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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第三章 暗黒大陸
835/930

0788 王国騎士団の戦闘

「大漁、大漁」

嬉しそうな筆頭公爵。


「十八個ですから、みんなで三個ずつに山分けしましょうね」

そんなことを言っている涼。


しかし、モーラ隊長が苦笑しながら……。

「すいません、リョウさん。私たちは受け取れません」

「え? どうしてです?」

「私たちが受け取ると、それは任務遂行中に手に入れたものになりますので、街に納めることになります」

「なんですと」

愕然(がくぜん)とする涼。


その涼の表情を見て誤解されたと思ったのだろう。

「切り出したのはリョウさんですし、リョウさんが十八個すべて所有する権利があります」

そう説明したのはオミンだ。


「それはいけません。むむぅ……」

涼は顔をしかめる。


自分一人で独占するなどあり得ない。

みんなで手に入れた物だから、みんなで分けるべき……涼はそう思ったのだ。


いつもアベルとの会話では欲深いセリフを吐く涼だが、実は全く欲深くない。

アベルを含め、涼の周りにいる者たちは、全員そのことを知っている。

多分、涼自身が、一番認識していない……。



((アベル、国王であるアベルに相談です))

((ああ、聞こえていた))

((それなら話が早いです。どうにかなりませんか))

((街、あるいは西部諸国連邦の法の話だろう? どうにもならんだろう))

アベルが言い切る。


((そこをなんとか! いつも国王の権威で法をねじ曲げるアベルなら、いい方法を知っているはずです))

((うん、国王ってのは、自分を含めて民に法を守らせるのが役目だからな。国王が率先して法を破っていいわけないだろうが))

((ぐぬぬ))

正論のアベル、押し潰された涼。


((絶対に、何かいい方法があるはずです。法の穴をつくのです))

((おい……))

((それが無理なら……武力がものを言えば法律は沈黙す、政治家であり哲学者でもあったキケロは、『国家論』でそう書きました。つまり武力があれば法など……))

((リョウが言うと冗談じゃなくなるからやめろ))

((むむぅ……仕方ありません。何か穏便に解決できる方法を考えます))

こうしてアベル王によって、ロンド公爵の武力行使は止められた。


((ちなみに今回のような場合……例えばナイトレイ王国の法に則ると、これらの魔石の扱いはどうなるんですか?))

((王国の法だと、リョウを含めた六人の話し合いで決めていい))

((ほっほぉー。僕は分かりますけど、彼女たち……国のお仕事に従事している時に手に入れた物であっても?))

((そうだ。もちろん、冒険者ギルドからの依頼で時々あるが、事前に、手に入れた物の帰属が決められている場合はあるから、それは例外だがな))

((なるほどなるほど。かなり柔軟というか、権力が介入する前に、実際に手にした人が決めていいというのはありがたいですね))

涼は頷く。


((基本に、冒険者ならどうか、というのがあるんだと思うぞ。俺も冒険者になって気付いたんだが、現場主義というか実際に手にした者に、かなりの権利が認められているな))

ナイトレイ王国は冒険者の国だ。


リチャード王やアベルのように、冒険者から国王になった者も実際にいるわけで。


((僕は王国民で良かったです))

涼は小さく頷く。


((確かにリョウは王国民だが、ここは西部諸国連邦だから、王国民であろうと連邦の法律が適用されるぞ?))

((分かってますよ、それくらい。法律家涼をなめてもらっては困ります))

((なんだよ、それ))

涼のいつもの適当肩書に、呆れるアベルであった。




涼たち一行が尖った山を目指しているように、アベル王を中心としたナイトレイ王国一行、グラハム教皇を中心としたファンデビー法国一行も、山を目指している。


転移した二日目の夜。

アベルとグラハムが話し合っているところに、ステファニア枢機卿が報告を持ってきた。


「ほう、この場所が判明したか」

「はい。星の位置から判明しましたが、やはり……」

「アウグジェの街から東南東に二百キロ。いわゆる、暗黒大陸中央部か」

「あの絶壁の向こう側に、俺たちは飛ばされたわけか」

ステファニアが報告書を持ってきて、グラハムが予想通りと頷き、アベルが顔をしかめた。


アベルも、なんとなくは思っていた。

思ってはいたのだが、いざそれが確定となると……。


「なんでこんな所に……。強制、それもこれだけの人数を一斉に転移など、普通の錬金術では不可能だ」

「そう、おっしゃる通り。尋常ではない何かが動いて、あるいは何かの力が働いて、なのでしょうが」

アベルもグラハムも答えは出せない。


二人が出せる結論は同じだ。


「油断せず……」

「何が起きてもいいように注意深く進んでいきましょう」



翌日昼過ぎ。

グラハムの元に報告が来た。

「オーガの群れが前方にいるようです」

「ウォーウルフに始まって、ゴブリン、オークときて、今度はオーガか。山に近付くにしたがって、だんだん強い魔物になっていく気がするんだが」

グラハムがすぐ横にいるアベルに言うと、アベルは小さく首を振りながらぼやいた。


それぞれのリーダーであるアベルとグラハムは、隣同士で歩いている。

これは、その方が情報のやり取りが楽になるからだ。

アベルが抱える王国騎士団、グラハムが抱える異端審問官。

それぞれに特性が違うが、協力し合えば大きな力となる。


たとえば、今情報を収集してきたのは異端審問官だ。

この後、オーガと正面からやり合うのは王国騎士団。

後方から支え、けがの治療を行うのは異端審問官。

戦闘後、治療する一行の周囲を警護するのは王国騎士団。


そんな感じだ。


「リョウがいれば、全部一人でやってしまう……」

「彼は規格外でしょう」

アベルの言葉に、苦笑するグラハム。


ソナーで情報を収集する。

氷や水で魔物とやり合う。

治療……は水属性魔法ではできないが、錬金術で作ったポーションはある。

そして、氷の壁で囲って安全地帯を作り出す。


それらを一人でやれてしまう水属性の魔法使い。

改めて考えると、確かに規格外だ。


こちらの集団とは別に、第三守備隊五人だけが、涼と共に別の場所に転移したらしい。

だが、彼女たちはなんとなく大丈夫な気がアベルにはしていた。

「リョウは、絶対に守りぬくんじゃないか」



「<フラッシュ>」

異端審問官たちが、目を焼くような光をオーガに浴びせる。

彼らは光属性魔法を操る聖職者。

その中でも、フラッシュのような強力な光で相手の視界を奪う魔法は得意だ。


視界を奪われ混乱するオーガに襲い掛かるのはナイトレイ王国騎士団。

「足の(けん)だ! それから(ひざ)! まずは膝をつかせないと話にならんぞ!」

騎士団の中で声が飛ぶ。


オーガの体長は三メートル。

弱点である首や顔には、普通の状態では武器が届かない。

なので、人間が戦うには大変な相手。


どこかの騎士団指南役だったエルフのように、膝を一刀で切り裂いて返す刀で首を斬り飛ばす……そんな攻撃はなかなかできないのだ。


それでも、王国騎士団は戦う。

信頼するスコッティー中隊長の下、敬愛すべき国王を守るために。


「オーガという強敵を相手にしてもひるまない。さすがは中央諸国でも大国として知られるナイトレイ王国の王国騎士団ですね」

「この三年で大きく成長したのは確かだ」

グラハムの言葉に、アベルは頷く。



アベルが王となる前、栄光ある王国騎士団の名声は地に落ちていた。

そんな時代を知っている者たちも、この中にはいる。

彼らだって、それでよしとしていたわけではない。


王が代わり、騎士団長も代わり、隊長らも代わった。

それはなにより、騎士団員の心根を変えた。

それを見て、新たに騎士団への入団を希望し、入ってくる者たちも出てきた。


それが今。

誇りと自信を胸に、故国から遠く離れた地においても主君を守って戦い続けている。


オーガの皮膚は固く、筋肉も人間とは比べものにならない。

彼らは棍棒を振り回すが、その膂力はすさまじい。


そんなオーガ、二十体を超える群れ。

普通の騎士団五十人では、とうてい相手にできない。


しかし、<フラッシュ>による目潰しと、的確な指示、連携によって、十分ほどで全滅させた。



「死者ゼロ、重傷者一人。現在治療中です。深刻な損害はありませんでした」

スコッティーの報告に頷くアベル。


そしてグラハムの方を向いて頭を下げる。

「治療、感謝する」

「いや、なんの。王国騎士団に最前線で戦っていただいているのに比べれば、治療などたいしたことはありません」

グラハムが笑いながら答える。


それはグラハムの心の底からの気持ちでもある。

異端審問官は、他の聖職者たちとは比べものにならないほど高い戦闘力を持っている。

しかしそれでも、平地で正面から戦うというのは、決して得意ではない。

彼らが最も力を発揮するのは、屋内での戦闘。

光のない夜、薄暗い中での戦闘だ。


特に今回のように、大きく馬鹿力なオーガと正面から戦うなどというのは、最も苦手な部類といえる。

それを王国騎士団が代わってくれているのだ。

感謝の気持ちを持つのは当然だろう。



「陛下、そのままの表情でお聞きください。確たる証拠はないのですが、我々は何者かに監視されている気がします」

「ほぉ」

「異端審問官は、周囲一キロほどまで情報収集してきます。そこには監視者は引っかかっておりません。つまりそれより外からの監視です」

「それは、空からの可能性もあるか?」

「ああ……それは考えていませんでした。そう、空からの可能性もありますね。私に分かるのは『視線を感じる』だけですので、どこからどう見られているかは分かりませんが」

「承知した。頭の中に入れておく」

グラハムとアベルが、(ささや)くような声を交わした。


((こっちは、そんな状況だ))

((それ……監視しているの、ヴァンパイアとかですかね))

((そうなのか?))

((一キロ以上離れていても見えるって、聞いた覚えが……))

涼の情報仕入れ先は、トワイライトランドの支配層だ。


((あそこの女公爵のアグネスさんが、以前教えてくれました。僕らがトワイライトランドに入る時、それくらい離れた場所から監視していたらしいですよ))

((マジか……))

涼の情報に驚くアベル。


((情報の共有は大切ですね))

((ああ、間違いない……が……))

((どうしました、アベル))

((いや……魔人も、遠い距離まで見えるんじゃないかと思ったんだ))

((そうなんです?))

((魔人ガーウィン……あいつ二キロ以上離れていたゴールデン・ハインドを撃沈した時、見えてたみたいなんだよな))

((なるほど))

アベルも涼もため息をつく。


彼らが対峙する相手は、人が相手をするには厄介な者が多すぎる。

ヴァンパイアにしろ、魔人にしろ……。


涼は認識する。

((それこそ、そのガーウィンじゃないですか?))

((監視しているやつがか?))

((ええ。だって彼、レオノールに叩きのめされた後、南の方に去って行ったでしょう? ここって、北沿岸部から見れば南の方ですし……))

((言われてみればそうだな。あいつの可能性もあるのか))

アベルは顔をしかめる。


はっきり言って、魔人と戦って、勝てる戦力ではない。

そもそも、この場には涼もいないのだ。


((僕が合流するまで粘ってください))

((……努力する))



アベルが涼と『魂の響』で会話をしている間、グラハムもステファニアと話していた。

「十中八九、ヴァンパイアだ」

「我々を監視している者ですか?」

「ああ」

「なぜ、聖下は分かるのです?」

「ヴァンパイアハンターだからさ」

笑うグラハム。


もちろんその答えは、論理的ではない。

ヴァンパイアハンターという二つ名は、多くのヴァンパイアを葬ってきた、その結果として呼ばれているだけだ。

神が与えた特別な称号などではない。


グラハム自身は、なぜ分かるのかを知っているが……そのことは、最側近であるステファニアにも伝えていないのだ。

(いつかは私も……過去と向き合うことになるのかもしれない)

そう認識してはいるし、覚悟もしている。


「だが、今ではない」

「聖下?」

「シオンカ侯爵と配下の連中の可能性が高い」

「侯爵本人ですか? ですが、彼らはもっと南のはず」

「そうだな。だが……あくまでこれは可能性だが、彼の者たちも我々のように転移させられていたら?」

「!」

グラハムの仮説に驚くステファニア。


「確かに、可能性は……あります」

「ゴーレムが無いから楽には勝てんだろうが……公爵が出てくるよりはましだ」

「ロズニャーク公爵ゾルターン……」

「我々にできることは、奇襲を受けても、うろたえないようにしておくということくらいだな」

「はっ。徹底させておきます」

ステファニアは一礼すると、去っていった。


「視線はヴァンパイアと分かる。だが、全身を包み込むような、この嫌な感覚は一体なんだ。暗黒大陸に入ってから感じてはいたが……転移してからは、信じられないくらい強くなった」

グラハムの呟きは小さすぎて、誰にも聞こえない。


「強くなったとは言っても、他には誰も感じていない……ステファニアですらだ。ああ、こういう時、リョウ殿がいてくれればいろいろ違うのかもしれないな」

小さく首を振って、苦笑するグラハムであった。


来る2025年3月19日、日本では

『水属性の魔法使い 第三部 第一巻』が発売されます。


同じ日に、台湾では青文出版様から

『輕小說 水屬性的魔法師 第一部 中央諸國篇(04)』

つまり、第一部 第四巻が発売されるそうです。

ありがたいですね!


ワールドワイドに広がっていく水属性の世界!

筆者としても、とても楽しみです。

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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