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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第五章 リュン親王
664/930

0620 王府防衛戦 余

王府が襲撃者を退けた翌日。

南方から戻った涼とアベルが王府を訪れた。


二人は、王府が襲撃されたという話を港で受けてきた。


「ご無事でしたか?」

「ロンド公、ありがとうございます。はい、我々は大丈夫ですが……」

「我々は……?」

シオ・フェン公主の言い回しの意味が分からずに首をかしげる涼。


そこへ、現れた者たちがいた。


先頭はルヤオ隊長、それと十体のアイスゴーレム。

その中の一体が、荷車を引いている。

荷車には何かが横たえられ……。


「ロンド公、申し訳ありません」

目を真っ赤にはらしたルヤオ隊長が頭を下げた。


「え?」

涼は意味が分からない。


だが、ルヤオ隊長が震えていることに気付いた。

下を向いたまま泣いているのだ。


そこで涼は気付く。

ルヤオ隊長の傍らにいるのは御庭番(おにわばん)二番隊。

だが、二番隊隊長がいないことに。


「あれ? 友好の証二号君は?」

そこまで言って涼は気付いた。


荷車に横たえられたのが、一体のアイスゴーレムであることに。

荷車に横たえられたゴーレムの首には、黄色いスカーフが巻かれていることに。


「え? 嘘……」


目から入ってきた情報は、脳で処理された。

だが、心が理解を拒む。



一歩踏み出す。



目から入ってくる情報がより鮮明になり、脳で処理された。

だが、さらに強く心が理解を拒む。



もう一歩踏み出したところで……ようやく心が理解した。



「友好の証二号君は……役に立ちましたか?」

「はい……」

涼がとても優しく問い、ルヤオ隊長が泣きながら答えた。


「私を助けてくれました……」

「それなら良かったです」

涼は笑顔を浮かべて答えた。


きっと友好の証二号君は、ルヤオ隊長が傷つくくらいなら、自分が傷ついた方がいいと思ってその身を差し出したのだろう。



涼はルヤオ隊長らに深く一礼し、荷車を引いた二番隊を引き連れて輪舞邸に戻っていった。



輪舞邸に戻った一行は、整列したゴーレムに迎えられる。

それは、先触れ担当一号君率いる輪舞邸御庭番一番隊。

まるで、命を捧げた友好の証二号君を、涙をこらえて迎える仲間たちのような……。



涼たちは仕事部屋に入った。


「なあ、リョウ。そのゴーレムは……元に戻せないのか?」

「外見だけなら、すぐに全く同じものが作れます」

アベルの問いに、涼は手を止めないで答える。


「だよな? すぐに戻してやらなかったのはなぜだ? その方が彼女の気持ちが安らいだろう?」

「そう……そうかもしれませんけど……それは結局、ルヤオ隊長にとって友好の証二号君ではないのです。彼女が背中を預けて共に戦った戦友ではないのですよ。それでは意味がないでしょう?」

「それは、仕方ないんじゃないか?」


涼が言うことはもっともであることをアベルも理解したが、それはしかたないのではないだろうか?


「アベルは、うちのゴーレムたちがどうやって魔力を供給されているかは知っていましたよね?」

「ああ、以前教えてくれたよな。そこにある、水の魔石からだろう?」


涼が氷の板を繋いで作業をしている先は、その二つの水の魔石。

そこから、ゴーレムたちには魔力が供給されている。

その範囲は、輪舞邸だけでなく、輪舞邸を半包囲する形で建てられているリュン王府も入っている。

そのために、友好の証二号君ら二番隊は、王府でも戦えたのだ。


「この魔石には、彼らゴーレムたちのログも記されます」

「ろぐ?」

「ああ……記録ですかね。彼らがこれまでとってきた行動、人とのやりとりなど一切合切の記録です」

「それは……結構な量にならんか?」

「ええ。ものすごい量です」


アベルは少しだけ想像して言い、涼は頷く。

一機分だけに絞っても、かなりのログがある。


「ですけど、たとえば友好の証二号君のログはつまるところ、彼が生きてきた記憶でもあるのですよ。もちろんバックアップみたいに、もしもの時にリストアで戻して、壊れる前と同じ状態に戻れるのを前提に構築されたものではないので、あくまでログなのですけどね」

「え~っと?」

「ログを再構成して『記憶』の形に変え、リストアできるようにして新たな友好の証二号君に繋げてあげれば……」

「友好の証二号君が、完全に元に戻る?」

「そういうことです」


涼は嬉しそうに頷く。

もちろん、その間も作業する手を止めない。

今、この瞬間も、ルヤオ隊長は悲しんでいるはずだからだ。

できるだけ早くリストアし、復活させて会いに行かせてやりたい……。


「ですからアベル、僕は、今夜は徹夜しますよ。お夜食に、おにぎりをお願いします」

「お、おぅ……」



その夜、リュン王府。

「ルヤオ、眠れないのですか?」

「あ、公主様……」

シオ・フェン公主が、庭にたたずむルヤオ隊長に声をかけた。


「私は、ルヤオと友好の証二号君に命を助けられました。先ほども言いましたが、感謝しています」

「もったいないお言葉です」

「私にできることがあったら、何でも言ってくださいね」

「はい」


シオ・フェン公主がかけた言葉はそれだけであった。


休んだ方がいいだの、気にするなだのといったことは、この場では意味をなさない。

ルヤオ隊長も、頭では分かっているのだ。



全ては、心の問題。



「公主様にまでご心配を……」

ルヤオ隊長は責任感が強い。

主の奥方にまで心配をかけるのは本意ではない。


そのため、せめて人目につかない自室に戻った。

しかし、眠る気にはならない。

どうしても、友好の証二号君の最期の瞬間が目に焼きついて……。


だが、ルヤオ隊長も人間だ。

昨晩は魔法使いとしての限界まで戦った。

戦闘終了後も、友好の証二号君が倒れたその光景を見たまま、休む事などできなかった。


心は(なげ)いているが、さすがに体の方が悲鳴を上げた。

そして強制的に、眠りの世界へと落ちていった……。




「え?」

ルヤオ隊長は、誰かに呼ばれた気がした。

それで目が覚めた。


まだ日が昇る直前。

東の空は明けようとしているが、庭には(もや)がかかっている。


ルヤオ隊長は庭に出て、そのまま正門に向かった。

なぜかは分からない。

なんとなく、そちらに行くのが正しい気がしたのだ。


正門を開けて道に出た。


向こうから、誰かがやって来るのが見える。

三人?


真ん中はロンド公だ。

その左は護衛剣士のアルバート殿。


その右は……ロンド公より少し背が低い?

全身が青色?

首には黄色いスカーフを巻いている……!


向こうもルヤオ隊長を認識したのだろう。

走り始めた!



ルヤオ隊長は理解した。


完全に理解した。


それが、友好の証二号君であることを。

外見だけが同じアイスゴーレムではない。

彼女が背中を預けて、共に戦い抜いた戦友。


「二号君!」


二人は無事に再会したのであった。

筆者は、ハッピーエンドが好きです。

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