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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第六章 ニルスの不思議な村
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0089 守護獣

なんとなく…日曜日の追加投稿です!

あ、でも、毎週やるわけじゃないですからね。

日曜だからって、毎週追加するわけじゃないですからね!

今日は、特別です。


次話(0089-2)は、いつも通り本日21時に投稿予定です。

よろしくお願いします。

守護獣。

土地に棲みついた人外の生物。

そこに住む人々とは、様々な形で共生関係を築くことが多い。だから『守護』獣と呼ばれる。

基本的に、都市のような人の多い場所にはおらず、山や森など自然豊かな場所に棲みつく。


また、その存在が公にされることは少なく、関わりを持っている村人たちだけが知っている場合がほとんどである。

そのため、どれほどの数の守護獣が存在し、どのような種類の守護獣が棲みつき、どんな関係性を人々との間に築いているのかは、よくわかっていない。




「守護獣様、ナスにございます。ブーラン並びに、討伐を行います四名を連れてまいりました」

洞窟の外から、ばば様ことナスが中に向かって丁寧に呼びかけた。

その声で、フリーズしたまま歩き続けていたエトが再起動する。

それを横目に見て、涼はホッとした。

もし涼が想定したように、守護獣様が浸食されていたら、いきなりの戦闘になる。

そうなると、エトがすぐに動けないのは致命的だからだ。


だが……、

「うむ、ご苦労であるな」

洞窟の中からゆっくり出てきたのは……

「フェンリル……」

エトが呟いたのが涼にも聞こえた。



体長は三メートル程であろうか。全身が銀色の狼。

その狼の足元はおぼつかなく、相当に体力を失っていることが感じられた。

しかし、その視線はしっかりしており、紡ぐ言葉も明瞭である。


(浸食はされていなかったらしい……。くっ……イベント発生せず)

涼が悔しそうな顔を一瞬だけ浮かべたのを、ニルスもアモンも見ていた。

そして同時に頷く。やはり、何かよからぬことを考えていた……と。


「ふむ、光の神官か。神官がおるなら、あ奴らの数に押されることはあるまい。我は正確にはフェンリルではないが……まあ、似たようなものじゃな」

そういうと、守護獣様は小さく笑った。



「光の神官、剣士が二人……そして……」

守護獣様は、涼を正面からしっかりと見つめて言葉を続けた。


「我が名はンクゥースィンと申す。そこな水の魔法使いよ、そなたの名は何と申す?」

「涼です」

名前を問われた涼は、少し驚きつつも答えた。



だが、横にいたばば様と村長ブーランの驚きは、少しなどというものではなかった。

「守護獣様がお名前を……」

守護獣様が名乗ったことに驚いたのだ。

そんなことは、これまで一度も無かった。


実際、ばば様もブーランも、守護獣様の名前が『ンクゥースィン』だということを、今初めて知ったのだから。

「人には発音しにくい名前ゆえな。これまで敢えて触れなかったのじゃ。じゃが、そこな魔法使い……リョウと言ったか。リョウには伝えねばならぬ。伝えぬのは不義理じゃ」

「不義理?」

涼が首を傾げながら問い返す。


「うむ。なんと言えばいいのかのう……わしは妖精の親戚みたいなものじゃ。そういうものにとって、お主は……そう、近くにいると、とても心地よいのじゃよ」

涼にはよくわからないことであった。



涼の剣の師匠は、デュラハンの外見をした水の妖精王である。

その妖精王から、剣とローブをもらった。

そのローブを見て、エルフのセーラは「妖精王に好かれている」と言った。

そして目の前の妖精の親戚みたいな守護獣は、涼の近くにいると心地よいと言う。

これらを総合すると、涼は妖精には好かれるらしい……もっとも、妖精が何なのか全く知らないのであるが。


(ルンの街に戻ったらセーラに聞いてみよう。エルフは、半妖精みたいなものって言ってたから、きっといろいろ教えてくれるに違いない)



「心地いいのであれば……えっと、ありがとうございます?」

何か答えが違う気はする。

涼がそういうと、守護獣は大笑いした。

「感謝するのは我の方じゃ。お主のお陰で、寿命が千年伸びたようじゃ。実は、もうあと十年程で寿命が尽きるところじゃったが……ナスも面白い者を連れてきたのぉ」

「なんと……」

ばば様は言葉を失っている。


あと十年で寿命が尽きそうだったというのも衝撃だが、それが涼を連れてきたことで千年も伸びたというのはさらに衝撃的であった。


「リョウってすごいんだな……」

「僕自身には、多分、何の恩恵もないのですけどね……」

ニルスが感心し、涼は首を振りながら困惑した表情のままであった。

自分が来ただけで寿命が千年も伸びるとか……守護獣ってのは本当に人外のモノだということは理解できた気がした。




「さて、そこでお主らの討伐じゃが……前回の者たちは勝手に始めてしまったからのぉ、いろいろと大変なことになったようじゃ」

狼の顔ではあるが、守護獣様が困った感じを抱いたのは、十号室の四人にも何となくわかった。


「気づいたらスケルトンたちと戦闘になっておりまして……森を血で穢してしまいました、申し訳ございません」

村長ブーランが守護獣様に謝った。

「ふむ、それは仕方ない面もあろう……生き死にが掛かっておるでな。とはいえ……あの弱い三十体にすら手こずるようでは、どちらにしても討伐は出来なかったであろうよ」

守護獣様はため息のように、少しだけ息を吐き出した。


(二十体から増えてる……。まあ、その言い方だと……弱い三十体というのはスケルトンだろうけど……それ以外にも、もっと強いのがいるってことだよね)

涼は守護獣様の言葉を分析する。



「スケルトン三十体以外にも、討伐対象がいるということでしょうか?」

涼の疑問そのものずばりを、ニルスが尋ねた。

さすがはパーティーリーダーである。


「うむ。強いのが一体おる。同じ系統なのじゃが大きいな。人の間であれを何と呼んでおるのか我は知らぬのじゃ。その強い一体は、祠の中、入り口付近に捕らえておる……弱い三十体を倒したら、そやつを解き放つから、倒すがよい」

「守護獣様が捕らえておいでに……」

守護獣様の説明に、ばば様が感動して驚いた。


「うむ。祠の霊力では縛れぬようでな。我の残りの力を使って捕らえておったのじゃが……最近、異常に力が必要になって我の寿命も大分削られてしまったのじゃよ」

そういうと、守護獣様はまた大笑いした。

自分の寿命を笑えるというのは大物だからか、それとも長き時を生きる……ように見える存在だからか。



守護獣様は、洞窟から動くことが出来ないということなので、それ以外の一行は『祠』の前に来ていた。



「あれは祠というより『隠された神殿』の規模ですね……」

エトがばば様に言う。


「ふむ……その辺りの定義は知らぬが……村では、代々祠と呼んでおった。ただ、ぽつぽつと半年ほど前にスケルトンが現れるようになってな……それ以来、近付くことが出来ずに遠巻きに見ておるしか……。しかも守護獣様が仰るには、祠の中には別のモノもおるとか……一体何が起きておるのかの」

そう言うと、ばば様は大きなため息をついた。



「エト、『隠された神殿』って何ですか?」

涼は疑問に思ったので、素直に質問することにした。


「『隠された神殿』というのは、光の神殿においてもいくつかあるのですが、扉の奥に祭壇なども備え付けられているものです。神官さえいれば、すぐに儀式を行うことも出来るような……そういうものです。『祠』の場合は、祭壇と呼べるほどの大きい物は備え付けられていません。扉も小さいし。いつ頃、何のために作られたのかは、もう知識が散逸して伝わっていないらしいのですが、古いものですと千年以上前に作られたものもあるとか……」


エトの説明は、涼には非常に興味深いものであった。

ばば様にも聞かせる為か、いつも以上に丁寧な言葉づかいである。


「わしが知る限りにおいて、祠の扉は開かれたことはないからのぉ。中がどうなっておるのかは、今生きておる者じゃと、誰も知らぬのじゃ」

そう言うと、ばば様は小さく首を振った。


「以前、守護獣様が仰っていたことがある。守護獣様がいらっしゃる洞窟は、どこからか力が流れ込んできておるらしくてな。それで力の衰えた守護獣様は、あの洞窟に棲みつかれたらしいのじゃが……その力の流れてくる元は、この祠かもしれんと」

「それはあり得ることですね。『隠された神殿』は、地脈というか大地から湧き出る力の集まる場所に作られた、という説があります。もし、ここがそうであるのなら、『隠された神殿』に集まった力が、あの洞窟に流れ込んでいるのかもしれませんね」


エトは考えながら自説を披露した。


ようやく、「0025」におけるドラゴンのルウィンの感想が、伏線として回収されました。

よかったよかった。

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