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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
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0826 新必殺技

スキーズブラズニル号に戻ったアベルは、パウリーナ船長から報告を受けている。

その傍らを離れた涼は、『十号室』の三人に捕まった。


「何を話してきたんだ?」

ニルスが問う。

エトとアモンも無言だが、同じ問いをしたいようだ。



仕方ないので涼は、アークエンジェルで聞いたことや、経験したことを話した。



「小型のゴーレム!」

「ヴァンパイアを生み出すヴァンパイア大公……」

「爆炎の魔法使いさんは強かったです」

ニルスが驚き、エトが顔をしかめ、アモンが模擬戦を思い出す。


それぞれに気になるものは違うようだ。


「小型のゴーレムというと、王国騎士団にいる四号君みたいなやつか?」

「そう、大きさは同じですね。武器とかどうやって戦うのかとかは、教えてもらえませんでした。西方教会の最高機密だそうです」

「おぉ……そいつはすごいな」

ニルスは興味津々(きょうみしんしん)だ。


模擬戦で、直接四号君と戦ったこともあって、ゴーレムの戦闘にかなり興味をもっているのが涼にも伝わってくる。


だから涼はアドバイスをすることにした。


「ニルス、こっそりアークエンジェルに忍び込んで、船倉を強襲(きょうしゅう)すれば『白騎士』と戦えるかもしれませんよ」

「しねーよ! なんでそうなるんだよ!」

「戦いたそうにしていたからアドバイスを……」

「ああ、戦ってみたいとは思うが、真剣勝負はやりたくねー!」

心の底からの、素直な感情をニルスは吐露(とろ)した。



エトは両腕を組んで考えた後、涼に尋ねる。

「ヴァンパイアを倒すのって、聖別した剣で首を斬り落として心臓に突き立てる、だよね?」

「ええ、そう聞きました」

「生み出された、そのヴァンパイアたちも、それじゃないと倒せないのかな?」

「グラハムさんが倒したヴァンパイアは、全部そうしたらしいです」

「それは大変だね」

エトは、実際に戦う光景を頭に浮かべて言う。


一対一とは限らないのだ。

とどめを刺す前に、別のヴァンパイアに襲い掛かられてそっちに対処していたら……最初のやつが再生して戦闘に復帰……そんなことは普通にあるだろう。


いや、そもそも……。


「聖別された剣とか、そうそうあるもんじゃないよね? ニルスやアモンのは聖剣だから大丈夫だろうけど、王国騎士団とか……」

「ああ、確かに」

エトの懸念に涼も頷く。


グラハムのことだから、何らかの方法を考えてはいるだろうが……。

「今度機会があったら、グラハムさんに聞いておきます」



「ヴァンパイア大公の、あの<障壁>……障壁だよね、あれ。固かったね」

「リョウの攻撃で抜けなかったからな」

エトが思い出し、ニルスも同意する。


「あの時の魔法……<アイシクルランスシャワー“貫”>は、以前、教皇の絶対魔法防御すら貫いた技です」

「え……」

「でも、そうですね……あの時も、貫くまで時間がかかりました。確か一千万発当てて、やっと割れた気がします」

涼が思い出しながら、悔しそうに言う。


「いや、絶対魔法防御は、絶対に破れないんだよ? だから絶対なんだよ? それなのに破ったの? それが変じゃない?」

涼の話を聞いてエトが呟く。

何度も首を振りながら。


自身が、絶対魔法防御<聖域方陣>の使い手でもあるエト。

<聖域方陣>が破られたという話は、中央神殿にいる時にも聞いたことはない。

破られるとすれば、魔力切れの結果くらいのはずなのだ。


「リョウ、ちょっと相談が……」

「どうしました、エト。まさか、エトもアモン同様に、ニルスに暴力を受けているんじゃ」

「おい、リョウの中で俺はどんなリーダーなんだよ」

「暴力で従える悪いリーダー……」

「そんなわけあるか!」

涼が『十号室』の闇を暴こうとし、ニルスに全否定される。


もちろん『十号室』は暴力などない、仲の良いパーティーだ。

涼もそれを知っているからこその冗談である。


「私が<聖域方陣>を展開するから、それを破ってもらえる?」

「はい? もし破っちゃうとエトが氷の槍で串刺しに……」

「狙いをちょっとずらして、私に当たらないようにしてくれると嬉しい」

「確かに」

エトの真面目なお願いに、涼も確かにと頷く。


ボケたわけではない。


だがニルスは小さく首を振っている。

口元が「当たり前だろう」と動いたのに気付いたのは、アモンだけだった。




ちょうどいい場所を捜して、甲板上を動き回る一行。

そんな光景がアベルの目に留まらないわけがない。


パウリーナ船長からの報告を受けた後、アベルの視線が一行を追い……ついに声をかけた。


「リョウ、何してるんだ?」

「止めないでください、アベル!」

「いや、何をしようとしているか聞いただけなんだが……」

機先を制する涼、全く意味が分からないアベル。


「俺が止めるようなことをしようとしているのか?」

「そ、そういう独断(どくだん)偏見(へんけん)に満ちた姿勢は良くないと思うんです」

「じゃあ、何をしようとしているんだ?」

「黙ってそこで見ていてください」

涼は説明を拒否し、なぜか自信満々な表情になっている。


「説明しないのか? じゃあ、ダメだな。何しようとしているか分からんが、不許可だ」

「な! 何でですか!」

「危ないことをしようとしている可能性が高いからな」

「アベル王の暴虐反対! 国王の圧政を許すな!」

拳を突き上げ、シュプレヒコールをあげる涼。


『十号室』の三人は、笑っているアベルの様子から冗談であることは理解している。

とはいえ、涼が反王政主義者になるのも困るのでエトが口を開く。


「申し訳ありません、アベル陛下。私が頼んだことなのです」

「エトが?」

「先ほどリョウが、以前、教皇と戦った際に『絶対魔法防御』を撃ち抜いたという話を聞きまして。光属性魔法の使い手として、ぜひそれは見ておきたいと思ってお願いしたのです」

エトが簡潔に、だがきちんと説明する。


「エトが頼んだなら、まあ、いいか」

「なんでエトならいいんですか? 僕の場合、全力で止めるじゃないですか!」

涼が不満顔で抗議する。


「リョウが説明しないで、そのまま強行しようとしたからだろ」

「うっ……」

「そもそもエトは無謀なことはしないしな。だがリョウは……なあ」

「なあ、じゃないです、なあ、じゃ!」

「まあ、リョウだからな」

「だからな、じゃないです、だからな、じゃ!」

頬を膨らませて抗議する涼。


しかし問題は解決された。

アベルはパウリーナ船長を呼んで、場所の相談をし、甲板の一角を使用できるように算段を付ける。


「そ、そうやって実験場所を確保してくれたって、僕は許していませんからね!」

「別に許してもらうつもりで船長に話したわけじゃないぞ」

「え、そうなんです?」

「ちょっと俺も見たくなっただけだ」

アベルは笑いながら言った。



「<聖域方陣>」

エトが唱え、絶対魔法防御が展開する。


「教皇が唱えたのは、西方諸国版の絶対魔法防御<絶対聖域>だろうけど、効果は同じものみたいだから」

「了解です。あ、ちょっと隣に作りましょうか。<アイスクリエイト 前教皇>」

涼は頷いた後、エトの隣に氷の教皇像を作った。

それを標的にするらしい。


「<フローティングマジックサークル>」

涼が唱えると、その背後に十六基の魔法陣が浮かび上がる。


「行きます! <アイシクルランスシャワー“貫”>」


その瞬間、一秒当たり数万の氷の槍が、氷で作られた前教皇の額、ただ一点に向かって飛んだ。

もちろんそれは、エトが展開した<聖域方陣>によって弾かれる。


十万、百万、そして……一千万発。


パリンッ、ザク、ドドドドドド……。


<聖域方陣>が割れ、前教皇の額に氷の槍が刺さり、さらに残りの槍が顔を穴だらけにした。

氷の像だから良かったが、これが本物の人だったら、なかなか凄惨(せいさん)な絵になっただろう。



浮遊魔法陣を消し去り、涼は満足気に頭を失った氷の教皇像を眺める。

しかし、どこからも声が聞こえない。


「あれ? エト?」

「あ、ごめん」

涼が声をかけると、ようやくエトが我に返った。


「本当に<聖域方陣>が割れたことにビックリしちゃったよ」

エトが正直に感想を述べる。


涼はちょっとショックが大きすぎたのではないかと思ったのだが……。


「これは論文にして中央神殿で発表する必要があるね。ぜひ査読はリーヒャ様にお願いして……」

妄想を交えて、エトの目がキラキラしている。


神官の心は簡単には折れないらしい。

そのしなやかさに、涼は素直に称賛の念を抱いた。



「リョウ」

「見ましたか、アベル」

「ああ。さっきの魔法は、ヴァンパイアの大公にも放ったやつだろ」

「ええ。でも、どうしてもある程度の時間がかかってしまうんですよね」

涼は少しだけ悔しそうな表情になる。


ゾルターンの障壁を全て破ることができず、ハーゲン・ベンダ男爵を奪い返せなかったからだ。


「ですが、あの失敗と今の技を重ねてみると、新たな必殺技を生み出す力になりそうな気がします」

「必殺技?」

「これまでにない強力な敵との戦いが控えているのです。新たな必殺技の一つや二つ、開発していかないと鎧袖一触(がいしゅういっしょく)、簡単に倒されてしまいますよ」

「ガイシュウショク? 何?」

アベルの聞いたことのない言葉だったらしい。


「ですが大丈夫です。閃きました。その名も<アイシクルランスシャワー“瞬”>」

「おぉ! なんか凄そうですね!」

涼が宣言し、素直なアモンが称賛する。


「名は体を表すと言います。一瞬で、一千万発の氷の槍を撃ち込む技です」

「確かに凄そうだな。ちょっと見せてくれ」

「できませんよ?」

「うん?」

「まだ、そんな技は放てませんよ? そんなに簡単に必殺技が完成するわけないでしょう? アベルは考えが甘いです!」

「俺、怒られるようなこと言ったか?」

涼がなぜか腕を組んでとても偉そうに説教し、アベルが首を傾げる。



一千万本の氷の槍、というより氷の針全てを、一瞬で対象にぶつける。

理論上、絶対魔法防御すら破れるが、狭い場所、一点に全てを瞬間的に当てることが物理的に可能か。


「形は出来上がっているのです。ですが、それが本当に可能なのか……」

「魔法って大変なんだな」

涼が考え込み、アベルは肩をすくめるのだった。

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