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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 最終章 幻人戦役
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0644 新装

「最初から最後まで凄い戦闘でした」

「そうだな。勉強になる艦隊戦だった」


涼もアベルも、艦隊戦の経験は多くない。

そのため、いろいろと学ぶべきものがあったと認識していた。


「やっぱりあの、一糸(いっし)(みだ)れぬ魔法砲撃ですよ。二十個の炎の玉が、同じ場所に同じタイミングで着弾って」

「確かにな。あれだから、向こうの船の<魔法障壁>を突き破れたんだろう」

「ちょうど喫水(きっすい)……海面ですからね。あそこに大穴が空けば、そりゃあ沈みますよね」

「あの砲撃もそうだったが、船もかなり揺れたよな」

「そうなんです! 反動があるのは当然なんですけど、個々に反動吸収する機構になってないんですかね」


涼が首をかしげる。

涼が知る戦列艦などの帆船における砲撃では、車輪のついた各大砲が弾を放つと後ろに動いて反動が吸収されていた。

だが、この船の砲撃は、まるで船に固定された砲台から発射され、その反動で船が動いたような……。


「この船の場合は、魔法砲撃砲は固定されているんですよ」

二人に近付いてきながら、ラー・ウー船長が笑いながら言った。

二人の会話が聞こえていたらしい。


「固定されていると、その衝撃で船が揺れるでしょう?」

「ええ、揺れます」

涼の懸念に、頷いて同意するラー・ウー船長。


「だから一斉砲撃だったのか?」

「そう、そういう側面もありますね」

アベルの答えに、再び頷いて同意するラー・ウー船長。


どうせ揺れるのなら、揺れるタイミングを合わせよう……。


いや、そんな簡単にできることではない!


「戦闘指揮官のリンシンを中心に、砲撃手たちの訓練の賜物(たまもの)です」

笑顔でそう語るラー・ウー船長は、どこか誇らしげだ。


さらに説明を続ける。


「うちの砲撃手たちは確かに凄いのですが……もし他の船、攻撃してきた高速砲撃艦などが船腹の砲を一斉射しようとしても許可は出ないでしょう。訓練し、同時砲撃ができるようになったとしても」

「船の問題ということか?」

「ええ、アベルさんのおっしゃる通りです。この船だからこそ、二十門同時斉射が許されます」

ラー・ウー船長が言い切る。


「それは……船の復原力の問題ですか?」

涼が首を傾げながらも、思いついたことを言った。

西方諸国において、後のスキーズブラズニル号をいじくった際に問題となっていたのが復原性の問題だった。


だから知っているのだ。

復原性、あるいは復原力の大切さと難しさを。


復原力とは一言で言えば、傾いた状態から正常な状態に戻る力と言える。

それは別の言い方をすれば、転覆しにくさと言っていいだろう。


「そう、まさにおっしゃる通りです」

嬉しそうにラー・ウー船長が頷く。


「この第十船を含めた公船……ダーウェイでは一級公船と呼ばれている最大級の公船たちは、桁違いの復原力を持っています。だからこそ、舷側全砲の一斉射を行っても転覆しないのです」

「魔法や錬金術だけでなく、造船技術においてもダーウェイは超大国ということですね」

ラー・ウー船長の説明に、涼は何度も頷いた。

まだまだ、ダーウェイから学ぶものがありそうだ。



ラー・ウー船長は次の指示を出すために二人の元を離れた。



「中央諸国は……いえ多島海地域や大陸南部においてさえ、艦隊戦は接舷(せつげん)戦が中心でした」

「そうだったな。だがこのダーウェイでは違う」

「ええ。まさかの砲撃戦でした」

涼が小さく首を振る。


涼が知る『砲撃戦』は、地球での大砲の撃ち合いである。

だが今回目の前で展開した戦闘は、錬金術ではあるが間違いなく『砲撃戦』と言うべきものだろう。

火薬が魔力で、大砲が錬金道具という違いくらいだ。


「なんとなくですが、いずれ中央諸国なんかでもこういう艦隊戦になるんですかね」

「なるだろうな」

アベルが断言する。


「どこかですでに実用化しているものがあれば、それはいずれ他の場所でも実用化されるだろう?」

「それは否定しません」

「東方諸国と中央諸国の行き来があまりなかったのは、例の『回廊』のせいだ。だが今回……」

「ああ、皇帝陛下を使って開くつもりなんですよね、幻王が」

「いずれは中央諸国の海戦も、砲撃戦へと移っていくだろう」

アベルは断言した。


アベルは国王だ。

だからこそ、数十年先の国の未来を見なければならない。


国家百年の大計は、政治に携わる者全員が意識しなければならないもの……。


「ならば一足先に、我が王国の軍艦に積み込みますか」

「は?」

涼が呟くように言い、アベルは意味が分からず問い返す。


だが涼は独り言のように呟いている。

「ルヤオ隊長の手甲の方がこれより上ですね……でもあれは、魔石を使っていない、多分こっちのは魔石からの魔力供給があるはずです。船で砲撃となれば、砲台一つずつに魔石の設置がいりますか……あ、その前に、ルヤオ隊長にちゃんと魔法式使用の許可をもらわないといけませんね。特許的な感じで……友好の証二号君をあげたので、その代わりに中央諸国だけで使いますと約束すれば、許してもらえそうな気が……」

「リョウは律儀(りちぎ)なのか適当なのかよく分からん」

アベルは小さく首を振った。



「それにしても、中央諸国の魔法は劣っていると言われていたが……錬金術においても差がついてしまうな」

「はい?」

アベルの呟きに、意識が戻ってくる涼。


「いや、中央諸国の魔法は、西方諸国や東方諸国に比べて劣っているとずっと言われていたんだ」

「ああ、それ聞いたことがあります」

「だが俺はリョウを見ていたから、全くそうは思わなかったんだが……魔法と関係の深い錬金術においては結構な差があるような気がしてな」

「中央諸国の、いえ王国の錬金術が、戦場で使われるより民の生活の中で使われるとても素晴らしいものだからそう見えるだけです!」


なぜか涼が気色(けしき)ばんで反論する。


「そういうものか?」

「もちろんです! 実際、王国の錬金術だって負けてませんよ! 確かに魔法砲撃ではあれですけど……そう! 王国にはあれがあるじゃないですか!」

「あれ?」

「空中戦艦ゴールデン・ハインドです!」

「あ、ああ……」

「さらに強力無比な主砲ヴェイドラも装備されています!」

「そ、そうだな……」

「空を制する者は戦いを制す! 決して東方諸国の艦隊にも負けていません!」

「た、確かにな……」


涼が力説する。

だがアベルの反応は(にぶ)い。


「なんですかアベル、その反応は」

「いや……リョウはいなかったから知らないんだろうが……実は、ゴールデン・ハインド、沈んだんだよな」

「……はい?」

「魔人ガーウィンに沈められたんだ……」

「どういうことです?」


申し訳なさそうに言うアベル、意味が分からない涼。


「ゴールデン・ハインド号って、王都かルンに係留(けいりゅう)されているでしょう? そこにまで魔人に侵攻されたんですか?」

「いや最後にリョウも来た、あの戦場で……沈んだ」

「対魔人戦にゴールデン・ハインドを出した? 何でです?」

「ガーウィンに対する切札だったんだ。ヴェイドラによる長距離の砲撃でガーウィンの力を削ぎ、そこで封印するという……」

「なるほど」


アベルの説明に頷く涼。

涼もそこまで言われてなんとなく理解した。


長距離拡散式女神の慈(パナケイア・ブレス)悲』どころか、ケネスの格納式バレットレインすら発動していた……本当に総力戦だったのだ。

ゴールデン・ハインドを使うのも、ある意味当然かもしれない。



「沈められたのなら仕方ありません。王国に戻ったら修復します!」

高々と宣言する涼。


「主砲ヴェイドラだけでなく、副砲に魔法砲撃を装備し……ああ、そうですね、モモンガゴーレム飛行隊を従えましょう」

「……は?」

「強力な砲撃能力を持ちつつ、ゴーレム飛行隊の母艦としての能力も持つ……そう、航空戦艦です! 王国の空を守る守護神ですよ! これがあれば、帝国も王国を攻めようという気は起こさないでしょう」


涼の頭の中には、数多(あまた)の飛行ゴーレムを従えて、空を征く新装ゴールデン・ハインド号が描かれているのだろう。

楽しそうだ。


「うん、まあ、ほどほどにな」

国王陛下が言えたのは、それだけであった……。

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