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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第四章 西方諸国へ
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0799 四号君、見参

西方諸国におけるアベル王の一日は、とても忙しい。

視察、会談、会議、視察、会談、会議、視察、会談、会議……。


そんな忙しいアベル王が、夕食を()っている。

本当は夕食も、なんとかいう国の大使館に招かれていたのだが、大使と副大使が急に体調を崩したために、夕食会が中止になったのだ。


だから、宿舎で摂っている。

そんなアベルの元に、怪しげな筆頭公爵が近付いてきた。


「王国の民は、こんなに一生懸命頑張ってくれるアベル王に感謝すべきです」

「んあ?」

「僕は、心の底からアベルを尊敬していますから」

「お、おう、そうか」

よく分からないが、少しだけ照れるアベル。


「そんなアベル王に朗報(ろうほう)です」

「うん?」

「王立錬金工房臨時出張聖都研究所(仮)より、ゴーレム製造の報告をさせていただきます」

「錬金工房の臨時出張聖都研究所? 俺はそんなもの知らんが……もしかしてリョウが責任者か?」

「ええ、ええ。まだ申請を出していないので、(仮)ですが」

「……まあ、いい。それで、ゴーレムがどうした?」

「出でよ、剣術指南役四号君!」

涼が言うと、村雨の(さや)が淡く光り右手に剣を持った氷のゴーレムが現れた。


(ひげ)のように伸びた(あご)が特徴的だと言っていいだろう。

体全体の見た目は、今までの涼製ゴーレムよりも細身でしなやかな印象を受ける。

だが、アベルが感じたのは別の部分だったようだ。


「ほぉ……すごいじゃないか」

「でしょう?」

「ただ剣を持っているだけなのに、剣士としての力量があることを感じるぞ」

「分かりますか!」

「ああ、分かる。歩き方が……多分、そう感じさせるんだろう」

「さすがは元A級剣士」

涼は素直に驚いた。


「この……四号君は、あれだろ? 一号君から三号君たち同様に、リョウのオニワバンで隊長をするのだろう?」

「ええ、もちろんです。四号君が得た戦闘データが、御庭番たちにインストールされて広がっていくのです」

「その最初の一人だから、剣術指南役か」

「はい」

アベルの言葉に、嬉しそうに頷く涼。



元々『御庭番(おにわばん)』というのは、涼の中では忍者だ。

江戸幕府の将軍直下の忍者部隊……それは一騎当千(いっきとうせん)のつわものたち。

そんな『御庭番』の名を冠するのだから、ある程度は個人戦闘能力が必要だと、最初から思っていた。


しかし涼のゴーレムは、元々水田管理ゴーレム。

歩く、という点に関しては、地球の二足ロボット関連の知見を詰め込んでおり自信はあったが、実戦で戦うとなると……。


東方諸国でも活躍はしたが、剣を握っての戦闘ではなかった。


最終的に涼が目指すのは、戦場で人が死なないこと、戦争の根絶(こんぜつ)

強力なゴーレムの存在が、それを生み出す可能性も考えている……。



「四号君が持っている剣は……リョウのやつ同様に曲がっているな」

「ええ、ええ。僕の剣『村雨』を元に生成した四号君用特注剣『村雨改(むらさめかい)』です」

嬉しそうに答える涼。


「その四号君は、今から戦えるか?」

「模擬戦ですか? もちろんです」

「よし、なら……ザック、ちょっと手伝ってくれ」

「はっ」

こうして、ザック中隊長対御庭番四番隊隊長・剣術指南役四号君の模擬戦が行われることとなった。



宿舎の裏庭を借りての模擬戦。

「これは……どこまでやっていいのでしょうか?」

「ゴーレムの体は僕の氷なので、剣ではほとんど割れません。ですので、しっかり剣で斬ってもらっても大丈夫です。ゴーレムの剣も、寸止めはしないと思うので……」

「はい、そのつもりで戦います」

涼の説明に、ザックは頷いた。



そして、剣術指南役四号君対ザック・クーラー中隊長の、剣士同士の模擬戦が始まった。


始まったのだが……。



「歩き方や体の運びは悪くないが、腕の使い方が……」

「はい……」

「剣で斬ってないよな。ぶっ叩いてるよな」

「はい……」

アベルの指摘に涼も頷くしかない。


そう、四号君は持っている剣で殴っているように見える。


地球にいた頃に見た、アーサー王や十字軍時代を描いた映画などで、騎士たちが剣で殴っていたように……。

あの時代の西洋の剣は、斬るのではなく叩きつけていたらしいので、演じた俳優たちはある意味正しいのだろうが。


涼が望んだゴーレム剣士の姿ではない。



「腕だけというか、剣の重さだけで叩きつけているというか……」

「そうだな」

「故郷だと、腰が入っていない、みたいな表現を使います……」

「言いたいことは分かる。剣を持ったばかりの子たちは、往々(おうおう)にしてあんな感じになる」

涼もアベルも同じような認識だ。


「防御の際の、(ひざ)の使い方や力の流し方はいい」

「そう、荷重(かじゅう)移動はスムーズなのです。ですが、腕が……」

ため息をつく涼。


「刃が立ってない。棍棒を打ちつけているみたいだ」

「確かに」

涼はそう答えると、ハッとして氷の箱を取り出した。

バーチャル空間でゴーレムたちが戦い続けている、あの箱だ。


じっと中を覗き込む。


「ああ、この子たちも叩きつけています……しかし、腰を入れたり、刃を立てて斬りつけるって、どうやって教え込めばいいのでしょう」

ほとほと困り込む涼。


そんな涼の様子を見て、アベルは少し考えてから口を開いた。

「ザックに付けてみるか?」

「ザックさんに?」

「その四号君は、その箱の中の連中と違って、見て学ぶこともできるのだろう?」

「ええ。目で学んだり耳で学んだりもできます」

「ああ見えて、ザックは剣に真面目になった。訓練などであいつの動きを見続ければ、学ぶ部分もあるんじゃないか?」

「なるほど!」

驚きと嬉しさに涼は大きく頷いた。


「今夜調整して、明日の朝連れてきますので」



翌朝。

「ザックさん、ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いいたします」

「あ、いや、はい、お任せください」


剣を氷の鞘に入れて、腰に下げた四号君。

立ち居振る舞いは、剣士のそれだ。


綺麗な礼をする。

喋ることこそできないが、それ以外は完璧と言っていい。


「見た目は完璧だな。ザックと一緒に、俺の護衛をしてもらおう」

「え? いいのですか? さすがに王の護衛は影響が……」

「かまわん。存在だって、どうせすぐに帝国も連合も知ることになるだろう? どうせ知られるのなら、あえて見せよう」

「なるほど。あえて見せて抑止力(よくしりょく)として使おうと」

「そういうことだ。これほどのゴーレムを王国は開発し、王の護衛に使っているということを見せつけるとしよう」

アベルは豪快に笑う。


そう、四号君の見た目は完璧なのだ、見た目は。

いずれは、戦闘においても完璧にならんとする、その心意気は素晴らしいはずだ……。


次回、四号君を見守る涼……お楽しみに。

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