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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 最終章 幻人戦役
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0649 突き進む二人

「帝国軍本隊と言うわりには、薄くなかったか?」

「アベルもそう思いました?」


乱戦を尻目に国境を通り抜けた二人は、再び早歩きになってチョオウチ帝国首都を目指していた。


「実はあの中に、僕の知っている幻人はいなかったです」

「誰だ? 幻王か?」

「いえ、幻王のソナーでの反応は分かりません。クベバサで対峙した時には、外側はヘルブ公だったので」

「ああ……」

「輪舞邸に来た、ベルケ特使とかその部下の人たち……彼らはあの中にはいませんでした」

涼が顔をしかめながら言う。


「外交特使だし、戦場には来ていないだろう?」

「そうかもしれませんけど……ほら、捕まえていたユン将軍、あの人もいなかったですよ? 七星将軍とかの一人でしょう? その人がいないっておかしくないです?」

「なるほど、それは確かに変だな」


もちろん二人は、『七星将軍』というのがチョオウチ帝国軍の中でどれほどの地位なのかは知らない。

だが尋問した斥候隊の隊長たちよりは立場は上だと思うのだ。

仮にも『将軍』なのだから。


「つまりあれは本隊ではなかった?」

「あるいは主力と呼ぶべき強い部隊は別の場所にいる?」

アベルも涼も、正確なところは全く分からない。

だが、先ほどの『本隊』がかなり脆弱(ぜいじゃく)だったとは感じていた。


これまで彼らがダーウェイで対峙してきたチョオウチ帝国関連の幻人たちは、非常に強力な者たちばかりだった。

それにくらべるとあまりにも……。


「正直、ここまできてもよく分からん国だな」

「全く同感です。こう考えると、我が王国はかなりまともな方なんじゃないかと思えてきます」

「そうだな……以前は、王国騎士団とか変なことになっていたが……」

「今はドンタン団長を中心に、頑張っています!」

「うむ、確かに」


筆頭公爵も国王も、頑張っている人たちをちゃんと褒めるのだ。


「これでも王国は、長い歴史を持つ国だ。それだけに、根っこの部分では強固なのかもしれんな」

「確かにチョオウチ帝国は若い国っぽいですけど……そもそもその国を形成している幻人の人たちに関しても、僕らの知識は(とぼ)しすぎです」

「そうだな。この前の斥候の二人に、もっといろいろ聞くべきだったか?」

「アベルのことを怖がっていたので無理でしょう」

「俺、何もしてないんだがな」


第二斥候隊のソンジャン隊長とラーラー副隊長……少なくとも二人は悪い人、いや悪い幻人とは思えなかった。


「幻人だからみんながみんな、悪いわけではありません」

「そりゃ当然だろ。人間だって、善い奴もいれば悪い奴もいるんだ」

涼の言葉に、当たり前だと答えるアベル。


「アベルは……いえ、何でもありません」

涼は何かを言いかけて、途中でやめた。ものすごくわざとらしく。


「わざとらしすぎるぞ」

「いえいえ、何も含むところなんてありませんよ?」

「知っているかリョウ。リョウの週一ケーキ特権を再開するかどうかは、俺が決めることができるということを」

「ひ、卑怯(ひきょう)です!」

アベルがニヤリと笑いながら言い、涼が大きく目を見開いて抗議する。


「俺は、善い奴だろう?」

「ケーキを人質に取るなんて……」


アベルがアベルらしくないことを笑いながら言うのも、もちろん、ただじゃれ合っているだけである。



そんな平和的な空気を(かも)し出している二人だが、足は止まっていない。

早歩きのまま移動し続けていた。

ちなみに涼の後ろをついてきている<台車>は一台に減っている。


途中、第二斥候隊のソンジャン隊長とラーラー副隊長のために置いてきたから。


「皇帝陛下を救出した後のことも考えないといけないですかね」

「ああ……森の中を移動するのは大変……か?」

「そりゃあ、基本的に皇宮の中にいらっしゃった方ですから、大変でしょう?」

「いや、そうなんだが……」


アベルはそう言いながら、自分たちが歩いてきた道、さらに進もうとしている道を見る。

水属性魔法によって造られた覆い付きの氷の道……。


「ほとんど一直線にな」

「せっかく魔法を使えるんですから、使わないと損ですよ」

「お、おう……」


なんとなくこんな道なら、森の中を抜けることになっても皇帝でもなんとかなってしまうんじゃないかと、アベルは思うのであった……。



二人は歩き続けた。


「もう、チョオウチ帝国内に入ってるんだよな?」

「ええ。それどころか、あと二日くらいで首都に着くはずです」

「だが一つも……」

「そう、街どころか村すら見かけていません」


さすがにアベルも涼も不思議には思う。

国境を越えてこれだけ進んできているのに、街も村も……そして帝国民の誰一人にも会っていないのだから。


「もしかして街は、首都だけとか?」

「可能性はあるな」

「でもでも、第二斥候隊のソンジャン隊長言ってませんでしたっけ? ペイユ国の北にあった数百人規模の国をいくつか、数千人規模の国も朝貢(ちょうこう)させているって」

「言ってたな。戦争して勝って支配下に置いていると」


そう、尋問の後に涼が興味本位で聞いたのだ。

なぜチョオウチ帝国なのかと。

涼的には、『チョオウチ』の意味を聞いたのだが、ソンジャン隊長は『帝国』の方を答えた。

すなわち、数カ国を支配下に置いているからだと。


「その際に斥候隊は活躍したと」

「しかしここまで誰にも会わないと、国とは何なのかと思ってしまうな」

「出ましたね、アベルの哲学的国家論」

「何だそれは、変な言い方をするな」


涼が適当に言い、アベルが顔をしかめて言い返す。


「国とは、人が生きていくために集まった集団だと俺は思っているんだが……」

「多分、根本はその通りなんですよ。でもほら、人にだっていろんな人がいるみたいに、国だっていろんな国があるというだけかもしれませんよ」

「そうだな、そういうことなんだろうな。俺が知っている『国』の形に、わざわざ当てはめて考える方が変なのかもしれん」


アベルの中ではなんとなく()に落ちたのだろう。

何度か頷いている。




二日後、二人は丘の上に到着した。

「これは失敗ではありません。計算通りです!」

「お、おう……」

涼が高らかに宣言し、アベルが受け入れる。


確かに首都ではなく、丘の上ではあるが失敗とは言い切れない。

なぜならそこからは、少し離れた場所に大きな建物が点在する、広大な敷地が確認できたからだ。

禁軍統領ティンから受け取った、皇帝ツーイン追跡用の錬金道具によれば、そこにいることは分かっている。


つまりそここそが……。


「『夏の別邸』ということです」

「なんとか着いたな」

「道になんてまったく迷いませんでしたからね」

「うん、すぐにばれる嘘をつく必要はないだろう。だいたい、誰に言い訳しているんだ、それ」


アベルが小さくため息をつく。


次の瞬間、涼の顔がしかめられた。


「どうした?」

「いえ、ソナーで探ったのですが、確かに皇帝陛下がいらっしゃいます」

「うん」

「でも他にも、知った反応があります」

「誰がいる?」

「マリエさんです」

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