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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第四章 西方諸国へ
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0803 模擬戦 第2ラウンド

模擬戦当日。

会場である第五訓練場の観客席には、王国騎士団や王国使節団が詰めかけた。

帝国や連合からも見たいという話が来たようだが、アベル王が断ったらしい。

王国関係者と、回復要員として協力してくれる教会関係者のみが観戦を許されている。


『十号室』の参加者はもちろん、ニルス、エト、アモンの三人だ。

それぞれ、模擬用の剣ではなく、自らの武器を使う。

まさに実戦さながら。


対する王国騎士団からも、三人が出場する。

二人の中隊長ザック・クーラーとスコッティー・コブック。

そして、もう一人……いや、もう一体と言うべきだろうか。


「頑張れー、四号君!」

「王国騎士団の誇りだ、四号君!」

「いったれー、四号君!」

そんな歓声が飛ぶ。


「なんという、四号君人気」

驚く涼。


「完全に、王国騎士団の心をつかんでいるな」

笑いながら感心するアベル。


そう、王国騎士団側の三人目は、剣術指南役四号君だ。



「俺の部下たち、四号君の応援ばかりな気がするんだ」

「心配するなザック、俺の方も同じだ」

小さく首を振るザック、苦笑するスコッティー。


観戦している王国騎士団五十人は、二人が率いている。

ナイトレイ王国からスキーズブラズニル号に乗って、果ては暗黒大陸にまで行き、共に苦難を乗り越えてきた者たちだ。

しかし、人気は、新人の四号君に及ばないらしい。


「これが終わったら、あいつらには全装備装着した上での二十キロ走を課してやる」

「ザック隊長は怖いな」

自分でなく四号君ばかり応援する部下たちにザックが(うら)(ぶし)を述べ、スコッティーが肩をすくめた。



アリーナ中央に六人が並ぶ。

審判の位置には涼、そしてアベルまでが立っている。


「とどめを刺すのは禁止、相手を殺してしまったら失格です」

「……」

涼が説明をしている。

聞いている五人は、当たり前だろうという顔をしているが、言っておかねばならないことは言っておくべきなのだ。


「四号君に関しては、剣を飛ばされたり、手足のどれか一本を失ったら負けとします」

『十号室』の三人と、ザック、スコッティーが頷く。


「説明は以上です」

涼のその言葉を受けて、アベルが前に出る。


「本模擬戦を、アベル一世の名の下に行う。双方、恥じぬ戦いを見せよ」

「はっ!」

アベルの言葉に、一層の気合いが入ったらしい六人。


「双方距離を取れ」

アベルの言葉によって、五十メートルほど離れる。


「始め!」

その号令と共に六人が一斉に走り始めた。



『十号室』の三人は、明確な目的があってコースを取った。


パーティーリーダーでありB級剣士であるニルスが剣術指南役四号君に当たる。

「四号君に奇襲(きしゅう)をかけました!」

「まずは四号君を沈めようという考えだな。よく考えているじゃないか」

涼の指摘に、アベルが頷く。


「でもそうなると、エトが当たるのは……」

「スコッティーだな」

「スコッティーさんも剣は……」

「もちろん強い。中隊長だぞ? 元々ザックと同じほどは強かったから……」

「エト……」

さすがに、少し心配そうな表情になる涼。


三対三の模擬戦の場合、神官や魔法使いのような後衛(こうえい)の立ち回りは非常に難しい。

当然相手は、まずそこに近接戦を仕掛けて潰そうとしてくるから。


スコッティーの剣に対して、エトは杖で対抗する。

「杖術!」

「リーヒャも使うが、エトの杖もなかなかじゃないか」

驚く涼、評価するアベル。


涼が驚いたのは、エトが杖で近接戦をこなしているのを見たことがなかったからだ。


実は、杖を振っているのは見たことがある。

剣士が剣で素振りをするように、神官たるエトが杖を振るっていたから。

とはいえ、実際の戦う場で、エトが杖でもって近接戦をこなしているのを見るのは初めてだ。


「防御に徹しています」

「いい判断だ」

いくら鍛えたとは言っても、B級神官とは言っても、王国騎士団中隊長の剣を打ち破るのは無理だ。

それは現実的ではない。


求められるのは、仲間が来るまで持ちこたえること……。



「そしてエース対決」

「ザック対アモンか」

アベルは腕を組んで見ている。


「ザックが強くなっているのは知っているが、アモンは……多分、俺はアモンの剣を初めて見るんだが、凄いな」

「ええ。アモンは、いずれ剣でアベルを超えると僕は見ています」

「ほぉ」

涼が断言し、アベルが少し驚く。


「ザックじゃなくて、俺がアモンに当たるべきだったか?」

「アモンの芽を潰さないでください」

アベルの冗談に、顔をしかめる涼。


涼はアモンの剣を高く評価しているし、本当に、いずれはアベルの剣を超える可能性があると思っている。

とはいえ、まだだ。

さすがに、今ではない。


「ザックとアモンの戦いは、長引きそうだな」

「となると、残りの二戦ですか」

「四号君が(つい)えるのが先か、エトが潰えるのが先か。その勝負になる」

「負けた側が二人に襲い掛かられる……」

涼が頷きながら答える。


同数同士の模擬戦であれば、それは当然の帰結だ。



「四号君は、やはり膝の使い方がうまいな」

「ええ、ええ。力の逃がし方は、バーチャル空間で何億回と経験して身に付いたのでしょう」

「億……」

「習うより慣れよを地で行くのが、あの場所なのです」

「すげーな、ばーちゃくかん」

アベルが感心している……ちょっと言葉は違うが気にしてはいけない。

会話は、相手に言いたいことが通じればよいのだ。


「初めて四号君を見せてもらった時は、剣を叩きつけていたよな」

「はい……刃を立てるというのを知ってなかったみたいですし」

「だが、今見た限り……」

「ええ、ちゃんと刃を立てています」

涼が頷く。


刃を立てるというのは、対象に対して刃をちゃんとあてているということだ。

剣の腹で叩いたりはしていないということ。

棍棒のような叩く系の武器ではなく、剣として斬る系の武器を使っているという認識を持ったのかもしれない。


「それだけでも、四号君をザックさんに預けた甲斐があります」

「まあザックだけじゃなくて、王国騎士団全員が色々教えてたようだけどな」

アベルが笑う。



「さすがに剣の技術においては、ニルスの方が圧倒的に上ですね」

「当然だろう、ニルスはB級剣士だ」

「でも、四号君は斬りつけられてもやられませんよ。なんたってその体は、僕が生成した氷なのですから」

なぜか威張る涼。


それをジト目で見た後、アベルは決定的な一言を口にした。


「ニルスの剣、聖剣だぞ?」

「あ……」

「いくらリョウの氷でも、さすがに何度も斬りつけられれば割れるんじゃないか?」

「確かに……そうかもしれません」

迂闊(うかつ)だった。


涼は自らの失態(しったい)に気付く。


「超重装備四号君にして送り出すべきでした」

「うん、それはそれで、模擬戦に重装備はどうかと思う」

何回斬られても大丈夫……そんな装備での模擬戦というのは、アベルでもあまり聞いたことがない。

基本的に模擬戦というのは、力、速さ、技術を競い合うものなので。


「やられなければどうということはありません!」

「うん、そういうのは実戦で頼む」

肩をすくめるアベルだが、四号君の剣の動きにはずっと注目していた。


「剣の角度の付け方も、いいよな」

「ええ、ええ、そうなんですよ。しかも流して、少しニルスの体勢を崩した後の反撃も、なかなか鋭いです」

「絶対、以前はやってなかったよな?」

「もちろんやってませんね。王国騎士団で学んだんでしょう。武者修行に出したかいがありました」

「何だ、ムシャシュギョって」

「可愛い子には旅をさせよという言葉が、僕の故郷にはあるんです」

「なるほど、良い言葉だ」

アベルは頷いた。




王国騎士団の代表の中に四号君がいると分かった時、『十号室』の作戦は決まった。

他の二人は中隊長。

そこに比べれば、ゴーレムとはいえ弱いはず。

そこを、真っ先に潰す。


(すぐに叩いてエトの援護(えんご)に回るはずだったのに……)

ニルスは心の中で顔をしかめる。

ニルスも理解している。

どれだけ早くニルスが四号君を倒せるか、エトがどれだけもちこたえることができるか……それが勝敗を分けると。


ニルスの剣は、それなりに四号君を捉えているのだ。

しかし……。


(斬れん。リョウの氷だから硬いだろうとは思っていたが、俺が使っているのは聖剣だぞ? 一撃では無理でも、二、三回同じところに入れれば切断できるだろ、どう考えても)

ニルスはB級剣士だ。

かなりの経験を積んできた。

その経験を基に、予測することができる……しかし、その予測のことごとくが、この模擬戦では裏切られる。


(リョウは四号君について何も教えてくれなかった。まあ、それは当然か、自分が造ったゴーレムだからな……しかし、ここまで強いのは本当に想定外だったからな。仕方ない、一つ一つやっていく)

ニルスはそう考えると、一度距離を取って剣を構えなおした。



「ニルスの雰囲気が変わったな」

「腹をくくったということでしょう」

「さて、四号君がどこまで耐えられるか」

「くっ……頑張れ、四号君」

「いや、リョウは『十号室』の強化担当だろう?」

「ニルスは、僕がいなくとも強く育ってくれるはずです」

涼が言い切る。


もちろん涼としても『十号室』の三人は大切な仲間だ。

ニルスもその中に入っている。


しかし……剣術指南役四号君は自分が造ったゴーレムなのだ。


「大方の予想を(くつがえ)して、四号君がニルスを倒してしまってもよいのです」

「……それはニルスに伝わらないといいな」

「誤解されては困るので言っておきますけど、僕はニルスを高く評価しています」

「お、おう」

「だからこそ、そんな高く評価しているニルスを四号君が倒したら凄いな、ということです」

「……そうか」

涼が堂々と主張し、アベルは小さく首を振って受け入れた。


どうせ結果は出るのだ。

見守ればいいだけである。



ニルスが正面から攻撃する。

それは、連撃。

四号君が防御一辺倒になるほどの連撃。


「これは……」

「狙っているな」

涼もアベルもニルスの意図を読み解く。

だがそれは、彼らほど経験豊富なればこそ読み解けるもの。


熟練者とそうでない者の差。


ニルスの連撃が終わる。


その間隙(かんげき)()って四号君が攻撃に移る。

それはまさに、「今をおいて他にはない」と熟練者でない者なら思考を誘導されるほど、絶妙な間。


「誘われました」

「乗るよな」

涼もアベルも、その瞬間、理解する。


四号君の一撃を左の肩当で流しながら懐に入り、ニルスの聖剣が四号君の右手首を斬った。


次の瞬間、四号君は氷漬けになった。

「ニルスの勝ちです」

氷漬けにして停止させた涼が宣言する。


それが聞こえたのだろう、ニルスは小さく頷き、何度も深い呼吸を繰り返した。

まだ模擬戦は終わっていない!

倒すべき相手が、まだ二人いる。

残念ながら、『まだ』四号君では勝てませんでした。

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