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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
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0836 権力闘争

その日の夕方、副元首ジャージャと宰相ゼンモシが、副宰相チゴーイの執務室に怒鳴(どな)り込んできた。

これは珍しいことだ。


「チゴーイ! 我らの護衛兵が暴行を受けたと聞いたぞ! どういうことだ!」

入ってきて早々、ゼンモシが怒鳴る。


その後ろからジャージャも入ってきているが、こちらはそれほど怒ってはいないようだ。

いろいろめんどくさい、という表情だろうか。


「はい、ゼンモシ様。私も、その報告は受けました」

「そうか。で、暴行した者たちを逮捕したのだな?」

「いえ、しておりません」

「逃亡しおったか。捜索は進んでおるのだな?」

「いえ、しておりません」

「うむ、いずれ捕まえたら厳罰を……何? 捜索、していない?」

想定外の言葉が返ってきたからだろう、ゼンモシが怒りではなく驚きの声を出す。


「はい、ゼンモシ様。相手が誰か分かっておりますので、捜索はしておりません」

「逮捕もしていないと言ったな?」

「はい、言いました」

「相手が分かっておるのなら、なぜ逮捕せん!」

再び怒るゼンモシ。


「その護……兵士たちを政庁に連れてきたのは、デブヒ帝国のルビーン公爵とルスカ伯爵だからです」

「デブヒ? そんな国があったか?」

チゴーイが理由を説明するが、ゼンモシは首を傾げる。

その後ろにいるジャージャも同様に首を傾げている。


「中央諸国の大国の一つです」

「中央諸国? そんな遠方の国の……公爵と伯爵? そんな連中が、なぜこの街にいるのだ?」

「ファンデビー法国の艦隊が寄港しているのはお聞き及びでしょう」

「うむ、聞いている。教皇が乗ってきたのだろう?」

「はい。その艦隊に、お二人も乗り合わせているのです」

「なるほど、そういうことか」

ゼンモシは顔をしかめたまま頷く。



「だが、法は法。他国の貴族か知らんが、法にしたがって罰するべきだ」

ゼンモシが言い募る。


それは正論。

他国の貴族だからといって、法を犯せば許されはしない。


とはいえ……。


「一方の当事者、オスカー・ルスカ伯爵は、中央諸国最強の魔法使いであり、爆炎の魔法使いとの二つ名もあるくらいです」

「最強……」

「一分もかからずに、ヴォンの街を壊滅させることなど造作もないでしょう」

「……」

「そんな方を怒らせるのですか?」

「し、しかし……」

「東部諸国の脅威が迫ろうという、この時にですか?」

「む、むぅ……」


チゴーイの口調は決して強くない。

むしろ柔らかく言って聞かせる、という感じだ。


「しかも聞いたところによると、兵士が食事処で暴れたそうです。だからお二人は捕縛して、連れてきたと」

「馬鹿な!」

「正直、どちらが正しいのか分からない状態です。そんな状況で、有名な魔法使いを敵に回すのですか? こちらが絶対に正しい……そんな状況でもないのに?」

「くっ……」

チゴーイの説明に、ゼンモシが顔をしかめる。


実はゼンモシだって、護衛の兵士が正しいという絶対の確信はない。

ただ、メンツのために言いに来たのだ。

そしたら、相手は厄介な他国の貴族、しかも強力な魔法使い。

後ろには、ファンデビー法国がついている……彼らの艦隊の船に乗っているのだから。


迷うゼンモシ。

全く真剣みのない表情のジャージャ。



二人を見た後、チゴーイは話題を転換した。

「そもそも二人の護衛兵士たちは、何を探していたのですか?」

「何?」

「街中を走り回っているのは知っております。それが生んだ衝突です」

チゴーイは笑顔のまま問う。


「お、お主は知らんでよい!」

焦ってそう答えたのはゼンモシ。

ジャージャも顔をしかめている。


二人の様子を見て、チゴーイは確信した。

(ラムン・フェス様がこの街におり、動くことができない状態にあることを掴んだな)


いずれは知られるだろうと思っていた。


政庁や宿においておけば、すぐに見つかっただろう。

(教会に置かせてもらえて、本当に良かった)

チゴーイは、表情を変えずに心の底で、信じてもいない神に感謝した。



しかし、その夜。

「ラムン・フェス様は、ヴォン教会にいることが分かりました」

「なんだと!」

報告に、副元首ジャージャと宰相ゼンモシが異口同音に叫ぶ。

しかも同時に立ち上がる。


「すぐに兵を送れ……」

「待て!」

ゼンモシが命令するが、すぐにジャージャが止める。


「ジャージャ様?」

「今、ヴォン教会には西方教会の教皇がいる」

「あ……」

「しかも、その教皇の艦隊に、昼間の魔法使いが乗っているのだろう?」

「あ……」

ジャージャに指摘されて思い出すゼンモシ。


「魔法使いは教会には詰めてはいないだろう。だが、問題が起きれば出てくる可能性がある」

「どうすれば?」

「誰にも知られないように、命を絶て」

「……」

ジャージャの命令に、言葉を失うゼンモシ。


「どうした、ゼンモシ」

「い、いえ……その、元首様の命を、絶つのですよね……?」

「当たり前だ」

「しかし、いきなり、それは……」

「事ここに至って、何を迷う!」

副元首ジャージャが怒鳴りつける。


「申し訳ございません!」

頭を床にこすりつけて謝罪する宰相ゼンモシ。


こういう時、ジャージャの苛烈(かれつ)さが出ることをゼンモシも知っている。


「今やらねば、次は我々の首が狙われるのだぞ! ラムン・フェスの怪我が回復してみろ。我々の行き場は無くなるのだ!」

「は、はい」

ジャージャの圧力に、ゼンモシは抵抗できず。



「明日の夜、襲撃し、その命を奪え」

そんな命令を出さざるを得なかった。

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