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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
877/930

0830 ニール・アンダーセンをめぐる情報

「最近は美味いものを食べながら、暗黒大陸の錬金術を見て回っておる。四号君を見ることができたのは重畳(ちょうじょう)。またどこかで会うかもしれませんな」

ニール・アンダーセンはそう言うと、去っていった。


涼は少し寂しいとは思いながらも、またどこかで会える気がしている。

何の根拠もないのだが、ほとんど確信と言っていい。


涼とアベル、後ろから護衛としてついてくるスコッティーと四号君の『四人』は、スキーズブラズニル号に戻るために歩いていた。



「なあ、リョウ」

「なんですか、アベル」

「四号君は、リョウが呼んだから来たんだよな?」

「ええ、そうです」

「どうやって呼んだ……いや、あの場所がどうして分かった?」

「それはですね、僕から発信された『刺激』が空気中の水蒸気を伝って四号君に届き……ああ、僕のいつものソナーの魔法、あれと似た原理です。それを伝って四号君はやってきました」

ちゃんとした説明は伝わらないと思って、涼は端折(はしょ)って説明する。


正確性も大事だが、相手が理解できるように伝えることはもっと大事だ。



「四号君は、リョウが細かく場所を伝えなくとも、あの店の場所が分かったということだよな」

「ええ、そうです」

「すげーな」

アベルは素直に称賛し驚く。


人間同士でも、場所を伝えるのは難しい。

それなのに魔法を使えばゴーレムには、正確に伝わるのだ。


「これを使えば、複数のゴーレムを動かす場合とか、ゴーレム同士で仲間の位置を把握しながら行動できますよね」

「ああ」

「今はまだ僕の魔法ですけど、いずれ魔法式を組み上げて錬金術でいけるようにしますよ。そうすれば、ゴーレム同士見えていなくとも、タイミングを合わせた作戦とかできるようになります」

涼はその光景を想像し、何度も頷く。


「いずれは偵察用飛行ゴーレムを飛ばして、空から情報を収集し……それに連動した、空中からの指揮管制があってもいいかもしれません」

「は?」

「敵が全く気付かないうちに、複数のゴーレム軍団によって包囲して殲滅(せんめつ)するのです。これぞゴーレム時代の包囲殲滅戦です!」

「うん、よく分からんが戦争の形が変わるんだな」

「ええ。人間の代わりにゴーレムが戦う……愚かな人間たちの犠牲になってもらうのは悲しいですが、仕方ないのかもしれません。戦うのがゴーレムになっても、戦うかどうかの決断は人間がする。愚かな人間がです」

涼は悲しい表情で首を振る。


「ゴーレムたちが傷つかなくていいように、戦争そのものをなくさなければいけません」

「戦争をなくした方がいいのは確かだ。だが……」

「ええ、人の欲がある限りなくならないでしょう。尋常(じんじょう)な手段では無理だということです」

「うん?」

涼が言わんとしていることが分からず、アベルは首を傾げる。

だが傾げながらも、変な方向に行こうとしているのではないかとピンときてはいる。


「宣戦布告を行った瞬間、その国全土を<パーマフロスト>で氷漬けにしてしまえば、戦争は起きません」

「あ、うん」

「アベルが不満そうな理由は分かります。無辜(むこ)の民を犠牲にするなと言いたいのでしょう? そうであるなら、全土ではなく政府中枢の人たちだけ氷漬けにしましょう。戦争を引き起こそうとしたらこうなるのだと、世界中に見せつけてやるのです!」

「結局それは……リョウが戦争を引き起こしてしまうんじゃ……」

「その非難は甘んじて受けましょう」

なぜか決意に満ちた表情で頷く涼。


もちろんここまで、ただの想像による会話だ。

実際には何も起きていない。

ゴーレムによる包囲殲滅どころか、ゴーレム軍団すらない。


完全な妄想である。


「いずれ、氷のゴーレムの下に、世界平和が実現するに違いありません」

涼のそんな言葉も、妄想に違いない。


多分。




「ニール・アンダーセンがいる? 『本物』か?」

フィオナの侍女長兼副官であるマリーがもたらした報告を読み、思わずオスカーが問う。


マリーはよく分かっていないようだ。

少し首を傾げている。


「オスカー」

そう呼び掛けたのはフィオナ。

その呼びかけは、たしなめ。


「ああ、いや、いい。気にするなマリー」

オスカーもすぐに気付く。


マリーは一礼して、部屋を出ていった。



失態(しったい)だな」

「そんな大げさなものでは……」

顔をしかめるオスカー、苦笑するフィオナ。


「以前、西方諸国のマファルダ共和国に逗留(とうりゅう)しているという報告を受けていた。その後、共和国を出たとは聞いていたが……」

「『それ』が暗黒大陸に来たのかもしれませんね。共和国を出て以降、その足取りは追えていないそうなので」

「さすがの我が帝国も、西方諸国や暗黒大陸での活動はまだまだであろうな」

オスカーが頷いた。



一旦、ニール・アンダーセンの件はおいておくことになる。

二人ではどうにもならないので。


現状、もっと考慮すべきことが起きようとしている。


「暗黒大陸北岸に関する情勢報告書、先ほど届きましたが、かなり厳しい内容となっています」

「うん?」

フィオナはそう言うとオスカーに報告書を渡す。


一読後。

「しばらく止まっていた東部諸国による西への侵攻……いよいよ起きそうか」

「西部諸国連邦は元首が行方不明のままですから」

「副元首らが代行してはいるが……元首ラムン・フェス殿が優秀過ぎたからな。落差に連邦政府の足並みが乱れるのは仕方ない」

オスカーが小さく首を振る。


「首脳が優秀過ぎるのは考えもの?」

「いや、そんなことはない。優秀でない人間が国の首脳となれば、不幸になるのは民だ。そんなことはあってはならない」

「じゃあ、どうするの?」

「簡単なことだ。優秀な人間だけが首脳になればいい」

「ホント、オスカーの言うことは極端」

笑うフィオナ。


「だがルパート陛下やマリア様、他国でも連合のオーブリー卿や王国のアベル陛下など、皆、優秀だろう? だから国や領地が安定している」

「そう、政治を取り仕切るものが優秀な方がいいのは確かだけど……」

「もちろん、誰も生まれた時から優秀だったわけではない。努力し、必要な知識を身に付け、経験を積んでいったからこそだ。そういう姿勢があれば、今は優秀でなくともいずれは優秀になる」

「そうね、そういう姿勢は大切ね」

オスカーが熱弁し、それに笑顔で同意する。


フィオナは、オスカーが誰よりも熱い男であることを知っている。

だから、こういう会話は好きだ。

オスカーの素の部分が出てくるから。


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