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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第六章 ニルスの不思議な村
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0090 それぞれの決断

スケルトンなどアンデッド系は、魔石を残さない。

魔石があるのかどうかも知られていない。

そのため、これだけ苦労したスケルトンアークも、魔石を手に入れることは出来なかった。


「わ、分かっていたとはいえ……なんかつれえな」

「はい……」

涼が、魔石を落とさなかったことを報告すると、ニルスとアモンはうなだれながら、そう言った。



「みんな、ようやってくれた」

戦闘中、後衛の更に後ろから見守っていたばば様が、ブーランを伴って出てきた。

「祠に入ってみてもよいかのぉ」

「動くものはいない様です」

ばば様の確認に、涼が答える。


それを聞くと、ばば様はブーランを従えて祠に入って行く。

その後を、エトと涼もついて入る。

ニルスとアモンは、もちろん外で休んだままだ。



祠の中は、学校にある二十五メートルプールほどの広さであった。

正面奥には、祭壇と思われるものがある。

それなりの広さでありながら、他には何もない空間。


「祭壇……だけ?」

「基本的に『隠された神殿』にあるのは、祭壇だけらしいので……」

涼の呟きに、エトが囁くように答えた。



祭壇には、一メートルほどの高さの女性の像と、ひびが入って一部欠けた黒い水晶のような玉があった。

(あの玉って……)

涼は見た記憶があった。

ルンのダンジョンの四十層から三九層に上がる階段のところにあった、あの『玉』に似ている。

大きさはこちらのほうが小さく、しかも欠けているが……。



「欠けておるか……」

欠けた玉を見て、ばば様は呟いた。

「ばば様、これはいったい……」

ブーランが玉を見て、ばば様に問いかける。


「わしも正確には知らぬが……先代の巫女様より聞いたことがある。かつて祠には光り輝く玉があった。だが、ある時、その玉は黒く濁り、しばらくすると割れた、と。恐らくこの黒い玉の事であろう……」

「かつては光り輝いていた……」

ばば様の説明を聞いて、ブーランは呟きながら、黒く割れた玉を見た。



「祠は、今まで通り閉める。わしの力ではどうにもならぬからな。次の世代の巫女らに託すわい」

「次の世代の巫女?」

涼はばば様の方を向いて尋ねた。

「お主らも会ったであろう? ニルスの弟ニロイの嫁をしておるサナはその筆頭候補じゃ。他にも同じくらいの年齢の者たちに、巫女の素質が出ておる。本人たちが望めばじゃが、わし一人であったこの世代よりは、はるかに強い巫女の世代となるであろう」

ばば様は嬉しそうに答えた。


「後は、ゴブリンたちがおったという洞窟じゃな。守護獣様の洞窟同様に、ここからの力が湧き出しておるのかもしれんな」

「なるほど。それはあり得ますね」

ばば様の推論を、エトは肯定した。


「この村は、昔から何度もゴブリンたちに襲われておっての……。今までは本拠地をみつけられんかったのじゃが、お主らが討伐してくれた洞窟がそれなのかもしれん。その洞窟に、我が術で封印の祠を作れば、地上に漏れ出ることはないじゃろう。明日にでもブーランに連れて行ってもらうわい」


ばば様の中で、昔からいろいろ抱えていたらしい懸案が今日だけでいくつか解決したらしい……。これまでになく嬉しそうなばば様であった。




ルンの街を出立して五日後、十号室の四人は、無事依頼を達成して再びルンの街に戻ってきた。

帰りの道中も特に何事もなく……。




四人がルンの街に入ったのは夕方だった。

当然、冒険者ギルドはごった返す時間帯……。


「これは……いつも以上に混んでないか?」

「うん、混んでるね……」

「困りました……」

ニルス、エト、アモンは、いつも以上に混むギルドを扉から覗きこんで、溜息をついた。


「先にお風呂に入りに行きましょう」

待つのも時間がもったいないな、そう四人で話し合っていた時に、涼が提案した。

「そうするか」



ルンの街には、かなりの数の公衆浴場がある。

冒険者ギルドの近くにも、四人の行きつけの浴場があった。

その大浴場の中で。


「そろそろなんだよな……」

「うん、そろそろだね」

ニルスとエトが意味深な会話を交わしている。


「わかっていますよ、ニルス。花街のミランダちゃんに、ついに告白するんですよね」

「ちげーよ。誰だよミランダちゃんって」

涼の渾身の推理は、ハズレた。


「俺もエトも、冒険者登録から三百日が近付いてきているって話だ」

冒険者登録から三百日以内は、ギルド宿舎に住むことができる。

だがそれを過ぎると、宿舎を出ていかなければならないのだ。

「ああ……そういうことですか」

涼は小さく溜息を吐きながら頷いた。


楽しい時間は、終わりに近づいていたのである。


涼も色々と考えてはいた。

(これは、計画を早める必要があるのかもしれない)



「なあ、リョウ、アモン。俺とエトは、宿舎を出たら家を買うか借りようと思っているんだ。そこで……お前たちも一緒に住まないか?」

その誘いを聞いて、アモンは絶句した。


アモンも涼も、まだこの先、半年以上は宿舎で生活することはできる。

だが、少なくともアモンはニルス、エトとパーティーを組んでいるため、一緒に生活するメリットは大きいであろう。

アモンも、それはすぐに理解できた。


「ぜひ、入れてください」

アモンは、一も二も無く答える。

「おお、そうか!」

ニルスは大きく頷くと、アモンの肩を力いっぱい叩いた。

エトは嬉しそうに笑った。



「リョウは……?」

「うん、ごめん。僕は別に家を買うよ。魔法と錬金術の実験をするのに、広い土地が必要だからね」

ニルスの問いかけに、涼は少し寂しそうに答えた。


「ああ……そうか……」

ニルスも寂しそうに答えたが、強引に何度も誘ったりはしなかった。

そうなりそうだということを、事前に感じていたのかもしれない。


エトも寂しそうではあるが、微笑んで言った。

「でも、今回みたいに難しい依頼の時は、手伝ってね」

「ええ、もちろん」



その夜、十号室の四人は、ギルド食堂で遅くまで語り合った。

今回の依頼の事、これまでの事、そしてこれからの事。


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