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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第二章 西へ
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0747 死闘Ⅰ アベル対オレンジュ

「ようやくだ。待っていたぞ、アベル」

「俺は別に、待っていないんだがな」

オレンジュとアベル。

剣を構え、二人は対峙(たいじ)する。


一年ぶり。

だが……。


(何だ、こいつは……。いや、アベルだ、それは分かる。分かるのだが、一年前とはあまりに違う)

オレンジュは、一度息を深く吸い、深く吐き出す。

そうしなければ冷静さを保てないほど、圧迫されていた。


アベルは何もしていない。

剣を構えているだけだ。

特に圧をかけているわけですらない。


しかし……。

(一年前と違い過ぎるだろうが! アベルは人間だぞ? 人間が、たった一年でこれほど変わるか? 対峙しただけで……俺、震えている? いやいやいや、ガーウィン様の眷属(けんぞく)である、俺が?)


オレンジュは、もう一度深く息を吸い、深く吐きだす。


「どうした、オレンジュ」

アベルが問いかける。


その問いかけに、オレンジュはびくりとする。

心臓をわしづかみされたような、(のど)()めつけられたような……意味の分からない圧迫感。


「一年で、変わったな」

思わずオレンジュの口から漏れる言葉。

言ってしまった。言わざるを得なかった。

そう口に出さねば、圧迫感から逃れることができなかった……。


「そうか? 確かに、毎日剣を振るようにはなった」

アベルは、うんうんと頷きながら答える。

全く気負っていない。


「そんな表面的なことじゃないと思うんだが」

「そう言われてもな」

オレンジュは口から絞り出すように言うが、アベルはあっけらかんとした様子。


実際、アベルは、ほとんど変化を感じていない。


東方諸国で、かつて思っていた「強くなりたい」という気持ちを取り戻した。

それは確かだ。

しかし、だからといって、一年やそこらで強くなるものでもないということは知っている。

まだ今は、努力を再開したばかり。

結果が出るのは数年後、あるいは十数年後……。


「お前さんとの再戦は、もう少し後の方が良かったというのは、正直なところだ」

「何だと?」

「もう少し強くなってから、戦いたかったという意味、だ!」


一気に間合いを侵略するアベル。


ガキンッ。

音高く響く剣と剣。


始まるアベルの連撃。


「くっ」

オレンジュは防御に必死。


アベルは人間、オレンジュは魔人の眷属。

本来、人間よりも魔人の眷属の方が、力も速さも圧倒的に上だ。

現状でも、アベルよりもオレンジュの方が、力も速さも上回っている……はずなのだが……。


アベルが押していた。


なぜか?

オレンジュがアベルに、気持ちで呑まれているから。


対人戦において、『気持ち』というのは非常に大きな割合を占める。


涼がいつも言っているではないか。

相手の冷静さを奪うのは、対人戦の初歩の初歩。


怒らせるだけが、冷静さを奪う方法ではない。

怯えさせても、冷静さを奪うことになる。


冷静さが失われた場合、その影響が最も出るのは何か。

力か?

速さか?

いや、技術だ。


みるみるうちにオレンジュの傷が増えていく。


致命打は受けていない。

手も足も問題なく動く。

戦闘力そのものは落ちていないのだが……。


大きなダメージを受けているのは、そんな見える場所ではない。

心の中だ。


(なぜだ? なぜ、これほどに差がついた?)

そんな思考によって、オレンジュの心は乱れている。


実際、オレンジュが思っているほどの差はない。

むしろ、力と速さはオレンジュの方が上である。

技術も、驚くほどの差はない。

だが、心が後手(ごて)を引いてしまったために、その差が技術に波及し、傷を増やしているのだ。



アベルの方としても、それらを全て理解しているわけではない。


ただ、いつもより先読みがスムーズなのは分かる。

ただ、いつもより体の動きがスムーズなのも分かる。

どうも、いつもより剣が赤より白く輝いている気がする……。


剣はともかく、他がうまくいっているのは分かる。

同時に、オレンジュの心が乱れ、それが技術の差となって表れ、結果が拡大しているのも分かる。


分かっているのなら、最大限つけこむ。


口を開く必要はない。

剣を見せつければいい。


そうすれば……。


「ありえん……なぜ、これほどの差がある」

オレンジュの口から漏れる、まるで呪詛(じゅそ)のような言葉。


もちろん、アベルは何も答えない。

答えれば、その情報が、オレンジュが立ち直るきっかけになるかもしれないからだ。


無言のまま、剣戟(けんげき)はさらに苛烈(かれつ)なものとなっていった。

死闘が続きます。それなりに長く……。

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