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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
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0676 アティンジョ大公国訪問Ⅰ

本日(2月16日)より、小説第6巻発売日(2月20日)までの、五夜連続投稿!


(でも、関東の本屋さんの中には、すでに今日(16日)には第6巻が並んでいるところがあるらしい……写真を見ました! ありがたや~)

その翌日。

第十船は、アティンジョ大公国の港町ホイアンに入港した。


今回、ダーウェイから正式な外交ルートで、公船第十船の寄港と、ロンド公爵たる涼の訪問が伝えられてある。

そのため、全てがスムーズだ。


「ラー・ウー船長、乗組員の皆さん、ありがとうございました」

下船して、港で涼が丁寧(ていねい)に頭を下げる。

もちろんアベルも。

愛馬二頭も、ブルルと声を出している。

感謝の気持ちを伝えているに違いない。


「いえ、ロンド公、頭を上げてください」

(あわ)てたように言うのはラー・ウー船長だ。

皇帝も一目置くロンド公爵にここまで頭を下げられると、さすがに気が引ける。


「まだ旅は続くと思いますが、どうか無事に帰国されますことを、第十船乗組員一同、願っております」

ラー・ウー船長がそう言うと、並んだ乗組員たちも深々と頭を下げた。



第十船はダーウェイに戻るが、涼とアベル、愛馬二頭の旅はまだまだ続く。



港町ホイアンからアティンジョ大公国の首都カムフォーまでは、迎えの一団と共に移動する。

その一団は、すでに到着しているらしい。


「お待ちしておりました。ロンド公爵閣下、それとアベル殿」

そう言って二人を迎えたのは、見覚えのある人物。

「お久しぶりです、ズルーマさん」

涼がにこやかに挨拶した。


ズルーマは、自由都市クベバサの時から、二人とは因縁(いんねん)のある人物だ。

もっともそれは、アティンジョ大公国の人物の中で、二人との関係が深いという意味でもある。

そのため、ズルーマが今回の迎えの一団の責任者に選ばれた。



そんな迎えの一団を見て、アベルが一言。

「兵が多くないか?」

「言われてみれば……」

涼も頷く。


騎馬が百騎、歩兵が千はいるだろうか。


確かに、異国の重要人物の受け入れであるし、その人物は王家伝来の剣を運んできてくれている。

少しでも間違いがあってはならない。


それは確かだ。

しかしそれでも……。


「国内の移動に、それも主要な港から首都までという、かなり人通りも多い道だろう?」

「ですね。実際、以前にヘルブ公の氷棺を運んだ時も、この港から首都まで通りましたけど、人通り多かったですもんね」

アベルも涼も、声を潜めての会話だ。


そんな二人が乗るアンダルシアとフェイワンの後ろを、いつもの氷の<台車>がついてくる。

「あれ……入っているの、本と金だよな?」

「ええ。僕らが貰ったいろんな本が入った(かばん)と、ダーウェイでいただいたお金です。ダーウェイ国内は、僕らは『銀行』のカードを持っているのでお金を引き出せますけど、今回みたいにダーウェイ国外でも使えるように現金が入っています」


そんな二人と二頭、<台車>を中央に、一団は移動し始めた。




「ここから首都まで、二日だったよな?」

「ええ。前回は二日かかりましたね」

アベルの問いに涼は頷く。


今回も、前回とそれほど速度は変わらない。

涼とアベルも含めて、騎乗している者たちもいるが、一団のほとんどが歩兵であるため移動速度は速いとは言えない。



「う~ん」

「どうした?」

港町ホイアンを出てしばらく進んだところで、涼が首を傾げ、アベルが問いかけた。


「監視されているんですけど、人数が……」

「多いのか?」

「全部で五十人くらい……」

「……は?」

涼の答えに、()頓狂(とんきょう)な声を上げるアベル。


それも当然だろう。

五十人が監視しているなど、あり得ない。

あまりにも多すぎる。


監視人数が多ければ、確かに対象に逃げられる可能性は低くなる。

だが、監視対象に気付かれる可能性が高くなる。


そもそも監視対象は迎えの一団であり、逃げるということはあり得ない。

よほどのことがない限り、千人もの人間を見失うこともないだろう。

ならば、監視者数は減らした方がいい。

いや、減らす一択だ。


それなのに、五十人?



「数え間違いじゃないか?」

もちろんアベルも、涼の探査能力の高さは知っている。

『そなー』とかいうやつだ。

だが、さすがに五十人は……。


「五十人くらいいるのは確かです。ただ、この動きは……影ながら、この一団を守っている人たちが、その中にはいるかもしれません」

「ああ、なるほど」


表に見える護衛の千人だけでなく、影ながら一団を守る人々……昔の日本で言うなら、忍者みたいなものだろうか。

助格(すけかく)さんが水戸のご老公を表で守っているが、見えないところで弥七(やしち)さんも守っている、みたいな……。


「それだけ厳重な守りがあると、安心だな」

「ですね。アンダルシアに怖い思いをさせるのは嫌ですから」

涼がそう言うと、アンダルシアが甘い声を上げる。

それを受けて、涼がアンダルシアの頭をなでた。


「まあ、愛馬を大切にするのはいいことだ」

アベルの言葉に、フェイワンも小さく声を上げるのであった。




その日の午後三時前、迎えの一団は街に入った。


「前回、ヘルブ公を運んだ時には、この街は素通りしたよな?」

「しましたね。もう少し先まで進んで、夜営でした」

「まだ三時だもんな。進もうと思えば進めるのだろうが……」

「やはり、襲撃を警戒して?」


アベルと涼の会話は、極めて小さな声で交わされている。

前後左右を、アティンジョ大公国の騎馬に囲まれているからだ。


「だが、なぜこの一団を襲撃する? 貴重な物といっても、リョウが返却しようとしている剣だけだろう?」

アベルはそう言うと、アンダルシアの鞍に括りつけられている袋に入った剣を見る。


「そう、聖剣タティエンと言いましたか。確かに貴重なものなのでしょうけど……そもそも、これを運んでいるというのは、外交ルートでも伝えていないはずです」

「そうなのか?」

「ええ。『僕とアベルが、返却物を持っていく』とかだったはずです。ですので、途中で情報が洩れているのだとしても、剣の話は出ていないはずなのですが」

「そうなると、余計分からんな」

涼の説明に、さらに困惑するアベル。


「反政府組織的な人たちなら、権威を傷つけるために、あんまり考えずに襲撃するかもしれません」

「まあ、無いとは言えんか」


異国から来る重要人物が国内で襲撃されたとなれば、政府の威信は傷つく。

統治能力がないと、諸外国が認識する可能性があるからだ。

あるいは、国民がそう思う可能性もある。

どちらにしても、政府にとって良いことではない。



「治安の維持って大変ですね」

「ああ、全くだな。相手が、いつ、どこで攻撃してくるか分からんからな」

「そう考えると、国内を安全に移動できるナイトレイ王国は素晴らしい国だと言えます」

「同感だ。日々、治安の維持に邁進(まいしん)している者たちに感謝するべきだろう」


涼もアベルも夢想家ではない。


世の中には、第三者からすれば何のためにやるのか理解できない理由で、破壊活動を行う人たちがいることを知っている。

やっている人たちにとっては、譲れない何かがあるのかもしれないが……第三者にとっては迷惑この上ない存在である。


そんなのに巻き込まれて傷ついたり、大切な人が傷つけられたりはしてほしくないと思う。


「僕らに関係ないところで幸せになってほしいです」

「そうだな」

涼が小さく首を振りながら言い、アベルも苦笑しながら同意するのであった。



その日の夕食時。

宿は迎えの一団が借り上げ、他の客はいない。


二人の正面には、ズルーマが座っている。

「お二人の事ですからお気付きでしょうが、あまり治安が良くありません」

「そのようだな」

ズルーマの言葉に、アベルが頷く。

涼は無言だ。


決して、パイナップルに似たデザートをお代わりできて、美味しそうに食べているからではない。

ないったら、ない!



「クベバサの独立や、ゲギッシュ・ルー連邦の勢力争いが飛び火したか?」

アベルが、ありそうな仮説を質問する。

「いえ、大公国本国の問題です」

「大貴族とか?」

「はい」

ズルーマは素直に頷いた。


「先日大公に即位されたバッシュ殿……前大公から、すぐに即位しろと言われていたな。だからすぐに即位式が行われたよな。その辺か」

「おっしゃる通りです。実際、バッシュ様がすぐに即位され、国軍の全面的な支持もあるためにこの程度で済んでいます。もし、あれが遅れていたら、我が国は二つに割れていたかもしれません」

アベルの言葉に、ズルーマが説明する。


「でも先日、ヘルブ公の氷は融けたでしょう? あの人が表に出てくれば、みんな収まるのでは?」

デザートのお代わりを食べ終えた涼が口をはさむ。


「はい。閣下が目覚めたからこそ、敵は最後の賭けに出たようです」

「ああ……」

「それに閣下は、目覚められましたが、まだ起き上がることができません」

「それは幻王に乗っ取られていた影響ですか?」

「そのようです。日々、回復はされていますが……」

ズルーマは顔をしかめ、悔しそうに答えている。


「ということは、この一団が襲われるとしたら……」

「バッシュ殿と政府の権威を失墜(しっつい)させるため、だな」

涼とアベルは、考えを一致させて頷いた。


だが、ズルーマの表情が暗い。


「ズルーマさん?」

「ああ、すいません。必ずしも、それだけではない可能性もあります」

「はい?」

「私が責任者ですので……私の命を狙っている可能性も」

「はい??」



ズルーマからは、それ以上の答えを得ることができずに、夕食は解散となった。


「ズルーマさんも、いろいろあるみたいです」

「立場が上がると、色々出てくるもんだ」

「くっ、アベルが王様という地位をひけらかしています!」

「いや、そういうつもりはないんだが」

涼が悔しそうに言い、アベルは苦笑する。



そして、深夜。

宿は炎上した。

本日(2月16日)より、小説第6巻発売日(2月20日)まで、五夜連続で投稿されます。


そして!

『水属性の魔法使い』を発売してもらっているTOブックスに……

ついに!

なんと!

『水属性の魔法使い』の、特設ページができました~!(パチパチパチ)


(実は2月14日に公開されて、その日の活動報告には書きましたけど……)


『水属性の魔法使い』特設ページ

http://www.tobooks.jp/mizuzokusei/index.html


これもひとえに、応援してくださる皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!


わざわざ特設ページを作っていただけたということは、

出版社の側も期待してくれているに違いないと、筆者は勝手に思っております。

ええ、ええ。

希望は大切ですよね!


ちなみに、TOブックスのトップページ右側には、この特設ページへのバナーが貼られております。

珍しく、涼のキリっとした顔(第6巻表紙からのなので)!

ここから、いつでも簡単に飛んでいけます。



そして昨日(2月15日)、BookWalker様で小説第6巻の先行発売が開始されました。

https://bookwalker.jp/de1505b45b-bb7e-41d0-bc88-8b42d72b0854/


既刊は50%オフだそうですよ!

BookWalker使いの知り合いで、まだ購入されていない人に教えてあげてください。

(2月21日まで割引中です)


https://twitter.com/BOOK_WALKER/status/1625706468723810305



そんな報告もありつつ、【なろう版】では明日も続きが投稿されます。

『0677 アティンジョ大公国訪問Ⅱ』です。

読者の皆様が、楽しく読んでいただけると嬉しいです。

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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