揺と、冷や汗混じりの安堵感に引き裂かれ、誰もが先に動いたらやられる、とばかりに周囲の出方を伺った。号令を出すべき課長はと言えば、停止信号を打たれた販促機械(マネキン)のように身動き一つしない。

 だから私は反対したのに。そう思ったが今さら言っても仕方ない。無関係を決め込むわけにもいかずにカイサは口を開いた。

 ――えー、とりあえず、レシピを頼んだシェフのところへ事情説明。一般通信でレシピの元データを再送してもらうようお願いしてください。あと、連盟保安にも連絡して、押収品の確認と必要な手続きを聞きましょう。

 再起動した課長が「どうしてお前が仕切る」という目つきで睨みつけてきたが、当然無視した。だったらお前がやれよ、という話である。物理配送を強硬に主張したのは課長で、実際に手配をしたのは新人で、確認したのは同僚の指導係だ。反対したせいで外されたカイサは、来賓の宿泊先や案内にまわされて配送業者の名前も知らなかった。

 まだ手に持ったままのチラシに目を落とし、このトラブルで発生した諸々の残務処理の手間を考え、うんざりした記憶がある。そろそろ新規開拓を考えていたのに昼抜きかー。そんなことを考えていた。

 甘すぎた。

 長閑(のどか)に嘆いていられた自分が、今となっては死ぬほど懐かしい。もはや最後に腹に入れたのは何かも思い出せず、日々食事をしてきたという事実は冗談としか思えず、「料理」などというシロモノは0と1で構成された架空の産物に過ぎない。

 真夜中。

 モルクス星府星間外交部催事課、改め敗戦処理課の人気のないオフィス。

 カイサ18・トト・ベントは、今日もひとり、泊まり込みで仕事を続けている。以前はなかった「臨時課長補佐」という意味不明な肩書がついている。

 デスク備え付けの端末からA・L・Dエア・レーザー・ディスプレイの枠を周囲に何枚も立ち上げ、感圧式キーボードに指を走らせている。使えそうな情報を片っ端からピックアップ。適当に組み上げた追跡プログラムをランして、一次情報まで遡り、データを吸い上げる。

 ALDに映されているのは『食品業界の最前線 変わるフードトレンドを追え!』『その調理法間違ってません?』『ジムール産食用草本に秘められた有効成分!』『個性豊かな有機化合物。あなたのお好みは?』と料理、食材、調理法、レシピに関するあれやこれ。

 外交部催事課を混沌に叩き込んだ、もう一つの知らせから五日目の現在。

 新年会のメニューはまだ決まっていない。

 

 レシピを作成した(くだん)のシェフが、名前の公表を禁止した。


 聞けば配送業者が捕まった場所に問題があるらしい。厳重な暗号封印処理といってもあくまで陽の当たる側の話であり、グレーゾーンまで出向けば、その程度の暗号はマイクロ秒で解凍する連中がいくらでもいる。業者が持ち込んだのはそんな専門家の一人だ。本物のお宝情報なら黙ってネコババしたに違いないそいつは、中身を見るや位置情報をタグ付けして、報奨金目当てであっさり連盟保安機構に密告し(チクっ)た。

 業者が捕まったのは、専門家の隠れ家(ねぐら)から一番近い宇宙ステーションの、一番ガラの悪い安酒場の片隅で、一番でかいALDモニターにレシピを表示しながら、モルクス星とシェフの名前を大声で罵ってヤケ酒を浴びてる最中だったという。

 理屈はわかる。

 目撃者は数知れず、どいつもこいつも捕まった業者とさして変わらないゴロツキ連中ばかりだ。こんな愉快な話を黙っているはずがない。安酒場の端末にロクな通信防壁も期待できず、その気になれば情報は抜き放題。例え現場にいなくても、面白がった誰かが『イエロー・ページ ズボラ主婦特集。意外に簡単? そうは見えない手抜きレシピ』に投稿するという可能性も、まあないとは言えない。

 見上げたプロ根性と言うべきで、シェフは名前を出さないからには、レシピに関する一切の権利を放棄すると宣言した。精魂込めて試作した料理の数々だが、破棄するも変更するもそちらの自由である。もちろん味に自信はあるのでぜひ貴星の役に立ててくれれば嬉しい、と。

 まさか味より肩書きが重要だったと言うわけにもいかず、あの手この手で翻意を促そうとした担当者にシェフの追撃。しかしレシピ作成の契約は完全に果たした。配送を手配したのは貴星であり、こちらに一切の非はない。報酬はもちろん満額で頂戴する。

 そう言った通りビタ一文まからなかった。見上げたプロ根性である。

 金は出したのだからシェフの意思など無視して公表してしまえ。部内にそんな意見がなかったわけではない。しかし、イメージアップを目的とした新年会が、訴訟沙汰になってしまっては本末転倒である。

 かくして、モルクス星府の手元には使い切った予算と「味に自信あり」のレシピだけが残った。それをもって来賓の舌を満足させつつ、モルクス食品をバカ売れさせ、農家の期待に応え、経済を立て直すという使命を果たさなければいけない。

 無理。

 新人は続報の翌日から出勤していない。指導係は失踪先から退職願をメールしてきた。シェフの説得に失敗した係長は、心労で倒れてそのまま入院した。課長は連日朝から上役会議に出向き、辞書が作れそうなぐらい多彩な比喩表現で「自分は悪くない」と繰り返し主張しているが、カイサは腹も立たない。どうせ会議に出席している全員が、頭の中で課長の肩書に「元」を付けて弁明を右から左に聞き流しているに決まっている。そう思うのだった。

 普通、公式の会食ではメニューの考案から調理まで公邸料理人が行うし、モルクス星府にも複数人いる。

 もちろんカイサも最初、彼らに相談しに行った。

 そして、にべもなく断られた。

 総料理長が留守である。

 今回、メニューは外部からのレシピ通りに作れば問題ないということで話はついていた。

 よって、そちらが指示したアレンジと変更のみ行う。

 以上が彼らの言い分だった。

 嘘に決まっていた。

 いや、確かに総料理長は夫婦で銀河周遊旅行に出かけていて留守だったし、レシピについても話はついていた。勉強になりますと感謝さえされていた。しかし3つ目に彼らの本音が透けて見える。

 怖いのだ。ビシュラン3つ星レシピの「アレンジ・変更」を前に料理人全員腰が引けていた。そのまま出せばいいではないか。会食の成功以上の成果を求められても責任が取れない。

 お前らのヘマをこちらに押し付けるな。彼らの目がそう語っていた。

 ――わかりました。変更案は追って伝えます。ただ、実際の調理過程での不可欠な修正は、そちらで責任を持って行ってください。

 責任、にアクセントを置いて返事したのが精いっぱいの嫌味である。

 レシピ使用に関するいざこざは、光の速さで庁舎内を駆け巡り、新年食事会の扱いは失敗確定の、キャリアを粉砕するブルドーザー級のヨゴレ案件と化していた。進んで関わろうとするモノ好きはそうはいない。他課の人間は外交部ならではのフットワークでいち早く別惑星に離脱し、他部署では他人事の気楽さで賭け金が飛び交っている。「成否」では賭けが成立しないのか、賭ける対象は「失敗」か「それ以外のすべて」である。現在のオッズは1/508。

 仕事しろ仕事。

 こちらのヘマ、という意見には反論の余地はないとカイサは思う。

 しかしこの企画は本来、外交部はおろか、星府全体で取り組むべき問題のはずだ。実家が農場経営のカイサにとっては他人事ではない。料理人の前から(きびす)を返したその足で、庁内ギャンブルの胴元の元へ押しかけ「それ以外のすべて」に貯金全額を突っ込んだ。

 無理でもやってやる。そう思っていた。

 大逆転は高望みだが、成功寄りのイーブンくらいにするつもりだった。見てなさいよクソ、ケツの毛までむしり取って吠え面かかせてやるから。

 キーを叩く指に、思わず力が入る。ここ数日で十年は劣化したキーボードは、日に日に反応が鈍くなり、苛立ったカイサはますます乱暴に扱うという悪循環に陥っていた。そろそろ寿命を迎えるだろうがカイサは気にもしない。どうせ誰もいないのだから、壊れれば別のデスクからパクればいい。調子よくキーをがしがし叩き続け、

 不意に耳元から聞こえるアラームに、指が止まった。

 アラームはカイサにしか聞こえない。

 と言っても、疲労とストレスから、遂に幻聴が始まったわけでもない。体内に走らせている維持管理系モジュールが、脳の一次聴覚野に直接干渉して聞かせる「適切な栄養補給を怠っている」という警告信号だ。網膜投影で赤色のウインドウが表示され、スクロールするエラーメッセージが視界を覆い尽くす。現時点の血圧・心拍・代謝状況。臓器の活動報告。20時間後、50時間後、70時間後に予想されるダメージと生存確率。最後に「1時間以内に栄養補給を行いますか? 了/否」の問い。

 ため息をついて、カイサはキーボードから手を離した。そのまま懐をまさぐり、使いまわしてるせいで雑菌汚染ばりばりの、防疫課に見つかったら滅菌焼却間違いなしのカートリッジ式注射器を取り出す。横着して尻尾で引き出しを開けて、中から濃縮多糖アンプルの買い置きを探る。

 なかった。

 1カートンはあったはずなのに、いつ使い切ったのかまるで思い出せない。

 視線で「了」をポイントすればウインドウも消えるし、アラームも止む。そのまま作業を続けることもできるが、半年に5回以上警告をもらえば「不適切な労働環境」として労基から部署トップへの通達が自動発信され、本人も出勤停止処分。同時に庁舎の端末全てへのアクセス制限がかかる。カイサはこの五日間ですでに4回。リーチである。

 疑似情報(ダミー)を流す。あるいはモジュールエラーをでっち上げて、警告自体が誤報だったと誤魔化すことはできる。しかし万が一発覚した場合、衛生課に拉致され、全身麻酔のうえ三日間点滴を打たれ、四十日間の強制カウンセリングののち、半年の減俸という噂だ。

 そこまでのリスクは冒せない、と思う。今までの苦労が水の泡だ。

 ひとまずの目途はついた、とも思う。

 決めた。「了」をポイントする。

 注射器をデスクに放り出し、ALDは開きっぱなし、引き出しも開けたままでカイサは立ち上がる。現金なもので、今までどの星のどんな料理を見ても反応しなかった胃袋が、五日ぶりの活躍の機会に獰猛な唸り声を上げる。





「とりあえずビール」

「もう。――うちは定食屋じゃないんですからね」

 そう言いながらも、シヴィは備え付けの冷蔵庫から軽酩酊性飲料(ビール)を出してくれる。続いてお通し代わりの小鉢まで渡されるが、別にツッコミ待ちではない、いつものやりとりだ。

 簡単なものしかできませんよー、と冷蔵庫の中を見ながら言うシヴィに、量があれば何でもいいと応えながら周囲を見渡す。

「しっかし相変わらずカオスねー。またなんかガラクタ増えた?」

 庁舎の食堂や売店は当然閉まっていた。

 軌道エレベーターと直結している外郭通りまで出れば、営業している飲食店も多いが、あそこには色とりどりにイルミネートされた映画のスクリーン並みに巨大なALDが、新年へのカウントダウンを表示している。この状況であんなものを目にしたら、間違いなく自分は死ぬと思う。

 特定領域研究室は、庁舎別館の地下四階にある。れっきした星府所属の機関なのだが、初めて訪れた人はまず信じない。滅亡文明の遺跡画像がALDであちこちに積層表示されている。互換性がないはずの情報端末や記憶媒体がでたらめに接続され、床をのたくっているケーブルの横に見事な工芸品が転がっているかと思えば、ショーケースに鎮座しているのは誰が見てもただの石だ。簡易テントがなぜか屋内で展開され、部屋の隅には大型冷蔵庫と調理器具一式。バーカウンターまでしつらえてある。

 そのカウンター席にカイサは座っている。歴代の室長がせっせと部屋を改造していった結果らしいが、なぜ設備管理課に目を付けられないのか、前々からのカイサの疑問だった。考古学専攻の、発掘調査を行う変人学者様なんてこんなものと半ば諦めているのかもしれない。

 そして現在の室長、シヴィ54・ぺぺ・キルザップは同郷であり、幼年学校の後輩だったりする。ほとんどここに住んでいるような有り様なので、カイサも仕事が遅くなった際、ときどき押しかけてメシをたかっている。

「先輩こそ、相変わらず文化を見る目がありませんね。そんなんでメニューの考案なんてできるんですか?」

 聞こえないふりをしてビールをあおる。小鉢の中身、ホプマンソの煮物に口をつけた。

 美味い。しみじみ美味い。泣きそうになる。

 シヴィは背中を向けて調理を始め、左右にゆれる尻尾が聞いてくる。

「で、どうなんです?」

「なにが?」

「だからメニューですよ。どうするつもりなんです?」

 その話題まだ続くのか。

 気分転換もできないとカイサはややげんなりする。しかし後輩なりに心配してくれているのだろうと思い直して、できるだけ事務的に告げる。

「――例のレシピはできるだけ流用。調理法や味は変えない。効果的なハッタリっていうかキャッチ―な売り文句を考えて、それに合わせて見た目だけ変える」

 尻尾の揺れが止まる。シヴィの呆れたような声。

「なんか……ふっつーですね」

 カイサは憮然として、

「あんたは、星府組織の意思決定というものをわかってない」

 同様に、大騒ぎしてたったそれだけか、と思われた諸氏のために説明しておく。そもそも、いち職員に過ぎないカイサが決定権を握っているという事態が異常なのだ。責任は取りたくないが口は出したい。上層部にはそんな輩は腐るほどいる。時間も予算もない現実を無視して、新たに有名シェフに依頼しろという者。格段に劣るBプラン、内輪で行った前回のメニューでいいではないかと言い出す者。当初からいた反対派、そら見たことか新年会自体中止しろと勢いづく者。

 カイサの苦戦苦闘の五日間は、決定権を得るための五日間だったと言っても過言ではない。臨時課長補佐という聞いたこともない役職を受け入れたのも、そのためだった。疫病患者のように避けられつつ、決済者を追いかけまわして必要なサインをもらい、上層部を宥めすかし、ようやく元の道筋に戻したわけである。

「はい。お待ちどおさま」

 できあがった料理が眼前に置かれた瞬間、懊悩(おうのう)も遥か彼方まで撤退して、カイサの全身は胃袋閣下に乗っ取られる。指揮官の号令一下、突撃を開始する。

 貪り食うカイサを横目に、自分の分のビールを手に取って、シヴィの再びの疑問。

「そのままじゃダメなんです? 美味しいんですよね」

 カイサは掻っ込む手も止めずに、

「むぐ、美味しいよ。ふぇもダメ」

「どうして?」

 カイサはしばし無言で食べ続ける。半分平らげたあたりで、撤退した理性も戻ってきた。

 どう言えばいいのか。

 宙に彷徨わせた視線が、食べかけの皿の前で止まる。炒めピルトー。休日の昼にどこかの家庭で必ず出される、えーまたこれー、と子供が文句を言うような、この星では知らない者はいない定番料理だ。

「例えば……えー、あんたのメシも美味しい」

 シヴィはてれてれ。

「……ありがとうございます。おかわりあります」

「でも美味しくても学校給食のメニュー出すわけにもいかないでしょ? 意外に美味しかったねーで終わって先が続かない。食べてみたい買ってみたいのハードルを越えるのはインパクトが要るの。知名度のある人間が考案したとか、この銀河で初とかの話題性が」

 あくまで可能性の話だが、某シェフのレシピとして公開できていれば、なにかしらの反応は期待できた。食べてみたいと思う人も、大部分は手近な食材を使うだろうが、「レシピに忠実」にこだわる人も一定数いたはずである。ゆくゆくはシェフ監修と銘打って「簡易版」のできあい製品販売も考えていた。

 今となっては、全てがむなしい。

 納得したのかしなかったのか。シヴィは手にしたビールを一口すすって、しばらく考えこんだ後、ぽつりとこぼす。

「――なんか、悪質なセールストークみたいですね」

「商売なんてそんなもんでしょ」

 カイサは動じない。空になった皿を突き出して、おかわりを要求。

 再びの突撃。


 ようやく人心地つき、軽い酩酊感も手伝って、幸せな眠気が手招きしている。しかしここで朝まで眠っては洒落にならない。壁に固定表示の、年期が入りすぎてノイズが走るようになったALD時計に目を走らせる。

 27時40分。もうすぐ日付が変わる。日付が変われば大晦日だ。

 シヴィがカイサの視線に気づいて尋ねる。

「いつまでが期限なんです?」

「明日の10時」

「で、決まりそうです?」

「正直、煮詰まってる。――でも朝までには決めるよ。要は見た目とコンセプト。それに付随するストーリーだから、最悪、来賓への料理紹介に間に合えばいい」

 いいのだが、

 思わずため息。

「でもねー、一日100時間ある星がマジで羨ましい」

「あーいっけないんだー。先輩それ差別発言ー」

 シヴィは嬉しそうに指摘する。

 惑星モルクスの一日は28時間である。これは銀河標準から見ると、短いとも長いともいえない微妙な部類に入る。動的知性体への、星の自転速度を揶揄(やゆ)する発言は「せっかち」や「とろい奴」という意味合いも持ち、差別表現として交易連盟憲章第なん条だかで禁止されているが、もちろん誰も守ってはいない。

 うつらうつらと船をこぎ出したカイサをよそに、シヴィはうんうん偉そうに頷いて、やおら張り切った声を出した。

「わかりましたよ! 先輩!」

 びっくりして我に返ったカイサは思う。なにが?

「それであたしのとこに来たんですね!」

 どれで?

 カイサが本気で戸惑っているのに気づいて、シヴィの声がいくぶんトーンダウンする。

「――だ、だから、あたしのアドバイスが欲しくてここに来たんですよね」

「いや、ご飯食べに来たんだけど」

 意味がわからないまま本音で返すと、シヴィはぷんぷん怒り出した。

「えー、先輩ひっどーい!」

 ひどいと言われても。

「人の歴史は文化の歴史。歴史と言えば考古学。誰も知らない料理といえばあたしですよ。先輩だって今までのあたしの実績知ってるでしょ?」

 知ってはいる。

 特定領域研究室は、他惑星の滅亡文明を調査するのが仕事だ。そしてシヴィは発掘した資料をもとに、その星の料理を再現する趣味を持っていた。この女、料理の腕はピカ一なのだが、再現にあたっては味付けから原材料まで「レシピに忠実」に行うので、舌に合うどころか消化できるかすらあやしい。再現料理片手のシヴィに捕まった不運な職員は、試食と感想を求められ、特領研のギャンブルクッキングと言えば、若手職員の度胸試しに使われていたりする。

 うん。やっぱりいらないと断ろうとして、カイサは不意に思いとどまる。

 ちょっと待て。意外にいけるかもしれない。

 考えてみれば、材料はモルクス産で、味は保証付き。必要なのは見た目と宣伝文句だ。滅亡文明のメニューを再現、はまずいのでイメージした料理の数々。どこの星にも歴史好きは一定数いるし、在りし日の文明をしのぶとか過去に思いを馳せとか、売り込みの口上も色々思いつく。星の知名度や見た目のインパクト、変わった言い伝えなどあれば、来賓の興味もかなり引けるかもしれない。

「――ごめん。参考にできる資料があれば、紹介してくれると助かる」

 カイサの言葉にシヴィはあっさり機嫌を直し、手元に端末を引き寄せながら

「最初から素直に言ってくれればいいのに。頼れる後輩がいて、先輩は幸せ者ですね」

「そうね。実際、参考になればね」

「うまくいったら、なんかお礼をもらわなきゃいけませんねー」

「そうね。うまくいったら」

「今後、あたしのことは、さん付けで呼んでください。あと敬語使え」

「調子に乗んな!」

 けらけら笑うシヴィの指が、キーボードの上を踊る。大き目のALDが表示されて、

「じゃーん! 4000年前に滅んだパーパス星の宮廷料理です。綺麗でしょう?」

 確かに綺麗だった。一見、料理とは思えず、なにかの芸術作品のように見える。網状の繊維でゆるく囲われた内側で、半透明の膜に包まれた食品が不規則に宙を漂っている。網は一瞬ごとに色を変え、光を反射し、虹色にきらめいている。

「これはですね。膜と網に秘密があって、同じ植物の繊維が使われているらしいです。お互い反発したり、触れると色が変わるんですって。面白いですねー」

「うんうん。それで、どうすれば真似できるの?」

 先を促すカイサの声が、興奮のあまり上ずる。これはアリだ。見た目も美しいし、なによりパーパス星といえば素人のカイサでも耳にしたことがあった。滅んだ原因は不明だが、交易連盟以上に進んだ文明を持っていたと噂され、その発掘成果はニュースサイトのトップを飾ったこともある。

「えーと、パーパス星固有の植物らしいので、今は手に入りません。でもサンプルが発見されれば、それを遺伝子解析して…」

 最後まで言わせなかった。

「うちの食品使うって言ってるでしょ! しかも明日期日! おちょくってんのお前!?」

 ちょっとうっかりしてただけですよー、とむくれるシヴィ。画像が切り替わる。

「じゃあこれはどうです? 2000年前に滅んだノークリフ星の晩餐形式。通称タウワ積み」

 高い。

 色とりどりの料理が高く高く積み上げられている。インパクトは十分だが、ひとつ、

「どうやって食べるの? これ」

「上から摘まんでいくんですよ」

「念のため聞くけど、ノークリフ星人って身長どのくらい?」

「そですねー。個人差もありますけどあたしたちの10倍くらいですけねー」

 カイサは吠えた。

「なぁにが頼れる後輩よ! 使えねーな!」

「ひどッ! 本気で酷い!」

 ショックを受けるシヴィに、カイサは目も向けない。カウンターの内側にずかずかと上がり込んで、冷蔵庫からビールを取り出して一息にあおる。人に頼ろうとした自分が愚かだった。メシも食ったし、さっさと仕事の続きに戻ろうと決意する。

「じゃあね、ごっそーさん」

「待って! これ、こんなのどうです? 個人的に調べているんで、まだ星の公式名称もないんですけど…」

 出口に歩き出したカイサに、シヴィは慌てて声をかける。

「約1万年前に滅んだ42番惑星の、一部地域で食べられていた新年の幸福祈願呪術料理!」

 聞くも怪しいその響きに、思わずカイサの足が止まる。

 振り返った先、ALDには黒い箱のようなものが表示されている。遥か大昔、ホモ・サピエンスを自称していた異星人の、弧状列島の住人なら蒔絵(まきえ)の重箱だと見抜いただろうが、もちろんカイサにはわからない。

「じゅじゅつー? なにそれオカルト?」

 銀河にもオカルトは存在する。滅亡文明の呪いとか幽霊宇宙船の噂話とか。しかし半ば面白がって語るならともかく、本気で信じて料理までこさえるとなると普通にひく。どれだけ未開だよと思う。

「大体なにその箱? 携帯食料?」

「いえ、箱に収めるのに意味があるみたいですよ。画像に比べて言語データは欠損も多くて、翻訳も不完全なんですが。―――中身はこんな感じです」

 ALDが複数展開される。

 広げられた箱の中身は、なるほど食べ物に見えなくもない。いくつかは、生物の姿をそのまま模していて少々不気味だが、文化の違いというやつだろう。

 知らずにカイサは席に戻り、話を聞く態勢になっている。シヴィの説明も興が乗る。

「この料理はですね。恒星最接近領を名乗る地域で、毎年新年の祝いで食べられていました」

 じべたに張り付いていただろうに、大層な自称である。

「それぞれの料理に呪術的効果があるらしくて、例えばこれ。原料は手に入らないので、味と食感だけのモドキ料理ですが、実際に作ってみました。――どうぞ」

 目の前に差し出されたのは、黄色い扁平型の未知の物体。

 原料はモルクス産という言葉を信じて、恐る恐る口を付ける。ひとつの固まりに見えたが、小さな粒の集合体らしい。カリカリした食感。塩気が効いている。

「――まあ、悪くないかも。で、実際なんなのこれ? 果物の塩漬け?」

 シヴィがにやりと笑って告げる。

「それはですねー。本来なら、海洋生物のお腹から取り出した卵です」

 むせた。

 身振りで新しいビールを要求して、渡されたそれを一気に喉に流し込む。シヴィは悪戯が成功したように笑い転げている。

 ようやく息を整えたカイサは、いつまで笑ってやがるとシヴィを睨みつけて、

「卵? 本物の? タンパク質の培養は? 合成装置があるでしょ」

 汎銀河における食用タンパク質は基本合成物である。肉、魚といった言葉も一部では残っているが、あくまでフレーバーに過ぎない。

「研究はされていたみたいですけど、まだ実用段階じゃなかったみたいですねー」

 端末を覗き込んで応えるシヴィ。喉の奥でまだ笑っている。

 合成装置実用化前の文明なんてカイサには想像もできない。やはり裸で火の周りを踊り狂ってたりしたのだろうか。やだ怖い。

「文明レベルは? 航空機くらいは飛ばせたの?」

「いえ、少なくとも第三段階の中期です。衛星に基地建設も始めていたようですよ。色々アンバランスな星ですね」

 意味が分からない。普通、食糧問題を解決してから宇宙開発だろうに。

 そのとき、カイサは恐ろしいことに気づいた。

 タンパク質合成装置がない。ということはつまり、いやまさか。

 ALD画像を指さして、

「もしかして、そこの…」

 カイサの無言の問いを、シヴィは正確に理解した。

「はい。本物の海洋生物の死骸です」

 カイサの悲鳴のような叫び。

「やっぱ蛮族の料理じゃん!!」

「先輩うるさい!」

 ハスミンは耳をふさいで叫び返す。さらに子供に言い聞かせるような口調で、いいですかと前置きして、

「驚きすぎです。あたしたちの先祖だって、大昔は生き物殺して食べてたんですよ」

 カイサだってそれくらい知っている。しかし死骸をそのまま詰める料理はあったのだろうか。

 あったかもしれない。

 頭痛をこらえるように目元に手をあてる。

「まあ、とりあえず良しとしましょう。――で、どこがオカルト料理なの?」

「呪術です。卵を食べて子供一杯、子孫繁栄」

 やはり意味が分からない。食道と卵管が直結している奇怪な生物の姿が脳裏に浮かぶ。

「ならこの蛮族の春期は、年が明けてすぐ?」

 春期とは一年に一度来る、お子様には聞かせられないアレな時期のことである。

「いえ、そういう時期は決まってないみたいです」

「つまり年中盛りっぱなしの蛮族なんだね。でも一度に産める卵は、生物学的に決まっているでしょ?」

「卵? いえこの星の原住民は、あたしたちと同じ胎生ですよ」

 カイサが再び吠える。

「子孫の定義が、がばがば! なんでもありかよ異星人!」

 うー、と唸ってシヴィは再び耳を押さえながら、

「まあ定義はともかく、子孫を残そうとするのは生物の宿命ですよ。あたしも次の春期での、人工子宮の割り当て取れましたし…」

 意外だった。

 ある程度の財産と社会的地位があれば、モルクスでは誰でも子供を持てる。パートナーとの愛の結晶だったり、純粋に遺伝子を残す目的だったり、子育てが趣味というのでもいい。そのあたりは完全に個人の自由である。異性と、同性と、なんなら一人でも作れるが、母体に危険が伴う自然出産はほとんど選ばれない。

 しかしシヴィが子供を欲しがっているというのは、カイサにも初耳である。

「へー、あんた誰か相手いるの? それとも一人?」

「次行きますよ次!」

 なぜかキレ気味のシヴィがALDを切り替える。

「はいこれ! 海藻をロール状に巻いた食べ物なんですが、復元した解説データによると、どうも多幸感を誘発する化学物質を含んでいるようです」

「化学物質を生成する植物は珍しくないけど、新年早々ラリってるのか。ぶっちぎりでイカれた連中ね」 

 げっぷ。

「酔っ払いの先輩に言う資格はありません。ビール飲みすぎです」

 また別の画像。小さく薄い円盤型。複数あいた穴を見てカイサはつぶやく。

「下手な加工。穴の位置くらい揃えたらいいのに」

「これは輪切りにした根菜で、穴はもともと開いているそうです。この食べ物は、えっ」

 一瞬、言葉を止めたシヴィは端末を確かめるように何度も見て続ける。

「えっと、ちょっとあたしも信じられませんが、この食べ物を新年に食べると、未来視の力が備わるそうです」

 アホらしい。

「今までで一番うさん臭い話ね。そんなもん野蛮人の妄想に決まってるでしょ」

「いえ、実は別のデータで『$%&人、未来に生きてるぜ』という発言が複数見られます。この翻訳不能の部分は、この料理を食べている地域を指しています。それは間違いありません」

 カイサ、三度(みたび)の絶叫。

「マジで!? 未開の蛮族パないな!!」

 にわかには信じがたい。しかしシヴィはいい加減な仕事はしない。確かにそういう記述があるのだろう。

 また別の画像。またシヴィの解説。

 多くのデータが表示され、理解不能な考え方とそれを上回る衝撃の事実にカイサは打ちのめされていく。

「――以上です。まとめますと代表的な呪術効果は子孫繁栄。健康長寿。経済力。教育。うち経済力と教育に関しては星の上位に位置し、健康長寿については単独トップです。ある時期から出生率は落ち込んでいるので子孫繁栄については不明ですが、この料理は年々変質していったというデータもあり、その影響で効果が薄れたと推測できます。――先輩、聞いてます?」

 聞いていない。

 カイサの頭の中で、レシピのアレンジ案と、呪術料理の紹介文が急速に組み上げられていった。

 凄まじいインパクトだった。これを知ったからには、一夜漬けで詰め込んだ食材の流行や、有名な料理には何の魅力も感じない。かの星が滅んで1万年経った今でも、健康や長寿は生物全ての関心事なのだ。恐ろしいことに、効果があるとされる項目には実証データまでついている。呪術的効果は色や外見に左右されるらしく、当初の予定通り、新年会レシピに利用することも容易だ。

 そして、まず必要なのは、

「名前。――シヴィ、この呪術料理全体で、なんて呼ばれているの?」

 ようやく現実に帰ってきたか、という目でカイサを見たシヴィは首を振る。

「知っていれば最初に言ってますよ。言語データ欠損も多いうえ、多数の言語が入り乱れていて……」

 惑星統一言語もないとは相変わらずの未開っぷりである。カイサは一瞬思案し、

「だったら、その星で一番広く使われている言語で、≪古の技術を応用した食事≫は?」

「ちょっと待って下さい。――これですかね。古い・技術・食事でold・ technology・ mealです」

「略してオ・テ・ミね」

 オテミ料理。そう決めかけて違和感を覚える。

 何か聞き覚えがある。記憶を探ると、クワント星の伝統料理も同じ名前だったと思う。同じ土俵での、名前だだかぶりはまずい。

「やっぱ駄目。オテミは使えない」

 シヴィは端末キーに手を伸ばしながら、

「こんなのはどうです? old・ technology・chip」

「どういう意味?」

「≪古の技術のひと欠片≫ってとこですね。なかなか詩的でしょ? ちなみにオ・テ・チだとどこの商標登録もされてないみたいですよ」

 素晴らしい。

「よし決まり。モルクスのオテチ料理として売り込むわ」

 宣言すると、シヴィは何かもの問いたげな様子でこちらを見つめている。今さらながら、礼も言っていないことにカイサは気づいた。

 深々と頭を下げる。

「ありがとう。話聞いて良かった。――うまくいったら、私にできることなら何でもするつもり。なんなら、敬語を使ってもいいですよ。シヴィさん」

 シヴィは身をよじって嫌がる。

「ぎゃー気持ち悪い! いいですよ冗談ですよ先輩。それよりモルクスのって、言っていいんですか?」

「リスペクトよ。オマージュよ。きちんと原典としてこの星の料理も説明する。権利者が現れればライセンス料も払う」

 胸を張って答えるカイサに、シヴィは呆れる。

「権利者って、いるはずないじゃないですか。それに実際に効果がなければ怒られません?」

 いい質問だ。

「問題ない。効果・効能は星と個人によって差があります、と但し書きを付ける」

 シヴィはまさに悪質なセールスマンを見る目でこちらを見ていた。やがて視線をそらして考え込み、激しく首を振ったと思えば、よしと大きく頷く。思い詰めた様子で声をひそめて言う。

「もっと良い方法がありますよ先輩」

 どんな?

「効果の実証例をつくるんですよ」

 データの捏造はまずい。絶対に露見する。

「違います。先輩、最初にあたしがつくったモドキ料理食べましたよね。黄色いやつ」

 確かに食べた。しかし話が見えない。

「お礼はなんでもって言いましたよね」

 確かに言った。

「先輩、次の春期にあたしと子供つくってください」


 へ?




 公式の記録では準備期間2年。のべ70時間の会議を経て決定したとされるオテチ料理だが、実態は上記のようなバカ話で決まり、おまけに酒も入っていた。

 銀河の星の自転・公転速度はまちまちで、当然新年の時期もずれる。オテチ料理は通年販売され、大きな反響とともにバカ売れし、銀河ネットショッピングにおいては今でも人気商品である。

 この隠しリンクは、ある種の遊びであり、記念だ。

 この文章が読めるということは、あなたは「地球」研究者なのだろう。あれから何度も発掘調査がなされ、母たちによって言語の翻訳も進んだ。いくつかの誤解も解けた今、元になった「おせち料理」とモルクスのオテチ料理は全くの別物と言っていい。しかし、われわれモルクスは「おせち料理」が大きなヒントを与えてくれたことを否定しない。

 もしあなたがホモ・サピエンスの末裔と出会ったなら、モルクス星府法務部へと案内してあげてほしい。


 カイサ19・トぺ・キルザップ




 銀河ネットショッピング公式ホームページ

 本場モルクスのオテチ料理購入はこちら⇒









 


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