ふたりのターミナル
純子の目の前に滑り込んできた電車は、その全身を夜の雫に濡らしていた。冷たく光る銀色の車体が鼻先をかすめ、びゅうと吹いた風の冷たさに思わずはあっと息を吐く。アクリルのマフラーにぬるい呼吸が跳ね返って、眼鏡の内側が白く曇った。安全点検のためだろうか、ホームに降り立った年若い車掌は、人もまばらなホームに立ち尽くす純子を怪訝そうな目でちらりと見た。純子は慌ててチクチクするマフラーに顔をうずめ、その視線から逃れるようにホームの中腹に向かって歩き出した。
熱の弱まってきたホットカイロを両手で揉みしだきながら、電車から降りてきた人たちの中に慎さんの姿を探す。各駅停車しか停まらない小さな駅だ。駅の周りには立派な寺があるだけで、近くには飲み屋の一軒もない。当然乗降する客もほぼいないわけで、ホームの端から端まで目を凝らしてみても、背筋の伸びた彼の美しい横顔がないことはすぐに分かった。
純子は肩を落とし、プシュゥ、と気の抜けた音を立てて閉まる扉を恨めしい気持ちで睨みつけた。これで十本目の電車だ。かれこれ二時間ほど待っているが、慎さんが電車から降りてくる気配はない。電光掲示板の暗い光が濡れた車体に反射して、純子のかすむ目を射抜いた。頬が切れそうなほど、冷たく乾いた風が吹く。でも、この電車がやって来た西のほう、つまりここから一時間二十分ほど離れた彼の街には、雨が降っているのかもしれない。今夜、彼の肩に降り注いだ雨は、どんな温度なのだろう。電車の車体に触れようと思わず伸ばしかけた手を胸に抱きこみ、純子は鼻をすすった。
駅のホームの古びた時計は、十時過ぎを指し示している。慎さんと出会えたこの幸福な一年が終わるまで、あと二時間だ。世間は『紅白歌合戦』や『ガキ使』で盛り上がっているのだろうが、純子はどちらも興味がない。それでも、高揚した世界から置き去りにされたような寂れた小さな駅に、除夜の鐘が聞こえ始める。身体の隅々まで冷え切っているのに、頬だけがやけに火照っている。
慎さんは、影の薄い人だ。背が高いというよりも細長いという言葉が似あうその薄い身体は、曲げても容易には折れないブナの木のようで、ただそこにいるだけで惹きつけられるような、自然な魅力を備えている。純子がその美しさに出会ったのは、耳鳴りのような蝉しぐれが止んで、代わりに気の早い金木犀がその香を漂わせ始めた頃のことだ。
高校時代とは比べ物にはならないほど長い夏休みを終え、純子は気だるさを引きずってキャンパスの数少ない日陰を縫うように歩いた。久しぶりの再会を大げさに喜ぶ女学生たちを視界の端にしっかりと捉えながら、何喰わぬ顔で顎の先に伝った汗を手の甲で拭う。ついでに、口元にできた小さな吹き出物を爪先で摘まみ、純子は旧校舎の扉を抜けた。夏休み明け最初の授業は東洋美術の講義だ。空きコマを埋めるために履修しただけのさして興味のない内容だったが、授業を “サボる” なんて度胸は純子にはなかった。
体重をかけるようにして北側の教室の重い扉を開くと、大教室の後ろ半分に男女のグループが固まっていた。椅子にまたがるように後ろを向いて座る女子学生が、身を乗り出して何かを早口でまくし立てている。純子には聞き取れないその言葉に、周りの若者たちはドッと笑う。純子は何となく自分の着古したジーンズの尻部分の食い込みを引っ張って直しながら、一番端の通路を通って前から五列目の席に腰掛けた。
高校生のときから変えていない眼鏡は、何度拭いても曇りが取れないし、度が合っていないのか遠くのものがよく見えない。必修科目ではないこの講義を真面目に受けている学生などほとんどいないし、純子自身もどうでもいいと思っているのに、この眼鏡のせいで、右端の列の前から五列目の席が純子の指定席になっていた。
始業の鐘が鳴っても、後ろの席のグループの話し声は止まない。いつもはほぼ定刻通りにやってくる先生も、中々来ない。飴色の机の傷に目線を落とし、純子は眼鏡のレンズを親指の腹でぬぐった。休講情報を見逃していただろうかと不安になり始めた頃、真横の通路を誰かが音もなく通り抜けていった。その気配のなさに、純子は思わず肩を揺らした。目だけで様子をうかがうと、ネイビーのポロシャツにライトベージュのチノパンを履いた男性が、静かに教壇の上に登るところだった。男性の存在に気が付いていないのか、後ろのグループはまだ高い声を上げている。男性はそれを意に介した様子もなく、教卓の上に置かれたマイクを手に取った。
「えー、始業後の通達で申し訳ありませんが、本日の講義は神山先生の体調不良のため休講となりました。詳細はウェブページに掲載してありますので各自確認してください」
男性はそれだけを言い切ると、マイクを台に戻した。後ろから、憚ることのない歓声が沸く。純子は小さく息を吐き、のろのろとルーズリーフをファイルに戻した。
「あなたは行かないんですか。この教室は三限目まで空きになるので、いても大丈夫ですが」
頭上から降ってきた声に顔を上げると、先ほどの男性が純子の横に立っていた。影の薄い人だった。すぐそばにいるのに、声をかけられるまで存在に気が付かなかった。その思慮深い顔に純子を侮る色はない。深い紺色のポロシャツは清潔で、純子はその胸元の白いエンブレムをじっと見つめた。
男性は唇の左上にある目印のようなほくろを撫でると、後ろの人たちはもう出て行ってしまいましたよ、と言った。つられて振り返ると、教室には純子のほかは誰の姿も残っていなかった。
「いえ、私は……。あの人たちと友だちではないので」
「そうですか。それなら良かった」
彼らと友だちでなくて良かったと、純子はそのときはじめて思った。そして、胸元のエンブレムから、彼の指先へと視線を移した。深爪気味の丸く平たい爪に白い線がいくつも入っていて、右手の中指にささくれがあった。
「僕は神山先生の研究室の佐久間です。急に話しかけてしまって申し訳なかったね。前の方の席で授業を受けてくれているみたいだったから、つい」
「そんなことないです。話し相手になってくれるなら、嬉しいです」
尻切れトンボのように弱々しく消えた純子の言葉に、佐久間は片頬を持ち上げて笑った。キュッと細くなる目元や、笑みの形に刻まれたしわに、純子は目を奪われた。そのまま切り取って保存しておきたいような、胸の内に掻き抱いて自分のものにしたいような、そういう類の美しさに見えた。
「僕はもう若くないし、あなたの話し相手がつとまるか自信ないな。最近の流行りとか、全然わかんないし」
「そんな、何をおっしゃっているんですか。お若いですよ。……神山先生が聞いたら、きっと怒りますよ」
九十分の講義の間ほぼ座っている老教授の名前を挙げると、佐久間は大きく息を吐くように笑った。そのとき少し乾燥気味の唇の隙間から大きな前歯がのぞいた。純子の曇った眼鏡越しにも、そんな佐久間という男は鮮烈に映った。自分にも理解できない理由で、佐久間のことをもっと知りたいと思った。
その日、純子ははじめてその後の授業をサボった。急激に熱い湯に浸されたときのように、指先がジンジンと痛んでいた。それから、佐久間の平たい爪と、大きな前歯と、唇の上のほくろを思い出しながら、三年ぶりに新しい眼鏡を買った。
神山教授の研究室には、確かに佐久間慎という男が在籍していた。慎さん ――― 純子は彼の名前を知ってからそう呼ぶようになった ――― は物腰柔らかで、誰にでも紳士的に接する人だった。尻ポケットにはいつもアイロンの利いたハンカチを忍ばせていて、近づくとかすかにウッディなコロンが香った。
大学から西に向かう電車に乗り込み、純子は慎さんの隣に腰掛けた。慎さんは猥雑な中吊り広告をぼんやりと見上げ、その目を暗く濁らせた。純子は、慎さんの唇の上の少し膨れたほくろに触れてみたいという衝動を堪えていた。
「佐久間さん。前から聞きたかったんですけど……その腕時計、もしかして女性物ですか?」
慎さんは、男性にしては細い腕時計をしていたのだった。不意に問われた慎さんは右に視線を向けると、口ごもりながら細い腕時計を隠すように逆の手で押さえた。
「昔、大事な人から受け取ったものなんだよ。どうにも手放せなくて、ずっとこうして持ってるんだ」
「そうだったんですね。悪いこと聞いてすみません」
そこから会話はなく、二人の間に不自然な沈黙が流れた。窓ガラスの揺れを後頭部に感じて、純子はグッと奥歯を噛みしめた。慎さんの先ほどの言葉を、思い出していた。大事な人から受け取ったという、女性物の時計。その『大事な人』というのは、女性なのだろうか。純子は苛立ちながら、親指の爪の欠けた部分を乱暴に剥いた。爪の端が深くえぐれて、急激に熱を帯びる。一瞬遅れてじわりと滲んだ血の玉を、慎さんに隠れるようにして舌の先で舐めとる。
車窓を流れる見覚えのない風景のひとつひとつに、でっち上げた郷愁を覚えながら、純子は隣の慎さんの顔をちらりと見た。慎さんの右隣に座っていた人が途中の駅で下車してから、慎さんはうつらうつらとし始めたようだった。起きているときよりも近くに、慎さんの硬い肩の温度を感じる。呼吸音や心音が慎さんの眠りを妨げないように、純子は息を詰めて身体を強張らせた。
恥ずかしいだとか嬉しいだとか、そういう感情ではなく、とても大切なものを抱えている気持ちだった。慎さんの柔らかい髪の毛が、純子の首元をくすぐる。眉間と目尻に細かいしわが寄っている。やはり、自分より少し年上のひとなのだと、純子は思う。だから、過去に『大事な人』がいたとしても仕方のないことなのだと、思おうとする。
もう間もなく、電車は慎さんの最寄り駅に到着する。慎さんは、純子にすっかりもたれるようにして深い眠りについているようだった。慎さんの頭が乗った肩を慌てて細かく上下に揺らしてみるが、慎さんが起きる気配はない。起こしてもいいのだろうか。その細い身体に触れることが、どうにも躊躇われた。純子がまごついているうちに、電車は慎さんが住む駅に到着してしまった。純子は慎さんを起こすことを諦め、シートの背もたれに身を預けた。このまま、眠る慎さんとどこまでも行くのも良いと思った。
慎さんの暮らす駅に流れる音楽は、純子の暮らす駅のものとは違っていた。それを必死に覚えようとしていると、隣で突然慎さんはがばりと顔を上げた。扉の上の案内表示を見た慎さんは、慌てたように鞄を引っつかんで立ち上がった。
「あ、すみません!」
扉から降りる間際、慎さんはくるりと振り返って少し大きな声で純子に向かってそう言い放った。小走りでホームを行く慎さんの横顔は、相変わらずすっきりと美しかった。しかし、その左頬にうっすらと刻まれた純子のブラウスの寝跡が、新しい眼鏡にははっきりと見えた。まだ慎さんの形に熱を留めた右肩にそっと手を置き、鈍く痛み続ける親指を祈るように胸に抱く。
誰かをに思う気持ちは、この親指の痛みとよく似ていた。身を削って、血を流して、そういう熱さを抱える覚悟を持つことだった。この感情に名前は付けられないが、この身が炎上しても、痛み続けても、きっと慎さんを大切に思うだろうということだけは分かった。
そうして、純子は慎さんのことを少しずつ知っていった。慎さんが一人暮らしだということ、料理は苦手だが整理整頓は得意だということ、熱帯魚を飼っているということ。朝食は果物とコーヒーで済ませるということ、休みの日は本を読んで過ごすということ、大きな犬は少し怖いということ。慎さんのことをひとつ知るごとに、純子の目に映る世界は解像度を上げ、奥行きが増していった。黄色く染まったキャンパス内の銀杏の葉も、初冬の弱い日差しが落ちる木造校舎の色あせた床も、その輪郭がくっきりと浮かび上がっているような気がした。
十二月、木枯らしがマフラーの隙間に潜り込んで、冬の訪れを明確に感じさせる頃、純子はいつものように慎さんと同じ電車に乗り込んだ。もうすぐ年末ということもあり、年越しの瞬間は何をして過ごすかという話題になった。慎さんは吊り革をつかんだ手を握り直し、ゆっくりと重い口を開いた。
「大晦日のうちに大切な場所に行って、そこで年を越すことにしているんだ。自分でも女々しいってわかってるんだけどね」
「へえ……。何か素敵ですね。自分はやっぱり『紅白』観ないと、大晦日って感じしないですけど」
「別に素敵なんかじゃないよ。ただ、一年の終わりと新しい年の最初は、やっぱり自分の気持ちを確認しておきたいというか」
慎さんはそこで言葉を切ると、「一人で語っちゃって申し訳ない、お恥ずかしい」と顔をしかめた。その顔がなぜか泣きそうに見えて、純子は息を飲んだ。言葉にはせずとも、その『大切な場所』というのが腕時計の贈り主に関係する場所だというのが嫌でも分かった。
慎さんは、大晦日にその人に会うのだろうか。そして何を言うのだろう。どんな色の目で、その人を見つめるのだろう。純子は何度も剥いてすっかり硬くなった親指のかさぶたを引っかいた。まだえぐれていない、身体の一番柔らかい部分が焦げていく音がした。
――― 一年の終わりと新しい年の最初は、やっぱり自分の気持ちを確認しておきたい
のぼせたような頭の中で、慎さんの言葉がリフレインする。そして、純子は理解した。新しい年になるその瞬間に、慎さんの目に映るのが純子であったのなら。それはつまり、慎さんが純子のことを真剣に考えてくれるということではないか。
親指から垂れた血をジュっと吸い取る。鉄くさい味が口の中に広がる。慎さんを思うとき、いつも血の味がする。純子は親指をくわえたまま、慎さんの顔を横目で盗み見た。慎さんはまだ大晦日の過ごし方について何か喋っている。その言葉のすべてを聞き漏らさないように、純子は意識を集中させる。素早く流れゆく車窓からの景色の中に、点滅する踏切のランプの赤い光が一瞬見える。
小さな駅の古びた時計の針は、もうすぐ十一時三十分を指すところだ。慎さんはまだやって来ない。身体の中の熱をすべて吐き尽くすような長い息を、暗い夜に白く浮かばせる。慎さんの『大事な場所』がこの駅にあるということは、もう間違いなかった。
慎さんが住む街から雨雲が流れてきたのか、空気が湿り気を帯び始めた。除夜の鐘の音は、先ほどよりも近くに聞こえる。
純子がここで慎さんを待ち始めてから、十八本目の電車が到着した。純子の前に到着する空っぽの電車の車体は、相変わらず冷たい鈍色に輝いている。電車の扉が開く。三両目の扉から、細く真っ直ぐな身体が降りてくる。ダークブラウンのチェスターコートに、臙脂のマフラーを巻いている。右手に持つ紙袋から、白い百合の花が飛び出している。顔を見ずとも、すぐにわかった。
「――― 慎さん」
慌てて駆け寄った。初めて、彼の名を呼んだ。少し上ずった声になった。慎さんはゆっくりと振り向き、純子の顔を見てどこか眩しそうに目を細めた。暗く点滅する蛍光灯が、ジーっと音を立て、慎さんの顔に陰を落とした。どんな顔をしているのか知りたくて、純子は慎さんに向かって一歩踏み出した。
「今年慎さんに出会えて、私、すごく嬉しくて。慎さんがここに何をしに来たのかは知っています。でも、来てしまいました」
「君―――」
慎さんの表情はまだ見えない。寒いのだろうか、少し震えた小さな声が純子の耳朶に響く。深い森の中でたった一本の美しい木を見つけたような、清々しい気持ちになる。今まで一度も呼べなかった、慎さん、という名を何度も呼びたくなる。
「慎さん」
マフラーに跳ね返った呼吸で、また眼鏡が曇る。できれば拭きたい。でも、それよりもずっと、慎さんから一秒たりとも目を離したくない。慎さんは、じりりと少し後ずさった。
「申し訳ない。どちら様ですか? どうして僕の名前を知っている?」
「ずっと、見ていたからです。あの日、東洋美術の講義が休講になった日に、声をかけていただいてから」
研究室の同僚と一緒に帰る慎さんを待ち伏せして、毎日同じ電車に乗った。時には大胆に隣の席に座り、あるいは後ろの吊り革につかまり、慎さんと同僚の会話を聞いてきた。純子が知っている慎さんの情報は、すべてそうやって手に入れたものだ。純子は、慎さんを大切に思っていた。
「申し訳ない。思い出せないようだ」
慎さんはかすれる声でそう言った。純子はそんなことでは傷つかなかった。あの日、あの会話を特別なことだと思っているのが、自分だけでも良かった。慎さんは左腕にはめた細身の腕時計をわざとらしく見て、唇の左上のほくろを落ち着きなく触った。
「僕は用事があって、もう行かなきゃならないんだ」
「それって、奥様のお墓ですよね」
慎さんがヒュッと息を飲む音が聞こえた。
「さっき、この駅の周りを一周してみたんです。そうしたら、そこのお寺の隣のお墓に、『佐久間家之墓』がありました。女性の名前が刻まれていて、それから慎さんの名前も一緒に」
生前に墓を購入した場合、生きていても名前が刻まれることがあるのだと、純子も先ほど知った。それとも、亡くなった妻と一緒に慎さんの心も死んだということなのかもしれない。いずれにせよ、純子には受け入れがたいことだった。
「私は、慎さんを大切に思っています。慎さんを置いて亡くなった方よりも、ずっと」
慎さんは何も言わない。その代わり、純子にゆっくりと近づいてきた。いつもは真っ直ぐな美しい身体が、少し斜めに傾いでいた。
「君は、何を言っている? こんな老人を捕まえて」
純子の目の前に立った慎さんの顔には、生きた年数分の深いしわがいくつも刻まれている。頬には染みが浮かび、うっすらと生えた顎ひげは白い。純子の胸元あたりを不躾に差した指は節くれだち、たるんだ皮の上に青い血脈が走っていた。
「慎さんは、老人ではありません」
「僕は、君よりも年上の子どもがいる」
「それが何か関係ありますか。私は、慎さんを大切に思っています」
慎さんは青ざめた顔でふるふると首を振った。理解できない、とその口がつぶやいた。純子は古い時計に目を遣った。長い針が、『12』を差そうとしていた。
「慎さん。もうすぐ年が明けます。きっと、今から急いでも奥様のお墓には間に合いません。年の最後と最初に会うのが、私になってしまいましたね」
今年もお世話になりました、と言いながら、純子はにっこりと慎さんに微笑みかけた。新しい年も、きっと幸福な一年になるだろうという確信を抱いて、純子は慎さんの力のない左手を取った。




