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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 第二章 西へ
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0727 裏事情

イチバン港を出港し、再び西に(かじ)を取ったスキーズブラズニル甲板上。

そこには、混乱するバンバン王国を出国し、ようやく落ち着くことができた者たちがいた。


「まさか、あんなにすぐに再奪還が行われるとは思いませんでした。ラッカン陛下は、最初から知っていたんですかね」

「どうだろうな。もしかしたら知らなかったのかもしれん。もし知っていたのだとしたら……自分の身を(おとり)にして、マフレディの反乱を誘ったということになるな」

「それも凄いですね」

アベルの仮説に驚く涼。


正直、そこまで大胆なことをする王様には見えなかったのだが……。

むしろ、王位を簒奪(さんだつ)したマフレディの方が厄介な人物に見えたくらいだ。


「まあ、リョウの『そなー』だったよな、周囲の状況を探る魔法。それで、今朝の再奪還に気付けたんだよな」

「ええ、ええ。水属性魔法の偉大さ、理解してもらえましたかね」

嬉しそうに言う涼。



涼が掴んだ情報は、アベルに伝えられていた。

そう、周囲の誰も気付かないうちに。

((やはり『魂の響』は便利ですね!))

((ああ、量産化は難しいとケネスに言われてしまったが、便利なのは確かなんだよな))


涼の左耳のイヤリング、アベルの指にはまる指輪……『魂の響』を通して、二人は情報をやり取りしていたのだ。


「マフレディさんとか強そうでしたし、実際強い指導者だったのでしょうけど……傲慢(ごうまん)だった気がします。ラッカン陛下を一度は打ち倒したのは事実なのですが……」

「傲慢な者たちに共通する部分というのはあるよな。いずれは自分も弱き者になり、打ち倒されるという可能性が、彼らの思考の中にはない」

盛者必衰(じょうしゃひっすい)(ことわり)……」

アベルが指摘し、涼が平家物語(へいけものがたり)の冒頭を思い出す。


そう、(おご)る平家は久しからず、なのだ。

驕り高ぶれば、打ち倒される。

今回は一晩どころか、数時間で情勢がひっくり返ったので、早すぎる気はするが……。



それはアベルも同じ考えだったのだろう。


「それにしても……あまりにもスムーズにいったんじゃないか?」

「王座の奪還ですか?」

「そうだ。戦力に……それほどの差はなかったんだろう?」

「ええ、人数差も……最初にニバン島とサンバン島が王宮を制圧した時みたいな十倍を超えるような、そんな差はなかったですね」

「それが、かなりうまくいったのは何でだ?」

「それは、あの人……いえ、あの魔人さんのせいです」

涼が顔を向けたのは、甲板で乗組員らと共に、遅い朝食を楽しそうに食す赤い服の魔人。


「マーリン殿?」

「ええ。マーリンさんが人知れず、ニバン島とサンバン島の兵士たちの動きを遅くしたからです」

「動きを遅くする?」

涼の説明に首を傾げるアベル。


「重力を扱う……って言っても伝わらないですね」

「あれだよな、この世界全てに影響する力」

「あれ? 何で知ってるんですか? まあ、確かに、重力はそういうものです。質量がある限り影響を受けますが……」

「以前、リョウとイラリオンの爺さんがそんな話をしていただろう?」

「……四年前、解放戦が起きる前の、まだルンにいた頃でしたっけ。よく覚えていましたね」

「とても興味深いと思ってな」

驚く涼、笑うアベル。


涼がイラリオンに説明したことがある。

しかし、イラリオンでさえ完全に理解していたかと言われれば、正直分からない。


涼は、『重力』という概念を知っているために、魔人と呼ばれる者たちが重力を操ることを知って、それを理解している。

いや正確には、そういう現象を起こせることを知っているだけで、なぜ重力を操れるのかは知らない。


そもそも重力を操るというのは、二十一世紀の地球においてもできなかった。

というより、重力を厳密に理解している者などいなかった。

物理学において、重力というのは、本当に本当に、最後の最後の、ラスボスみたいな位置付けなのだ。


なぜそんなに弱すぎるのか。

なぜ他の三つの力に比べて異質なのか。

そもそも、なぜ存在するのか……。



そんな理論物理学の最終関門的疑問は別に置くとして。



涼とアベルが話しているところに、当のマーリンがやって来た。

「白身魚のカラアゲというのも逸品(いっぴん)じゃのお」

ピシュカン国かバンバン王国で受けた魚の補給品で、『カラアゲ』が作られたらしい。


「マーリン殿に聞きたいことがある」

「うむ、どうしたアベル王よ」

アベルが問いかけ、マーリンが笑顔のまま答える。


「なぜ……バンバン王国でイチバン島の兵士を助けた?」

「うん? 何か問題があったか? いちおう、誰にも気付かれぬようにやったはずじゃが」

「いや、問題はない。まあ何かあっても、マーリン殿はナイトレイ王国民ではないから内政干渉には当たらないと強弁することもできる」

「確かにそうじゃ。さすがアベル王じゃな」

アベルの答えが気に入ったのだろう、マーリンが大笑いする。


「実はな、ちと気になることがあって、お主らが食事会に招待されている間に島の中を歩いたのじゃ」

「え……」

マーリンの言葉に驚く涼。


マーリンが船から出て島の中を歩いていたことに気付かなかったからだ。


「妖精王の寵児(ちょうじ)ですら気付かなかったのならば、わしの魔法もまだまだ捨てたものではないな」

「はい、全く気づきませんでした。それは……空間を曲げたりしたのですか?」

「ほぉ、さすがじゃ、よく分かったの」

涼の推測に驚くマーリン。


「それで出歩いて確認したら、(ほこら)があった」

「祠?」

「ほれ、ナイトレイ王国にもいくつかあるであろう、『隠された祠』とか『隠された神殿』と呼ばれておるやつじゃ」

「ああ、あるな」

アベルが頷く。


中央諸国の神殿が、昔から探しているものだ。

かつて、今のような光の女神だけでなく、他の神も信仰されていた時代……その時代には、祭祀(さいし)が執り行われていたと言われている。

今となっては、その場所の記録が残っていないために、見つかったという噂が出ると、神殿勢力が冒険者ギルドに探索依頼を出して確認したりする。


アベルも冒険者時代、そんな依頼を受けたことがある。


もちろん涼も知っている。

『十号室』の三人と共に見つけたこともあるし、そもそもアベルと共に『闇属性魔法使い』が使っている隠された神殿に招き入れられたこともあるのだ。

そう、最後は、悪魔レオノールに大変な目に遭わせられたが……。


「あれはな、人が使う前……そう、最初に造ったのは、わしらスペルノじゃ」

「え……」

絶句する涼とアベル。


「元々は、地脈というか龍脈というか、大地の力が集まる場所に立てられておる。わしらスペルノがそこから力を得るためにな。その力を得ることができるから、灰になっても復活できる」

「そう……ガーウィンは目に見えないくらいに切り刻んだのに復活しました」

マーリンの説明に、涼は思い出して頷く。


魔人ガーウィンを、<ウォータージェット>で切り刻んだのに復活したのだ。



エネルギーが存在すれば、物質の生成は可能である。

いつも出てくる、E=mc²の例の式だ。

しかし、小さな物質の生成であっても膨大なエネルギーが必要となる……問題なのは、それほど膨大なエネルギーをどうやって準備するか。


魔人ガーウィンは、灰や(ちり)のような状態から再生した。

かなりのエネルギーが必要だったはずだ。

だが、もし、大地のエネルギーが集まるような場所があり、そこからのエネルギーを使えるのであれば……。



「このイチバン島にも、その祠があった。王宮にも近い場所じゃ。宝珠はなかったために、人による祭祀は行われておらぬのじゃろう。あれがなければ、人は大地の力を取り出せぬ」

「宝珠?」

「いや、気にするな。まあ、祭祀は行われておらなんだが、綺麗に()(きよ)められておってな。ここに住む者たちが、毎日綺麗にしておったのが分かった。兵士も守っておった。兵士も、落ち葉を拾ったりしておったよ……」

マーリンは小さく首を振る。


「外の島からやってきた兵士は、祠を守っておった兵士たちも殺した」

「……」

「人同士の争いじゃ、強い者が生き残り、弱い者が死ぬ……昔から、どこでも繰り返されてきたこと。今更気にせぬ。じゃが……死んだ兵士たちが祠に放置されたままになっておったのがな」

「……」

「それが気に食わんかったのじゃ」

最後の言葉を言った瞬間、マーリンの目がスッと細くなった。


思わず、涼もアベルも息を飲む。

本当に一瞬だけ、マーリンの怒りを感じた。


「もちろん、今さら祠がどうなろうと関係ない。わしらに返せと言うつもりもない、西方諸国に住むわしには必要ないしの。じゃが……兵士が打ち捨てられているのを見た瞬間、怒りを感じたのじゃ。それで、この島の兵士たちが立ち上がったのを、ちょっと手伝った……そういうことじゃよ」

「なるほど、理解した」

アベルは頷いた。


マーリンが抱いた感情は、なんとなく分かる。

イチバン島の兵士に感情を寄せたのは、ある意味当然な気すらする。



かつて自分たちが大切にしたものに……今、敬意を払ってくれている。



「わしの行動は、迷惑をかけておらんか?」

「ああ、問題ない。リョウ以外は誰も気付いていない」

マーリンの言葉に、アベルが笑いながら答える。

無言のまま何度も笑顔で頷く涼。


三人から少し離れた甲板上では、大皿に盛られた白身魚の唐揚げが一つ宙に浮き、棺桶状の箱の上に持っていかれ……突然消えた。


何度も繰り返される奇怪な現象。


「堕天した箱の中の方……唐揚げを気に入ってるんですね」

「うむ。鶏肉のやつも美味かったが、白身魚も美味いと言いながら食べておる」

「自分で魔法式を修正しておいてあれなんですが……あの箱って、封印だったのですけど」

「そうじゃな」

「でも、どう見ても、あの方、封印されてませんよね」

「さて……封印の定義によるのではないか?」

「まあ、外に出て暴れなければいいんじゃないか?」

涼が困惑し、マーリンが肩をすくめ、アベルが落としどころを示す。


「あの箱の中の居心地(いごこち)がいいとか言ってましたけど……まあ、そうですね。問題なく色々収まっているのなら、それでいいですかね」

涼は、そう結論付けるのであった。

本日2025年1月15日は、

『水属性の魔法使い 第二部 第五巻』

『水属性の魔法使い@COMIC 第六巻』

『オーディオブック第2巻』

の発売・リリース日ですね! 皆様、手に入れられましたでしょうか?

書籍の帯に入っていますね、「TVアニメ TBSほかにて 2025年7月から放送開始予定」


小説を読み、コミックを読んだら、オーディオブックをどうぞ。

ええ、オーディオブックは最後ですよ。

だって、12時間57分もの大ボリュームですもの!

(ちなみに第1巻も、12時間58分の大ボリューム!)

第3巻の発売も、2025年4月25日と発表されております。

ますます広がる『水属性の魔法使い』の作品群。

以下の特設サイトからアクセス可能です。


特設サイト

https://www.tobooks.jp/mizuzokusei/


いろいろ楽しみです。

楽しみすぎです。

そんなこんなをモチベーションに、《なろう版》第四部は投稿されていきます。

皆様も、いろいろお楽しみに!

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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