第6話アインダーク・前編
「マナ、光のスクロールを頼む」
マナルキッシュとアインダークが通路の奥へと進んでいくとそこには転移の魔法陣が薄らと光を放っていた。
それを見たアインダークが魔法陣を踏む前に光の魔法球を出すようにマナルキッシュに頼んだ。
頷いたマナルキッシュがスクロールを読み上げる、光の魔法球がマナルキッシュの頭上に浮かんだ。
「行こう」
明かりを確認してアインダークがマナルキッシュに手を差し出した。
手を握り、円の内側に足を踏み入れる。
体が引っ張られる様な感覚を覚え、瞬きの後には一瞬で視界が入れ替わっていた。
転移した場所は広い円形の空間だ、壁には松明が余分な程に掛けられていて空間を明るく照らしている。
見渡すと通路は並んで2つある、どちらも松明の明かりが続いているのが見える。
「アイン、これ」
マナルキッシュが屈んで地面に落ちている紙を拾い上げた。
「ビリーか?」
「えぇ」
2つ折りにされた紙を広げる、そこにはよく知っているビリーの筆跡で伝言が認められていた。
〈アイン、マナ。 わざわざ手紙を書いたのは何も雰囲気を出そうって意図じゃない。 そのフロアでは魔法を、と言うよりは、魔力の流れを阻害する結界が張り巡らされている〉
マナルキッシュは「えっ」と小さく声を上げて手に魔力を集中させようとしたが出来ない。
アインダークと目を合わせて手紙の続きに視線を落とした。
〈マナ、そこでは闘気を操れない君は全くの無力だ。 そして、アイン、君のお喋りな剣もそこでは黙りかな? どうだろう、君の喋る魔法剣は中に魔族がいると言われるぶっ飛んだ魔法剣だ。 普通に扱えるかも知れないね〉
アインダークは喋る魔法剣の柄を握った。
「シゼル、聞こえるか?」
『聞こえる、魔法を使う事も可能だが。 周囲から魔力を補充する事もお前から魔力を引き取る事も出来ない。 だから、今、私の内部に残っている魔力が無くなれば只の喋る魔法剣に成り下がるな』
「只の魔法剣は喋んないだろ?」
『ふっ、冗談を言う余裕はあるじゃないか』
アインダークがマナルキッシュに視線を移した。
「マナ、一応、シゼルは喋れるし魔法も使える様だが魔力の補充が出来ないらしい」
「セカンドの喋る魔法剣のシゼルでも阻害するなんて、よっぽど強力な結界ね」
喋る魔法剣は頂点にファースト、かの魔神を打倒したアリス・ヴァンデルフの振るった銀聖剣と呼ばれるフェムノがあり。
その下にセカンドと呼ばれる魔法剣が5振り、更にその下にサードと呼ばれる魔法剣が25振り存在する。
サードと呼ばれる魔法剣でも、凄まじい力を秘めている。
セカンドは言わずもがな、サードの数段上の力を持っている。
余談だが、銀聖剣は現在、どこぞの没落貴族の令嬢が戦場で振り回している。
喋る魔法剣は魔法剣自身が認めた相手にしか喋らない、声は柄を握るアインダークにしか聞こえない。
〈まぁ、最悪使えても魔力の補充は不可能だろう。 だから、君はそこではマナを護りながら一切の援護は無しに自慢の闘気だけで戦う訳だ〉
ビリーがそこまで読んでいたことに内心でアインダークは舌を巻いた、なんてヤツだと。
〈アイン、君は俺に何も出来ないと言ったが。 君こそ闘気以外にハッキリ言って取り柄は無いじゃないか。 魔法剣は君の力じゃないしな、魔法剣が凄いだけだ。 いつも散々周りにフォローされているのは君だ、君の方だ。 だから、それ以外を全て奪わせてもらった。 君は1人じゃ低位迷宮も踏破出来ないだろう、出来ると思うならやってみてくれたまえ 、健闘を祈ってるよ〉
「クソッタレが! 舐めやがって!」
アインダークが手紙をクシャクシャに丸めて投げ捨てた。
「落ち着いてアイン、コレは」
多分、ビリーが考えた試練。
マナルキッシュはそう言いかけて口を噤んだ。
「コレは、なんだよ」
アインダークが先を促す。
「ま、怒ったら負けね。 自分のペースで冷静にいかないと、出来る事も出来なくなるわよ」
アインダークは口許に手を当てて考え込むポーズをとっている。
「あぁ、そうだな」
マナルキッシュに視線を向けずに応えた。
どすん、どすん。
通路の方から重たい足音が聞こえた、そこから現れたのは3m近い巨体の1つ目巨人、その体は鉄と見紛う程の硬い皮膚に覆われている。
「ビリーのヤツ、嫌な相手を寄越しやがって」
悪態をつきながらシャランという音を立てて喋る魔法剣、シゼルを鞘から引き抜いた。
お読み頂きありがとうございます!
喋る魔法剣、プリムブレード。
実はコレは私の拙作、【アリスと魔王の心臓】からの流用です。
一応、世界観は一緒で【アリスと魔王の心臓】の物語から何百年か先という設定です。
勿論、ソッチを読まなくても全く問題はありません。
明日も朝の8時頃更新予定です。