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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
757/930

0710 帰国

本日と明日の二夜連続投稿、一夜目です。

連合首都ジェイクレアを発ったアベルと涼は、護衛の一万騎と共に国境を越えようとしていた。


「一万騎、どうやってそろえたのかと思ったが……いろいろかき集めたな」

「リーヒャの呼びかけに答えた各地の領主たちが、急いで送ってきたのだ」

アベルの言葉に、重々(おもおも)しく答えるセーラ。


「アベルがいない間、リーヒャはかなり苦労していた。王城に戻ったら、(いた)わってやるといい」

「お、おう、分かった」

セーラが有無(うむ)を言わせぬ口調で述べ、アベルは受け入れた。


アベル王が乗る馬車の中での会話だ。

セーラは王国総騎士団長として、今回の護衛を取り仕切っているのだが……馬車の中にいる。

ちなみに、涼に膝枕(ひざまくら)をしてもらっている。

涼は優しい微笑みを浮かべて、横になるセーラの頭をなでている……。


涼とセーラの正面に座るアベルは、二人に関しては何も言わない。

自分がどうこう言うことではないと割り切っているからだ。

決して、変なことを言ってセーラを怒らせたくないからではない……。



アベル王の護衛一万騎。

当然だが、王国騎士団が中心である。

そこに、シルバーデール騎士団、ホープ侯爵領騎士団、ハインライン侯爵領騎士団、ルン辺境伯領騎士団、それから主に王都のある王国中央部の貴族たちの騎士団で構成されている。


「シルバーデールは分かるが、ホープ侯爵領は王国西部だろ。よく間に合ったな」

アベルが感心しながら言う。


涼がアベルの『魂の響』を使って、ケネス・ヘイワード子爵の手によって改良されたはずの受動装置にメッセージを送って、迎えの一行が国境を越えるまで、二日か三日しかなかったはずだ。

王国西部から第四街道、王都、第二街道を突っ切ってレッドポストまで……どれだけ馬を飛ばしても三日では不可能なはずなのだが。


「それはたまたまだ。ホープ侯爵領騎士団とシルバーデール騎士団が、王都で模擬戦(もぎせん)を行っていてな。それで、間に合った」

セーラが答える。

もちろん涼の膝の上で。


「ハインラインとルンは……」

「修復されたロー大橋を通って急行し、レッドポストで我々と合流した」

「俺が言うのも変だが、すげーな、王国の騎士団って」

アベルは小さく首を振りながら(つぶや)いた。



そこで、馬車の扉が叩かれる。

「どうした?」

「申し訳ございません、陛下。実は、先ほどから馬が二頭、ずっとついてきておりまして……」

「馬?」

「黒馬と葦毛(あしげ)の……」

「まさか!」

涼はそう言うと、開いた扉から馬車の外に飛び出た。


それを見つけた葦毛が駆け寄ってきた。

「アンダルシア!」

涼に頭をこすりつける。


馬車から出たアベルにも……。

「フェイワンか!」

アベルの顔をべろりと()める。


二頭ともに親愛の表現だ。


その様子を騎士たちが見て驚く。

同時に笑顔にもなる。

騎士にとって、馬とは相棒だ。

彼らが奉ずる二人にも、心を許した馬がいる姿を見れば笑顔になるのは当然だろう。


「その二頭は?」

セーラが問う。


「フェイワンだ。いい馬だろう」

「アンダルシアです。賢いんですよ」

アベルと涼が、我が事のように嬉しそうな表情でセーラに紹介する。


「確かに立派な馬だが……」

セーラはフェイワンを見て頷き、アンダルシアを見ると……視線が離せなくなった。


そのことに気付く涼。

「い、いくらセーラでも、アンダルシアはあげませんよ? 少し乗るくらいならいいですけど」

不安そうな表情で言う涼。


「いや、奪おうなんて思っていない」

セーラが苦笑する。

それを聞いて涼は安堵(あんど)し、再びアンダルシアを()でる。


セーラの目には何が見えているのか?

涼の体からは『妖精の因子』とエルフたちが呼ぶものが(あふ)れ出ている。

その溢れ出た因子を、アンダルシアが吸収しているのが見えているのだ。


もちろんセーラたちエルフも、『妖精の因子』を吸収する。

しかし、アンダルシアが吸収しているのは、エルフが吸収する量の数倍……。

普通の生物が、そんな量を吸収するなどセーラは聞いたことがない。


ちなみに普通の馬の場合、セーラでも認識できないほど微量(びりょう)の吸収しかしない。

実際、隣にいるフェイワンは、吸収している様子を確認できない。


セーラは首を傾げる。

「あんなに大量の『妖精の因子』を、生物が吸収できるものなのか?」

その疑問に答えるものは、誰もいなかった。



「えっと、二頭に乗ります? それとも馬車に乗ります?」

「馬車で頼む」

涼の問いに、セーラが即答する。


涼は少しだけ首を傾げるが、特に反論しないで二頭を見て言った。


「アンダルシアとフェイワンは、馬車の後ろからついてきてくれる?」

涼が言うと、二頭は馬車の後ろに仲良く並んだ。


「やっぱり賢いですね」

「素晴らしいよな」

「多分、普通の馬じゃないからだと……」

涼とアベルが称賛し、セーラの呟きは小さすぎて二人には届かなかった。



三人は再び馬車に戻り、一行は移動し始めた。

アンダルシアとフェイワンは、嬉しそうに馬車の後ろからついてくる。

むしろ騎士たちが乗る他の馬たちが、二頭を気にしているのか、チラチラと見ている気がする……。


「アベルは、ジェイクレアに到着した際、派手(はで)な入城をしたのだろう?」

「派手……まあ、確かに」

「いずれその話は、王国にも届く」

「そうだろうな」

「となると、これから入るレッドポストでも、それなりの『アベル王の到着』を演出した方がいいんじゃないか?」

「え?」

セーラの言葉に首を傾げるアベル。


「なぜジェイクレアでは民衆の歓呼(かんこ)に答えたのに、自らの民が住むレッドポストでは御身(おんみ)を隠しになったのか……とか言われるんじゃないか?」

「ああ……」

顔をしかめるアベル。


アベルは少し考えた後、涼を見た。

「リョウ、レッドポストでも……」

「ええ、氷の演台で入城しましょう」

再び膝枕に頭を載せたセーラを撫でながら、涼も頷く。


「でもレッドポストでやったら、他の街ではしない、というわけにはいかないでしょう?」

「そ、そうなるよな、やっぱり」

アベルがさらに顔をしかめる。


「最低でも、ウイングストンでは演出した方がいいだろう」

「……はい」

セーラの言葉に、一切の抵抗を諦めるアベル。


こうして、後世(こうせい)、『アベル王の帰還』と呼ばれる、一連のパフォーマンスが行われるのだった。




レッドポストでは、城門から政庁前まで続く大通りに、人だかりができていた。


「本当に王様が?」

「噂では、一年間、中央諸国中を回っていたんだろ?」

「いや、魔王討伐(とうばつ)軍に参加していたって」

「巨大な魔物を追跡してたんじゃないの?」

「俺は東方諸国に行っていたと聞いたぞ?」

「それは、さすがにない」

そんな言葉を、大通りの両脇に立つレッドポストの民が交わしている。


騎馬が列を作ってレッドポストに入城してきた。

ある程度進んだところで、騎馬の列が止まる。


中央にあるのは、一台の馬車。

その扉が開き、扉の先に氷の演台が現れた。


「あれって、まさか……」

「ルンで王様が演説した時の?」

「聞いたことある!」


はたして……馬車の扉から、赤と白の服に身を包んだ男性が出てきて、演台に乗った。

男性が民に向かって手を振る。


次の瞬間、歓声が爆発した。


「おぉーーー!」

「王様ー!」

「アベル陛下だー!」


空に浮かぶ氷の演台。

そこに立ち、手を振るアベル王。


一万騎と共に、アベル王が進む。


歓声が移動し、どこからかまかれた花びらが沿道を舞う。



「凄いね」

「アベルは人気者だから」

涼が感嘆し、セーラが微笑みながら答える。

二人は、馬車の中だ。


馬車の中から涼は魔法を使い、アベルが乗る演台をゆっくりと移動させている。

「さすが、リョウの魔法は緻密(ちみつ)だな」

「まだまだ、セーラの『風装』ほどじゃないよ」

「あれは慣れだからな。むしろ全力に近い戦闘をした場合、『風装』無しの方が疲れる」

「うん、模擬戦してて、そんな気はした」

セーラが言い、涼も同意する。


『風装』は、風属性魔法によってセーラの剣戟(けんげき)における全ての速度を上げる。

呼吸しているかのような、いや、心臓を動かしているかのような……ほとんど無意識に発動している魔法だろうと涼も思っていたのだ。


「水属性魔法を、あれくらい使えるようになりたいな~」

「なれるさ。というか、瞬間的には、もう使えているだろう?」

「それを常時、無意識でもできるように……」

涼は決意も新たに宣言する。

そんな姿を見て、セーラは笑顔で(うなず)くのだった。



歓呼を受けながら、大通りを進む一行。

王であることを、堂々と見せ続けるアベル。


「さすが王家の人間」

「小さい頃から鍛えられてきたということだ」

「僕には想像できない世界ですよ」

「私にもできない」

涼もセーラも苦笑する。


「でも、これ、ウイングストンでもするんでしょ?」

「そうだな。他の街でもするかもしれん。王が戻ってきたことを、国の内外に知らせる必要があるからな」

「やっぱり大変だ、王様は。アベルに押し付けておくのが吉」


文句ひとつ言わずに国王の役割をこなしてくれるアベルに、涼はちょっとだけ感謝するのだ。


「そのうち、リョウにも『役割』が準備されると思うぞ」

「え?」

「さっきの二頭は、それにはちょうどいいかもな」

「え……」

セーラの言葉に驚き、思わずその顔を見返す涼。

笑顔を浮かべるセーラは、詳しくは教えてくれなかった。


こうしてレッドポストから王都まで、大きめの街全てで『アベル王の帰還』イベントが行われていった。



そして国境を越えてから十日掛けて、ついにアベルは王都クリスタルパレスに到着する。


明日更新の「0711 アベル王の帰還」で、ようやく「涼とアベルの帰路」が完結します。


そして明日2024年7月16日(火)に、『水属性の魔法使い 第二部 第四巻』が発売されます!

ついに、西方諸国の謎が暴かれ……第五巻の第二部最終章に繋がっていきます。

それから、コミックス5巻も同日発売です!


ぜひ、読んでください!


あとあと、「アンティーク風ポストカードセット」五枚組も同日に発売されるのですが、かなり素敵です!

五枚それぞれに、筆者が500~1000字程度のSSを書かせていただきました。

ええ、SS五本付きです。

『水属性の魔法使い』特設ページからオンラインストアに飛ぶと、サンプルが見られます。


『水属性の魔法使い』特設ページ

https://www.tobooks.jp/mizuzokusei/index.html


明日の「0711 アベル王の帰還」のあとがきで、《なろう版》「第四部 暗黒大陸編」についてお知らせを書きますので、そちらもお楽しみに!

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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