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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第四章 学術調査団
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0064 鋭いセーラ

ゴールデンウィークなので、追加投稿です。

涼には気になることがあった。

それは、大海嘯と、悪魔の関係である。


大海嘯が地上に出てくる二日前、ルンの街で日食が起き、涼は悪魔レオノールと亜空間らしき場所で戦った。

レオノールは『封廊』と呼んでいた。

この二つの出来事は、偶然というには出来過ぎている。


悪魔が大海嘯を起こしたのかどうかはわからない。

大海嘯が起きるのを知って、やって来ただけかもしれない。

あるいは、悪魔ではなく『日食』の方が関係するのかもしれない。


その辺りももちろんわからない。

もちろんわからないのだが……気になるのである。


(図書館とかで調べられるかなぁ……)

そんなことを、ギルド食堂でお昼を食べながら考えていた。

もちろん一人ではなく、十号室の四人で、である。



「リョウさん、何か考え事ですよね……」

「魔銅鉱石を使った錬金術に関しての何かかなぁ……」

「い、今更、やっぱりお金返してとかは無理だぞ。いくらリョウでも、無理だからな!」

アモン、エト、ニルスの順の発言だが……最年長二十歳のニルスの発言が、一番……残念。


「言いませんよ、そんなことは」

苦笑しながら首を振る涼。

あからさまにホッとした表情を浮かべるニルス。


涼は、ふと、そんなニルスのチュニクのポケットから、金の鎖が出ているのを見つけた。

「ニルス、そのポケットに入っているのは……」

「お、おう、いちおう冒険者としてこれくらいはな」

そういって取り出したのは、懐中時計であった。



この世界には、すでに時計が存在している。

広場の塔には大時計が設置され、三時間ごとに鐘の音が鳴り響く。

市民の多くは、それを頼りに生活しているが、冒険者はけっこうな割合で懐中時計を持っていた。

これは、依頼主との面談や、集合などに遅れたりしては困るからである。


どんな世界においても、どんな仕事であろうとも、時間を守れない人間は、それだけで低評価となる。



時計そのものは、水時計、砂時計など、一定の速度をもって動き続けるものを使うことによって時間を計るものである。

本来は複雑なものではない。

問題なのは、それを携帯できる大きさ、携帯できる機構にしようとした場合に、厄介な部分が出てくるというに過ぎない。


地球においては、その厄介な部分を『ゼンマイ』が発明されることでクリアした。

十六世紀の話である。

だが、この『ファイ』においては、地球に無かったものが存在する。


それが魔法であり、錬金術である。


特に、錬金術を使って一定の間隔で時を刻む機構は、はっきり言って難しくない。

そのような技術があれば、携帯できる時計が生まれ出るのは、それほど難しい話ではなかった。

とはいえ、それでも懐中時計一個一万フロリン以上はする。


普通の市民にとって、一万フロリンというのは決して安い金額ではない。

ものすごくつつましい生活を送るなら……半月くらいは生きていけるかもしれない金額である。

だが、一攫千金が夢ではない冒険者なら……千金を得てはいないが、ニルスは買ったようである。

恐らく涼が支払った三十万フロリンの中からであろう。



もちろん、一個一万フロリンというのは最低ラインであり、魔法や錬金術を全く使わない完全機械式の懐中時計というものも存在する。

こちらは、最低でも数百万フロリンからと目の飛び出るような金額となる。

さらにその中でも最高峰と言われる、永久カレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨン、スプリットセコンド、均時差表示、自動巻きなどの機能のある懐中時計は億を超えるのだとか……この世界にも天才時計師ブレゲみたいな人がいたのかもしれない。



「懐中時計ですか。これでもう、ニルスも遅刻しませんね」

「いや、俺、遅刻したことないけど……」

そこに、受付嬢ニーナがやってきた。

「お食事中すいません、ニルスさん、エトさん」

「は、はい! な、なななな何でしょうか!」

ちょっと憧れているニーナに声を掛けられたために、一気にテンションマックス……を通り越して緊張でガチガチになっているニルス。


(最初、宿舎に案内してもらった時は、ここまでガチガチになってなかったと思うんだけど……ニルスの対ニーナ憧憬の進行度が激しい)

涼は、そんな酷いことを思っていた。


「ニルスさんとエトさんは、先日の大海嘯における功績によって、E級冒険者となりました。おめでとうございます」

そう言って、にっこり微笑んだ。

「い、E級……」

「やった。ありがとうございます」

「ニルスさん、エトさん、おめでとうございます」

「二人ともおめでとう!」

言葉が続かないニルス、素直に喜びを表現するエト、そして称賛するアモンと涼。


「つきましては、のちほどギルドカードの更新を行いますので、受付まで来てください。その際に、パーティー登録をすることができるようになるので、登録する場合はパーティー名を決めておいてくださいね」

そういうと、ニーナはギルド受付の方へと帰って行った。



「パーティー名?」

涼はエトに尋ねた。

ニルスはもちろん固まったままで、使えないからである。

「うん。E級からは、パーティーとして登録が可能なんだ。今までは三人ともF級だったから、パーティーとしては登録されなかったけど、E級が一人でもいればE級パーティーになる。そしてE級パーティーからは、パーティー名をギルドに登録することが出来るようになる。まあ、初心者は卒業ですよ、という意味合いらしいよ」

エトはニコニコと答えた。そして、「何がいいかね~」と考えている。


「ぼ、僕も頑張ってE級にならなくちゃ」

アモンも、もちろん大海嘯に参加したので、その分の評価は上乗せされたはずだが、まだ冒険者登録したばかりということで、E級に上がるにはもう少し時間が必要なのであろう。

(アモンは、ニルスやエトとパーティーを組んでいる。この先、アモンもE級用の依頼、受けられるだろうから、そのうちE級に上がるでしょう)


涼は、全然心配していなかった。




午後、十号室の三人は、ギルド屋外訓練場で訓練をしていた。

午前中、講義室に集合させられたために、今から依頼を受けるのも中途半端な時間となるからである。

同様なE級、F級冒険者もけっこうおり、訓練場はいつもより盛況であった。


もちろん、その中に涼はいない。

三人と別れて、北図書館に来ていた。


朝の内は、三人が採ってきてくれた魔銅鉱石を使った錬金術をしようと思っていたのだが、どうしても大海嘯と悪魔、日食のタイミングが気になったのだ。



北図書館の受付は、昨日来た時とは別の人物であった。

二千フロリンを払い、冒険者用の黒い入館証を首から下げて、涼は大閲覧室に入った。

昨日、エルフのセーラが座って本を読んでいた場所には……誰もいない。

涼は少し落胆した。

もちろん、セーラに会いに来たわけではないのだが、誰しも美しいものは好きである。

そして、本を読むセーラは間違いなく美しかった。


大閲覧室を見渡しても、涼以外、誰もいない。

ここで涼は気付いてしまったのだ。


(司書いないし、昨日一緒に調べてくれたセーラさんもいない……僕はどうやって日食や大海嘯の過去の記録を調べればいいんだ……)

そう、全くその辺りを考えていなかったのである。

しかも2000フロリン払って入った後で気づく辺り、ダメダメであろう。


調べる方法に頭を悩ましていた時、後ろから声が聞こえた。


「ん? リョウじゃないか。昨日ぶりだな」

そこに救いの女神が現れた。

涼が後ろを振り向くと、天上の女神もかくやという、美しい女性が立っていた。

エルフの冒険者、セーラである。

「セーラさん!」

涼の言葉に、嬉しさが混じっていたからであろう。

名前を呼ばれたセーラは驚いた。

「ど、どうした?」



そこで涼の諸々の説明である。

司書がいないことを忘れて、北図書館に来てしまったことも含めて。

ちょっと絶望に暮れていたことも含めて。

それを聞いてセーラは小さく笑った。図書館だしね。小さくね。


「私で役に立てるのならお安い御用だ。過去の日食の記録と、大海嘯の記録か」

ここでセーラは意味深に、日食と大海嘯を強調した。

「涼は、日食と大海嘯が関係していると思っているんだな」

その言葉を聞いて、涼は驚愕した。

(セーラさんは鋭い。鋭すぎる)


「確かに、今回、大海嘯で魔物が出てくる二日くらい前に、大きな日食があったらしい」

大きな日食とは、恐らく今回の皆既日食のことであろう。

「実は結論から言うと、ルンのダンジョンの場合には、日食と大海嘯には関係がある可能性は高い」

セーラはあっさりと答えた。

涼は驚いたまま二の句が継げなかった。


「正確には、大海嘯が起きる前には、必ず日食が起きている。ただ、今回の様な大きな日食ではなくて、部分日食だがな」


ある一地点において、皆既日食または金環食といった、太陽のほとんどが月に隠れてしまうような日食というのは、数十年に一度という頻度になる。

だが、部分日食の場合には、数年に一度、短い場合は2年に一度程度の頻度でも起こる。

そう考えると、日食と大海嘯が重なるのは偶然だったとしてもあり得ないことではない。


「なぜ、関係があると……?」

「それはもちろん、以前、私が調べたから」

セーラの笑顔がはじけた。非常に破壊力のある笑顔。


(うわ、綺麗……)


「でも、リョウがその二つの関連性に着目した理由に興味があるな」

「あ、いや、なんとなくで……」

さすがに、悪魔と戦闘してとは言えない……。

もしかしたら、エルフだから悪魔に関して何らかの情報を持っているのかもしれないが……まだこの事は他の人には話したくなかった。


「フーン……」

涼も、美人にジト目で見られるのは、あまり経験が無かった。



「せ、セーラさん、魔石の色の濃さの理由って知っていますよね?」

必死に話題を逸らして誤魔化そうとする。

「まあ、誤魔化しに乗ってあげよう」

セーラは笑顔でそう言った。


「もちろん知っている。長い時を生きた魔物の魔石の色は濃い、というやつだな」

「今回の大海嘯の魔物の魔石の色がどうだったかは……?」

「もしかして……薄かった?」

「ええ。薄かったです。どうして……」

セーラは頷きながら答えた。


「どうして薄いことを知ってるのか? それは、過去の大海嘯で討伐した魔物の魔石も薄かった、という記録を以前見たことがあるから。この図書館の中でも、保管状態があまりよくない記録で、しかも羊皮紙だから司書でも知らない人がほとんどじゃないかな。リョウも見てみる?」

「はい、ぜひ!」

「じゃあ行こう。ついてきて」

そういうと、セーラは歩き始めた。


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