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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第四章 西方諸国へ
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0801 訓練に明け暮れる

元々、王国使節団の護衛は王国の冒険者たちが行っていた。

しかし、この聖都に到着以降、ほとんど仕事はないため、かなり思い思いに時間を過ごしていた。


その中でも人気なのは、やはりダンジョン攻略であろう。

特に転移機能のある『西ダンジョン』は、多くの冒険者が入り浸っていた。


そのため、国王たるアベルが宿舎に入った時にも、ほとんどの冒険者が宿舎にいなかったのだ。



「俺もダンジョン行きてー」

「さすがに団長はこちらにいてもらわなければ困ります」

ぼやいたのは使節団団長であり王都のグランドマスター、元A級冒険者ヒュー・マクグラス。止めたのは首席交渉官イグニス・ハグリット。


イグニスは法国を中心とした西方諸国との交渉の中心の一人だ。

以前は憔悴(しょうすい)しきっていたが、さすがに一年近くも聖都に留まって交渉を続けていれば、いろいろと慣れてくる。

現在は、かなり顔色もよくなり、生活全般でのストレスの発散方法なども確立していた。


「国王陛下も来てくれたし、俺はいなくてもよくないか? もういなくても大丈夫だろ? だいたい交渉はイグニスがやってくれてるし、俺がするのはサインだけだろ。それこそ、アベル陛下にしてもらえば……」

「そういうわけにはまいりません。陛下は各国の大使や、教会の枢機卿たちとの会談が毎日入っています。あるいは、陛下の来訪を聞きつけて、国元から元首や外務大臣を送ってくる西方諸国も増えてきています。そちらの対応が大変です。陛下には陛下の、団長には団長の仕事がありますので」

「むぅ……」

苦笑しながらイグニスが正論を述べ、ヒューが反論できずにすねる。



そんな二人の視線の先を、一人の筆頭公爵と三人の疲労困憊(ひろうこんぱい)状態の冒険者たちが歩いていく。

涼と『十号室』の三人だ。


「俺なんかより、筆頭公爵を団長にすべきだと思うんだ」

まだぼやいているヒュー。


「以前、私が聞いたところでは、リョウさんは帝国の爆炎の魔法使いと因縁(いんねん)があるとか」

「ああ、ウィットナッシュであったらしいな」

「ルビーン公爵様が団長になったとはいえ、爆炎の魔法使いはそのご夫君。その状況で、リョウさんを王国使節団の団長に据えるんですか?」

「あ、いや、そうだな、さすがにまずい……か?」

笑いながらイグニスに指摘され、その危うさに気付くヒュー。



「もちろんリョウさんは、ああ見えて、実はバランス感覚に優れていると思いますので、決定的な破滅を招く行動はされないでしょうけど……」

「つまり、爆炎の魔法使いとの、全面的な魔法戦はしないと」

「しないでしょう……したら大変でしょう?」

「この聖都は滅ぶだろうな」

もちろんヒューも、涼の全力戦闘が何を招くかは知らない。


だが、街の一つや二つは吹き飛ぶのではないかと思うのだ。

あるいは、凍りつくか。


「破壊されるよりは凍り付く方がいいか。後で融かせば問題ないしな」

「団長、すでに感覚がマヒしていますよ」

ヒューの言葉に、苦笑しながら首を振るイグニスだった。



二人の使節団首脳の前を通り抜けた四人は、とりあえずお風呂に向かっていた。

「お風呂に入れば血の流れがよくなります。体内の疲労物質を、素早く流し去りますからね。次の訓練に、早く取り掛かれますよ」

「風呂で終わりじゃないんだな……」

「大丈夫です。入浴後、しっかりマッサージもしましょう。体のケアは大切です」

「うん、何が大丈夫か、全然分からん」

涼が懸念(けねん)を払しょくすることを言い、意味が分からず首を振るニルス。


結局、入浴し、マッサージを受けた後、再び訓練へと舞い戻っていった。



再度ボロボロに、疲労困憊した『十号室』の三人。

「マジで……ルン騎士団は……こんな訓練を……受けていたのか?」

とぎれとぎれになりながら問うニルス。


「ええ、ええ。あ、でも、ルンでやってたのに比べれば、当然強度は弱くしてありますよ?」

「……はい?」

涼の答えに、三人とも絶句する。


「ルンの場合は本拠地での訓練ですから、ギリギリまでやりますけど、ここは違うじゃないですか。まあ聖都ですから、法国で一番安全な場所ではありますけど……突然、問題が発生して戦う必要があるかもしれないでしょう? そうなった場合を考えて、多少の余裕をもたせての訓練にしてあります」

「……これで余裕があったんだ」

「……ルン騎士団を尊敬する」

「明日は、もっともっと大変ってことですね!」

エトが絶望し、ニルスが尊敬し、アモンが喜びをあらわにする。


二度目の入浴を終えてはいるが、もちろん、三人ともボロボロである。

そんな三人が、部屋に戻ってベッドで突っ伏す。


「出でよ、御庭番衆!」

涼が唱えて生成されたのは、御庭番の九体。

氷のゴーレム。


「ああ、さっきみたいに頼む」

「同じく」

「私も」

ニルス、エト、アモンがマッサージに身をゆだねる。


涼のゴーレムは、戦闘はできずとも、足腰のバランスは良いし、強過ぎない腕の力加減も得意なのだ。

なぜなら、水田管理ゴーレムが元になっているから。


人類史上最悪足場の一つである水田の中で、腰をかがめて雑草を抜く。


そんな動きをこなせるゴーレムたちは、マッサージも上手かった。



「ああ、生き返るな……」

「疲労が抜けていきますね」

「マッサージのために、明日も頑張るよ」

ニルスもアモンもエトも、マッサージによって明日への希望が注入される。


その光景を見ながら、偉そうに腕を組んで何度も満足げに頷く涼。

もちろん頭の中では、明日の訓練メニューを考えている。


「力、速さ、技術は簡単には身に付きません。ですがそれらに対抗できる持久力は大切です。六十分間連続戦闘を、五分休憩を挟んで十時間くらいやってみるべきでしょうか」


別に三人を脅かそうと思ったわけではない。

思わず、考えていたメニューが口から漏れただけだ。


三人は震えたのだが……。

結局、涼もさすがにあんまりかと思って、もう少し優しい訓練メニューになったことを、ここに記しておく。



翌日、午後三時。

早めに訓練を切り上げた、涼を含めた『十号室』の面々。

風呂に入り、ゴーレムたちのマッサージを受けた後、涼が申し渡した。


「明日は、一日、完全休養日です」

「おぉ!」

驚きつつも喜ぶ三人。


「明後日、王国騎士団との模擬戦を行います」

「あぁ……」

驚きつつ、お互いに見合う三人。


「アベルの許可も、とってあります」

「それには……アベル陛下も見に来られるのか?」

ニルスが恐る恐る問う。


「ええ、もちろんです」

「よっしゃ、俺は頑張るぞ!」

ニルスが拳を突き上げる。


「その王国騎士団の、我々の相手をされる方々というのは……」

「アベルが選ぶそうです。誰が選ばれるのかは、僕は聞いてないです」

エトの問いに涼は答える。

それは事実だ。


「王国騎士団というだけでも強い方々ばかりですけど、一番強いのってどなたでしょうか」

「ああ……多分、中隊長のザックさんじゃないかな? そういえば船の上で、ちょっとだけ模擬戦をしました。そうそう、今、うちの四号君がザックさん付きになっています」

アモンの問いに、涼は思い出しながら答える。


「うちの四号君?」

「はい。氷のゴーレムです」

「なるほど」

涼の答えに頷くエト。


『十号室』の三人も、噂だけは聞いている。

王国騎士団に氷のゴーレムが一体紛れ込んでいると。

多分、涼のゴーレムだろうと言い合ってはいたのだが……事実だったようだ。


「今日と明日で、完全に疲労を抜いてください。相手は強敵ですからね」

涼はそう言うと、三人を自由にして宿舎を出た……。

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