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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
726/930

0682 拘束

五夜連続投稿、二夜目。

「まさか……スージェー王国がボルを滅ぼした?」

ボルが滅び、その土地がスージェー王国の一部だと名乗っていれば、アベルがそう考えるのは妥当(だとう)だろう。


「いや、そうではない」

しかしメベリ司令官は首を振る。


「アベル、幽霊船によって滅ぼされたのです。ルリの二人がきっと……」

「それは、あんまりじゃないか?」

「僕もそう思いたくはありませんが……あの時、スケルトンの収集に失敗したから、直接島を襲ったに違いありません」

「そうか?」

「ルリの二人に直接交渉して、ボルの人たちを解放してもらいましょう」

涼が、決意した表情で言う。


二人の会話を聞いた後、メベリ司令官は再び首を振った。

「ボルは火山が噴火(ふんか)し、一夜にして沈んでしまったのだ」

「まさかのアトランティスルートでした」

「自然災害か。人の力ではどうにもならんな」

驚く涼とアベル。


「首都が滅び、王族、政府、経済の中枢まで全て失われた。それで我が島……ルル島というのだが、ルル島では全住民による投票が行われ、スージェー王国の傘下(さんか)に入ることが決定した」

「それで、スージェー王国北部海軍なのか」

メベリ司令官の説明に、アベルは頷いた。



だが、そんなアベルの(そで)を横から引っ張る人物がいる。

もちろん、涼だ。


「ちょっとアベル」

先ほどまでの会話よりも、さらに小さい声で、アベルの耳元に口を寄せて話しかける。


「おかしいですよ」

「うん?」

「普通、首都が滅んだりしても、どこか他の国の傘下に入ろうなんてなりませんよ」

「そうか?」

「自分たちで、国を復興しようってなりません?」

「ああ……言われてみればそうかもしれん」


涼に言われ、アベルも不自然かもしれないと気付いた。

確かに、すぐにどこか別の国の傘下に入ろうよりは、自分たちで国の復興をと考えるかも……。


しかもスージェー王国は、ここからかなり離れているはずだ。

おそらくここは、スージェー王国がある多島海地域よりも、大陸南部の方が近いくらい。

そんな島が、非常に離れたスージェー王国の傘下に入りたがる?



「気を悪くしないで聞いて欲しいのだが……そのルルの島の人々は、滅亡したボルを復興しようとは思わなかったのか?」

アベルは正面から直接問うことにした。

後ろから聞いていた涼が、大きく目を見開いて、「なんて質問を!」と顔全体で言っている……気もするが、無視する。


「思わなかった」

だがメベリ司令官は、はっきりと断言した。


「元々ルル島は、三十年前にボルに占領されたからだ」

「ああ……」

占領されたのであれば、ボルに良い感情はもっていないだろう。


「再び独立して自らの島だけで、という人たちはいた。だが、またボルのような国に占領されることを恐れた。ルル島の民は、決して弱いわけではないが……ボルとの戦争、その後の占領はいい思い出にはなっていないのだ」

「ふむ」

「大陸のどこかの国の傘下にという人たちもいたが……大陸南部の強国であるアティンジョ大公国は、大公が亡くなり内部で争いが起きているとか」

「ああ……」

異口同音にアベルも涼も言葉を発してしまう。


それこそ、二人はつい先日、その場にいたわけで。


「大公国の支配下にあるゲギッシュ・ルー連邦も、それに合わせて再び不安定になってきていると。だからルルの人々は、新たな女王陛下が即位し、急速に力を増してもいる多島海地域の強国スージェー王国の傘下に入りたいと決断した」

「なるほど」


メベリ司令官の説明に、アベルは頷いた。

アベルの後ろでは、涼が何度も頷いている。

「ルルの人々は見る目があります」とか「イリアジャ女王なら間違いありませんから」などと、腕を組んで偉そうに呟いている。


アベルは無視して言葉を続ける。

「色々理解できた、感謝する」



だが、メベリ司令官は考え込み始めた。


「どうしたんでしょう?」

「分からん」

涼とアベルは、小声でその様子を見守る。


しばらく考え込んだ後、渋い表情のまま、メベリ司令官は口を開いた。


「先ほども伝えたが、二人が冒険者なるものであるのか判断がつかん。また、冒険者であったとしても、妨害者である可能性を否定できない」

「妨害者?」

アベルが首を傾げる。


「実は明日、スージェー王国本国から使節団が到着する。女王陛下の勅許状(ちょっきょじょう)……ルル島を正式にスージェー王国の領土と認めるという正式な書類を持ってこられる」

「ほぉ~」

「その式典が行われるのだが……その前日に、二人がここに来たのがあまりにもタイミングが良すぎる」

「なるほど、俺たちはそれを邪魔する妨害者かもしれん、か。言いたいことは分かる」


肩をすくめるアベル。涼も頷く。

二人が司令官の立場であったとしても、疑うであろう。


「そのため、申し訳ないが、しばらくの間、身柄を拘束させてもらいたい」

「構わんぞ」

「え……」

メベリ司令官の申し出に、アベルは表情を変えずに頷くと、他の兵士たちが驚いた顔になった。


「明日、その勅許状の受け渡しが終わるまでだろう? それくらいなら問題ない」

「感謝する」

アベルの言葉に、メベリ司令官は頷いた。


こうして涼とアベルは、身柄を拘束されることになった。



三隻のスージェー王国北部海軍に囲まれて、浮上したまま移動するニール・アンダーセン改。


メベリ司令官も拘束するとは言ったが、二人が妨害者だとは確信していない。

それどころか、恐らくは言った通りクラーケンに追われてきたのだろうと。

だから、移動時の包囲も(ゆる)いものであった。


「凶悪剣士アベルに対して、こんな緩い監視体制なんて危険すぎます」

「そうか。リョウだったらどうするんだ?」

「まず、アベルの氷漬けは必須です。あと、その魔剣とフェイワンも引き離しておかねばなりません。もしものことが起きた時、アベルの戦力を低くしておくのは基本ですから」

「……そうか」

涼が頷きながら説明し、アベルが肩をすくめて答えた。


「とりあえずは、そんな感じでしょうか」

「なんだ、その程度でいいのか?」

「え?」

「そんなんじゃ、手痛い反撃を(こうむ)るんじゃないか?」

「例えば?」

涼が(いぶか)し気な表情で問う。


「氷漬けを解けば毎日ケーキを食わせてやる」

「なんですと!」

「リョウなら氷漬けを解除するだろう?」

「か、可能性はあります……」

「そこで俺は短剣をアンダルシアに突きつける」

卑怯(ひきょう)です!」

「リョウにだけは言われたくないな」

抗議する涼、笑うアベル。


そんな他愛もない会話を交わしながら、ニール・アンダーセン改はルル島に入港した。



「二頭の馬、アンダルシアとフェイワンであったな、その二頭は北部海軍が責任をもって厩舎(きゅうしゃ)で預かる。朝と夕に、海軍兵と共にであるが、様子を見にくることを許可する」

メベリ司令官は涼とアベルにそう告げた。


愛馬二頭を厩舎に預け、二人は隣接する石造りの立派な建物の三階に案内された。


「広めの士官室だ。この部屋にいてほしい。今夜と明朝の食事は部屋にもってくる。扉の外には海軍兵がいるため、欲しいものがあったら遠慮なく言ってほしい。騒ぎを起こさないことを願う」

「分かった、努力しよう」

「アンダルシアたちのこと、よろしくお願いします」

メベリ司令官の説明に頷くアベル、愛馬を頼む涼。


こうして、二人は士官室に軟禁(なんきん)された。



「地下牢とまでは言いませんけど、そういう怖い所に閉じ込められるのかと思いました」

「窓も普通に開くな」

涼が思っていた以上にまともな部屋であることに安堵し、三階ということもあるのだろう、もちろん鉄格子(てつごうし)などもついていない窓が開くことに驚くアベル。


「明日の午前中に、スージェー王国の使節団は到着するそうですから、それまでの辛抱です」

「窓から港が見えるから、その使節団とやらも見えるのかもな」


涼とアベルは、その夜届けられた食事も特に不満も覚えず、当然のように完食しゆっくりと眠るのであった。



そして翌日、午前十時にスージェー王国の使節団が乗る船が姿を現した。


世界に羽ばたく『水属性の魔法使い』ですが、現在、台湾版と韓国版が出版されております。

4月15日、その韓国版の小説第2巻が発売されます!

なんてありがたいことでしょう。

オリジナルと韓国版を並べてハングルの勉強をするもよし、全言語版を本棚に並べて愛でるもよし。

多くの方に手に取ってほしいです。

これからも、【なろう版】【書籍版】共に、応援よろしくお願いいたします!

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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