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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第四章 学術調査団
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0062 ギルド通達

ゴールデンウィークなので、追加投稿です。

涼が北図書館で幸せなひと時を過ごしていた頃、冒険者ギルド三階の講義室は、荒れていた。


「納得できません! なんであんなやつらに顎で使われなければならないのですか!」

「俺らの食い物奪っておいて、どんな顔して雇おうってんだ」

「大海嘯後のダンジョンって、別の世界と繋がってるんでしょ? そんなところに行きたくないわ」

「国の意向? 俺たちゃ国の奴隷じゃねえぞ!」

「勝手に潜ればいいだろ。知ったこっちゃねえよ」

「でも正直、お金が入ってくるのはありがた……」

最後の意見は、本当に消え入るような小さい声で……周りの冒険者に睨みつけられ、最後まで言い切れなかった。



喧々囂々(けんけんごうごう)の議論の場、というより冒険者たちの不満表明の場であった。

朝の、調査団によるギルド食堂からの食料接収は、ほとんどの冒険者の知るところとなっていた。そういう情報の回りは早い。

その情報もあって、九割方は『反調査団』という状態になってしまっていた。


ギルドマスターとして召集をかけたヒューとしても、冒険者たちの気持ちは痛いほどよくわかった。

しかも、食料を奪っていった調査団のダンジョン調査に協力しろと言われて、はいそうですかと言う返事が来ないことも理解していた。

だが、立場上、決まったことは伝えなければならない。



「みんなの気持ちはわかる。ああ、すげーわかる。だから、調査団を手伝うのはあくまで依頼としてだ。依頼内容に納得いかなければ、受ける必要はない。それは冒険者としての大前提だろ?」

正直、ヒューは大切な冒険者たちを、この時期のダンジョンに潜らせるのには未だに反対である。


しかも一緒に潜るのは、学者バカたちだ。

仲間の命よりも、場合によっては自分の命よりも、調査の方が大事だ、と断言するような連中なのだ。

一カ月、何もないまま過ぎてくれるのが一番いい、正直、そう思っている。


「言うまでもないが、冒険者は自己責任だ。自分とパーティーの命が懸かっている以上、安請け合いはするな」

それを聞いて、多くの冒険者が、頷いている。

「だが、これだけは最初に言っておく。他の冒険者が依頼を受けたからといって、そいつらに裏切り者だなんだと辛く当たるのは、俺が許さねえ。いいな!」

依頼を受けた冒険者たちが、依頼を拒絶している冒険者たちからいろいろ言われるのは分かり切ったことである。

だからこそ、ヒューはあえて言ったのだ。



そしてそれをダメ押しする声が上がる。

「ギルマス、ちょっと皆に言っておきたいことがあるんだが、いいか」

手を挙げたのはアベルであった。

「アベルか。いいぞ」


「俺ら赤き剣は、宮廷魔法団の護衛としてダンジョンに潜る」

その言葉の意味を理解すると、冒険者たちからざわめきが増した。

「昔なじみからの頼みでな、断るという選択肢はない。宮廷魔法団は、調査が主の面々が来ているとはいえ、調査団の中での純粋な戦力としては最も高い。戦場に出る連中だからな。だから、恐らく最も速いスピードで下の階層に降りていくと思う。その都度、情報はギルドにあげるので、それを有効に使ってほしい。以上だ」


(さすがアベル。これで、依頼を受ける奴らが色々言われることは無くなったか)

ヒューは、絶妙のタイミングでの、アベルの情報開示に感心した。


さらに、赤き剣から上がってくる情報は、この先非常に有効であろうこともわかっていた。

「ダンジョンの封鎖解除は、明日の朝七時だ。情報はギルドの掲示板に随時上げておくので、各自で目を通しておくように。以上。解散」



ギルドマスター執務室に戻ったヒューは、受付嬢ニーナを呼んでいた。

「ニーナ、明日はE級とF級の連中に説明をする。九時に講義室に来るように手配してくれ」

「はい、かしこまりました。E級、F級にも潜る許可を与えるのでしょうか?」

「いや、それはない。あいつらは一カ月が経過した後からだということを念押しする」




その日の夕方、涼はギルド受付のソファーに座っていた。

そろそろ、十号室の三人が、ルンの西にあるルーセイ村の廃坑から戻ってくるはずの時刻である。

片道半日、魔銅鉱石掘りで半日、戻り片道半日。


そんな涼に声をかける女性がいた。受付嬢ニーナである。

「リョウさん。ニルスさんたちは、今日戻ってくる予定ですよね?」

「ええ、その通りです」

ギルドを通していない依頼なのに、帰還日程を把握している辺り、さすがのニーナだ。


「明日、朝九時から、E級とF級のパーティーに、ダンジョンについての説明をギルドマスターが行います。ですので、講義室に来るように伝えてもらっていいですか」

「わかりました。伝えておきます」

そう言って、涼は頷いた。だが、そこで終わってはいなかった。


「リョウさんは、今日のお話には参加されてなかったのですよね?」

「お話?」

「はい、今日はD級以上のパーティーリーダーに、ダンジョンについての説明をしたのですが……」

「すいません、それは知りませんでした……」

叱られている気分である。


「いえ、まあそういう場合もありますから。リョウさんはD級ではありますが、冒険者登録してまだそれほど時間も経っていないので、明日ニルスさんたちと一緒に話を聞いてくださるといいと思います」

「わかりました。僕も出席します」

「お願いします」

そういうと、ニーナはにっこり微笑んで、受付の奥に戻って行った。


十号室の三人が、疲労困憊の状態でギルドに戻ってきたのは、そのすぐ後であった。



「ニルス、エト、アモン、おかえり」

三人は疲労困憊ではあったが、やり遂げた感ありありだった。


「リョウ、俺たちはやったぞ!」

そう言うと、ニルスは倒れそうになったが、涼がそれを許さなかった。

「ニルス、部屋に帰りつくまでが遠征です」

そういうと、三人を十号室まで先導した。



部屋にたどり着くと、三人は文字通り、ベッドに倒れ込んだ。

エト、アモンに至っては、到着して以降、一言もしゃべることが出来ないほどの状態である。


とりあえず、涼は、三人のコップに美味しい水を入れて渡す。

そして三人が飲むのを、ゆっくり待つのであった。



「ふぅ、美味いな。よし、どうせエトとアモンは疲れすぎて話せないだろうから、俺が報告する」

そういうと、ニルスはバッグから拳大の魔銅鉱石を『二個』取り出した。


「これが依頼の品、魔銅鉱石だ。拳大のが、運良く二個手に入った」

「おぉ、これはすごいですね!」

涼はその二個をかわるがわる眺め、確かに魔銅鉱石であることを確認した。


「それで、報酬の方なのだが……二個なので、少し色を付けてもらえたりするのだろうか……いや、ルームメイトだし、同じ冒険者であるし、無理を言うつもりはないのだが……」

「もちろんです。想定以上に努力し、予想以上の成果を出したのですから、報酬の上乗せがあってしかるべきです。そうですね、諸々経費も入れて、二個で九十万フロリンでどうでしょうか? 一人三十万フロリンです」

「ひ、一人三十万……金貨三十枚……」


ニルスは声に出して驚き、他の二人は疲労で声が出ない上に驚きでも声が出なかった。


「ダメですかね? さすがにそれ以上となると……」

「いや、もちろんOKだ。OKだよな、エトもアモンも」

ニルスの問いかけに、エトもアモンも何度も頷いた。


「良かった、交渉成立ですね。ではこの後、ギルドに行って僕の口座から、三人の口座にそれぞれ三十万フロリンずつ振り込んでおきますので、確認してください。本当に、お疲れさまでした」

そういうと、涼は立ち上がり、三人に対してきちんと頭を下げた。


こういう時、親しき中にも礼儀ありというのは大切なことである。

「いやいや、こちらこそ、稼がせてもらったのだから……感謝するのは俺らの方だ」

ニルスも頭を下げ返した。座ったまま。立ち上がるだけの体力は無かったのである。




「そうそう、三人に伝えておかなければならないことがありました」

三人が、ようやく疲労困憊から少しだけ回復し、ベッドから起き上がれる状態になった頃、涼は思い出したかのように言った。

「明日から、ダンジョンの封鎖が解かれるそうです」

「何!」


それは驚くであろう。

最低でも一カ月は封鎖、出かける前はそういう発表だったのである。

それからまだ二日しか経っていないのに封鎖解除とは……。


「ただ、これは王都から大海嘯の調査に来た学術調査団がダンジョン内に入るための措置で、基本的に調査団に護衛などで雇われた冒険者は、入れる。しかも、それはD級以上のパーティーだそうです」

「学術調査団……そんなものが来てたのですか……」

ようやく声が出せるようになったエトが呟いた。


「D級以上ってことは、俺らは無理か」

「仕方ないですよね」

落胆するニルスと、やむを得ないと納得するアモン。

「それで、D級以上のパーティーには、今日説明があったらしいのですけど、E級とF級には、明日九時から説明があるので、講義室に来るようにと言われています。ちなみに、僕も今日のやつは知らなくて出ていないので、明日のに参加するように言われました」

苦笑いしながら涼は告げた。


「出ていないって……涼はいったい何をしてたんだ……」

「図書館で、ずっと調べものをしていました」

涼は、図書館で過ごした時間を思い浮かべ、微笑んだ。


「なんか、優雅だな……」

「これがD級とF級の差ですね……」

ニルスとアモンは、少し疲れたように言った。

エトは、そんな三人を見ながらクスクス笑っていた。


そんな、いつもの十号室であった。


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