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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第五章 開港祭
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0076 集まる人々

「護衛の皆さん、こちらが我々が泊まる『青の水平』です。三人部屋二つ、四人部屋一つで予約しています。各自で受付をお願いします。ルンの街への帰還は、開港祭終了の翌々日、十日後の朝九時に出発しますので、それまでご自由にお過ごしください」

商団纏め役のウーゴはそう言うと、商人仲間を連れて、早速商談へ向かった。


「そういうわけだから、うちが三人部屋二つ、ニルスたちが四人部屋一つでいいよな」

「ええ、それで」

「よし。あとはまた十日後にな」

そういうと、『コーヒーメーカー』は『青の水平』の受付へと入って行った。




「何事もなく着いてよかったぁ」

部屋に着くと、エトは大きく息を吐いた。

十号室の四人にとって、初の護衛依頼であったため、多少なりとも緊張した二日間だったのである。


もちろんそれは涼も例外ではなく、多少疲労を感じていた。

「とりあえず、飯食いついでに外歩いてみるか」

ニルスのその一言で、食べに出ることになった。



明後日から開港祭が始まるということで、街全体が活気に満ちていた。

大通りはもちろん、路地を一本入った裏通りすらも、露店が並んでいる。

そんな中を、四人は買い食いしながら歩いていた。


「これは……やはりフィッシュアンドチップス。美味しい……」

涼が感動に打ち震えている横で、

「信じられない……これがデビルフィッシュの足だなんて……」

エトがタコの足を焼いた、タコ足の炭火焼きに舌鼓を打っている。

「このコロッケ、エビの磨り潰したやつが入ってて美味しいです」

アモンがコロッケを堪能している傍らで、

「このミニクラーケンの姿焼きも甘いタレで癖になるぞ」

ニルスが焼きイカを両手に持って悦に入っている。


結局この夜、十号室の四人は、料理店に入ることなく、露店の買い食いでお腹いっぱいになったのであった。




翌日。

明日から始まる開港祭の最後の準備に、街全体が追われていた。

祭りの見学や、各国からの来賓など、到着の最終組が続々と街に入っていく。

その中に、一際目を引く一団があった。

デブヒ帝国帝都からの来賓である。

その一団の馬車の中でも、さらに豪奢な造りの馬車……ドアには帝室の紋章が描かれている。


「ランド、どうした。何か問題か?」

「いえ、殿下、先に入っているクファリス王国の馬車が、何やら手続きに手間取っておるようです……いかがいたしましょうか」

「我らの問題でないなら構わん。それぞれの国の事情、我らが口をはさむことではあるまいよ。ゆるりと待つとしよう」

そういうと、帝国第三皇子コンラート・シュタイン・ボルネミッサは馬車のソファに深々と身を沈めた。


「これが海の香りか……なにやら懐かしいな」

馬車の窓から漂う潮の香りに、コンラートは呟いた。

(我が帝国には海が無いというのに、海の香りを懐かしいと感じるのは面白い事だ。海を手に入れるのは皇帝陛下の、いや数代前からの悲願ではあるが……手にすれば手にしたで面倒ごとの種を抱え込むことになるのだろうな……)

そこまで考えたところで、馬車が進み始めた。


「殿下、このまま直接、宿泊所となる領主館に向かいます」

「ああ、ランド、よろしく頼むよ。確か、そのまま街の代表との会談があったね」

「はい、その通りでございます。その後、領主主催によります晩餐会となります」

帝国の代表として来ている以上、多くのスケジュールが詰め込まれている。

「まあ、仕方ないか」



その夜、街中では前夜祭が行われ、領主館では領主主催の晩餐会が開かれていた。

「すまないねフィオナ。こういう場は慣れていないだろうに……疲れただろう?」

「お兄様、どうかお気になさらずに」

第三皇子コンラートは、隣で挨拶を受ける第十一皇女フィオナに声をかけた。


「この後、領主のロクスリー殿が退出される。そのタイミングで自室に下がっても大丈夫だから。まだ明日以降もいろいろあるから、今夜はゆっくりおやすみ」

そう言うと、挨拶をしようと寄ってきた各国の来賓たちを引き連れ、少し場所を移動した。それによって、フィオナは退出しやすくなったのである。

この辺りは、コンラートの如才無さと言えよう。

領主ロクスリーが皆に見送られて退出。そして、フィオナを含め来賓の幾人かが場を退いた。



「殿下、お帰りなさいませ」

自室としてあてがわれた部屋に退くと、フィオナはそのままベッドに飛び込んだ。

「殿下、はしたのうございます」

慌てて、副官マリーが注意する。

この旅の間、マリーはメイドの役割を与えられている。

軍での副官、皇女のメイド、両方を問題なくこなすことが出来る有能な人材なのだ。


「マリー……疲れた」

「ええ、それはもう、全身から疲労感が滲み出ていますので、言わなくともわかります」

口ではそう言いながら、フィオナの身体を起こし、ドレスを脱がせていく。

「コンラート兄様が退がっていいと仰ってくださってよかったわ……やっぱりわたくしには、ああいう場は向いてない。師団長室の方が何万倍もいいわ」


フィオナは、ため息をつきながら部屋着に着替えていく。

本来であれば、部屋着を着る際にもメイドが手伝うのだが、いつも軍に身を置き、ほとんどのことを自分でこなしているフィオナにはそっちの方がめんどくさいのだった。



「コンラート殿下は、昔からフィオナ様にはお優しいですから」

「そう、コンラート兄様は確かに優しいのだけど、今回のはそれだけではないと思うの。わたくしがいると、邪魔なのよ」

「そんな! 邪魔だなんて!」

思わず叫ぶマリー。


「ああ、言葉が足りなかったわ。今回の代表団、わたくしもお兄様の横に名を連ねて『帝室』の名を背負っているの。つまり、わたくしも代表団の代表。そんな者が、もし何か不利益なことを言ってしまったら……言質をとられてしまったら面倒なことになるでしょう。だから、先に下がらせたのだと思うの」

「なるほど。コンラート様はそこまでお考えになって……」

「ほんと、わたくしとたった三歳しか違わないのに……凄いわ」

そう言うと、フィオナは小さく首を横に振った。


「フィオナ様には、他の追随を許さない剣と魔法がございます!」

マリーは敬愛する上官であるフィオナを励ました。

「剣と魔法が取り柄の女っていうのも、面白いわね」

そう言うと、フィオナは笑ったのだった。


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