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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
758/930

0711 アベル王の帰還

本投稿で「涼とアベルの帰路」は完結です!

「ようやく戻ってきましたね」

「ああ、懐かしいな」

王都を前にして、涼とアベルは感慨(かんがい)深げな表情だ。


「俺は一年程度だが、リョウは西方諸国に行く前だから、もっと久しぶりなのか」

「ええ、そうなります」

「その間、私はずっと待っていたのだぞ」

セーラが抗議の声をあげる。


「あ、うん、ごめんよ……」

「冗談だ。エルフにとっては、一年も十年も、それほど変わらん」

謝る涼、冗談だと笑うセーラ。


エルフの寿命は人よりもはるかに長い。

寿命が長い種は、人とは時間の感覚が違うようだ。


「リョウがいない間に、王都で、たくさん美味(おい)しいお店を見つけたぞ」

「さすがはセーラです! ぜひ行きましょう」

「そう言うと思った」

涼が食い気味に答え、セーラが頷く。


しかし、それだけではない。


「だが今夜は、アベルの帰還を祝って晩餐会(ばんさんかい)があるはずだから、そっちに出なければならんぞ」

「え……あ、アベルが主役だから、僕はいなくとも……」

「リョウは筆頭公爵だし、アベルと共に戻ってきたのだから欠席はできないな」

「うぅ……」

抵抗できない涼。


反論は諦めたが、対面で、うんうん頷いている王様に八つ当たりをする。


「全部、したり顔で頷いているアベルのせいです!」

「俺?」

「ええ。アベルが、そんな剣を持っているから、ガーウィンの暴走した魔法が悪さをしたのです!」

「そう言われてもな」

アベルは肩をすくめる。


二人の会話を聞いて、セーラはアベルの剣を見る。

「昔から使っている剣だよな」

「ああ。城を出る時、宝物庫にあったやつを適当に持ってきた」

セーラの確認に、頷くアベル。


窃盗罪(せっとうざい)です!」

涼が鋭く指摘する。


時効(じこう)が成立しているな」

笑いながら答えるアベル。


「そもそも王室の宝物だから、第二王子だった俺は罪には問われないだろ」

「お、横領(おうりょう)罪とか背任(はいにん)罪とか……」

「知らん」

「なんたる横暴!」

肩をすくめるアベル、指弾(しだん)する涼。

横で笑うセーラ……。


「まあ、アベルが国王である限り、罪に問われることはないだろう?」

「王国にはもちろん法がある。その法に反していれば、国王であっても罪に問われるが……王室財産に関しては法が定められていない」

「なんですと……」

セーラが笑いながら問い、アベルが説明し、涼が絶句する。


「リョウだって、リョウの持つ資産……例えば、ルンの家やロンドの森の家を改造したり壊したりは、リョウの自由にできるだろう?」

「そ、それは当然です。僕のものですから」

「王室財産も同じだ。過去の王と一族たちが手に入れて、宝物庫に入れられた物だからな。そこに入っている物は王室の財産だから、それに関する法は無い。あえて定められていないんだ」

「頑張った家臣とかに、王が宝物を好きなように与えられるように?」

「そういうことだ」

アベルは頷いて言葉を続ける。


「とはいえ、俺の代で全部使い切るのもまた違うと思う。この先も続いていくだろうナイトレイの国王たち……彼らに引き継いでいくべきものだと思っているからな」

「王室のものではなく……王国そのものの資産もあるんですか?」

「もちろんだ。それに関しては、扱いに関して法が存在しているから、国王であっても自分のものにはできん」

「それは、ちょっとだけ安心しました」


涼は知っている。

歴史上、君主たちが、『国の資産』と『王の資産』をごっちゃにしたりすると、国が乱れる元凶(げんきょう)になるということを。


同時に、アベルがそんな誤った道には進まないだろうとも思っている。

結局は、人なのだ。

国を混乱させるのも人、国を正道に導くのも人。



馬車の中で、そんな他愛もない会話をしているうちに、一行は王都入口に到着した。


ここから先、アベルは馬に乗って、王都民にその姿を見せながら王城まで進む。

当然、涼とセーラも。


「ぼ、僕は馬車の中で……」

「ダメだぞ。リョウも私も馬だ」

抵抗する涼、笑顔で粉砕(ふんさい)するセーラ。


「リョウはアベルの右後ろ、私が左後ろからついていくことになっている」

「いつの間に……」

セーラが説明し、涼が驚く。


いつの間にか出来上がっていた、入城行進概要。


「ナイトレイ王国は優秀な人材がいっぱいだからな。指示を出しておけば、細かな部分まで適切に進めてもらえる」

笑うセーラ。

肩をすくめるアベル。

顔をしかめるが、抵抗を諦める涼。


セレモニーへの出席は、ある程度以上の地位にある者にとって義務なのだ。

涼ですら、それは理解している。


筆頭公爵は、間違いなく『ある程度以上の地位』である……。



馬車から馬上へ。

当然のように、アベルはフェイワンに乗り、涼はアンダルシアの上に。


フェイワンはいつも通り威風堂々(いふうどうどう)、アンダルシアは涼を久しぶりに乗せることができて嬉しそうだ。

アンダルシアに騎乗している点に関しては、涼も嬉しいのだが、それでも上司に一言言ってやることにした。


「アベルのせいでこんなことになりました」

「今回は、ほとんど抵抗せずに諦めたじゃないか」

「だってアンダルシアだし、セーラも馬に乗ってますし……」

「アンダルシアはともかく、リョウを説得する時は、セーラに言うのが一番ということだな」

「ぐぬぬ」

フェイワン上のアベルと、その右後ろにアンダルシアに乗ってつく涼の会話だ。


「アベル、約束は忘れていないでしょうね」

「約束?」

「週一のケーキ特権です!」

「ああ……週一だったか? 月一じゃなかったか?」

「週一です!」

涼が断言する。


正直、アベルとしてはどちらでも構わない。

だいたい涼の場合、特権の日でなくとも、勝手にケーキとコーヒーを注文して食べているからだ。

アベルの執務室で。



アベルを中心に進む一行。

歓呼(かんこ)で迎える王都民。


そんな王都民たちも、しばらくするとアベルの左右に付く二騎に気付く。

「左の凛々(りり)しい女騎士……」

「エルフじゃないか?」

「あ! もしかして……」

「王国総騎士団長……」

「筆頭騎士のセーラ様!」


「右のローブの方は?」

「かわいい!」

「いや、そうじゃなくて、セーラ様と対になってる?」

「そんなローブ……魔法使い? いるか?」

「アベル陛下に常に付き従う魔法使いあり……」

「あ! もしかして……」

氷瀑(ひょうばく)……」

「あるいは白銀公爵……」

「ロンド公爵様!」


涼も有名になったらしい。



一行は王城の前に到着した。

城の前で待つ美しい女性、しっかりと自分の足で立つ幼児。


「リーヒャ、ただいま戻った」

「おかえりなさい、アベル」


「ノア……立派になったな」

「お父様、おかえりなさい」


ノアを右腕に抱きかかえ、左腕でリーヒャを抱き寄せるアベル。

「迷惑をかけたな」

「いいえ」


見守っていた王都民の感情が噴き上がった。

「アベル王、万歳!」

「王室、万歳!」

「ナイトレイ王国、万歳!」


そっと涙をぬぐう騎士たち。


なぜか満足げに頷く涼、そしてセーラ。

「これが平和な国ですね」

「間違いないな」



リーヒャ王妃とノア王子が城内に戻ってからも、アベルは通りに並ぶ王都民に手を振り続けた。

背後に近付く、怪しげな水属性の魔法使い。


「そういう真面目(まじめ)な部分は、素直に凄いと思います」

「真面目? 王家の人間の役割だろ」

「でも、好きで王家に生まれたわけじゃないでしょう?」

「人は、生まれる先を選べないからな」

「もっと気楽な……普通の民として生まれたかったとか、そういうふうに思ったことはないですか?」

「ない」

涼の問いに、即答するアベル。


物心(ものごころ)ついた時から、俺には兄上がいたからな。兄上の背中を見続けていたから、王家の人間として生きる以外を望んだことはなかった」

「ああ、カイン王太子……」


そう、アベルは兄である故カインディッシュ王太子に憧れた。

常に出てくるカインディッシュ……いかに、アベルの中で大きな存在なのか、涼でも容易に想像できる。


人を作るのは人である。

彼らの生きざま、かけた言葉、共にした経験が、自らに取り込まれる。

所属する組織や置かれた場所ではない。

人が人を作るとは、そういうこと。


だから、今のアベルを形作ったのは、カインディッシュと言っても過言ではない。

そんなカインディッシュは、若い頃から英邁(えいまい)なる王の(うつわ)と言われていた。


だから、アベルも……。


「民あっての国、民あっての王だ。そうであるなら、民を元気にするのは王の役割の一つだと思う」

「心からそう言えるアベルだから、僕は尊敬するのです」

「うん?」

涼が称賛し、アベルは意味が分からず首を傾げる。


アベルとしては、本当に当たり前のことだと思っている。

だから、涼が称賛する意味が分からない。


「僕は、アベルが王としての道を外れない限り支え続けますから」

「王としての道?」

「例えば、筆頭公爵のケーキ特権を奪ったりしない限りです」

「そうだな。それは心しておこう」



こうして、涼とアベルは、ほぼ一年ぶりに王国に戻ったのだった。

本日2024年7月16日、『水属性の魔法使い 第二部 第四巻』が発売されました!

皆様、手に入れましたでしょうか。

時間帯によっては、Amazon Kindle全体で三位、とかになってるみたいですね。

ラノベだけじゃなくて、Kindle全体ですものね……。

いつも思うのですが、Kindle全体でって凄いですよね……うちの子の成長に目を細めてしまいます。

これも読者の皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます!

https://www.amazon.co.jp/gp/new-releases/digital-text/2275256051


さて、次巻『第二部 第五巻』の発売は2025年となります。

大人の事情で、少し間が空きます。

すいません。


さて、《なろう版》「第四部 暗黒大陸編」ですが、2025年に開始されます。

現在準備中です。

2025年の、できるだけ早い段階で投稿したいと考えております。

涼とアベルが、暗黒大陸に行く……はずです。

いろんな人たちが、暗黒大陸に集まってくる……はずです。


第一部~第三部同様、毎日投稿予定です。

開始日が決定したら、「あらすじ」欄に記入しますので、楽しみにお待ちください。


それでは、「第四部 暗黒大陸編」でお会いしましょう!



7月30日追記

小説英語版の第二巻が発売されました!

「The Water Magician: Arc 1 Volume 2」

日本の皆様も、英語の勉強にどうでしょうか。

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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