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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第四章 学術調査団
73/930

0071 <<幕間>>

ルンの街から遙か西方。

直線距離にして四千キロメートル以上。

そこに、七人のパーティーが完全武装で、事が起こるのを待っていた。


「来たぞ!」

魔法使いの言葉に、全員が武器を構える。

七人の前方、五十メートル程の空間が、長方形に黒く塗りつぶされる。

高さ五メートル、幅四メートル。

そこに、ナイトレイ王国中央大学の学術調査団のメンバーがいれば、総長クライブが『門』と名付けたものにそっくりであることを指摘したかもしれない。



その『門』から出てきたのは、一人の美女。

身長一七五センチのスタイル抜群の美女……だがよく見ると小さなツノらしきものがある。

そして黒くて細い尻尾。

悪魔レオノールであった。


「ふむ……何か変わったものがあるなと思って寄ってみたのだが……人工の『祭壇』であったか」

そう言うと、レオノールは『祭壇』に向かって歩きはじめた。

まるで、そこにいる者たちなど、目に入らないとでも言うかのように。


「待て、魔王。貴様にはここで死んでもらう」

そう叫んだのは、七人パーティーの内の剣士。

恐らく、パーティーの中では最年少……十九歳ほどであろうか。

だが、その剣士がある意味リーダーでもある。


「ん? 魔王?」

無視するつもりであったが、レオノールは聞き捨てならない単語を耳にした。

「おぬしら、我を魔王と呼んだか?」


そうして、初めてレオノールは七人パーティーに向き直った。

「多くの犠牲を払って作り上げた『祭壇』。そこに火を掲げれば魔王が降臨するのは良く知られたこと!」

そう叫んだのは、聖職者と思われる壮年の男性だ。

「して……わざわざ魔王とやらを降臨させたおぬしらは何者ぞ?」

その問いに、先ほどの若い剣士が答えた。

「俺は勇者ローマン。魔王を討伐する者だ!」

「ゆうしゃ? 勇者か。おぉ、勇者か!」

そういうと、レオノールは笑った。



凄絶、という言葉がぴったりな笑い。



「勇者ならば強いのであろう? 我を楽しませてくれ。さあ、さあさあさあさあ。いざ戦おうぞ!」

こうして、遙か西方の地にて、いくつかの誤解と偶然の産物によって、悪魔レオノールと勇者パーティーとの戦闘が開始された。




「<聖なる鎧>」

「<エンチャンテッドウェポン>」

「<風の守り>」

「<イビルレジストアップ>」

「<身体強化>」

……

次々と魔法が唱えられ、勇者ローマンが強化されていく。


レオノールは、うっすらと笑いながらそれを見ていた。


「人間は遠距離の魔法戦ばかりだ、つまらん、と聞いていたのだが……おぬしらは、その勇者に全てを賭けるのかえ?」

「魔王を倒せるのは勇者のみ。ローマンがあなたを倒します!」

魔法による強化に携わらない斥候が、レオノールの問いに答えた。

「なるほどなるほど。そうじゃな、やはり互いに刃を交えるのが楽しかろうの」

レオノールの頭の中では、いつか封廊の中で戦った魔法使いとの戦闘が蘇っていた。


(リョウ、だったな……あれは楽しかった。まさか細切れにされるとは思わなんだわ。さて、勇者はどれほどのものか)



レオノールがそう考えていると、勇者の準備が整ったようであった。

それを見て、レオノールはどこからともなく剣を取り出した。

「さて、勇者とやら、そろそろよいかな? 我の準備は整っておる。いつでも打ちかかってくるがよい」

そういうと、右手に剣を持ち、空いた左手でクイクイと指を曲げて挑発した。


「なめるな、魔王!」


若い勢いのまま、勇者ローマンは一気に間合いを詰めて、そのまま突いた。

だがレオノールは、その渾身の突きを難なくかわす。

その後も、縦横無尽に振るわれるローマンの剣を、全てかわす。

自らの剣で受けることなく、全てかわす。


「クッ」

さすがにここまで剣を振るって、まったく当たらないというのは、ローマンにとって初めての経験である。



「ふむ……」

悪魔レオノールは小さく呟くと、ローマンの右薙ぎを、初めて剣で受け、そのまま弾き返した。

「うぐ」

体勢を崩されたローマンだが、すぐにレオノールの追撃の横薙ぎを、なんとか上体を逸らしてかわし、大きくバックステップして距離を取った。


「攻守交替」

そう言うと、レオノールは一瞬で距離を詰め、そのまま剣でローマンの腹を貫いた。

「あれ?」

素っ頓狂な声を出したのはレオノールであった。

勇者の一手目が、飛び込みからの突きだったために、それをなぞって自分もやってみただけなのだが……ただの牽制の突きだったのだが……刺さってしまったのである。


「これは……つまらなすぎであろう」

そう言うと、ローマンの腹から剣を抜き、一度振って血を払った。


「き、貴様……」

「ああ、我を攻撃しても良いが、そうなると我も反撃するぞ? 今は、その勇者とやらを助けるのが先であろう?」

そういうと、レオノールは、もはや勇者パーティーに一ミリの興味もなくなり、人工の『祭壇』に向かった。



『祭壇』には、人の頭大の大きな水晶のようなものが飾られている。

「うむ、これはよい宝珠じゃ。戦いはつまらなかったが、これを手に入れたのであれば無駄足ではなかったな」

宝珠に手をかざすと、宝珠は消えた。



「待て、魔王……」

聖職者による回復魔法の効果であろうか、勇者ローマンは立ち上がれるくらいには回復していた。


「そう、それじゃ。一応訂正しておくが、我は魔王などではないぞ」

「世迷いごとを。それだけの強さを持ちながら……魔王以外の何だと言うのですか!」

叫んだのは魔法使いの女性である。


「何かと言われても……なあ。魔王ではないとだけ言える。恐らく、おぬしらの力を合わせれば、今の魔王くらいは倒せるのではないか? それに、我程度の強さを持つものは、人間にもいるぞ? うむ、あの戦いは楽しかった。また、ああいう戦いをしたいものだ」

レオノールは涼との戦闘を思い浮かべて、微笑んだ。

「魔王じゃ……ない、だと……」

勇者ローマンはうめいた。


「さよう。我が名はレオノール。勇者とやら、もっと強くなるがよいぞ。最低でも、人間の中では最強にならぬとな。せっかくの勇者なのだから」

「俺より強い人間がいると……」

「おぬしの一万倍くらいは強いな。まだまだ精進するがよい」

そういうと、レオノールは『門』に入って行った。


それと同時に、『門』は消え、後には勇者パーティーと、宝珠を失った『祭壇』だけが取り残された。


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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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