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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第四章 学術調査団
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0072-2

「0072」が微妙な長さになったので、二話に分けました。

天幕にて。

「アーサーさん、詳しく話してもらいますよ。四十層でいったい何があったのか」

ヒューは、自分とアーサーのコップに水を注いで渡すと、椅子に座った。

「そうじゃのぉ。まあ、転移したところから話すか」


アーサーは水を一口飲むと、話を切り出した。



「わしらは突然四十層に転移した。同時に、十一層で作業をしていたらしいクライブたちも転移した。しかも、クライブたちは、デビルの集団の前に転移した」

箇条書きのように、あえて短文で報告するアーサー。

「でびる? デビルか。え? デビルって、神殿の話に出てくるあのデビルですか?」

「そうじゃ、あのデビルじゃ」


驚くヒュー。

当然である。

この二百年ほど、中央諸国でのデビルとの遭遇例は無い。


二百年と言えば、八世代も昔だ。

おじいちゃんの、おじいちゃんの、おじいちゃんの、おじいちゃんの時代なのだ……気の遠くなるほど昔である。

そんな時代の話など、ほとんど伝説だ。



辛うじて、神殿が教え広める『お話』の中に出てくるために、『デビル』という名称だけは知っているが、その程度の認識しかない。

「しかもそれが五十体、さらに強い個体が三体、そして極めつけは魔王子がいた」

「魔王子って……いずれ魔王になる個体でしょ? よくそんなのに遭遇して生きて還れましたね……いや、失礼しました。アーサーさんとアベルたちだからこそ、ですね」


普通なら絶対無理、と思いながら首を横に振りながらヒューは言った。

だが、それに対して、顧問アーサーも首を横に振って否定した。


「いや……確かにアベルは凄かった。さすがじゃ。あれがいなかったら、わしらは早々に全滅しておったじゃろう。じゃが、そんなアベルですらも、魔王子に殺される直前じゃった……」

「え……? それでどうして……まさか……」

「うむ、そこにリョウが現れたのじゃ」



涼が四十層の天井をぶち抜いて、空から降りてきた光景は、さすがのアーサーすらも唖然とさせるものであった。

まず、ダンジョンの床を抜く、などというのが聞いたことも無い。

しかも後で聞けば、四十層まで全てその方法で降りてきたという……。


馬鹿な!

そう、馬鹿な、なのだ。


アーサーの知り合いの中にも、一流の水属性の魔法使いがいる。複数いる。

だが、その誰も、恐らくダンジョンの床を抜くなどということはできない。

火属性でも、風属性でもできない。

実は、土属性でもできないのだ……かつて、試してうまくいかなかった現場に立ち会ったことがあるから、確かだ。

わずかに削ることは可能だが……それとてしばらくすれば再生する。

ダンジョンの床、壁というのは、そういうものなのだ。


それを……聞いたことも無い、見たことも無い水属性魔法を操る青年……は、とんでもないことを平気でやっていた。



「ヒューや。あのリョウという青年は、一体何者なのじゃ……」

涼とデビルたちとの戦闘中、ずっとアーサーの中に存在し続けた疑問であった。

だが、もちろん満足いく答えは出なかった。

「何者と言われましても……アベルを魔の山の南から連れ戻してくれた者としか……」


そうして、ヒューは、アベルの帰還について顧問アーサーに話して聞かせた。


「なるほど、あれがアベルの友人か……」

「ああ、確かに二人は仲がいいですね」

幼い時分からのアベルを知るアーサーには、アベルが独立した後で『友人』を持ったというのは、非常に特別なことであった。

それと同時に、なんとなく嬉しくもあったのである。


アベルにとって、リーヒャやリン、ウォーレンは、もちろん最も大切な仲間である。

何物にも代えがたい仲間であろう。

だが、それでも『友人』ではない。

もしかしたら男女の仲にはなっているかもしれないが、それでも友人ではないのだ。


友人というのはあくまで、対等の関係でなければならない。


残念ながら、様々な事情を知るあの三人は、アベルとは対等の関係にはなれないし、なろうと思ってもいないであろう。

そしてあの三人を除けば、このルンの街にアベルと対等の関係を築ける可能性のあるものはいない……。

王都には、わずかにいる……だが、彼らとて、どこまで『友人』と言っていいのか……。


アベルは、後輩たちから敬愛されてはいるが、それは友人ではない。

もしかすると、B級パーティー白の旅団のフェルプスは友人となりえるのかもしれないが、恐らくフェルプスがそれを望まない。

気安く接してはいても、フェルプスにとってアベルは、本質的には戴くべき相手なのだから。


そんな中、アベルが『友人』だと言った涼という青年。

それはアーサーにとって、非常に好ましいものであった。

しかも、その青年はべらぼうに強い!



この世界において、いやどんな世界においても、強さは正義である。

どれほど正しいことを述べても、その正しさを押し通す『強さ』が無ければ認められない。

相手の『強さ』によって覆される。

善い悪いの話ではなく、そういうものなのだ。


そこまで考えて、アーサーは小さく首を振って、思考を止めた。


「リョウは恐ろしく強い。いや、恐ろしく強かった。どれくらい強いかというと、魔王子を瞬殺するくらいに強かった」

「……は?」

ヒューは理解がついて行かなかった。

涼が強いのは知っている。アベルも言っていたし、それ以外からも話が入ってくる。


だが、魔王子を瞬殺……?


「それは……そんなことが可能なのですか?」

「やってみせたのだから、可能だとか不可能だとか、そういうのは無意味じゃ」

アーサーの言うことはもっともなのだが……ヒューとしては簡単に受け入れられないものである。

「ついでに、魔王子の取り巻き三体も、瞬殺しとった。三体同時に。どうやって倒したのか、わしには全くわからんかったわい」

そこまで来ると、アーサーとしても笑うしかない状況である。


戻ってくる途中でアベルにも聞いたのだが、アベルにもあれは見えなかったと言われたのだ。

「アベルが言うとったよ。リョウは規格外じゃと」

「そんな言葉で済ませていいのかどうか……」

「とはいえ、他にどうしようもあるまい? わしとしては、あの規格外の魔法使いが、アベルと仲が良いために、我が国に敵対しないでいてくれそうな事こそ、最も大切なことじゃと思うておる。ヒューとしても同じであろう?」

「同じ理由で、ルンの街とも敵対しないでくれそう、ということですな」

そういうと、ヒューは大きなため息を一つ吐いた。


「アベルに対する個人的な友誼から、味方じゃと言えるが、馬鹿な貴族などがリョウに手を出したら面倒なことになる。リョウの件は報告書にはあえて書かんつもりじゃ。よいな」

「わかりました。こちらの報告書にもリョウの名前は入れないようにします」


こうして、涼が貴族たちの権力争いに巻き込まれるのは一旦回避されたのであった。


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