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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第四章 学術調査団
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0070 リョウ

魔王子の魔石の回収には失敗したが、取り巻き三体は首を落として倒してあるので、魔石は回収できそうである。


それを確認すると、涼はアベルに歩み寄った。

「ありがとうリョウ。助かった」

素直に頭を下げ、感謝するアベルの姿があった。

「いえいえ。感謝の気持ちは、食堂での晩御飯一回分で十分伝わりますよ?」

「わかったわかった。一週間くらいは毎日奢ってやるよ」

そういうと、アベルは笑いながら涼の肩を叩いた。

「痛い痛い。アベル馬鹿力です。一週間ての、忘れませんからね!」


その頃には、赤き剣の他のメンバーと、顧問アーサーもアベルの元に来ていた。

「アベル……良かった……」

リーヒャが泣きそうな顔で、アベルに抱きついた。

抱きついた瞬間、泣きじゃくった。

その横では、まだ気絶したままのリンを、ウォーレンが両手に抱えたまま、涼に頭を下げた。



「わしは、宮廷魔法団調査団の代表をしておる魔法団顧問のアーサー・ベラシスじゃ。ご助力、本当に感謝する」

そう言ってアーサーも涼に頭を下げた。

「あ、いや、気にしないでください。そもそも僕が来たのは、魔法団のナタリーさんに言われたからです。間に合ってよかった。まさかこんなことになっていたとは、夢にも思いませんでした」

涼の視界に入っていたのは、まだ魔力切れから完全には回復できていない宮廷魔法団の調査団たちと、デビルたちに焼き尽くされてしまった中央大学調査団の遺体であった。


「むこうのは、中央大学調査団の人たちですよね……」

「うむ……力及ばず、じゃ……」

「遺体は無理だとしても、何か遺品とか持って帰った方がいいでしょうか?」

「もうすぐ、うちの魔法団の奴らも目覚めるじゃろうから、そうしたら遺品の回収にとりかかるかのう」

顧問アーサーは、魔法団の方を見ながら答えた。



「リョウ、俺らはデビルの魔石を回収しよう」

泣きはらしたリーヒャを伴って、アベルは魔石の回収を提案した。

「売上げた分のいくらかを、遺族に渡るようにしてやりたい」


(まったく……アベルは冒険者に向いてませんね。生き残った俺たちが、死んだお前らの分まで使ってやるぜ! とかそういうセリフのほうが冒険者っぽいです)

冒険者としては、かなり後輩のくせに、やけに上から目線の涼である。

(まあ、そこがアベルらしい、と言ったところでしょうか)

最後まで上から目線の意見である。


しかし、口に出したら怒られそうなので、心の中だけにとどめておいた。



だが、そこで聞き捨てならない言葉を聞いたことに気付いた。

「今、デビルと言いましたか? さっきのやつらが、デビル?」

涼は戦場を見回しながら、あちこちに転がっている異形のモノたちを見た。


「ああ。俺らも、デビルに遭遇するのは初めてだ。そもそも、中央諸国にデビルが現れたのも、数百年ぶりとかそれくらい昔なはず……なんでこんなところにいるのか分からんがな」

(やっぱり『悪魔』と『デビル』は全く別物だった……。ミカエル(仮名)が『魔物大全』に追記してくれたのは、デビルではなくて『悪魔』だったわけです。ミカエル(仮名)が「強さ:ピンからキリまで(キリの方であっても、単体で都市一つを消し飛ばすことなど朝飯前)」などと書いていたのも納得です……あのレオノールとの戦闘も、封廊じゃなかったら、ルンの街にかなりの被害が出ていたはずだし)

そこまで考えて、涼はふと思い出した。


「そういえば、さっき三十九層で探査系の魔法を使った時に、変なものがあったんですよ。三十九層との階段の所なので、戻る時に見てみましょう。それが、今回の件と何か関係あるかもしれません」



涼が魔王子を倒した後、四十層を覆っていた結界らしきものは無くなっていた。

(結界というより、出来そこないの封廊という感じでしたか……。ルンの街に現れた封廊は、恐らく日食を利用して存在していたのでしょう。あの悪魔レオノールも、自分でもどうにもならない制約だと言っていた……あれは亜空間……ルンと別のどこかが繋がった時の橋渡しとかそういうのだと勝手に思っていたのですが……うん、まだ情報が足りませんね、よくわからないや)

よく分からない時は考えるのを諦める。それも一つの解決方法である。

涼はそう思うのだった。



魔力切れの気絶から起き出してきた魔法団は、王国中央大学調査団たちの遺品を回収し、赤き剣、顧問アーサーと涼は、デビルたちの魔石を回収した。


「魔石の色……黒ですね……」

涼が発した言葉は、決して大きくは無かったが、この中で最も経験の多い顧問アーサーが反応した。

「わしも、デビルの魔石は初めて回収したが……黒じゃったとはな……」

「アーサーさん、その言い方ですと、デビルそのものは以前見たことがある、あるいは戦ったことはある、という風に聞こえるのですが?」

「うむ、リョウよ、その通りじゃ。冒険者時代に、西方諸国で戦ったことがある……じゃが倒せなんだ」

顧問アーサーは、在りし日を思い浮かべるかのように遠い目であった。


通常、魔物の魔石は、その魔物が属する属性の相当する色になっている。

火属性なら赤、水属性なら青と言った感じで。

それが『黒』ということは……闇?

(でもあの三体、火の矢を放ってこなかったっけ?)

戦闘を思い浮かべて、涼はよくわからなさを加速していた。


「リョウ、中央諸国においては、デビルとの遭遇そのものが約二百年ぶりです。魔石の情報なども、神殿にすら残っていません」

神官リーヒャがデビルの魔石について補足した。

「デビルは、ある日突然、そこに現れると言われています。そのため、時空魔法を使えるのではないかという研究が、神殿の中で議論されていたくらいです」

「時空魔法!」


時空魔法と言えば異世界モノの定番。


(いや、だけどミカエル(仮名)は、魔法は、火、水、風、土、光、闇の六属性と無属性って言っていた……その中に時空魔法なんてなかった……よね?)


「時空魔法というのが存在するのですか?」

涼は、誰とはなしに聞いた。

「時空魔法として知られるのは、『無限収納』と『転移』だな。どちらも読んで字のごとく、だ」

答えたのは、意外なことにアベルであった。


「それは素晴らしいですね! ぜひ使えるようになりたいですが……」

涼がそう言うと、アベルはものすごくバツの悪そうな顔になった。

「ああ……時空魔法を使えるのは、知られている限りで、この中央諸国においてただ一人。帝国のハーゲン・ベンダ男爵だけだ」

「ほっほぉ~。無限収納があれば、狩った獲物は魔石だけじゃなくて素材丸ごと持って帰れるし、転移があれば簡単に狩場に移動、あるいは家に帰るとかできるから便利でしょうね」

涼は、その光景を思い浮かべて、楽しそうに言った。


だが、アベルの顔は、さっき以上にバツの悪い顔になっていた。

「ああ、冒険者ならそうだな。だが、ベンダ男爵は帝国の人間だ……帝国が、そんな能力をもった人材を自由に活動させるわけがないんだ……」

「え? それはどういう意味……」

「ベンダ男爵は、帝国軍付きとして、帝国軍の武器、糧食の移動に『常に』従事している。一種の、とても便利な道具扱いだ……」

さすがにそれは、涼から見ても哀れであった。


確かに、軍隊という面から見た場合、無限収納や転移は喉から手が出るほど欲しい人材であろう。

だが、だからと言って全く自由が無いというのは、あまりにも不憫である。


「無限収納も転移も、ベンダ男爵しか使えない。先代のベンダ男爵が、その二つの魔法が使えたのだが、その間は息子のハーゲン、現ベンダ男爵は使えなかったそうだ。先代が亡くなった瞬間から、現ベンダ男爵が無限収納と転移を使えるようになったらしいから、魔法というより呪い的な何かなのではないかと言われている」

「なるほど……一子相伝どころか、今代で使えるのはただ一人……確かに呪いみたいな感じですね」

涼が言った言葉に、ふとアベルは手を止めた。


(今代でただ一人……最近どこかで思い浮かべたフレーズ……ああ、勇者か)


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