表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第二章 西へ
781/930

0734 バモス島

「西方諸国をスルーして、一気に暗黒大陸に来てしまいました」

「するして?」

「ああ……寄らないで?」

「そうだな」

「どうしましょう」

「どうしようもないだろ。まあ、最終的には暗黒大陸に行くつもりだったんだし……暗黒大陸の後、西方諸国に行けばいいんじゃないか。順番が逆になるだけの話だ」

「器が大きいのか、何も考えていないだけなのか。王様がこんなだと、我々周りの人間が苦労します」

「リョウに言われるのだけは、違うと思うんだよな」

涼が困った表情で小さく首を振り、アベルは心外(しんがい)だと言いたげな表情で肩をすくめる。



「陛下、いかがなさいますか」

パウリーナ船長がアベルの判断を仰ぐ。


アベルは冒険者ではない。

百人を超える人間に対して責任のある立場。

パウリーナもその下で、乗組員に対して責任のある立場。


「船長、すまんが暗黒大陸に先に寄る。その後、西方諸国に向かってほしい」

「承知いたしました」

「暗黒大陸は、沿岸部にだけ人が住んでいると聞いているが?」

「はい、おっしゃる通りです。特に西方諸国と取引があるのは、大陸北岸部だけです。明日には見えてくるバモス島こそ独立した島国ですが、そこから先は東部諸国、西部諸国連邦が沿岸部のかなりを統治しています。少し内陸にいけばオアシス都市で、両大国の支配下にない街、小国家もあるそうですが……我々西方諸国の人間には、その知識がほとんどありません」

「なるほど。ならば、そのバモス島から東部諸国、西部諸国連邦と、沿岸を東から西に回るか。その後、西方諸国に向かう。それは可能か?」

「承知いたしました」

こうして、アベル王の西方行は、最初から大きく変更されるのだった。



その断が下された後、赤い一人の老人と棺桶(かんおけ)が、涼とアベルの元にやってきた。

「妖精王の寵児、それにアベル王よ、(いとま)()いに参った」

「マーリンさん?」

「暇乞いと言ったか?」

マーリンの言葉の意味が分からず、問い返す涼とアベル。


「うむ。船は暗黒大陸に寄るのであろう?」

「ああ、すまん、そういうことになった」

「よい。わしは乗せてもらった身じゃ。先ほど少し試してみたら、ここからならわしのダンジョンまで転移できそうなのじゃ」

「おぉ……」

驚きの声をあげる涼。


「それにな、実は暗黒大陸には上陸したくないのじゃ」

「なぜだ?」

金色(こんじき)の厄介な奴がおるでな。近付きたくもない」

アベルの問いにマーリンは苦笑する。


暗黒大陸には、マーリンと反りの合わない魔人がいるということなのだろうと、涼は勝手に解釈した。


「それで……マーリンさんは分かったのですが……」

涼はちらりとマーリンの横に並んでいる棺桶を見る。


「我もマーリンと転移する」

「いつもわしに文句ばっかり言っておるくせに、こういう時だけ……」

棺桶……もといレグナが宣言し、マーリンは愚痴(ぐち)をこぼす。


「その後は、西方諸国を巡ってみようと思っている」

「なるほど」

レグナの言葉に涼は頷く。

頷きはしたが、ふと疑問に思う。


どうやって巡るのだろう。

まさか、この棺桶の姿のまま?

いや、さすがにそんなことはないだろう……。


「この箱は心地よい」

「あ、はい……」

生き方のスタイルは人それぞれ。


「西ダンジョンに寄ることがあったら声をかけよ。美味いコーヒーを馳走(ちそう)するぞ」

「我が消滅するまでに、どこかで会えるとよいな」

マーリンとレグナはそう言うと、転移でスキーズブラズニルを去っていった。




翌日朝。

スキーズブラズニルの船首に立ち、遠眼鏡を覗く涼とアベル。

「確かに……うっすら、陸地が見えます」

「あれがバモス島なんだろうな」

「凄いですよね、船乗りさんたちって」

「うん?」

「だって、周りに何も見えない大海原(おおうなばら)で、星の位置だけで自分たちがどこにいるのか判断するんですよ? GPSもないこの世界で」

「じーぴえす?」

アベルの知らない単語であった。


そんな二人の元に、パウリーナ船長がやってくる。


「陛下、もうしばらくすると、哨戒(しょうかい)船が来て臨検(りんけん)を行うと思います。暗黒大陸沿岸では、ごく普通の手続きですので……」

「ああ、その辺りは船長に任せる。必要なら、俺の身分照会でも何でもしてかまわん」

「ありがとうございます」


パウリーナが去ると、涼が声をかけた。

「今回は、ちゃんと身分証明のプレートを身につけてきたんですね」

「大丈夫だ」

そう、東方諸国に飛ばされた際には、アベルはプレートを身に着けておらず……涼は苦労したのだ。


「あの時は大変でした……」

「お、おう、悪かったな」

涼の愚痴に、アベルは素直に謝罪する。

実際、東方諸国から戻って以降、アベルは常にプレートを身に着けている。


「アベルがプレートを身に着けていなかったせいで、水戸黄門ロールプレイができなかったのです。あれは大変な痛手でした」

「ミトコモンロールプレ?」

「今回は大丈夫そうなので、どこかでやりましょう」

涼は頭の中で企画を練る。


「なんだろう、この非常に不安な気持ちは」

涼の様子を見て、アベルは顔をしかめる。

ろくでもないことに違いないと、勝手に思っているのだ。


まあ、だいたい合っている……。



そんな、哨戒船のことを伝えられたのだが、スキーズブラズニルがバモス島に近付いても船はやってこない。

「来ませんね」

「変だな」

涼もアベルも、遠眼鏡を覗きながら会話をしている。


バモス島の港は、島の向こう側らしく、二人には見えない。

しかし……。


「島の向こう側、煙が上がっているように見えないか?」

「ああ……言われてみれば。みんな、朝食の準備をしているんですかね?」

アベルと涼が、そんな平和な会話を交わしていた時……。


カンカンカン、カンカンカン……。


甲板上に鐘が鳴り響く。


「え?」

「襲撃?」

もちろん、涼もアベルも船を攻撃してくる敵性船は見つけられていない。


だが乗組員たちは、無言のまま帆を畳み、盾、弓矢を甲板上に配置し始めている。

それに呼応して、ザックとスコッティー率いる王国騎士団も盾を持ってアベルの周囲を囲み始めた。

ザックもスコッティーも、正確に何が起きているのかは分かっていない。

だが、異常な何かが起きようとしているのは分かるために、まずは主の安全を確保したのだ。



そうしている間に、船長のパウリーナがやってきた。

「陛下、バモス島の港で戦闘が行われているようです」

「あの煙は、それか」

「はい。本船は直接入港せずに、港の沖に回り状況を確認いたします」

「分かった、船長の判断を支持する」

パウリーナの説明を即決するアベル。


すぐにアベルは遠眼鏡でバモス島を見る。

「島の他の箇所からは煙は上がっていないな?」

「ええ、上がっていませんね」

アベルの言葉に涼が答える。


その後、視線が後方上部を向く。

視線の先には、スキーズブラズニルのマスト。


「マストの上から、戦闘中であることを確認したんでしょうね」

「そうだろうな。上がっていって邪魔するなよ?」

「しませんよ。まったくアベルは、僕を何だと思っているんですか」

「わがまま魔法使い?」

「なんたる()(ぐさ)!」

アベルが遠眼鏡を覗き込んだまま適当に答え、憤慨(ふんがい)する涼。



スキーズブラズニルは、島の港側に回り込もうと移動し続けている。

そんな中……。


「船長! ちょっと見てください!」

マストから監視員が叫ぶ。


パウリーナはその声が聞こえると、身を翻して軽やかにマストに上がっていき、監視所に降り立って遠眼鏡で見る。


「とても軽やかでした」

「さすがは船長だな」

「でも、あの表情は……」

「判断がつかない、といった感じか?」

涼とアベルは、甲板からパウリーナの表情を読み解いている。


あまり表情の変わらない彼女だが、なんとなく二人も分かるようになってきたのだ。

現在の表情は、『困惑』だろうか。


操舵手(そうだしゅ)、港から距離を取ったまま回り込め。絶対に近付くな!」

「アイサー!」

「甲板、矢と遠距離魔法に注意!」

「了解!」

マストから、パウリーナの指示が飛ぶ。


「遠距離魔法?」

「この距離でか?」

涼とアベルは首を傾げる。


「リョウなら、この距離で魔法が届くか?」

「届かせるだけなら届きますけど……対象が見えにくいですよね。精密な魔法攻撃は難しいと思います」

正直に答える涼。


そんな涼でも難しい距離を保ったままでも、魔法に備えよと言うパウリーナ。

いったい彼女は、マストから何を見たのか。


「船長がそう判断したんだ、手が空いたら報告に来るだろ」

「アベルのそういう所は、素直に器が大きいなと思います」

「うん?」

逐一(ちくいち)俺に報告しろ! みたいな上司さん、時々いるじゃないですか」

「ああ……まあ、その気持ちも分からんではないが……。そもそも俺は、船の扱いや海上戦は専門外だからな。何が正しいか判断できんから、より詳しい人物に任せているだけだ」

「そこがすごいと言っているのです。だって、それでうまくいかなかったとしても、任せた人を責めたりしないでしょう?」

「当たり前だろ。任せるという判断を下したのは俺だ。うまくいかなかった場合の責任は、俺がとるべきだろう? 国王ってのは、責任を取るのが仕事……らしいぞ。以前、兄上がおっしゃっていた」

「さすがはカイン王太子です」

涼は、勝手に高く評価しているアベルの兄、先の王太子カインディッシュを称賛して頷く。


言うは易く行うは難し……まさにその典型が、これだと涼は思っている。

部下の失敗を、上司である自分がかぶる……自分がクビになったりしたら、自分の家族を犠牲にするということなのだから。

部下の失敗のために。


実際にそんな状況になれば、多くの人は難しい決断を迫られるのだ。


「ただ、アベルが異常なだけかもしれません」

「意味が分からん」

涼の結論、アベルの不満。



ようやくパウリーナ船長の許可が出て、少しだけスキーズブラズニルは港に近付く。


その頃になると、二人がいる甲板からでも、港で何が起きているのか見えるようになった。

「激しい戦闘なのは確かだが……」

「数人が、軍隊相手に大立(おおた)ち回りを演じています?」

「そのようだな。だが、その数人は……」

「相手を殺していませんね。戦闘不能に追い込んでいるだけ……」

アベルも涼も、気付いていた。


しかし、それ以上に異常な事態も。


「彼らは、素手か?」

「剣とかは持ってませんけど……籠手(こて)を手にはめて、グリーブみたいなのを()いて、それで(なぐ)ったり()ったりしてますよね」

「ああ……なんか、威力がすごいように見えるんだが」

「文字通り、殴られた人、吹き飛んでます」


そう、三メートルほど吹き飛んでいるのだ。

まるでアニメか漫画のように。

ちょっとあり得ない。


しばらく注視して、涼は分かった。


「エンチャントされてます」

「エンチャント? 西方諸国特有の魔法だよな。武器に属性を付与したり、攻撃の威力をあげたり、動きの速度をあげたりする……」

「ええ、それです。エンチャンターがいるということですね」

アベルの確認に涼は頷く。


涼が知っているエンチャンターは、勇者パーティーにいたアッシュカーンだ。

もちろん、彼女は戦っている中にはいない。


「あえて、革鎧の部分を殴っています?」

「そうだな。吹き飛んでも死んでいない理由はそれだろう」

「あの人たち、冒険者っぽく見えますよね」

「ああ、そういう雰囲気だな」


冒険者が纏う雰囲気は、正規兵、あるいは騎士などとは違う。

まったく違う。

もちろん装備や服装でもだいたい分かるのだが、長く冒険者をしてきたアベルはよく知っている。


「でもそうなると、冒険者と国の軍隊が、戦っているということになります」

「そうだな。それも守備隊のようなものではなく……正規軍、いや近衛(このえ)兵のような精鋭だよな」

「装備も立派ですしね」

「なんで戦っているんだろうな」

涼もアベルも首を傾げる。


そんな二人の元に、パウリーナ船長が来た。


「陛下、本船はここで待機するべきかと存じます」

そこはギリギリ港の外。

何かあっても、すぐに沖に逃れることができる。


「ああ……。船長、少し確認したいのだが」

「はい」

「先ほど、船全体に防御を命じたな。マストで何を見た?」

「水色の髪の女性が放つ魔法です。驚くほど長い射程で……味方を救いました」

「ほぉ」

パウリーナは、冒険者風の者たちの中にいる、水色の髪の女性を指さす。


「彼女、エンチャンターでもありますね」

涼が一つ頷いて補足する。


「分かるのか?」

「何となくですが。彼女だけ……多分、格が違います」

「格が違う?」

「他の人たちももちろん強いのですが、彼女の強さは別格というか」

「魔法がか?」

「魔法も、だと思います」

アベルの言葉を、涼は正確に訂正する。


「彼女は、籠手とか着けていないよな」

「着けていませんね。そもそも、軍隊も彼女の元まで辿り着けていませんが……」

そこで涼は首を傾げて言葉を切る。


「どうした?」

「ずっと思っていたのですが……あの人たち、どこかで会った気が……」



しばらくして、涼はグーにした右手を、パーにした左手に打ちつけた。

(ひらめ)いた、を表したらしい。


「聖都マーローマーの『カフェ・ローマー』で見かけました」

「聖都?」

「その後、緑髪の男性とピンク髪の女性を救いました。確か男性がパトリスさんで、女性がグティさん」

「ほぉ、知り合いか」

「ちょっと話しただけですけど、悪い人たちじゃなかったです」

涼が何度も頷いて答える。


涼のその情報が決め手になったのかもしれない。


「船長、戦闘も終わりそうだ。入港しよう」

「あの長射程の魔法が危険ですが?」

「大丈夫だ、それはリョウが防ぐ」

アベルが当然のように言う。


涼はグーにした右手で、今度は自分の胸を叩いた。

どんと任せて、を表したらしい。


「承知いたしました」


こうして、スキーズブラズニルはバモス島に入港するのであった。

伏線を、一つ回収しました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ