表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 最終章 幻人戦役
696/933

0652 涼対マリエ Ⅱ

「くっ……」

すぐに氷の膜を張って止血する涼。

だが、ダメージは想像以上に大きい。


手首と(ひじ)の間を綺麗に切断された。


だがそれは仕方のない犠牲だった。


「首を斬り飛ばすはずだったのに、右腕を入れて虎徹の軌道(きどう)を変えるなんて……その腕、痛いでしょう?」

「凄く痛いです」

マリエが顔をしかめながら言い、涼は痛みに顔を(ゆが)めながら答える。


腕を切断されたのだから痛いに決まっている。

場合によっては、ショック死すらあり得るのだ!



「リョウも日本刀を振るのだから分かるでしょう。片手で刀は振れないわ」

「ええ、分かります」

涼も以前考えたことがある。

片手では振れないと。


それは、悪魔レオノールに片腕を切り飛ばされた後だった。


あの時は、腕が斬り飛ばされると同時に、相手の首を斬り飛ばして勝利したが……今回は違う。

圧倒的に不利な状況になったが、まだ戦いは続く。



「降伏しなさい」

「降伏?」


マリエが降伏を提案し、涼が眉をひそめる。


「降伏した場合、どうなります?」

「そうね……リョウの命は取らないように首領にお願いしてみるわ」

マリエはそう言いながらも、表情は暗い。


つまり……。


「そのお願いが通らない確率は?」

「……九十パーセント」

「ダメじゃないですか」


そう、ここには捕虜(ほりょ)虐待(ぎゃくたい)を禁じたジュネーブ条約などないのだ。

降伏しても殺される可能性の方が高い。

見せしめに。


「でも抵抗すれば、百パーセント、私が殺すわ」

「抵抗して、残りの一パーセントに賭けます!」

「一パーセントとか残ってないわよ!」


なぜかボケとつっこみが成立する。


「この状況でボケるなんて大した神経ね」

「強力なつっこみ相棒に日々鍛えられていますからね。この程度はピンチじゃないみたいです」

涼はそう言うと、窓の向こうからこちらを見ているつっこみ相棒こと、アベルを見た。


その視線を追って、マリエもアベルを見る。


「ちょっと私には分からない世界だわ」

「漫才で天下を取るのは簡単ではないということですね」

「そう……あなたたちは、漫才で天下を取るつもりなのね」

「ええ、もちろんです!」


そんな、一見無駄に思える会話をしている涼。

当然、時間を稼ぐためだ。


それは何の時間か?


(だいたいの形は構築できました!)


そして唱えた。

「<アイスクリエイト 右腕>」

その瞬間、涼に氷の右腕が生えた。


「……は?」

さすがに想定外のことに驚くマリエ。


軽く拳を握ったり開いたりして調子を見る涼。

(指一本一本を動かすのは無理ですね。魔法で、(てのひら)自体を開く、握るの二つの状態をやりくりするのが限界ですか。アイスゴーレムで使った技術を流用しているとはいえ、急ごしらえでは仕方なし……)


かなり不満も大きいが無いよりはましだ。



涼の基本は剣道だ。

村雨は左手でしっかり握り、右手で動きを導く。

左手一本でも剣を振るだけなら可能なのだ……ただし速さは出ないし、相手の防御をかいくぐるような攻撃も出せないが。


しかし完璧には程遠いとはいえ、この氷の腕があるだけでもかなり違うはず。



「まさか氷で腕を生やすとはね。しかもちゃんと手が動くじゃない」

「当然です。このために錬金術を(たしな)んできたと言っても過言ではありません」

なぜか自信満々に言い切る涼。


「リョウってさ、こっちの世界に、いつ転生してきたの?」

「え? さあ? 二十年前くらい?」

「あ、若いんだね!」

「若い? はて? マリエさんも若く見えますが?」

「私、多分四千年くらい経ってるよ」

「……はい?」


()頓狂(とんきょう)な声を上げる涼。


「基本的に、幻人ってのは消滅しないからね」

「消滅しない?」

「体がなくなっても、魂みたいな状態でこの世界を漂って、またどこかの体に入る」

「それが受肉(じゅにく)?」

「そうそう。だからいろいろ経験できるんだよ。面白いと思う」

「この世界は、長命な種族が多すぎます」


マリエの言葉に、小さく首を振りながら言う涼。



「まあ、いいわ。せっかく生やした腕、どんなものか試してみましょう」

「いや、もう引き分けでいいんですが……」

「私、ノーダメージ」

「ですよね」


マリエは、再び『虎徹(こてつ)』を(さや)に納めた。

膝を曲げ腰を落とし、空気が変わっていく。


涼はいつもの正眼の構え。

<アクティブソナー>をオンにし、目を閉じる。



ザシュッ。



再び、涼の右腕が斬り飛ばされた。

今度は氷の。



「飛び込んできたのは分かったのに、反応しきれなかった」

悔しそうに顔を(ゆが)める涼。

そして、すぐに腕を再生する。


「分かっても反応しきれない速さで斬ればいい」

マリエはうっすら笑ってそう言ったが、再び涼が腕を再生したのを見ると、顔をしかめた。

「それ、きりが無いじゃない」

「これまで生きてきた努力の成果ですから」

涼は肩をすくめて答える。


結果的には、何度も腕を斬り飛ばされているのだが……。


「つまり、首を斬り落とすしかないってことね」

「いえ、手打(てう)ちにして全てを丸く収めるという方法も」

「手打ち落としたけどダメじゃない」

「その手打ちではありません……」


同じ日本出身であっても、二人の会話は平行線のままなのかもしれない。

全員が満足する結果に丸く収めることの、何と難しいことか。


「リョウがボケたいだけだろう」

そんな剣士のつっこみが窓の向こうで呟かれたが、二人には届かなかった。



そして。

突然、涼の飛び込みから第三ラウンドが始まった。

抜刀術を受けるのは難しいとの判断からだ。


当然それは、相手にも理解される。


「受けきるのは無理と判断したのね」

「攻撃は最大の防御です」

マリエの言葉に、虚勢(きょせい)を張る涼。


機先(きせん)を制して攻撃したくらいで、不利な状況を(くつがえ)せないことは分かっている。

だがこのまま受け続ければジリ(ひん)になることも理解できていた。


これまでにも、力と速さで上回る相手に、鉄壁の防御で対抗しなんとか逆転してきた過去はある。

だがそんな相手たちであっても、技術的にはそれほど涼と変わらない者たちばかりであった。


しかし今回の相手は違う。

幻人としての力と速さで人間である涼を上回る。

しかも、剣の技術においても涼よりも上なのだ。


認めざるを得ないほどに、高い技術。

涼より高い技術。


そんな相手に、どうやれば勝てるのかは全く分からない。



鉄壁の防御でしのぐ絵が見えない以上、守りに入ればジリ貧になる。

それだけが分かった。


だから攻めてみたのだが……。


「やはり防御も上手い」

「当然でしょ」

マリエは攻撃に特化しただけの剣ではない。

防御技術においても、涼を上回る……。



攻撃し続ける涼。

攻撃し続ければ、距離を取られることはない。

攻撃し続ければ、抜刀術からの一撃を食らうこともない。

攻撃し続ければ……。


「そんな後ろ向きでは勝てないわよ」


涼の袈裟(けさ)()けを体さばきでかわし、左下から斜め上方への突きを繰り出すマリエ。


やむを得ず、涼は後方に跳び距離を取った。

突きに対して後方に跳ぶしかなかったのだ。



「戦いの流れ自体が、マリエさんの掌の上で踊らされている気がします」

「面白い表現」

涼が悔しそうに言い、マリエがうっすら笑って答える。


そう、これは明らかに経験の差が大きい。

どう攻撃すれば相手がどう動くか……それは戦闘経験によってのみ、脳内に蓄積されるもの……先読み。


涼とアベルの戦闘経験の差で、涼が最も大きいと思っている差でもある。

それが先読みである。



どうなるか分からない展開……力戦調となれば、先読みに長けた相手に勝つのは至難である。


(分かっているんです。分かっているけど……)

涼は心の中で(つぶや)く。


それを避けるためにはどうすればいいかも。

(分かっているんです。でも踏ん切りがつきませんでした)



しかし、ここにきて涼は腹をくくった。



どんな展開になるか分からない。

何が来るか分からない。


それを避けるためにはどうすればいいか?


簡単だ。

必ずこれが来る……そんな展開に持っていき、『必ず来るそれ』を狙い撃つ。



マリエの剣において、必ず来る技。

仕切り直しから、必ず来る技。

だがそれこそが、最強の技。


(抜刀術を狙い撃つしかありません)



一度は迎撃した。

だがそれは、まだ右腕があった頃。

今、右腕は氷の仮腕。

どうしても、生身の腕に比べると反応が遅れてしまう。


そんな右腕で、抜刀術を迎撃しなければならない。

だから逡巡(しゅんじゅん)し、自分からの攻撃なども仕掛けてみたが……。



(さい)は投げられました)




涼の決断に対応するかのように、マリエは『虎徹』を鞘に納めた。

膝を曲げ腰を落とし、空気が変わっていく。


涼は村雨を頭の上に掲げ、珍しく上段の構え。

(<動的(ダイナミック)水蒸気機雷(スチームマイン)Ⅱ-アクティブ>)

さらに<アクティブソナー>をオンにし、目を閉じるのは変わらない。



剣閃が交差した。



神速の踏み込み、超速の抜刀のマリエ。

それに合わせ『前に踏み込んだ』涼。


間合いがずれる。


涼は前に踏み込んだ状態で体を右に向く。

マリエの抜刀が正面から襲ってくる位置へ。


抜刀術は右腕一本で刀を持ち、放つ。

剣速はかなりのものとなるが……。


その『虎徹』に向かって、両手で持った村雨を振り下ろした。


吹き飛ぶ『虎徹』。


そう、涼の狙いは武器。

武器を吹き飛ばせば相手は攻撃できなくなる。



普通なら。



「私は魔法使いでもある」

わずかな対消滅の光の後、武器を吹き飛ばしたはずのマリエの声が、すぐ背後から聞こえてくれば涼でも焦る。


「<氷棺>」

後ろを確認している余裕はない。

だが絶対に何か攻撃してくる、しかも魔法で。

ならば、自分自身を氷漬けにしてでも防御を上げるしかない。


しかしそれは、自らの移動を放棄するということ。

その場に鎮座(ちんざ)するしかないということ。



「<フレイヤスフィア>」

涼を中心に半径十メートルの炎の壁が生じる。

そこから中心に向かって、涼の氷の棺に向かって収縮(しゅうしゅく)する。


「さらに重ね掛け! <融合プラズマ>」

数億度にもなるプラズマは、瞬時にあらゆるものを蒸発させる。



全てのものが消え去った。



炎の球体が解除される。


中には何もなかった。

氷の棺も……。



肩で息をするマリエ。


『虎徹』が飛ばされた瞬間に、手足に付けた四つの特製飛翔環フル稼働からの空中機動。

涼の背後に回り込む際、飛翔環からの風属性魔法が水蒸気の機雷に触れたが、対消滅の光が舞っただけ。

一気に、<フレイヤスフィア>で逃げ道を塞ぎ、<融合プラズマ>で蒸発させた。


これほど、重い魔法の連続使用は、無尽蔵(むじんぞう)の魔力を有すると言われる幻人であってもかなりきつい。

一時的に、体内の魔力はほとんど消費したであろうし……。


「勝てたからよし」



そう言った瞬間、マリエの首が斬り飛ばされた。

さらに氷の刃が胸に刺さり、正確に心臓の手前で止まっている。



「僕の勝ちです。マリエさん、降伏してください」

いっそ静かに涼は言った。



「……負けを認める」

斬り飛ばされた首がそう言ったのが聞こえた。



次の瞬間、涼は村雨をマリエの体から引き抜き両膝(りょうひざ)をついた。


そこに、窓から飛び出してくる剣士が。


「リョウ!」

「アベル……勝ちましたよ」

明日の「0653 涼対マリエ Ⅲ」で二人の対決はおしまいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ