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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
735/930

0690 遭遇

「……」

驚き、何も言えないアベル。


「やっぱり」

そう(つぶや)き、したり顔で頷く涼。


(ほうむ)られたはずのアベルの過去が、今、明らかになりました」

「いや……」

混乱して、涼の言葉へのつっこみもできないアベル。


だが、思わず口からこぼれる言葉がある。

「何かの間違いだろ」

「犯罪者は、いつもそう言います」

涼が糾弾(きゅうだん)する。


「彼らは、はっきりと言ったじゃないですか。『アベル様』と」

「それは……確かに……そう、言ったが……」

「アベル、認めるがいいです」

「そもそも、さっきリョウが話したやつだって、ただのリョウの妄想だろう? それとかぶる状況が存在するなんておかしいだろうが」

アベルが正論で抵抗する。


「僕の頭に浮かんだ話が、真実を(つらぬ)いていたのでしょう。これまで、僕はアベルの姿を数多く見てきました。その言動は全て記憶しています。そこから想像されたお話は、意識していなかった、そして知らされていなかったアベルの過去を()()りにしてしまったに違いありません」

「そんなわけあるか!」

「『事実は小説よりも奇なり』という言葉があります。信じられなくとも、事実は事実。いくら真実を覆い隠そうとしてもそれは不可能。お天道様(てんとさま)は、全てお見通しなのです!」


あえて『事実』と『真実』を混在させて追及する涼。

さすがに混乱し、珍しく劣勢となるアベル。


もちろん、涼がアベルを追及したところで、建設的なことは何もない。

そう、これは不毛(ふもう)な追及。



そこで、不思議そうに二人を見ている三人の視線に気付いた。

「ほら、アベル、彼らがあなたの声を待っていますよ」

「いや、そう言われても……」

涼がアベルを促す。


アベルは、片膝をつく三人を見て口を開いた。

「なあ、誰かと間違っていないか?」

「この()に及んで、アベルはまだそんなことを……」

「いや、そうは言うが……」

涼が(あき)れたように肩をすくめ、アベルはやはり困惑したまま言い返す。


三人のうちの中央の男が口を開いた。

「その赤い髪、聞き伝わる容貌(ようぼう)、背中の剣は魔剣なのではありませんか?」

「いや、確かに魔剣だが……」

「ほらー!」

(あお)る涼。


だが、アベルは男の言葉に疑問が湧いた。


「今、『聞き伝わる容貌』と言ったか?」

「はい」

「俺自身を知っているのではなく、誰かから俺の外見を聞いていた?」

「はい。一年前に亡くなりました、先代のお頭からお聞きしております」

「なるほど」

男の答えに、大きく頷くアベル。

アベルの顔から、困惑は消え去った。


そして涼の方を向いて言う。

「分かったな? そういうことだ」

「残念です。もうちょっとだったのに」

「何がもうちょっとなんだよ!」


アベルが、山賊の首領であった疑惑は晴れたのであった。



「その首領が言った話とやらを、詳しく聞かせてほしい」

アベルがそう言うと、中央の男が話し始めた。


「先代お頭は、時々、未来の事が()えました」

「未来視?」

男の言葉に、思わず涼が呟く。

アベルは、そんな涼をチラリと見たが、無言のまま視線を男に戻す。


「先代お頭がアベル様……いえ、アベル王のことを言ったのは、死の間際でした」

遺言(ゆいごん)、ということか?」

「はい……我々、残された者たちは、そう捉えております」

中央の男がそう言うと、両脇で片膝をついた男たちは、二人とも声を出さないまま泣き始めた。



「我々は、ある……勢力と長らく争っております」

中央の男は、少し言葉を選んで話し始めた。


「先代お頭は、長く我々を率いてきましたが、一年前の大規模な戦闘で命を落とされました。その死の間際(まぎわ)に、アベル王の事を皆に伝えて亡くなったのです」

「その……争っている勢力とかいうのは、さっきお前たちが戦っていた相手か?」

「さすが! そんなことまでお分かりに」

アベルが(かん)で指摘したことが合っていたため、驚く三人。


もちろん、涼がソナーで感知したことをアベルに教えたことである。

そのため、アベルの後ろで涼が腕を組んで、うんうん頷いているのがチラリと見えて、何とも言えなくなるアベル。



一つ大きくため息をついてから、アベルは言葉を継いだ。

「まあ、撃退できたから、良かったんじゃないか?」

「相手が教徒……人間でしたので」

顔をしかめて答える中央の男。


「教徒だったから? それは……本当の敵は人間じゃない、という意味だよな?」

アベルは、言葉に含まれた意味を問いただす。

「はい。先代お頭は、そいつに……」

「そいつは……いや、そもそもお前たちが相手にしている連中とは、誰なんだ?」

アベルが問う。


だが、中央の男は、小さく首を振る。

「申し訳ございません。正確には分からないのです。ただ……」

「ただ?」

「先代お頭は、こうおっしゃっていました。魔人教徒と」

「魔人?」

「教徒?」

男の答えに、アベルも涼も首を傾げた。



「魔人って、あの魔人ですかね?」

「分からん。というか、以前リョウが言ったよな。魔人……当時はスペルノか。スペルノが中央諸国から侵入してきて厄介(やっかい)だったと……」

「ええ、幻王に聞いてみましたよね。反応的には合っていたと思います。ここからは予想ですけど、『回廊』を閉じたのは、彼らが入ってくるのを防ぐためだった」

「そして中央諸国にも魔人はもういなくなったから、回廊を開けても大丈夫と」

涼とアベルは、推論を展開する。


「そうなると、おかしいですよね」

「この東方諸国に『魔人教徒』などというやつらがいることが、だよな」

そう、魔人は現在の東方諸国にいないはずなのに、それを(あが)(たてまつ)っているかのような者たちがいるというのは……論理的に変なのでは?


「伝承とかには出てくるらしいので、それを利用して信者を集めている?」

「それが一番ありそうだな」

涼の推論にアベルも頷く。


宗教の中には、そういうものもある。


「でもそうなると、信者を率いている教祖様的な人、けっこうなやり手ということですよね」

「……そうなのか?」

「組織を作るだけでもけっこう大変なんですよ。お金集めとか人集めとか。それをやったうえで、この人たちと戦うような戦闘集団も持っているってことでしょう?」

「これはむしろ、ダーウェイが国家として対処するべき状況なんじゃないか?」

アベルは小さく首を振る。



しかし、次の瞬間だった。



「<アイスウォール10層>」


ガキンッ。


涼とアベルは同時に反応した。

涼は氷の壁を構築し、アベルは抜剣して()って出て……相手の剣を受け止めた。


その男は、そこに突然現れた。

水色の髪に赤い目、アベルと並ぶ長身であるがついている筋肉はかなり多い。


そんな男の振り下ろしを、アベルはいつもの魔剣で受け止めた。



「ほぉ~」

片頬(かたほお)を上げてニヤリと笑う水色髪の男。


「魔剣使いが、奴らの中にいるという報告は聞いていなかったな。ということは、新たに加わったか」

「リョウ、守りを頼む。こいつは俺がやる」

「大丈夫。すでに守っています!」


水色髪の言葉を無視するように、アベルと涼が会話する。


「魔剣使い、お前が俺をやると言ったか?」

「水色髪、聞こえなかったのならもう一度言ってやろうか? 俺が、お前をやる」

「面白れぇ!」

水色髪は、凶悪な表情でそう叫ぶ。


ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ……。


始まる連撃。

その力と速度は凄まじい。

正面から受けるのは、人では難しいだろう。


だが……。


「全て流すだと?」

「どうした水色髪、この程度か?」

「魔剣使いー!」

アベルの挑発に、剣速を上げる水色髪。



だが、アベルの防御は破れない。



「チッ」

水色髪は舌打ちすると、後方に跳んだ。


一度戦闘のリズムを変えようとして距離をとったのだ。

だが、どこからか、誰かに声を掛けられたかのように少し首を傾げ、顔をしかめる。


そして……。


「マジかよ」

そう呟くと、剣を納めた。


アベルは(いぶか)し気な視線を送りながらも、油断せず剣を構えている。


「仕切りなおしだ」

「おいおい、逃げるのかよ」

挑発するアベル。

強敵であることは理解したが、まだあまり情報を取れていない。


もう少し剣を重ねれば、さらに情報を得られる……だから挑発する。


「ふん。いずれ嫌というほど戦うことになるだろうさ。じゃあな」

水色髪はそう言うと一瞬にして消えた。


そう、涼のソナーですら追えない速度。

現れた時も追えなかったが、去る時も追えなかった。


「とんでもないことです」

涼が悔しそうに言う。


「先代お頭は正しかったようだ」

「アベル?」

「俺は戦ったことがあるから分かる。今の水色髪は、魔人の眷属(けんぞく)だ」

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