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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
追加部 涼とアベルの帰路
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0675 天才錬金術師アベル?

「よし、できました!」

ダーウェイ公船第十船の甲板(かんぱん)上で、涼が喜びの声を上げた。


「お疲れ。錬金術か?」

アベルが、振っていた剣を止めて涼をねぎらう。


「ええ、ええ。あんな人たち……いえ、あんな悪魔たちが突然来ましたからね。この先、何かとんでもないことが起きるかもしれません。起きても大丈夫なようにです。(そな)えあれば(うれ)いなし、と言いますから」

「リョウがいじっていたのは、ニール・アンダーセンの魔法式か?」

「え……」

アベルの言葉に固まる涼。


この場合のニール・アンダーセンとは、ロンド級二番艦ニール・アンダーセン号のことである。涼が、錬金術で生み出す潜水艦だ。

もちろんアベルも乗ったことがある船であるし、それ以外にも何度か危機を救ってきた。

だからアベルも、存在は知っている。

だが……。


「僕、一言もそんなこと言いませんでしたよね?」

涼は、大きく目を見開いたまま呟いた。


そう、涼は一度も、何の魔法式なのか言っていない。

もちろん、ニール・アンダーセンを出現させてもいない。

確かに、後ろから、アベルが時々のぞき込んでいたのは知っていたが……。


「いや、以前見せてもらった、ニール・アンダーセン関連の魔法式に似ていると思ってな」

「なんですと……」

アベルの言葉に、完全に絶句する涼。


アベルが、当てずっぽうで言ったわけではないと分かった。



以前見た魔法式に似ているから?


そんなことで分かるわけがない!



プログラミングをやったことない人間は、コードを見たからといって何について書かれているのかなど分からない。

FortranだろうがLISPだろうがC言語だろうが……Pythonは分かる可能性がある?


いや、これは異常なことなのだ。


考えられるのは……。

「実はアベルは、錬金術の天才なのかもしれません」

涼は、目を大きく見開いたまま告げる。


「そんなわけあるか」

だが言われたアベルが、一笑に付す。


「錬金術なんて、一度も勉強したこともないぞ」

「だからですよ!」

アベルの言葉に、気色(けしき)ばんで反論する涼。


「勉強したこともないのに分かるのが異常です」

「そうか?」

アベルは肩をすくめている。


「アベル、王国に戻ったら、すぐにケネスに弟子入りするべきです!」

「は?」

「鉄は熱いうちに打てと言います。今から学べば、老年になる頃には、王国中に名のとどろく錬金術師になれる可能性が!」

「なんだそれは」

熱く語る涼、全く心を打っていないらしいアベル。


「だいたい、俺、魔法を使えないだろうが」

「あ……」

アベルの言葉に絶句する涼。


錬金術師は魔法を扱える。

というより、魔法使いでなければ錬金術師になれない……。


そういえば以前にも、こんなやりとりをした記憶がある。


「魔法式を設計する専門の錬金術師に……」

「そんな錬金術師がいるのか?」

寡聞(かぶん)にして僕は知りません」

「だろうな。俺も知らん」


世界は、ままならないものらしい。


「まあ、ニール・アンダーセン関連だというのが当たったのなら、俺としては満足だ」

「それが分かっただけでも凄いことですからね」

アベルは嬉しそうに言い、涼も称賛して頷く。



「僕たちの『備え』……陸海空の中で、やはり手薄なのは海です。だから、海で何が起きても大丈夫なように、手を打ったわけです」

「陸は分かるが、空も手薄なんじゃないか?」

「え? アベルは空を飛べるようになったでしょう?」


アベルは『飛翔環』を着けている。

涼による改良式で、魔力は食うがダーウェイ『中黄』以外でも飛ぶことができるものだ。


「いや、飛べると言えば飛べるが、そんな自由自在には……」

「それで、アベルが敵を引き付けてください。その間に僕とアンダルシア、フェイワンが逃げますので」

「おい……」

「自分の愛馬のために命を張れないというのですか!」

「愛馬だけでなく、俺の命も助かる方法を考えてほしい……」

涼の非難じみた指摘に、ため息をついて言い返すアベル。



「いや、そもそもアンダルシアもフェイワンも空は飛べないが、どうする気なんだ?」

「瞬時に大きな〈台車〉を作って、それに載せます。さすがに二頭で千キロはあるので、〈台車〉に〈ウォータージェットスラスタ〉を噴射させても飛べませんけど……ゆっくり着陸はできると思うんです。それで大丈夫かなと」


涼のイメージは、かつてアベルがルンの街で即位式を行った際に、演壇を飛ばしたやつだ。


「それに俺も乗せてくれれば……」

「そんなことをしたら、敵を防ぐ人がいなくなるじゃないですか」

「それこそ、リョウが適任……」

「僕は〈台車〉の生成とアンダルシアとフェイワンを守るのに忙しいのです」

厳然たる表情で言い切る涼。

小さく首を振るアベル。


数瞬後、アベルは呟いた。

「空に投げ出された瞬間に、リョウの襟首(えりくび)(つか)めばいいな」

「え?」

「リョウを盾にすればいい。氷の壁や槍を自動生成するだろう? 万能盾だ」

「なんてことを言うんですか! そもそも、魔法使いの後ろに隠れる剣士とか、プライドはないのですか!」

「まずは生き残ること、反省するのはそれからだ、の精神だな」

「改変されたです……」

アベルがニヤリとしながら言い、涼が悔しそうに顔をしかめる。


二人がそんな会話をしている間も、アンダルシアとフェイワンは甲板で気持ちよさそうに日光浴をしながら、二人を見ている。

全く手のかからない愛馬たち。


世界は、今日も平和であった。



「そういえばリョウ」

「なんですか?」

「輪舞邸にいたゴーレムたち、全部消したじゃないか」

「ええ。ルヤオ隊長に譲った友好の証二号君以外は、全員この中です」


涼はそう言うと、ローブの紐に引っ掛けてある小道具を軽く叩いた。


「それは何だ?」

「調味料が入った印籠(いんろう)です。悪い人たちに向かってこれを見せつけてこう言うのです。ひかえおろー、この紋所(もんどころ)が目に入らぬか! って」


嬉しそうに答える涼。気分はどこかの水戸黄門なのだ。

だが、反応のないアベル。


「あのー、アベル?」

「あ、すまん。調味料が入っているのは理解した。いや、そうじゃなくて、その(ひも)の先……」

涼が印籠と言ったものには紐がついており、その紐の先には青い魔石が二つ紐づいている。


「昔だったら、根付(ねつけ)というやつです。まあこれは、見たまんま水の魔石です」

「もしかして、輪舞邸に置いてあったやつか?」

「ええ、よく覚えていましたね」

アベルの記憶力に驚く涼。


この水の魔石は、輪舞邸の部屋に置かれ、ここからゴーレムたちに魔力の供給が行われ、さらにゴーレムたちの『記憶』も、ここに貯められた。


「先触れ担当一号君と、御庭番(おにわばん)の子たちの全ては、この二つの魔石の中にあると言っても過言ではありません。王国に戻ったら、また戻します。楽しみですね~」

涼は、色々考えているのだろう、嬉しそうにうんうん頷いていた。



しばらく船が進むと、アベルが口を開いた。


「明日には、アティンジョ大公国の港に到着するよな」

「そうですね。一度、アティンジョ大公国について復習しておきましょう」

「復習?」

涼の言葉に、首を傾げるアベル。


「アティンジョ大公国は、自由都市クベバサを併合して自治都市クベバサにし、南方のゲギッシュ・ルー連邦の内戦に介入して傀儡(かいらい)政権を樹立。この二つの国を、完全に支配下に置きました。その理由は、北方からの幻人たちの国、チョオウチ帝国が立ち上がったことに対抗しての事でした」

「だが、チョオウチ帝国の力は削がれた。しかしその過程で、アティンジョ大公が亡くなり、実力者であったヘルブ公も幻王に乗っ取られた」

「二人が乗っ取られたのは、二人が幻人だったからです。ですが大公位を継いだ新大公は人間。ヘルブ公は、一時氷漬けにしましたが、今では氷から解放しています」

「ヘルブ公が自治都市クベバサであった会議で振り回した聖剣タティエンを、アティンジョ大公国に返却に行くというのが、今回の表向きの目的だな」


涼もアベルも、今回の件に関しては理解しあっている。


「でも僕は知っています。アベルの隠された目的、大いなる欲望を」

「俺の、隠された目的? 欲望?」

涼の言葉に、首を傾げるアベル。


「前回は逃した、アティンジョ大公国の美味しい料理をお腹いっぱい食べようというのでしょう? バレバレです」

「なんだろう、それって絶対、俺じゃなくてリョウの欲望に聞こえるんだが」

「ごまかそうとしても無駄です!」

「じゃあリョウは、アティンジョ大公国で美味しい料理を食べたくないんだな?」

「それとこれとは別です。食べるに決まっているのです」

「うん、何がどう別なのか、全く分からん」



そう、二人ともこの時には、とても平和な訪問になると思っていたのだった……。


次回、2月中旬に続きを投稿します。

「アティンジョ大公国訪問」Ⅰ~?話、数話連作、連日投稿予定です。


それは、2023年2月20日(月)の「小説第6巻」発売にあわせての投稿です!


楽しみにお待ちください。



さて、第6巻『水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編Ⅵ』ですが、購入方法(場所)によって、三種類の特典SSが存在します。

1.TOブックスオンラインストア(紙版)

2.各種電子書籍(電子版)

3.応援書店様(紙版)


この「1.TOブックスオンラインストア(紙版)」が、1月15日(日)までにご注文いただけますと、発売当日2月20日に、お手元に届きます。

https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=2507660&sort=n


ですので本日、こうして投稿したのです。

ついてくる特典SSは『シヴィルウォー翌日』

……なんでしょうね?

微妙に、【なろう版】にはなかった単語ですかね。


我々が「南北戦争」と呼ぶアメリカの内戦、これが「Civil War」ですね。

頭にtheを付けたり、Americanを付けたり……。


そんな感じのやつの翌日のお話です。


2022年12月14日の活動報告にも書きましたが、小説第6巻は12万字超の加筆、大規模修正がされております。

多分、過去最大。

【なろう版】からの「トワイライトランド」が大規模修正されております。

アベル(その他)に大活躍してもらいました。


次の小説第7巻『ナイトレイ王国解放戦』に繋がる新章が書き下ろされ……。

この第7巻も、ものすごい書き換えが……ちなみに原稿は昨年のうちに出来上がりました、よかったよかった。


第6巻の後ろの方に、第7巻の宣伝が書いてあるのですが……。

その中に、『水属性の魔法使い』そのものに関しての情報がいろいろ載っていたりしますので、

ぜひそこまで読んでほしいですね。



あと、TOブックスオンラインでは1月10日~1月31日まで

「新春 運試しキャンペーン」

を開催中だそうです。

この間に、TOブックスオンラインで何か買うと、運が良ければクーポンがもらえるそうです!

そう、ただ買うだけ!


http://www.tobooks.jp/newyear-campaign/index.html


特賞だと、10,000円分のクーポン……。

1等だと、8,000円分のクーポン+送料無料クーポン3回分……。


この機会に、『水属性の魔法使い』などいかがでしょう……?



さて「2.各種電子書籍(電子版)」についてくる特典SSは『涼の夢のような一週間』です。

ええ、ええ、文字通り、涼が夢のような一週間を送ります。

書いてた筆者本人が、「羨ましい……」と呟いたのは秘密です。



最後に「3.応援書店様(紙版)」についてくる特典SSは『アクレの夜のディナー』です。

応援書店様は、まだ発表されていませんが……そのうち、TOブックスのサイトに発表されるでしょう。

今しばらくお待ちください。

特典SSの中身は……ええ、想像がつくと思うんです。【なろう版】を読んだ皆様なら。

あの夜、いったい何が起きたのか!



いずれもそうですが、特典SSは、その巻を読み終えてから読んでくださいね。


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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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