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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
746/930

0699 辺境にてⅠ

本日1月10日から16日までの、七夜連続投稿です!

楽しく読んでいただけると嬉しいです。

荒野(こうや)なのは確かなんですが、道があるんですよね」

「人が行きかっているということだな」

「商隊とかいるんでしょうね。ということは、経済が発展している。ということは……」

美味(うま)いものがあるということだな」

涼もアベルも、美味(おい)しいものは大好きだ。


二人がサラマンダーを退治したボンドリンの村を出て、同じくらいの規模の村を二つ経由しての今。

南北にそそり立つようにあった山脈は、北側はかなり遠い位置になっている。

南側に至っては、山は見えない。

景色としては、もう『回廊』とは言えないだろう。


「でも、アベルの知識の中に、この辺りの事は無いんですよね」

「ああ、知らん。元々、連合の東にある小国家群は変動が激しいんだ」

「変動?」

「生まれたり滅亡したり、合併したり分裂したり」

「なんという諸行無常(しょぎょうむじょう)……」

アベルの説明に、小さく首を振る涼。



しばらく街道を進む一行。


商隊というほどではないが、荷馬車を見かけるようになったのだ。


「僕ら以外の商人が増えてきました。今までの村では見られなかった光景です」

「確かに見られなかった光景だが……俺たち、商人じゃないぞ」

アベルがため息交じりに修正する。


だが、分かっている。

二人と愛馬二頭の後ろを見れば、『商人』と認識する人物もいるかもしれないと。

そう、ついてくるのは氷の台車……十台。

『回廊』という名の荒野を抜ける間に、半分が一行のお腹の中に納まった。


「荷馬車を見かけるようになったということは、台車の中の食料を食べ尽くす前に、大きな街に着けそうということですよね」

「元々、台車の中の食料は、アンダルシアとフェイワン用だとリョウは言ってなかったか?」

「い、言いましたけど……緊急避難(きんきゅうひなん)的に僕らも食べるしかなかったのです。仕方なかったのです!」


そう、『回廊』を抜ける間は、魔物どころか動物すらいない荒野がほとんどであった。

いくつか寄った村は、オアシスのように水が湧き出た場所を中心に造られ、住んでいる者たちの食料生産で精いっぱいだった。

そのため、涼とアベルは、台車の中の食料に手を付けた……。


「僕はやめようって言ったのです」

「うん、率先(そっせん)して食べたのはリョウだからな。大丈夫、大丈夫と言いながら」

「で、でもちゃんと、街に着けそうじゃないですか!」

「そうだな、良かったな」

プンプンという擬音(ぎおん)がぴったりな様子の涼、肩をすくめるアベル。



街道を進む一行の目に、異様(いよう)な……いや、威容(いよう)が姿を現したのは午後になってからであった。



「あれ……岩山ですよね?」

「そうだな。物見台もあるが……ある種の要塞(ようさい)だな」

涼とアベルの目に入ってきたのは、いくつもの岩山に物見台(ものみだい)などが造られた、要塞のような街。


「岩山の下の方に、この道は続いているようですが……門みたいなのがあるように見えます」

「ああ、あるな。守衛みたいな連中……まあ、着てる服はバラバラだが、そんなやつらもちゃんといるな。今まで通ってきた村とは、何もかもが違うようだ」

「武力を持った街……」

「どうする、このまま街に入るか? それとも入るのはやめるか? なんとなくだが、きな(くさ)い感じがする」

「きな臭い?」

「ああ」

アベルは(うなず)く。


そんな会話の間にも、一行は岩山に近付いていく。

岩山は頂上付近には物見台が造られているが、その途中にも穴が掘られ、弓矢を持った者たちが街道を監視しているのが見えた。


そして門の周りにも、槍を持った者たちがいる。

ボンドリンの村で、村人が木の先を削った槍っぽいものを持っていたが、そんなのとは全然違う……。


「ちゃんとした武器を、持っていますね」

「ああ。しかもなんか、ピリピリしている気がするんだよな」

「そうですか? 街の監視なんてこんなものなんじゃ?」

アベルの言葉に、首を傾げる涼。


街に怪しい人物が入ってこないように監視するのだ。

ピリピリするのは当然な気がするのだが……。


「周辺との関係が緊張していなければそうはならん。だいたいが、交易のためにやってくるんだ。それは街の人間にとってはいいことだし、経済がよく回れば落ちる税金も増えて、守衛たちにもちゃんと給金(きゅうきん)が出る。だから歓迎こそすれ、ピリピリしたりはせん」

「まあ、確かに」

アベルの説明はもっともであるため、涼も頷く。


「でも、たまにはアンダルシアたちも、ちゃんとした()(わら)で寝させてあげたいんですよね」

「ああ……」

「ですので、ちゃんとした良いお宿に泊まりたいです」

涼がアンダルシアのためを思って主張する。


アベルも、その希望に沿いたいとは思うが……。


「しかし、金はどうする?」

「え?」

「俺たちが持っているのは、東方諸国で使える金だろ?」

「あ……」

アベルの指摘に絶句する涼。


そう、ここはもう東方諸国ではない。

長い間、東方諸国とは大きな交易は行われていないはず。

ということは、東方諸国のお金は使えないだろう。


「仕方ありません。アベルが……」

「悪い商人を襲ったりはしないぞ」

「せ、先手を打たれた……」

涼は顔をしかめる。


だが、そこでアベルは何かを思いついたようだ。

「商人か……まあ、仕方ないか」

「やはり、正義の剣士アベルが悪徳商人を襲撃して、ついでに彼らが貯めたお金を強奪(ごうだつ)……」

「どう考えても、それは違法行為だろう」

私利私欲(しりしよく)のためではないのです。(しいた)げられた民のために、力のあるアベルが立ち上がるのです!」

「ということは、奪い取った金は全部民に渡すんだな?」

「い、一部は必要経費として我々の活動資金に……」

涼の苦しい言い訳。

アベルは小さく首を振った。



そんな会話を交わしているうちに、一行は岩山の下、門に到着した。


物々(ものもの)しい警備です」

「やっぱり着ているものはバラバラだが、槍や剣といった武器類はまともだな」

「なんか……カードを見せています」

「商人ギルドカードだろう」

涼が守衛たちの確認作業を見て、アベルは訪問者たちが見せているカードを見て答えた。


「僕は冒険者ギルドカードしか持っていませんけど……」

「それで大丈夫だ。頼んだぞ」

「……はい? アベルは?」

「持ってるわけないだろ。冒険者は引退したんだから」

そう、アベルは『元』A級冒険者なのだ。


「アベルは東方諸国の六級冒険者を名乗っておいてください」

「ここでは通じないだろうが……」

そう、ここはもう、東方諸国ではない。


「つまりアベルは、C級冒険者である僕の荷物持ちですね」

若干(じゃっかん)不満だが仕方ない、受け入れよう」

「いや、やっぱりアベルは腹ペコ剣士ですね。美味しいものを食べるためなら、どんな我慢でもできるでしょう?」

「俺が腹ペコ剣士なら、リョウは暴食魔法使いだな」

「暴食魔法使い……。僕、白銀公爵とか氷瀑(ひょうばく)とか、けっこう気に入っている二つ名を付けられているんですけど……暴食はちょっと……。だって、別の言葉で言ったら、食いしん坊ってことでしょ」

「食いしん坊リョウ。ぴったりじゃないか」

「全然カッコよくないです……」

涼は顔をしかめて小さく首を振るのであった。



しばらくすると、二人の順番が来た。



「C級冒険者の涼です」

涼はそう言うと、冒険者ギルドカードを差し出す。

「冒険者? 商人ではないのか?」

ギルドカードを受け取りながら、守衛の隊長らしき人物が連なる<台車>を見ながら(いぶか)し気に問う。

「これは自分たちと馬の食料です。もしかして、冒険者だと商売できないとかありますか?」

「いや、誰でも商売はできる。身分を証明することができれば、冒険者であっても問題ない」

涼の問いに隊長は答えると、ギルドカードをしっかり見た。

「ナイトレイ王国? ルン所属?」

「はい。あの、何か?」

「いや、ナイトレイというと、西の大国だろ? その冒険者がこんな東の外れに?」

「はい、いろいろありまして……。これから王国に戻るところです」

「ふむ」

隊長は涼を上から下まで見る。

涼は、いつもの笑顔を浮かべている。


そう、アベルが言うところの『人たらしの笑み』だ。


隊長は涼を見た後、視線を横に動かした。

涼の斜め後ろに控える……。

「そっちの男は?」

「俺はC級冒険者リョウの荷物持ちだ」

「は?」

問われたアベルが答え、隊長が()頓狂(とんきょう)な口調で問い返す。


「……荷物持ち?」

「ああ、荷物持ちだ」

再度の隊長の問いに、同じ答えを繰り返すアベル。


冒険者が荷物持ちとパーティーを組むのは珍しいことではない。

むしろソロの冒険者ならよくあると言える。

討伐(とうばつ)した魔物の肉などを、荷物持ちを雇って運んだりするのだ。


しかし、目の前の男は、普通の荷物持ちの存在感ではない。

とはいえ、雇い主である冒険者がギルドカードを示し、荷物持ちに関しての一切の責任を負うとなっている以上、守衛も無体(むたい)な事はできない。


「まあ、いいだろう。荷物持ちの行動に関しては、雇った冒険者が全面的に負うというのは分かっているな? 何かあったらC級冒険者リョウ、お前が負うんだぞ」

「はい、分かりました」

「なら通ってよし。ザーラッシュの砦にようこそ」


こうして二人と二頭は、ザーラッシュの砦に入ったのであった。


1月15日(月)に、以下の三種類が発売されます。

小説単行本『第二部 第二巻』

コミックス『第四巻』

ジュニア文庫『第二巻』


サイン本などは15日より前に本屋さんに並ぶかもしれませんが。


小説『第二部 第二巻』、いつものように十万字近く加筆しております!

ええ「いつものように十万字」という表現は変なんですよね。

一巻で二十三万字前後もある『水属性の魔法使い』(普通、単行本は十六万字前後)

だからこその言葉です。

紙版は、二段組で記述されていますからね。

たくさん文字を書き込めます。


早出しの《なろう版》、大量加筆された《書籍版》

読者の皆様にはどちらも読んでほしいなと思って、筆者は書いております。

これからも、どうぞ『水属性の魔法使い』をよろしくお願いいたします。


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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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